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はづきちさんのはまりもの

まだあったので日記帳になりました

梅雨の終わりに (千早SS)

2007-07-02 02:40:15 | 千早4畳半(SS)
起きる
…寝る

まずい
今年も来てしまった
これが来るともうなんか色々駄目だ
だから寝る
通り過ぎるまで
じっと、ずっと
身を寄せて、さなぎの様に固まって
何もせず、何も考えず、ただずっと…
pipipi
「…うるさいっ!」
破壊音
そして再び静寂
これでいい、これでいいの…

「でないわね…」
呟くように出した言葉なのにしっかり反応
「やっぱり出ない-?」
「真美達の電話にも出てくれないんだよー!」
亜美と真美が心配そうな顔つきになる
新曲を控えたこんな時期に二人に心配をかけてしまうなんて
なんて最悪のタイミング
多分あの子に来てるもの
…鬱だ

全てが億劫で仕方が無い
そう生きる事さえも
息を吸う、いや自分の心臓の音さえも全てが耳障り
いっそ消してしまえるならとまで思う
しかし実行には移さない
それすらも面倒
動きたくない
何も考えないで日が落ちていく
何も考えないで夜が明けていく
気が付くと目の端が痒い
…また泣いていたのか、私は
夢の中での出来事なのか、現実の事なのか
それすらも曖昧で涙を流した事もどちらの事なのか
…そんな事どうでもいいか
投げ捨てるように思考も放棄
ただ糸の切れた人形のように

「千早はね…年に数回、鬱になるの」
話していいモノか悩んだが亜美真美には知っておいて欲しかった
千早の生徒、いや友人として
「鬱?」
「あの結構話題になってる?」
予備知識は持ってるようね
それなら詳しい説明は要らない
「外国から帰って来たころはずっとそうだったの」
様子を見に行けば、何も食べず、眠らず、壁に横たわって
死んだように動かない
驚いて声をかけると突然泣き出したり
とにかく精神的に壊れかかっていた
「だんだん期間も回数も短く少なくなってるんだけど…出てしまうと辛いのよ」
連絡が途絶えるそのたびに私は様子を見に行った
ほっとくと確実に死んでしまう状況だったから
「千早お姉ちゃん…」
「そっか、それじゃあしょうがないよね」
納得はしてくれたみたいだけど…テンションは下がったまま
はぁ…どうしたもんかしらね
こんな時に頼りにすべき存在のプロデューサーは…居ないし
いったいどこ行ったのかしら?

お腹が空いた…
けど食べるものも無いし…
寝てしまえば気にならなくなる
そう思い枕にまた頭を沈める
目が開かない
暗闇がまた私の視界を支配する
なにもかもブラックアウトしていく
呟く
「ぷ、ろでゅーさ…」
この時だけは呼べる
弱っているからか夢の中だからか
もう…ダメだからか
「はい!あーん!」
誰だろう?
「あーん、してください!」
何も考えないから言われた事をそのままする
つまりは口を開ける
「はい、よくできました」
誰かはそう言って私の口に何かを差し入れた
「お塩だけのおかゆです、体を癒すには優しい物から入らないと…」
この声…
ボーッとした頭に思考力が少し戻ってきた
そうか…
「食べ終わるまで居さしてもらうからね、千早ちゃん!」
ありがとう…春香…

「忙しいスケジュールの合間に来て貰って悪かったな」
「いいんですよ!千早ちゃんは大事なお友達ですから!」
「そうか…ありがとな」
春香はアイドルを続けている
いや既にマルチタレントの域まできているベテランだ
もちろん多忙なスケジュール
ダメ元で頼んでみたんだが快く引き受けてくれた
「それよりプロデューサーさん、まだ仲直りしてないんですね…」
ため息混じりに春香が言う
「ああ…なかなか難しくてね」
「こういう場合、男の人から謝るべきですよ!」
全く持って正論だ
「…きっと千早ちゃんも仲直りしたいはずです」
「そうかな…そうだといいな…」
少し弱気になってしまう
やはり深く踏み込む事に臆病になってしまっているのかもしれない
「やだなぁ!私なんかを立派なアイドルにしてくれた
プロデューサーさんなんですから!もっと自信を持ってくださいよ!」
プップー!
クラクションが鳴った
どうやら時間のようだ
「じゃあな春香、活躍を祈ってるぞ」
「ありがとうございます!…そういえばプロデューサーさん?」
車の窓から顔を出した春香
「ん?」
「約束…私忘れてませんからね!」
思考がホワイトアウト
「ちょっとまて!あれはちょっとした!そもそも俺は妻帯…」
「あーあーきこえませーん!」
ブロロロロ…
闇に消えていく車
「全く…変わったんだか、変わらないんだか…」
呟いた言葉は闇に溶けた
さて家に帰るか…

