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はづきちさんのはまりもの

まだあったので日記帳になりました

縁の下 (千早SS)

2007-11-02 22:21:20 | 千早4畳半(SS)
スーパーバイザーになってほしいと頼まれて一月
その間全く話がないのが気にかかる
いや、学園祭の話なんだけどー
と切り出してきて何かと思ったら
秋は美味しくてつい食べ過ぎちゃうよねーとか
そのせいで律っちゃんなんて軽くヤバイらしいよーとか
ところで千早おねえちゃんの服のサイズいくつーとか
企画とは全く関係ないことばかり
唯一私が相談役として役に立ったと思われることなんて
真美の作るクレープの味見をしたぐらいだ
しかも感想は「美味しい」だけ
…やっぱり何の役にも立ってない気がする

「衣装できたー?」
「ええ、ばっちりよ!」
親指を突きたて意気揚々と答える
これは我ながらすばらしい発注をしたと思う
グッジョブ、私
「時に亜美」
「なぁに?律っちゃん?」
「あんた千早から服のサイズ聞き出すときなんで私が丸いとか言うの~」
頬を両手でギューと引っ張る
おお~伸びる伸びる
「いひゃはははは!いひゃいよぉ!」
「なんで私が軽くヤバイ事を知ってるのかな~?」
「ごめんらさい~」
まあ軽くヤバイ事は事実
秋はビールが美味いなんて言い訳を初めに誰が言ったのかしら
おかげで実は凄くヤバかったりする
「でも踊ってくれるかな?千早お姉ちゃん」
心配そうに呟く真美
確かにこの作戦は千早が踊ってくれないと意味がない
衣装を着けた女性がステージに突っ立っているだけ
それはそれはしらけたものになってしまうだろう
「いざという時はあんた達いるし…ゲストもいるから大丈夫よ」
でもそれは本当にいざという時
千早がステージに対してまだネガティブなイメージに支配されている場合のみ
そうではないと信じたいんだけどだけど
そう、この長い作戦の最終目標は千早に踊ってもらう事なのだ
「でもなんで歌にしなかったの?」
「うーん、私も最初は歌わせるつもりだったんだけど…プロデューサーがね」
「兄ちゃん?」
私がこの企画をプロデューサーに持っていった時
彼はかなり悩んでいた
そっとしておくべきなんじゃないのか、
ステージに上げてまたつらい思いをさせないか
そんなところだと思う
「しばらく考えさせてくれ」と即答を避けた
普段の彼ならすぐにOKを出していただろう
だが千早のことに関しては彼はかなり弱気だ
あんな事があったのだから仕方ないとも思うけど
千早のほうもプロデューサーに関しては物凄く弱気だし
誰かが間に入るべきなのだと私は思う
だから私はこの企画を立てたのだ
千早をもう一度ステージに
そして願わくば2人を元の形へ
これは誰の望みでもない
私の望みだ

「律っちゃん、曲は何にするの?」
「ダンス曲も結構あるよー」
曲はプロデューサーが決めてくれた
彼と千早が毎日寝る暇さえ惜しんでレッスンを重ねたダンスナンバー
苦手を克服し「DanceMaster」の称号その手にを得た曲
そして私がまだその選曲に納得できない曲
「…relationsよ」


迷子 (千早SS)

2007-10-17 13:00:03 | 千早4畳半(SS)
徐々に季節も移り変わる
一月前は残暑とか言っていたのに
朝やお風呂上り
ふとしたときに寒さを感じる
冬と言うにはせっかちな気もする季節
でもそんな季節の空気が私は好きだったりする

金木犀の香りがさっきパラッときた雨のおかげか少し薄まって
冷えた空気によく合っていると思う
久々に出したコートはまだ少しゴワゴワで着辛いけれど
なに、一季節、…二季節?共にするパートナーだ
しばらく着ていれば去年のようにまた親密になってくれるだろう
太陽も沈みかけのこの時間
夕日は薄い雨雲に隠れてしまい徐々に暗闇に変わっていくこの時間
寂しいとか、切ないとか
そんな感情を呼び起こさせるような季節と時間
いつからだろう
嫌いではなくなったのは

あまり開発されていないので
この辺りは駅前の賑わいも少し奥に入るとびっくりするぐらい静かになる
田んぼと家とポツリポツリと点在するお店
アパートに向けての帰り道
道を一本わざと間違えてみる
目の前に広がるのは知らないのに知っている風景
ここからどんな道を選ぼうとも私の自由

買い物に出てきたのは良いけれど
特に必要なものがないことに気づいて
公園でベンチに座って缶の紅茶を飲んでいたらこんな時間
遊んでいた子供たちの姿はすでになく
太陽は沈み始めて
「今日は何もしなかったな」なんて考えたら
急に知らない角を曲がりたくなった

