その男の名は、N山M彦。私立探偵だ。
年齢は、よくわからない。男は仕事柄、自分に関するデータを語らない。
唯一の手がかりは「金八先生は第1シリーズに限る」という彼のポリシーだ。
おそらく、昭和40年代の生まれだろう。
とある女性が訪ねてきたのは、昨日の夜だった。
結婚して15年になる、夫の浮気調査をしてほしいと言う。
しかし、N山には悪い癖があった。
正式な依頼より、頭に浮かんだどうでもいい調査を優先してしまうのだ。
女性の思いつめた表情を前に、やはりN山の頭はあらぬ方向に回転していた。
「森進一のものまねは、どうしていつも『こんばんは』なのか?」
依頼人が帰ったあと、N山は夜の街へ出た。(つづく)