「もしもし…ええ、ごめんね、もう大丈夫だから」
律子に電話をかける
家の古い電話で
携帯は…壊しちゃったし
状況説明をちゃんとしろって怒られるから
「春香が来てくれるなんて思わなかったわ、忙しいんでしょう?」
「ええ、春香は今の時期一番忙しいかもしれないわね、今日も朝から出てるわ」
律子は事務所のスケジュール表を見ながら話しているのだろう
ちょうどいい
「亜美と真美のレッスンは何時頃がいいかしら?」
「おっ!やる気ねー!千早!いい事だわ!」
回復した後はいつもより少しやる気が出るのも恒例だったりする
「だけど春香に私の事教えといてくれたのね?全く用意がいい事」
「へっ…?私、教えて無いわよ」
意外な返事
「えっ?じゃあ誰が?」
「亜美ー真美ー?あんた達話した?」
なんだ二人とも事務所に居たんだ
小さく拾える声に耳を澄ます
「ううん、はるるんには言って無いよー」
「真美知ってるー!」
「ほんとー!真美!?」
澄まさなくても大丈夫なぐらい声は大きい
「あのね…実は…」
「ははーん、なるほど…」
「さっすがだね!」
くっ!大事なところだけ聞こえない
「律子?結局、誰が春香に連絡取ってくれたの?」
なにか仲間はずれにされてるようで妙に聞きたくなった
絶対電話の向こうでにんまり笑ってそうな律子が見える
そして優しい声で答えてくれた
「そうね…あなたの事を多分一番心配してる人よ」
謎かけのような答えだったけど
それでも私は気づいた
「ふふっ…ふふふっ」
自然にこみ上げてくる笑い
テーブルの上の少し古びた銀の指輪が笑いに呼応するように
キラキラ輝いた気がした







ほぼ1ヶ月振りです
ごめんなさい
今や千早と言えばリレ組みの流れですが
いまだに四畳半です
イベントも沢山あったんですがどれも参加できず
律っちゃんオンリーとかあずささんオンリーとか
これが雪歩だったら危なかったと言っおこう
…時間あったらどっちも行ってたくせに

水着も両方買ったし
性的なアイドルを見て危うくなったりします
精神と財布が

アケマスはやよい、亜美真美組がボカ升失敗
レベル10で勝てる計算だったのに…
やっぱ腕落ちてるかもしれません
これで無敗は雪歩、千早組のみに
はてさて…



早く起きた朝は (千早SS)

2007-06-09 23:32:43 | 千早4畳半(SS)
朝が早いのは偶然の事
たまたま昨日早く寝ただけ
干した布団が暖かくてつい夕食前にそのまま転がってしまった
結果が朝の4時に目覚めているという事実
布団の上で腕を組み思案
「どうしよう…?」
贅沢と言われるかもしれないが今の私は時間を持て余している
大抵は昼まで寝ている生活だ
逆算してみる
…昼まで7時間もある
なにやら一日が倍になったような気分がする
お得じゃないかとも思うかもしれないが
重ねて言う、私は時間を持て余している
図書館で借りた本は読んでしまった
新しい本を借りたくともまだ開いてないし
花の水やり…こんな朝から?
ハーモニカを…ご近所迷惑
むむむむむ…そうすればいいんだろう?
こうして考えて見ると私は時間の使い方がヘタなのかもしれない
昔に比べればマシになったのだろうが
昔の私には歌しかなかったから
こんな場合悩むことなく歌に必要な事をしていただろう
トレーニングの腹筋とか、ジョギングとか
しかし今はトレーニングなんてしていない
ああいうのは毎日の積み重ねが重要なのであって
今日、急に始めた所で明日が一日寝てる事になるだけだ
重度の筋肉痛で
…こういう考え方が今の私か
少し自堕落になったかもしれない
律子がいたら
「少し~?あのね千早、昼まで寝ていられる人が…」
クドクドお説教をくれる友人が見えた
というか何ヶ月か前に同じこと言われた気がする

「朝の散歩…」
ぽつりと呟いてみたがいいかもしれない
うん、朝の空気は気持ちいいし
一日をリフレッシュした気分で過ごす事が出来るだろう
もしかしたら近所のパン屋さんも開いてるかもしれない
そうすれば朝食は焼きたてのクロワッサンとコーヒーで…
うん、優雅だ
これはいい
珍しく早く起きたのだ
優雅な気分で過ごす1日もいいものだろう
となるとよいコーヒーを飲みたいものだ
押入れにコーヒーミルがあった
律子のお土産(というか私の部屋に勝手に置いてく嗜好品)
にコーヒー豆もあったと思う
いいぞ、いいぞ
想像だけでも今日は素敵な日になりそうだ