知ってる道の一本先の知らない道を歩く
これはとても新鮮で不安
あの角を曲がって
そこに広がるのも知らない世界だったら
それとも自分の知ってる世界が広がるのか
安堵と不安が入り混じったアンバランスな心持ちは
夏の開放感と冬の寂しさに挟まれた秋という季節にぴったりだと思う
…我ながらポエムっぽいなとも

どんどん曲がる
どんどん進む
知らない角を曲がって知らない道を直進
出た先はまた知らない道で帰り道もあやふや
こうなってくるとバランスも崩れる
不安のほうが大きくなるのだ
自由気ままに進んでいた少し浮かれた気持ちも
辺りが闇に包まれると萎んでいき
焦りと不安が私を支配していく
真っ暗な町は森にも似て
知らない道は迷路に
世界に取り残された感覚

迷子

実は私はなってしまったときの対処法は知っている
線路を探せばいいのだ
そこから線路に沿って歩いていけば駅がある
駅さえわかればどちらに向かって進めばいいのかもはっきりする
そうすればもう怖いものなんかない
しっかりとした目標は
さっきまで真っ暗だった道を照らす
そして見知った道にたどり着いたときの安心感
本当にホッとする瞬間

「私は…迷子なのかしら」
ポツリと呟く
先ほどまで道に迷っていた時間は実際には1時間弱
そんなに長い時間の放浪ではなかった
駆り立てるような焦りと不安が時間を長く感じさせたのだろう
その時間、私は完全に迷子
じゃあ、今は?
アパートまでの道はもう迷ってない
だけど


アパートが見えてきた
その中にあるいつもとかわらないちっぽけな四畳半の部屋
私の世界はとても儚げで
でもだからこそ私はこの四畳半にいる
いつか線路が見えたならそこに向かって歩き出せばいい
だから今は迷い続けてる
コートはいつの間にかすっかり体に合っている
そんな事が、今日は無駄ではなかった事が嬉しくて
私は私の世界に鍵を差し込み、回し、開ける
「ただいま」
誰に言うでもない帰宅の言葉だけど
私は少し口端を上げていた様な気がした












独白が書きたかったんです
それだけです、はい
…また落選通知が届いたことなんて関係ないんだからね!
高木社長のフィギュアもちゃんと応募したもんね!

…この運の流れだとトレカ落選は十分ありえそうだけど

CGMT大作戦 (千早SS)

2007-09-28 23:05:36 | 千早4畳半(SS)
薄暗い部屋の中
闇にうごめく影がある
その数は3、いや…4
服面を被る4人の影は果てしなく怪しい
本当に怪しい
「では…目標は確実に出てくる…と」
メガネ、おさげを着けた服面が口を開いた
「スーパーバイザーだからねぇ」
「サインも貰ったし!」
答えるのはほぼ同じ声の2人の服面
多分双子の服面
いや、絶対双子な服面ズ
「なんでこんな服面を被る必要があるんだよ…」
たまらず本音が出る
「わかってないなぁ…兄ちゃんは」
「こういう事は雰囲気が大事なんだよ…って少し前にも言わなかった?」
指を揺らしながらチチチと仕草をする服面
あっちは亜美だな
「いや、聞いて無いぞ」
服面をパタパタさせながら答える
「そこっ!私語は慎みなさいっ!団員3っ!」
「いや、あっついんだもん、律子」
「律子じゃない!ボスと呼びなさいっ!」
…ノリノリだな
こうなれば数で対抗しよう
「なぁ…あ、」
「ボス!次の作戦ですが!」
「どうしましょうか!?」
うわ!ノリノリやな!君ら!
「ここまでは上手く行ってると言えるでしょう…ですが!」
何所から取り出したんだかホワイトボードに色々書いていく律子
「ターゲットを学園祭に呼び出しただけでは成功とは言えません」
バン!とボードを叩き注目を集める
「いや成功じゃないのか?」
律子が企画した作戦目標
それはもう既に達成して当日を迎えるだけなはずだが…
「いえ、まだ足りないわ…その点をフォローするために
素敵なゲストも用意しました」
「真美、知ってる?」
「ううん?聞いてないよ」
服面に飽きたのか意味をなさない事に気づいたのか二人は既に素顔
でも二人も知らないのか…
少し考え込むような姿勢で俺も服面を外そうとすると…
「勝手に外すなぁ!」
スコーン!と乾いた音
律子先生のチョークスナイパーが発動した
だがホワイトボードなので黒マジック
威力は抜群だ
「凄い音したねぇ…」
呟く亜美
「兄ちゃん大丈夫?こぶにはなってないみたいだけど…」
真美が服面を外し手を当ててくれる
双子で性格も殆ど一緒だったころから基本は変わらないが
少しずつ二人の個性の差がはっきりしてきたとここ最近特に感じている
亜美は直感が鋭い、けっこうズバズバ言いたい事を言ってくれる
それが気持ち良く聞こえるタイプなのでそれはそれでいい
真美はお姉さんだからか少し人当たりが亜美より柔らかになったと思う
その分、なにかで包んだような柔らかい表現が多いのだ
「全く…一人でつけてたらバカみたいじゃない」
律子はそのまんまだ
俺よりも威厳がありそうなところもそのまんま
「なによ?じっとこっち見て…なにかついてます?」
服面を脱ぎ手でパタパタと仰ぐ律子
結局お前も取るんかい
汗でピッタリくっついた髪の毛が仰ぐ風でなびく
「いや、いい女になったなぁと」
「…な、なにを真顔で言ってるんですかっ!セクハラですよっ!」
「褒めたつもり何だがなぁ…」
つい出た言葉だったが確かに本心
律子なら彼氏の一人や二人楽勝っぽいんだけど
口に出すとまた怒るから言わない
「兄ちゃん!亜美にも言ってよー!」
「真美も言って欲しいなー」
二人が飛びついてくる
「こらっ!亜美真美!それはセクハラ妻帯者よ!」
顔を真っ赤にした律子が怒りながら叫ぶ
律子め…言ってくれるじゃないか!
このラブ家族色の先輩プロデューサーに向ってセクハラ妻帯者だと…
胸を張り俺は答えた
「俺のセクハラは俺が認めたものにしか行わん!」
「セクハラはやるんかい!」

