おどるなつこ 「あしおとがきこえる?」

タップダンサー・振付家おどるなつこの日常から浮かびあがることばを束縛せず書きとめています。2005年開設。

学び・壊し・創り・感じあう「Ave Maria~Chanson de 酔鯨館」2017

2020-05-25 | あしもとからの思索
いつのまにか入道雲が並ぶ季節!本当に空が美しい。

今日はいつぶりだろうか、電車に乗った。乗客のあり方もすっかり変わっていて、座席はひとつおきに空きがあり、完全マスクの人々は、ホームでも距離をとって立っている。押しのけられたりぶつかり合うこともない。これまでがいかに過密だったか。苦しくても嫌だといえなかったあたりまえが、変わったんだなぁ。
この、互いを無視せず尊重し合う感覚は持続するといいなと思います。


私が巣篭もり期間に在宅でしていたことのなかにハノンがあります。ピアノを弾きやすくなるためのちょっとづつ展開する反復練習教本かな。大人ピアノ万年初心者としては、永遠に1番しか弾けなかったのですが、時間もあったのでちょっと進んでみようかと、このひと月で15番までやってみました。
おそるおそるピアノに手をおいてみてからもう10年はたつのですが、(素人が独学でハノンなどやっても意味がないのでは?)という無意識のストッパーがかかっていたのかもしれません。我が家には弟の楽譜が一山あり、茶箱を探せばいろいろあるのです。このハノンもそこの住人、ボロボロで表紙がありません。
ピアノに手をおいてみて以降、たまにすこし教わったりしながら、その箱の楽譜の中でも薄い“初歩者のための”と書かれている楽譜をみつけ、1ページ目と(できないからこそずっと同じ曲って飽きちゃうなー)とランダムに追加した2曲を指で探り始めて、たぶん6年ぐらい経ちます。曲の全貌もわからない遅さで、和音も一音づつ確かめてはやっと並ぶという亀以下の音の列が何年も続きました。最近すこし全貌がつながってきたところに、おっ!ハノンって効果ある!
聴こえ方の効果はさておいて、身体訓練的に非常に効果的なカリキュラムなのではないか、と私の力のない指ですら実感しました。万年初心者にそう思わせる教則本ってなかなかないのではなかろうか。音楽家にとってはハノン効果は常識なのでしょうけれど、確立されたメソッドって、すごいですね。ダンスとしても勉強になりました。

私の目的はピアニストになることではもちろんないのでご安心ください笑!
かねてより音楽に憧れがあったのですが、縁はなかった。でも、タップを通して初めて音楽と出会えた。
ただただ、せっかくの共演者の音のつぶつぶを聴き逃したくない、という動機が生まれました。タップを始めたばかりの頃、私には音楽は、粒の集まりではなく一層のまとまりとしか聞こえていなかったのではないかなぁ。喋ったことのない言語は聞き取れないのと似ています。そのための“弾いてみる”だから続いているのでしょう。


依頼振付で楽譜をいただいたら、音源があっても一度はたどたどしく1本指で楽譜を追ってみます。聴くだけとは違う面が、すばやくよくわかります(弾くのは遅くても!)
おどるなつこに書き下ろしていただいた作品もしかり。創作された作品は、いくらでも味わい直したい。


ふと3年前のライブ映像を観てみました。
これは、クラシック曲の再現のようですが、そうではない。この3人が、ある角度から解体して再構築したドラマ作品だったわけです。いまになって、あ。そっか、と自分のやろうとしていたことがわかります。即興でもあり即興ではない。ドラマでありドラマではない。音楽であり音楽ではない。そこに生まれてくる感情。
そんな実験勝負を、集まってくださった人たちと共有できていた。これまで食べたことのない、その空間のつぶつぶを、いっしょに味わった。

ああ、実はすごく贅沢してきてたんだ!
いつまた、こんな日がくるかなあ。


「アヴェ・マリア Ave Maria~Chanson de 酔鯨館」蜂鳥スグル/counter tenor 大和田千弘/piano おどるなつこ/tap


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