優雅な朝食を済ました後は
花壇に水をやって図書館へ
ちょっと文学的な本を借りてカフェで軽く昼食
その後は買い物をして帰る
抱えた袋からはフランスパンが覗いてるといい
長ネギではダメだ
今日は優雅な日なのだから

キラキラ輝く私の姿を想像して少し照れる
「ちょっとしたパリジェンヌね」
呟いて優雅な一日への第1歩
朝の散歩に出かけるために布団から立ち上がる
ベットならもっとよかったかも
そしてカーテンを開ける
そこには朝の光が広がっていて私は目を…
雨だった
広がっていたのは光ではなく雨
しかも結構な大雨
「…計画変更」
布団に戻った私は少しむくれながら
今日は一日惰眠をむさぼる怠惰な一日にする事を
ウトウトしながら決意したのだった


雨1 (千早SS)

2007-05-14 00:10:55 | 千早4畳半(SS)
最近色んな事が会って
色んな人に会ったけど
いつも通りののんびりとした一日もいいものだと心から思う
そんな暑さにも慣れかけてきた、まだちょっと夏には早い日
最近の夕方は涼しい風のおかげで過ごし易い
雨が増えてきたのも季節柄なのだろう
暖かい雨は好きだけど、一日雨だとそうもいかない
洗濯物も乾かせないし、湿気だって問題だ
季節は夏の少し手前
初夏の少し前の季節は梅雨の方が近いのかも
雨は…やだなぁ
4畳半の窓から空を見上げる
明日は…晴れるかな?

「明日の天気はどうだろなっと」
男は足をデスクに乗せたまま新聞を開く
大量の煙草の吸殻
整理整頓という言葉からはかけ離れた机の上の混雑さ
そこは仕事と言う言い訳が無ければたんなるゴミ溜めだ
「おい!悪徳!」
呼ばれた男は新聞をたたみ机の上に無造作に放る
「なんすか?編集長?」
「企画があるって言ったのはお前だろうが」
くわえ煙草のまま悪徳と呼ばれた男はその無精ひげをさする
「ああ…あの話ですかい」
「できるのか?」
編集長と呼ばれた男は主語を話さない
それは二人の間で通じれば良いと言う事
そしてあまり現時点では口に出したくないという事だ
「ようやく尻尾を掴みかけましたからね」
「何年もお前が追い続けるなんて俺が思わなかったんだ、向こうも思わないわな」
「ええ、しばらく水面下で動いてた事でガードを下げましたよ、あちらさんも」
「停滞気味とは言え、一流プロダクションには違いないからな」
「まあガードは固かったですわ、現役はいまでもガチガチですがね」
「お前が欲しかったのは」
「ええ、現役じゃありませんからね、余生ってやつを送ってるんじゃないすか?」
「しかしなぜそこまでこだわる?」
「あたしゃね、許せないんですよ」
煙草を灰皿に潰し、淡々と続ける
「ゴシップ記者と呼ばれて、取材元を面白おかしく掘り下げる
たまたま目に付いて、いつも通り潰れていくかと記事にした一人の女の子が
まさか記事を逆に利用して跳ね上がるなんてね
色々書いてきましたが、全てを受け止めた上で更なる高みへと昇って行った
あたしゃ、知らんうちにそんなあの娘のファンになってたんすよ」
「それで最後は」
「ええ、まさかあっしが応援記事なんて書くとは思わなかったですわな、編集長も」
「ああ、雑誌のカラーとは合わないのに珍しく熱心にお前が乗せろと直談判してきたな」
「そこまでさせておいて…なんすかねぇ…蒸発、そのまま引退ってのは」
「確かに謎の引退だったな…」
「あっしはね、自分が許せないんすよ、まがい物に入れ込んでいたあっしがね」
「そうか…」
「子供っぽい理由ですいやせん」
「いや、それでお前は今まで何本も特ダネを上げてきたんだからな」
「子供の復讐心ほどシンプルで怖いものは無いって事っすかね…」
悪徳は話はこれまでと肩に担いでたトレンチコートを翻し、編集長に背をむける
「そうそう編集長」
「なんだ?」
「明日は朝から一日雨らしいすわ」
振り向いた悪徳はニヤリと笑っていた

まぶしいもの4 (千早SS)