いつも通り本題が見えないミーティング
ホワイトボードに書かれたCGMT大作戦の文字
その作戦とは
C(千早を)G(学園祭で)M(めっちゃ)T(楽しませる)大作戦

ギャギャーバタバタ実に楽しそうな会議室
そんな会議室の外で一人立ち尽くす影

「ボク…いつ入ればいいんだろう…?律子ぉ?」


スーパーバイザー如月千早(仮)

2007-09-23 22:42:45 | 千早4畳半(SS)
電車で5駅のバスで10分
風光明媚な自然の中にその大学はあった
伝統的な洋風建築はいかにも時代がかかっていて
それが自然と調和しあたかも映画のワンシーンの様な風景を作り上げている
その空気は朝は朝露の少し冷たい空気
そして昼は木漏れ日の溢れる森になるのだろう
実に素敵なロケーションだ

そんな評価をしながら
スクールバスはその目的地へと向っていく
校門をくぐれば…いやくぐる前から感じていたが
広い
大学というものはなんでこんなに敷地が広いのだろうか
過去、通っていた学校にこれだけの敷地面積は無かった
大学というものはみんなこんなに広いのだろうか?
昔、他の大学の学園祭に仕事で行った時はこんなに広かったかと思い出してみる
しかし広いというイメージは出てこず
人が多いというイメージが引っ張り出されてきた
ああ、あの時は人がぎっしり詰まってたからそう感じなかったのではないか
祭りでもない平日はこの様に適度な人数でのんびりとしているのだろう
そんなどうでもいいことを考えて
昼下がりの森の中の学校のバスに揺られてる
これだけ揃って眠くならないほうが嘘ね…ふぁぁ

