「拾っちゃダメ」(23)
長谷川 圭一
校長の野上は苦(にが)りきった顔で「変なことをマスコミに書かれると困るな」と、里見の顔を見ないで言った。
「書くも書かないも……、大体記事になることじゃないですよ、これは」
「君はまだ、あまりマスコミのことを知らんからね。一応、教育庁の方には今日の報告はしておくが、今日のやりとりを君の方で一応、書類にしておいてくれないか」
「そういえば、記者の中で黙っていた人、あの人は私達のやりとりを録音していたようでしたね」
「だから、要らんことは喋(しゃべ)らない方がいいんだよ」
五時限目は鴨田留美のいる二年B組の授業であった。教室に入るとざわめきが、健一に対する非難と、好奇の目の重い空気に一変した。黒板に、『パンティ』と、黄色いチョークで大きく落書きがされていた。
健一はそれを消さないまま、起立、礼をすると、出席を取りそのまま授業を始めた。鴨田留美が黙って席を立ち、黒板に行くと、落書きを消して席に戻った。健一は黙ったまま黒板に例文を書いていった。留美に救われた気持ちはあった。淡々と授業を進め、その日の内容は消化した。
授業が終ってから、鴨田留美は廊下で健一を捉えて、落書きの犯人を言い、自分のせいで事が大きくなった事を詫びた。
「君の責任じゃないよ。悪いのは僕なんだ」
健一は、もし、マスコミの報道があり、ショーツの汚れが報道されたら、留美はどう思うかと、その事が心配であった。そして、マスコミが、何をどう報道するのか、様々な見出しが健一の脳裡で踊った。
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ハセケイ コンポジション(154)・hasekei composition(154)