2007-05-09 03:18:25 | 千早4畳半(SS)
「…スタジオ?」
「うん!練習にはスタジオだよ!」
「やっぱり機材もなくっちゃね~!」
私が亜美真美のレッスンを受け持って始めてのレッスン日
連れていかれたのはよく知った…
765プロ御用達のレッスンスタジオだった
「うわぁ…懐かしいなぁ」
「千早おねーちゃんは久しぶりでしょ」
「真美達は昨日来たばっかだけどね」
なにやらきな臭い笑い方をしてる
「…二人とも昨日なにしにここに来たの?」
「今日ここを独占するためにちょっと仕込みを」
「仕込みを」
「何か」をして貸しきりにしてくれたらしい
その「何か」が気になるのだが…なにも言うまい
「じゃあ今日は貸しきりなのね」
「他からは臨時休業って事になってるから!」
「安心してね!千早おねーちゃん!」
…なるほど
けど、私のためだったのか
今回はその「何か」に感謝する事にする
昔の知り合いに会うのはやっぱり気が引けるのだ
何年も連絡を取ってない仕事関係の人とかは特に
「今なにしてるの?」というセリフが決まって出て来るから
何もしてないとはなかなか言い辛いのだ

久しぶりに歌の事を考える事に夢中になった
昔と違うのは自分の歌ではなく、亜美と真美そして蒼い鳥について
歌には人に教えられる事でよくなる技巧的な事もある
だが一番重要なのは歌い手のメンタル面
これが欠けていては歌に艶も張りも出ない
重要なのはテンションを上げる事
これは彼がもっとも重視していた事でもある
蒼い鳥は萎縮して歌える歌ではない
そんな安っぽい歌にした覚えは無い
しかし捨てた私が言える事だろうか…

夕日が沈む頃
思ったよりいいレッスンになったと思う
現場から離れていても
ブランクが長くとも本職では無くても何とかなるものだ
「千早おねーちゃん…」
「なんで平気なの…体力…」
仰向けに寝転んでいる亜美
うつ伏せに倒れ混んでいる真美
ぜーぜーと肩で息をしている様子
「これは現役時代の基礎よ、亜美、真美、幾らジャージだからって感心しないわよ」
「亜美ぃ…千早おねぇちゃん…化け物だよ」
「流石は歌のために全てを捨てたテッカマ…」
ジロリ
「何か言った?」
必死に首を横に振る二人
変わって無いな、こういうところも
「でも、今日のレッスンは上手くいったわね」
「ほんとう…?」
「こんなに疲れたんだから…上手くなってなきゃ嘘だよ…」
倒れたままで表情は汲み取れないが声からすると笑ってる
タフな後輩達だ
だからこそ私も手伝う気になったのだが
「うん…よし、最後にこの歌を歌う時覚えて欲しい事を教えとくわ」
これは私が歌っていた時に常に思っていた事、考えていた事
人に話すのはもしかして初めてかもしれない
「この歌は…希望の歌なの
歌詞とメロディは確かに切なくて悲しいものかもしれないけれど
それでもね…未来に向って羽ばたく希望の歌なのよ、それを忘れないで」
「…千早おねーちゃん」
「希望の歌…」
「あなた達の希望を描いて歌ってちょうだい」
そうだ二人には
余計なプレッシャーなど受けず伸び伸びと歌って欲しい
この歌は希望の歌
そして二人に似合うのは明るい笑顔なのだから

まぶしいもの3 (千早SS)

2007-04-30 22:45:20 | 千早4畳半(SS)
「歌のレッスン?」
「うん、ダメかな?」
コーヒーがすっかり冷めてしまったが
二人ともそのままでいいというのでぬるいコーヒーを飲みながらの会話
2人から出た「お願い」にすっとんきょうな声をあげてしまう
「レッスンスタジオには本職の先生が居るでしょう?」
「うーん…実はね…」
「今度の新曲はカバーになるかもしれないって兄ちゃんが」
「カバーってもしかして蒼い鳥を?」
「…うん」
蒼い鳥は確かに私の代表曲
しかし作曲者、作詞家が作成した物で私は歌っただけ
私=蒼い鳥のイメージはまだ生きているかもしれないが
カバー自体は別に悪い事じゃないと思う
私が大好きだった歌を誰かが歌う事で
それを聞いた人が好きになってくれるなら

実際765プロはカバー曲をかなりリリースしている
ファンのリクエストに答えた形の楽曲を中心にしたり
他のアイドルのヒット曲を歌って見たり
私も昔、素敵なゲームの歌やアニメの歌、J-POPなんかも歌った
…楽しかったな