さてなぜ私が大学になんて向かっているのか
話は数日前に遡る

「大学祭?」
亜美と真美のレッスンのため訪れたスタジオで
二人にされたお願いがそれだった
なんでも二人の通う大学での学園祭
今年は亜美真美二人揃って実行委員になったというのだ
「でもそんなに余裕あるの?活動は?」
アイドル活動と学園祭の実行委員なんて二足の草鞋を履けるのだろうか
私は結果的にアイドル活動のため部活動を辞めてしまっている
今、思い出すとそれなりに未練もあるのだ
「大丈夫!今は熟成期間で底上げの時期なんだって!」
「大きな企画の前だから少し自由な時間が増やせるって兄ちゃんが言ってた!」
「だから実行委員なんて引き受けてたのね」
亜美、真美の話によると去年は在校生アイドルという事で
二人が参加しただけで大はしゃぎの大盛り上がり
凄く楽しい学園祭になったらしいのだが…
「今年も同じじゃ飽きちゃうんじゃないかなって」
「でも亜美達だけじゃ面白い企画とかなかなか思いつかないんだよ」
言いたい事が読めてきた
「ねぇ、それを私に話しても意味が無いわよ」
先制攻撃
「「なんでー!」」
おお、双子で疑問
「だって私面白い事なんて思いつかないもの」
正直に言う
私はそんなに面白い人間ではないと思う
経歴は多少人の目を引くかもしれないけど
普段の生活は起きる>暇を潰す>寝るの3つだし
趣味といってもハーモニカぐらい
これだけならごく平々凡々な生活だろう
…いや、緊張感の無い普通以下な生活とも言えるかもしれない
「大丈夫!千早お姉ちゃんは面白くするんじゃなくて面白くす…」
「わー!ダメだよ!亜美っ!」
笑いながら何かを喋ろうとした亜美を真美が止めた
「えへへー大丈夫!企画は律っちゃんから貰ってるから!」
何かを誤魔化したような笑い
あれ?それなら…
「私は要らないじゃない?」
企画は既に律子から出てるならそれを実行すれば良いだけだ
私が無理して頭を働かせるよりもこういう事は律子の方が数倍上手いだろう
「いやいや…千早お姉ちゃんにはスーパーバイザーになって欲しいんだよ!」
「スーパーバイザー?」
首をひねる
「真美達はね千早お姉ちゃんに色々相談に乗ってもらいたいんだ」
「そのための役職っていうか、肩書きなんだよ!」
「別に肩書きなんて無くてもいいじゃない、相談なら何時でも乗るのに」
「やっぱりこういうのは雰囲気が大事なんだよ」
「わかってないなぁ~千早お姉ちゃんは」
楽しそうに話す二人を見ていると
確かにそう言う要素も大事なのかもと思えて来る気がする
人間無駄な事にこそ意義があるのだ
誰の言葉かは忘れたけれど、結構共感できる言葉だと思える様になって来た
「ねーねー、千早お姉ちゃん、頼むよー」
「名前だけでいいからー!スーパーバイザーやって-!」
小学生の亜美と真美を思い出すようなおねだり
そんなおねだりに実は弱い私
「はいはい、わかりました…」
確かに学園祭などに自主的に参加した事の無い私にとっていい機会かもしれない
あまり明るいとは言えなかった学生時代を思い返すとそうも思える
ちょっと楽しそうだしね
「やったー!」
「早速、律っちゃん達に報告だぁー!」
嬉しそうに駆けてレッスンスタジオから出ていく亜美と真美
全く…まだまだ子供なんだから…
ん?
律子達?報告?
少しの疑問は残ったが
こうして私は亜美達の学園祭のスーパーバイザ-に就任したのだった

…ちなみにスーパーバイザーが具体的に何をする人なのかは私は知らない

愛のエプロン 結 (千早SS)

2007-09-13 01:21:42 | 千早4畳半(SS)
「第1回!チキチキ765プロお料理教室~!」
叫ぶや否やドンドンパフパフと太鼓と笛が
ちなみに叫んだのは律子
太鼓は亜美、笛は真美だ
「えっと?その?…なに?」
意図を掴み切れない私の口から出た言葉はまさに理解不能
部屋で寝ていたはずなのに
いつのまにかエプロン、三角巾を付けキッチンにいる
そして律子、亜美、真美
ここまでのハチャメチャトリオは何とかわかるのだけど
…なぜ小鳥さんがいるんだろう
「おはよう、千早ちゃん」
朝の挨拶の小鳥さんは少し困った笑顔に見える
「はぁ…おはようございます」
よく見ると一般家庭のキッチンというか…ここは…
「あたりまえじゃない、ここ小鳥さんの家だもの」
「へっ?」
よく見れば…
「ぴよちゃん!はるかちゃんはー?」
「お昼寝中だから静かにね」
「そっか、遊びたかったのになぁ…」
もうすでに太鼓と笛で充分うるさかったような気がするのだけれど
「時間も無いしチャっチャといきましょう!」
だから何をするのか説明が欲しいのだけど
「今朝律子さんからね、料理を教えて欲しいって電話があったの」
耳うちで小鳥さんが教えてくれる
「今日は亜美ちゃん、真美ちゃんもお休みだって言う事で呼んだみたい」
ふむふむ、だんだん読めてきた
「で、3人で家に来るのかと思ったら肩に千早ちゃんを担いでたの、律子さん」
要するに
料理が上手くなりたい>教わる際に一人じゃ心細い
>自分より料理が上手くなさそうな人を誘って一緒に習おう
「てなところかしら?律子?」
「し、失礼な!決してあんたん家の台所見て連れてきたわけじゃないし!」
図星だったのか
「ふーん」
まあ、あの鍋見られれば仕方ないかもしれないけど
「亜美と真美だって料理作ってるの見た事ないから誘ったって訳じゃないんだからね!」
「へー」
「律っちゃん、それ全部白状したようなもんだよ」
ジト目の亜美と真美
苦笑いする小鳥さん
うろたえてる律子
…はぁ…仕方ないなぁ
「でも小鳥さんに料理を教えてもらえるのは嬉しいわね」
実際に小鳥さんの料理は美味しい
時々アパートに煮物なんかを差し入れてくれるのだけれどそれが絶品
自分で作る煮物なんかとは偉い違いなのだ
「兄ちゃんのお弁当いつも美味しそうだもんね!」
「この間はからあげ全部貰っちゃったよ!」
おそらくそれは強奪と言うのだろうな
そんなお昼の光景がまじまじと浮かんでくる
「さあ!何を作りましょうか?小鳥さん!」
そうこうしてるうちに律子がいつもの調子に戻ったようで
崩れてもすぐ立て替えせる律子は凄い
意気揚揚と小鳥さんを見つめて言葉を待っているようだ
「うーん…人数も多いしみんなでカレーでも作りましょうか?」

