夜の話 09年末SP

2009-12-28 00:37:46 | 20XX年うつうの旅
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 風で窓がガタガタと鳴っていたのを受け、100円のスウェットの上に職場で貰ったチャンピオンのパーカーをひっかけ、その上にフヒタから貰ったSHIPSのジャケットを羽織り、無理矢理に押し込めるようにしてチャックを閉め、そこらのジーンズを部屋着ズボンの上から履いて、長靴まで靴下で歩いて行き、外に出た。昨日の23時を回った頃。頑張って重ねた服は偶然にもどれもコットンで、外の風景には向かない物だった。

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 少しのアルコールでぼんやりしていると、急にギターが弾きたくなった。手にとってポロポロと弾いていると、自分が以前より上手くなっていると気付いた。僕のテクニックは『退屈』と『エキサイティング』の間を100で等分したメモリの『退屈』から2メモリ分相当の音を出せるようになっていた。その音は特に僕の思いを代弁するような代物ではなかったが、2メモリ分の自由を得たような気がしたし、文字通り2メモリ分の駅を移動したように感じ、2メモリ分興奮した。

 祝福の拍手のように窓がガタガタと鳴り響いた。外を見ると、実に奇妙な天候と外気温であるような、気がした。MP3プレイヤーの電池を確かめ、そこらの音楽を詰め込み出かけることにした。一応、たしなみとしてポケットに千円札を入れた。

 予想通り、奇妙な天候であった。寒くはないが、吹雪いている。日中が暖かかったせいもあり、歩道を含め、大体が凍りついている。MP3プレイヤーのボリュームを上げ、不快な半径と白く曖昧な遠くを見比べた。風によって何度もライターが消されたが、煙草を点けることには成功した。作られて以来、最も困難な状態である舗装された歩道を歩き始めた。

 坂道を下ったのは、そちらの方が明るかったということと、風はそちらから吹いていたという理由からだった。下りたところにあるコンビニでウィスキーでも買えば、帰りは追い風で歩くのも楽そうだし、耳を刺激する音楽もこなれているだろうと予想した。決してウィスキーを優先したわけではない。まだその時は音楽がこなれていなかったんだ。こなれるためにウィスキーは多少必要だったのかもしれないけど。

 時々走り去る車のヘッドライトに照らされ氷の上を丁度いい緊張感を保ち歩いた。普段は目にも留めない白い風景の中の白い凹凸に感心しながらギリギリまで短く煙草を吸った。ガリガリとした音は耳に届かないが、ガリガリとした振動は足から伝わっている。

 500円相当のポケット瓶を購入し、左右を見渡してから右に曲がることにした。もう一度曲がるまで我慢すれば、追い風になり顔に雪が吹き付けてくる苦痛から逃れられる。

 頼りなく明滅する街灯の下の倒木で少し休むことにした。ウィスキーは3分の1程なくなっていて、頭は音楽で満たされていたから、ガリガリに飽きた足を休めるだけ。「半分まで」と呟きウィスキーを呷って、立ち上がる。丁度よく、ビートと合うようにして、街灯が点滅してくれた。下ってきた坂道を上り、出発した家を通り過ぎ、風に押されるように、今度は暗い方へ歩くことにした。家の近くの見知った街灯も頼りなく点滅していたのに合わせ、スウィングの歩調と僕の歩調を合わせ、周りに誰も居ないことを確認し、半回転のジャンプをした時、踏み切った氷は出てくる時より固くなっていた。



 



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