「自信が無いの…」
俯いたままの二人
「あなた達のボーカルはいいと思うけど…どうしたの?」
「シングルチャートで不動の記録を作った蒼い鳥」
「それを出すからには最高以上の物を出さなきゃダメ」
…これはプレッシャーだ
「誰かに言われたの?」
「ボーカルレッスンの先生とか…」
「社長にも…」
すっかり元気のなくなってしまった二人
爪を噛む
二人のキャリアからみて確かに早すぎると言う事は無いかもしれない
でも…確実にテンションは真っ青だ
「プ…あの人は?」
「兄ちゃんはこの話が出た時、最初怒ったんだ」
「あの歌だけは絶対ダメだって」
考えて見ると私以外が蒼い鳥を歌った事は無い
それは765プロのアイドルでさえも
客観的に見ても楽曲としては最高レベル
しかも自画自賛になるが如月千早の代表曲
話題性、イメージの上昇共に最大の効果が見込めるはず
しかしそれをしなかった…

「でも…亜美達はあの歌大好きなの」
「歌える事は凄く嬉しいんだ」
結局、彼は亜美達の真剣な目を見て決意したらしい
だがそのままではなくアレンジを加えると言う条件をつけた
「けどレッスンの先生も、作曲家さん達も必要ないって」
「あれだけの楽曲を無闇に弄る事は芸術に対する冒涜だって」
芸術か…
大事な事を忘れてる気がするのだけれど
「あなた達はどうしたいの?」
聞いてみる
二人の意見を聞きたかった
俯いていた二人はまっすぐこちらを向く
「やるんだったら悔いの無い形に仕上げたい」
「だから千早お姉ちゃんに頼むの」
真剣な4つの瞳
…決意が伝わってきた

まぶしいもの2 千早(SS)

2007-04-28 13:44:06 | 千早4畳半(SS)
「久しぶりね、亜美、真美」
「1年振りぐらいかな?」
「そうだね、大学入った時にお祝い貰ったのが最後だから」
「ふふっ、そうだったわね」
二人は大学生になった
学生をしながらユニットとして芸能活動も続けている
かねてから念願であった亜美と真美の2人ユニットだ
元気なところは相変わらずで
更に演技力や歌唱力も持ち合わせている上にキャリアも長い
人気実力共に持ち合わせたデュオとして名高い…とのこと
「で、今日は遊びに来てくれたの?」
「実はお願いがあってきたの」
「でも…あのね…」
歯切れが悪い
差し出したコーヒーに下を向きながら砂糖を入れている
ああ…入れすぎだ
亜美が口を開く
「兄ちゃんの前に出るとやっぱりダメ?」
真美は鋭くなったと言ったが少し押しが弱い
それに比べると亜美は少し突っ込んだ事ができる
お互いが欠点を補い合う素晴らしいパートナーだと思う
パートナー…か
「うん、会いたいの、会って謝りたい、でもさっき真美が気づいた通り」
「…」
「息が苦しくて、胸が苦しくて、詰まっちゃうのよ」
二人は沈黙する
「なんでこんな風にになっちゃったんだろうね?」
最近あんな夢を見たばかりで
少し自虐的になってるのかもしれない
自分では笑ったつもりだったのだが
「千早お姉ちゃん…」
真美がハンカチを取り出してそっと目元を拭ってくれた
私、やっぱり泣いてたんだ


まぶしいもの 1 (千早SS)

2007-04-21 01:48:00 | 千早4畳半(SS)
今日は読書の日
こういう生活をしていると
一日に用事を1つ済ます事が目標となってくる
例えば今日は自転車のパンクを直す日
明日は直した自転車に乗って図書館に本を返す日など
一辺にできてしまう事も分割して見たり
そうでなければ暇すぎるのだ
…贅沢な悩みだと思う

しかし借りるのに3ヶ月も待ったベストセラーはたいして面白くない
既に読むのが億劫になってしまっている
「全く…話の本筋に関係無いのにイチャイチャと…」
ついつい文句が口に出るようになってしまってるほど
この本も先は長くないな
期限が来る前に返してしまおうか
でもそうしたら続きを読みたくなるのかも

キキッー!
車の止まる音
このアパートに車を持っている人間はいない
駐車場なんてないし
周りの住民を見ても失礼ながら車とは縁は無さそう
言って気づく
…私もそう見られてるのね
むしろ好都合だけど
こんな生活をしていても過去が邪魔をしに来る事もあるのだ
「あの人は今?」も様な番組の類はここに来てからは全く無いが
昔のファンが時折どう調べたか来る事もある
大抵の人はこのアパートを見て引き返していく
「かって栄光を掴んだスーパーアイドルがこんなアパートにいるはず無い」
とでも考えてくれてるのだろう

さて車から降りてきたのは
亜美に真美?
急に震えが止まらなくなる
いけない、車に乗ってきたのが亜美真美ならあの人が
絶対にあの人が運転してきたはずだ!
歯がカチカチと鳴る
呼吸ができなくなったかのように息が吸えない
酸欠のせいか、別の理由なのか涙がにじみ出てくる
ダメ!このままじゃ!
「兄ちゃんは事務所帰っていいよー」
「というより帰りなさい!」
「ん、ああ…そうだな…じゃあよろしく伝えてくれ」
「「はいはい」」
息が楽になる
あの人がここに来ないという安心感
そして…あの人が来ない事に安心感を抱く私に対しての悲しさ
時間はかなり経ったのに
思うだけなら辛くも悲しくも無くなってきたのに
まだ…まだダメなの?