どちらかというと料理教室というよりはキャンプのようなバタバタ感で
小鳥さん料理教室はみんなでそれを食べて幕を閉じた
途中で起きてきたはるかちゃんも一緒にカレー作りに参加して
楽しいレクリエーションのような
元々カレーの作業は野菜を切る、炒める、煮込むぐらいだからと軽く見ていたが
作業中の細かいコツのようなものを小鳥さんは教えてくれた
それは自己流でしかなかった自分の料理の世界に
光を与えてくれたようで、これを使う事で今までの料理も1段階上のステップに移れる
基本だけど大事な事、そんな事を教わった
「料理は愛情…か」

数日後
「今日の亜美と真美は歌のレッスンだったんだな…」
営業先から事務所に戻りふぅと一息入れる
秋の祭典に向けやらなければいけない事は山のようにあるのだ
アピール、売り込み
オーディションに参加するだけでも大変なのが四季のイベント
ふと机に目をやるとクッキーがある
ラッピングも簡素でシンプルなクッキー
自分の机にあるのだから誰かが差し入れてくれたものだろうか?
お菓子で真っ先に思い当たるのは春香だが、
彼女はツアー中で今日は名古屋だ、事務所に来れるはずが無い
愛する妻である小鳥も今日は事務所には来ていない
不思議ではあったが、腹が減っていたのでつい開けてしまう
「形は少しいびつだが…シンプルだ」
亜美達なら色んな形にしてそうなもんだが…
口に運ぶ
「おっ!」
それはとても美味しかった、嗜好に合ってると言うべきか
市販のクッキーよりも少し強めに聞いている香辛料がその決めてだろう
「しかし俺がジンジャークッキー好きなんて知ってるの…」
やっぱり小鳥かな…
いや小鳥はあまり生姜が好きじゃなかったはず
「うーん…まあいいか」
気が付くと袋は空になってた
これで自分の物じゃなかったら一波乱ありそうだけど…
「ごちそうさま、あと…ありがとうな…」
事務所の天井を見つめポツリと呟いた

愛のエプロン 序 (千早SS)

2007-09-05 22:48:53 | 千早4畳半(SS)
いつも通りの夜中2時
私が肩肘をちゃぶ台について
テレビの通販番組を見るわけでもなく流している
「チハヤ・ザ・ブートキャンプ…」
なんて独り言を呟いていると
「ちーはーやー!いるー?」
突然ドアの外からの呼び声、深夜2時に
あの声の主は…というかこんな突然やってくるのは彼女しかいないだろう
「…もう如月さんはお休みになられましたよ」
「じゃあ答えてるあなたは誰なのよー?」
む、まだ頭は回ってるらしい
この間はこれで帰ったのに
ドアを開けてみる
一目でベロンベロンに酔っ払ってるとわかるおさげでメガネがいた
ドアを閉めてみる
「こぅらぁー!千早ー!あけぇろぉー!うたっちゃうぞー!」
それはご近所迷惑だ
元アイドル、現プロデューサーの酔いに任せた歌が出る前に
速やかに彼女を部屋に回収するのが正解だろう
私の安眠という意味では嫌だけど
「かーれーを♪…」
歌い出した!一刻の猶予も無い
ドアを開けて
「はいはい、ともかく入りなさい…律子」
招き入れた

「どうしたの?そんなに酔って…?」
水を差し出しながら聞いてみる
律子が酔うのは珍しい事ではないが、ここまで酔ってるのは珍しい
あれ?なんか日本語変かな?
「料理!」
「料理…?がどうしたの?」
ろれつの回っていない回答でまとめるのに苦労したが
つまりはこう

どうやら765プロで飲み会があったらしい
その場には事務員やプロデューサーなど結構な参加率
普段は各自それぞれ忙しいので親睦を深めるいいお酒だったそうで
話はいつの間にか結婚の話題に
今現在、所帯持ち、恋人持ちのプロデューサーは実に過半数を占めたそうだ
まあ自己申告なので何所まで本当かわからないけど
律子が話を振られた時、本人が答えるより先にある人が答えた
「律子はプロデュース業で頑張っているからな」
律子はその後に続く言葉を瞬時に自分で作り上げた
「だから恋人がいなくても仕方ないって言いたいんですか!プロデューサー!」
「いや!そう言うわけじゃないんだが…」
「じゃあどういう意味なんですか!きちっと納得の行く説明を…」
周りはまた始まったよーとか
律子さんは先輩の事プロデューサーって今でも呼ぶんですねとか
萩原さんの所に行った彼はどうなったの?とか
その争いを酒の肴に盛り上がってたらしい
「じゃあどんな女性ならプロデューサーは恋人にしたいですか!?」
「いや…妻子持ちにそれを聞かれても…」
「勘違いしないでください!仮にですよ!仮に!」
「そうだな…料理の上手い娘とか…」
「りょ!料理ですか…できない事は無いけど…上手いと言える程じゃないし…」
「小鳥は上手いぞ、凄く」
結局、最上級の追い討ちで逃げられて
そのまま怒りのままに飲んでたらこの時間と
説明、それを理解するのに2時間
鳥の鳴き声とかしてる
一方的に喋って律子は寝ちゃうし
しかも私の布団で