「千早お姉ちゃんーいるー?」
「ダメだよ亜美、チャイム鳴らさないと」
ガチャ
「…いらっしゃい、二人とも」
「わーい!千早お姉ちゃんー!」
「…泣いてた?千早おねーちゃん」
「真美?」
「すっかり鋭くなっちゃったわね、真美は」
亜美と真美は双子だが真美の方がお姉さん
子供の頃の二人は同じ人間が二人居るような感じだったけど
年をとるにつれだんだんと違いが出てきた
真美の鋭さもその1つ
亜美が鈍いという訳ではないのだけれど

自分だから (千早SS)

2007-04-14 02:22:53 | 千早4畳半(SS)
掃除に洗濯
寝る間充分…♪
鼻歌を歌いながら洗濯物を干す
歌詞の改ざんは多めにみてもらおう
実際そういう生活なのだから
天気がいいと洗濯物が楽しい
とはいっても汚れ物などそんなに出ないので
軒下に小さくちょこんと慎ましく干すだけ
安アパートの2階にはセキュリティとは無縁だが
そもそもこんな所にくる間抜けな泥棒がいるとは思えないし
ああ…なんて柔らかくて暖かい陽射しなんだろう
布団も干してしまおうか…
しかしこんなに暖かいと…ふわぁ…
とても眠くなる…
お昼は…いいか


暗い
果てしなく暗い闇の中
私は…
「私からプロデューサーを取らないで!他の何もいらないから!プロデューサーだけ、だけはっ!」
顔は涙でグチャグチャになってる
泣き崩れて嫌々と頭を抱えて横に振る
もう何も考えられない
泣き叫ぶ私と眼前の…小鳥さん
「…ゴメンね…」
「謝らないでっ!」
「…」
「謝ったりなんてしないでよぉぉ!!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
呟くような懺悔の声
「…消えて」
「千早ちゃん…?」
「プロデューサーもっ!あなたもっ!私の目の前から消えてぇぇぇ!!!」
「「!!」」

どう帰ったかも、いつ帰ったかも覚えていない
全てを否定して拒絶した私は
毎日を無気力に過ごしていた
いやあれは喪失だろう
全てを失ったと考え、食事もせず眠りもせず
ただ壁を見つめ一日が終わる
カレンダーにつけた赤丸
渡米の日
丸をつけた時には…存在したものが全て無くなってしまった
…違う、自ら放り出したのだ
「わたしの…つばさ…」
やがて泣く事すらできなくなり…そのまま倒れた

気づいて病院に運んでくれたのも
世話をやいてくれたのも律子だった
ベットの横でりんごを剥いてくれたり、世間話をしたり
それでも私はずっと死んだ目のまま
渡米の日がやってきた

空港までの見送りは全て断っていた
誰にも会いたくなかったし
誰とも会話をしたくなかった
けど、それでも律子は先周りして空港に来ていた
「…本当に行くの?」
「もう契約とか全て終わってるもの…」
「ああもう!そんな事じゃなくてっ!」
「…」
「プロデューサーとこのままでいいのかって言ってるの!」
空港に響く怒声
でも、それに反応できる気力さえ私には無かった
辛さも、悲しみも、涙も、
全て出し尽くした後だったから
からっぽな私が理解していた事
それはたった一つの真実
「…手を離したのは私だもの」


…気が付くと夕方
カラスがカーカー泣いている
目元を拭うと…
参ったな、
ここしばらくはあの時の夢なんて見る事はなかったのに
切なくて、悔しくて
時間が経った今なら…なんて思ってしまう
「子供だった…って理由で許される事でも無いわよね…」

夕焼け空
空はあの頃と変わらないのだろうか
この朱い空の下で
あの人は何をしているのだろう、誰を思っているのだろう?
心をそのまま音にして、ハーモニカに託す
そう、歌うように…