しかし…料理か…
台所の流しに目をやる
今日のメニューは適当な野菜炒めに適当なスープ
作り方は簡単だ
適当にキャベツをフライパンで炒めて醤油で味をつける
適当にキャベツを鍋で煮てコンソメを入れる
…上手いとは口が裂けても言えないわね

灯り 2 (千早SS)

2007-09-02 01:19:24 | 千早4畳半(SS)
「まだ会えませんか?」
「ああ…」
千早は俺に会ってくれない
あの日から一度も顔を会わせてはくれない
会わせられない
傷つけてしまったのは俺だ
俺を許してくれないのは仕方が無い
千早は心だけでなく肉体も俺を拒絶している
俺の顔を見ると呼吸困難のような症状が出るそうだ
律子からそれを聞いた時はショックだった
謝罪さえできない
それは千早を苦しめてしまうから
そんな状況がもう何年も続いている
年は様々人達の人間関係を変えていく
だが…俺と千早の間だけ時は動かない

「小鳥は…」
言いたい事を察したのか言葉を遮り答える
「ええ、もう」
千早の住むアパートはここから近所にある
数年前、育児のため一時的に休職した小鳥
なにせ初めての育児
俺もそうだが、小鳥は更に参ってた
日に日に表情はやつれていき、強がってはいたが確実に消耗していた
そんなある日、両手一杯に持っていた買い物袋
こぼしそうなそれを支えてくれたのが千早だったらしい
小鳥からそれを聞いた俺は思わず箸を落とした
「謝るタイミングを…神様が与えてくれたんですね」
千早が小鳥に数年ぶりに交わした会話
二人の仲はそこから急速に戻っていった
小さかったはるかの子守りもしてくれる
小鳥は随分救われたんだろう
千早は俺の家族を救ってくれたんだ

「いつか…な」
「…はい」
空となったグラスにビールを注いでくれる
「俺は千早を家族に迎えたい」
今までずっと考えていたが口に出せなかった言葉がポツリと毀れる
酒の力か、雰囲気に流されたのか
遠く、車中から見ることだけしかできないの千早の顔がフラッシュバックする
「家族…?」
「妹でも…娘でもいい…一緒に暮らしたいんだ」
「…」
「みんなで食事して、頼ったり頼られたり…一つ屋根の下でな」
昔の俺が持っていなかったもの、今の俺が一番大事なもの
「引退の前から考えてた、千早の家族の事を聞いたあの日から
この子を寂しさの中に置いてけぼりにしちゃいけないって」
でも俺が望んでいた形と、千早が望んでいた形は違った
その違いが今の断絶を呼んだのか
寂しさから救うどころか、更に叩き落としてしまった
こんな俺が言える事じゃないかもしれない
でも…それでも…
「結果がこれじゃあな…情けないな…」
独白ともとれる自己嫌悪
それを妻に愚痴るなんて…全く…
「素敵な考えだと思いますよ、千早ちゃんははるかとも仲が良いですし
あんな素敵な妹が出来たらとても嬉しいです」
少し考え込んでいた様に目を瞑っていた小鳥は優しい口調だった
こんな途方も無い話を真面目に聞いてくれるとは
「でもね」
ポツリと呟く小鳥
「奥さんは私ですよ」
ニッコリ微笑みながら発する言葉
そこには何かしらの重圧が感じられたような気がした

「ハックション!」
窓際に座る私の口から飛び出すクシャミ
夜でも暖かいと言うか暑いと言うのに
夏風邪でもひいたのかしら
後に残らぬ思考を捨てて
再びハーモニカを口に寄せる
曲は夜の闇に消え行くような弱い歌
そんな演奏を月だけが見てる

「ねーちゃん!上手いねぇ!ラーメン食べるかい?」
前言撤回、下の屋台のラーメン屋さんも見てた

灯り 1 (千早SS)

2007-08-22 02:44:26 | 千早4畳半(SS)
灯りの点いた家
それは何事にも替えられない
マッチ売りの少女が間際に見ていたのはこんな風景だったのだろうか?
いまも…少女はこの風景を望んでいるのだろうか
そして家の中の温かい暖炉を囲む家族は
凍えている少女に手を伸ばせなかったのだろうか?