ブラインドからわずかに差し込む夕日
コントラストとなって赤い日の光に黒い影が映える
そんな中スーツ姿の男が一人
「千早…」
写真を手に呟く
「やはり気になっているのだね?」
全身を黒で固めた別の男が彼に声をかけた
「社長…気にしない日なんてありませんよ」
自嘲するような寂しげな笑顔
「だが、君のせいでは無いだろう?」
振り向く横顔に夕日が差す
「俺は…彼女のプロデューサーですから」

元歌姫と人妻美姫 2 (千早SS)

2007-04-05 22:59:09 | 千早4畳半(SS)
前言撤回
全く不安じゃなくなった
「…その家族計画を私に伝えてどうする気なのよ?」
「美希はね、すぐにでも赤ちゃん欲しいのにハニーはまだダメって言うの!」
「はいはい、なんで?」
痴話げんかにつき合う気は無い
さっさと聞いてさっさと追い出してやろう
「美希がまだ仕事したいなら妊娠しちゃったらダメなんだって」
まあ、もっともな話
モデルなら大体妊娠=引退だろう
旦那さんは今でも彼女のプロデューサーなのだし
モデルとして人気絶頂である今、辞める必要は無い
彼女ほどになれば引退のタイミングも自分達で決められるはずだ
「それは昔から旦那さんに伝えてるの?」
「赤ちゃん欲しいって事?」
「ええ」
「一昨日初めてだよ」
座ってるのに転びそうになる

「…質問を変えるわ…なんで急に子供が欲しくなったの?」
「はるかちゃん!」
また急に思いがけない名前が出た
話の飛びっぷりもますます加速してる気がする
「はるかちゃんがどうしたの?」
「美希ね、この間久しぶりに社長室行ったの!」
「事務所に行くなら挨拶ぐらいしなさいよ…」
「でね、そしたら!社長が馬になってたの!」
…全く要領を得ないというかなんというか
こういう時は腰を据えてじっくり聞かなきゃダメだろう
方針を変更
一つ一つ聞いていく
「馬ってあの馬?」
「はるかちゃんが社長を馬にしてパッカパッカ!って楽しそうにしてたの!」
「ああ…はるかちゃんにはデレデレらしいわ、社長」
律子がいつか教えてくれたのを思い出した
お菓子やおもちゃを買い与えては小鳥さんに怒られてるって
まるで孫に激甘なお爺ちゃんみたいだと
「おじーちゃん!パッカパッカー!」
「うむ!いいねぇ!そうら!パッカパッカだ!」
「キャッキャ!」
美希が目の前で真似をしてくれる、しかも振り付き
演技のセンスもありそうだ
「美希にも子供ができれば社長をあんな風に操れるの!」
「あなたねぇ…」
「そうすればハニーは大出世間違いなし!」
旦那さんのためとは言え、そんなくだらない事のためとは…頭が痛くなる
「いい、美希、はるかちゃんは誰の子供?」
「ハニーの先輩さんと小鳥さんの子供でしょ?」
「だから特別なのよ、はるかちゃんは」
「んー?」
首をかしげる美希
「あの3人は…なんというか本当の親子みたいなものじゃない」
アイドル時代から謎だった小鳥さんと社長の関係は未だにわからない
そして彼と社長の関係も
ただ…社長の2人に対しての目は
多分、実の親以上に暖かだったんだろうと思う
柱の影からじゃないとわからない事もあるのだ
「はるかちゃんは社長の孫みたいなものなの」
「美希よくわからないよ」
「無理に赤ちゃん作っても社長は思い通りにはなりません」
「ええーっ!」
乗り出す美希の鼻に人差し指を当て言う
「美希、赤ちゃんは2人が望めば自然に授かるわ」
「千早さん…」
「多分そう遠い日の事ではないわよ」
…一定のリズムで音が聞こえてくる
「美希の旦那さんは本当に美希を大事に思ってるのね…わかるわ」
「ハニーが?」
「ええ…だって…」
ガンガンガンガン!!
安いアパートだから人が全力で階段をかけ昇って来ればすぐわかる
主に音で
「すいませーん!如月さんっ!美希いますかっ!?」
ドアをノックしながら叫ぶような息切れた声
よほど色々探し回ったんだろう
「ハニー?」
「ほら、お迎えよ」
「うん!」
ドアに向って駆け出す美希
「千早さん!ありがとうなの!後…」
「ん?なに?」
「んんん!なんでもないの!」
ドアの向こうに居た旦那さんに飛びつく美希の笑顔を見れば
ビジュアルクイーンは健在な事がわかる
…いや、あの顔は旦那さんにしか見せない顔なのかもね


如月さんの家からの帰り道
美希と並んで帰るもうすぐ闇が近づく夕方の道
「ねぇハニー!」
「どうしたんだい?」
「千早さんってハニーの先輩さんみたいだね!」
「えっ?先輩?」
「ハニーも先輩さんによく相談してるでしょ!凄く親身に聞いてくれたの!」
「そうか…やっぱり如月さんは先輩の教え子なんだな…」
「どういうこと?」
不思議そうな顔をする美希
「信頼で繋がれた相手は似るって事、さ、帰ろうか美希」
「うんっ!」
いつかあの二人も笑いあえる日がきたらいいなぁと僕は思う
そしてできるならまた…
先輩と如月さんのコンビは伝説なのだから

美希の手をギュと握る
愛しい彼女の手はなによりも暖かだ
「ハニー?」
「赤ちゃんの事はすまなかったね、美希…」
「ううん!もういいの!ハニーの言う事ももっともだもの」
「美希…」
「でもそれとは関係なくね、お願いがあるの…」
「なんだい?できる事ならなんでもするぞ、美希のお願いだもの」
それを聞いた美希はとても嬉しそうに
そして思いっきり淫美に舌なめずりを…
しまった!
「今夜は…寝かせないでねっ!」

影が少し痩せた気がした…


元歌姫と人妻美姫 1 (千早SS)

2007-03-31 22:53:16 | 千早4畳半(SS)
ピンポンピンポンピンポンピンポンー!
穏やかで暖かな午後
ドラヤキを今まさに口に入れようとあんぐりしていた時
チャイムが16連打された
「千早さーん!あけてなのー!」
あの声、あの口調で私を呼ぶのはあの娘だ
お茶が冷めてしまう…
ちょっとむくれながら玄関へ
「美希?一体何を…」
「うわーん!千早さーん!聞いてー!」
こちらが扉を開けた瞬間、弾丸のように飛び込んでくる
「いたたた…なによ?美希?どうしたの?」
「ううっ…千早さぁ~ん~」
瞳をウルウルさせた美希は倒れた私に抱き付いている
私は押されて思わず尻餅をついてしまったのだ
一方、涙目の美希は急に鼻をヒクヒクさせる
「クンクン…」
そしてそのまま視線をちゃぶ台の上の…まずい!
「美希!それは私の…」
「いただきますなの~」
いつの間にか私から離れ、ちゃぶ台に座ってドラヤキを食べてる美希
あああ…私の3時の楽しみが…
「ずずず…ぷはぁ、用意いいね、美希が来る事知ってたの?」
ああっ!お茶まで飲んでる!
あどけない顔で聞く美希に軽い殺意を覚えた

彼女は星井美希
765プロ時代からの友人であり後輩だ

幼き未完のビジュアルクイーン
鳴り物入りで765プロに入ってきた美希は凄かった
歌、ダンス、全てを器用にこなせる才能
そして天性のビジュアル

しかしなんというか…
サボり癖のあった美希はあの手この手でレッスンから逃げていた
困り果てた担当の新人プロデューサーが
先輩であったあの人に相談していたのを見た事が有る
どんなに才能があってもそれだけでは成功はできない
しばらくは事務所で逃げ回る美希
それを追いかける担当プロデューサーの鬼ごっこが見られた

しかしある日彼女は髪を切って事務所に現れた
その後の美希の努力を知らないものはいない
努力を覚えた天才はあっという間にトップアイドルまで昇り詰めた
そしてそのまま…幸せまで掴んでしまったのだ
彼女は担当していた新人プロデューサーと結婚した
なんと…当時16歳

結婚後も美希は仕事を続けている
アイドルではなく主にモデルとして
14歳で既にあのスタイルだったのに
今は…さらに凄い
人妻と言う2つ名まで付いてなにやらもうありがたい気分すらする

「で…どうしたの?」
不機嫌そうに唇をとんがらせて聞く
ドラヤキの恨みは簡単には晴れない
「千早さんこそどうしたの?なんか暗いよ?」
この娘は…ド天然なのは結婚しても変わらないようだ
「なにか相談があって来たんじゃなかったの?」
「…」
人差し指をあごにつけ首をひねって悩む仕草をする
そのままたっぷり30秒
「うわぁぁぁん!千早さぁーん!聞いてー!」
「はいはい」
もはや何も言うまい
「ハニーが!ハニーがね!」
美希が言うハニーとは彼女の旦那さん
つまり先ほどの新人プロデューサーだ
もう何年も経ってるのだから新人プロデューサーは失礼か
少なくとも律子よりは経験者なのだから
「旦那さんがどうしたの?」
美希がこんなにも慌てて泣きながら話すのだ
もしかしたら事故にでも遭ってしまったのだろうか
少し不安になる
「ハニーが赤ちゃん作らせてくれないの!」