「おかえりなさぁーい!」
バタバタとした元気のいい足音
バタン
勢いよく転んだ
すぐに立ち上がって涙目
でも泣かないでぐっとこらえてニコッと笑顔
そう、私の娘は強い子なのだ
「おとーさん!はるか、なかなかったよ!」
「ああ、偉いぞ」
思わずギュと抱きしめる
えへへぇと嬉しそうに笑うはるか
親バカと言われようとも断言しよう
天使はここにいる!

「おかえりなさい、あなた」
後ろからスリッパのパタパタとした音と共にエプロン姿で現れた女性
妻の小鳥だ
「ただいま、小鳥」
「今日もお疲れ様でした、ご飯できてますよ」
にっこり笑顔はまさしく天使、いや女神
身内贔屓と笑えば笑え
「どうしたんですか?あなた?」
「いや、可愛いなぁって、家の奥さんと愛娘は」
「もう…真顔でそういう事言うんですから…」
赤らめた顔を持っていたお盆で隠す小鳥
本当に年上なのか疑いたくなる姉さん女房だ

小鳥は結婚後も敬語使いを直さなかった
すっかり慣れちゃって…が彼女の弁明だったが
時折でる「プロデューサーさ…あなた」からして
それは嘘偽りの無い事なのだろう
「ごはんー!」
ちょっとむくれたはるかが急かす
ただでさえ少し帰宅時間が遅れて待たせてしまったのだ
はるかのちっちゃいお腹は空っぽだろう
「よし、ご飯にしようか」
「「おー!」」
勢い良く手を上に突き出す我が娘…と妻
居間に向おうとすると袖を引っ張られる
「ん?どうした、はるか?」
「おとーさんも!」
後ろで小鳥がウインク、なるほどそういう事か
「よーし、ご飯にしようか」
「「「おー」」」


ずっと欲しかったものが、今我が手にある
それはなんて幸せで、それでいて恐ろしい事なんだろう
何も持って無かったころ
世界に一人きりだと思ってたあの頃の自分
失うものは無かった
なにも持って無かったからだ
持つ事を諦めて、荒んで、自分で自分を傷つけた
初めて灯された明かりは温かくて、嬉しくて
押しこめてたはずの涙があふれ出たのをまだ覚えている
他人に救われた自分だからこそその灯の大切さをわかってたはずだったのに
自分は消してしまった
ある女の子の灯を


「はるかは寝たかい?」
「ええ、今日も外で元気に遊んでたから…疲れちゃったのね」
小鳥は母親の微笑みを浮かべると
向いの椅子に腰を落とす
「…考えてます?」
正面から吸い込まれそうな瞳
その顔は母の小鳥じゃない
事務員だった頃から今でも俺のサポートをし続けてくれる
最高のサポーターの顔だ
それでいて自分が顔に出易いのか、彼女が聡明なのか
小鳥にはいつも心の中を読まれっぱなし
「わかるかい?」
「あなたのことですもの」
グラスを傾け喉を湿らせる
「千早の事を…考えていたよ…」



なつのゆめ2

2007-07-28 23:57:10 | 千早4畳半(SS)
「これからよろしく、如月さん」
「千早で構いません」
ここは…765プロだ
私が突っ張ってそのまま歌だけで生きると決めた場所
夢だっていうのに
もう少し愛想よくすれば良いのに
大丈夫、その人は敵じゃないから
あなたが初めて心の底から信頼する人
気弱で、おっちょこちょいで、レッスンはあまり上手くなくて
でもとっても温かい人

流れていくように一年が過ぎる
アルバムの写真みたい
一枚一枚まるで他人事のように
衣装を着て困った顔をしてる私
初めてのオーディション合格
ランクアップ
喧嘩
仲直り
いけない
また恋から始まりそう
でもその恋は…
映画のようなダイジェスト
懐かしむようにそれに見いる
ENDの字幕が出るまで
…二人の最後の時まで

「よう!どうだった?」
「ラストシーンが良くなかったわね」
「ははっ!言うねぇ!」
闇からの声に違和感もなく返答する私
妙に喋りやすいのだ
まるで違う自分と話してるみたいに

「起きないわねぇ…」
見下ろす布団にはタオルケットをかけた千早が寝ている
しかし綺麗に寝るものだ
よだれなんてもってのほか
ビシッと布団に収まって寝ている
タオルケットをかけ直す隙さえ与えてくれない
頬杖を付きビールを煽る

私、秋月律子はいつものように千早の家に遊びに来た
すると家主はエアコンもない四畳半で寝息をたてていた
「暑くないのかしら…」
これがこの部屋に勝手に入り込んで出た始めの一声
「いい身分なものよねー」とはテーブルの上のビールの缶を見ての感想
こちとら徹夜で仕事を終えてさっき解放されたと言うのに
叩き起こそうかとも思ったんだけど
寝顔を見たらなんか楽しそうな微笑を浮かべてて
なんかそれみたらどうでもよくなっちゃって
寝顔を肴にビールを飲んでる
しかし…
「暑いわね…なんで千早は汗かかないのかしら?」

「楽しめた?」
闇と言うかもう大体形が見えてきた案内役が言う
というか髪形の違う私自身だ
さすが夢
キャラは大分違うようだけど
「そうね…懐かしかったかな」
例えるなら古いアルバムをめくった時のような
それよりも遥かに鮮かだった気がする
「そりゃあ、よかった」
「楽しかったとは言ってないわよ」
冗談交じりに答える
「じゃあ楽しくなるように続きを作ってくれたまえよ」
「偉そうに」
口元が緩む
そして私は私に最後になるだろう言葉を伝える
「ハッピーエンドは自分で…ね…」

見知った天井
空ろな瞳で上体を起こすと
「あ、やっと起きた?」
見知ったおさげメガネがいる
「…ああ、律子…おはよう」
「なぜここにいるの?とかそう言うのすら無しなのね」
「…なにが?」
まだボーっとしてる
起きがけに失礼な事を思ったかもしれないが
寝起きだから仕方がないだろう
「なにか夢でも見てたの?」
「夢?」
「ニコニコしてたわよ、どんな夢?」
「うーん…あはは、全然覚えてない」
「なんだ、残念」
「でも、中々楽しかったと思うわ」






いやーごめんなさい
期間が開きました
1はさらっと書けたんですが
繋がりのジョイントが全然浮かびませんで
当初の計画とは大きくずれてこういう事になりました
いつも即興で書いてるのに何を言うのか

知ってる方は知ってるかもしれませんが
今回は元ネタと言うかそんなのがあります
赤ちゃんと僕の17巻
お父さんの夢の話
この話凄く好きなんです
ラストのセリフとかまんまだし

最後に
拙い文をここまで読んでくださってありがとうございます
いや、まだ書くけど

なつのゆめ 1  (千早SS)

2007-07-06 02:19:29 | 千早4畳半(SS)
頭が痛い…
原因はアルコール
そう多分、いや絶対二日酔い
律子が冷蔵庫に残してったビールを飲んでしまったから
幾ら喉が渇いていたからって飲むんじゃなかった…
しょうがない
今日は寝ている事にしよう
予定も幸いな事に
というか私の予定は自分次第のスケジュール
二日酔いの薬…あったっけ?
あーガンガンする…

「よう!」
急に声をかけられた
あたりは真っ暗
何も見えない
声のする方向を向くが、そこには黒い闇があるだけ
仕方がない
私は声のする方向と逆に向って歩き出した
「ちょ!おま!まてぇよぉ!」
どこかの国民的人気グループぽい声が背中からかかる
無視、無視
「おまえなぁ!不思議な事に興味を持たないと主人公にはなれないんだぞ!」
無視、無視
「例えばある日拾った棒が変身スティックだったり、科学技術省のトップシークレットだったり!」
無視、無視
「そのスティックで変身だワン!とかその棒で悪の軍団と戦ったり…」
無視、無視…
「きぃけぇよぉー!」
あ、切れた
しかもちょっと涙声
「たっく…まあいいや!とりあえず説明しまーす!」
立ち直りの早い方だ
だけど…誰なんだろう?
声は女性、恐らく若い、聞き覚えは絶対ある
というよりかなり頻繁に聞いてるような…?
「悩んだって仕方ないでーす!無い胸使って考えても…てめぇ!胸の事は禁句!禁忌!」
自分で喋っといてなんて言い草
姿が現れたら絶対殴ってやる
主に胸の件で
「あなたはこれから様々な経験をします」
声は急にちょっと落ち着いた口調になる
少し驚いた
「辛い事、悲しい事もあるかもしれません、でもそれはあなたの経験だから」
少し間をおいて
「目をそむけないで」
暗闇からの声がそう言った瞬間、光が広がる
強烈な光の中に私は、私によく似た女性を見た気がした

光が収まる
私は感じていた
ああ、これは夢なんだと
なぜだかはわからない
けどなんとなくわかる
夢なんてそんなものだ

夢の私は小学生だった
ここは…小学校の校庭
覚えてるわけじゃない
けどそう思う
「千早ちゃ-ん!」
遠くから手を振る友人達
私は駆けて行く
鬼ごっこ、影ふみ、かくれんぼ
遊び疲れた私は校庭に腰を下ろす
沈む夕日、5時を知らせるチャイム
友達の姿は既に無い
いや、元々居なかったのだろうか
思い出そうとしても彼女らの顔は影の様で
夕日を見つめる
沈む太陽は校庭を赤く染めていて
広い校庭の真ん中で一人寂しくなって膝を抱える

「千早?」
懐かしい声
包み込むような優しい声
振り向くとそこには
あの時、持っていたもの
今、持っていないもの
そして願っても願っても、もう手に入らないもの
「一緒に帰ろう、お母さんも待ってるぞ」
家族が…あった