こんにちは、やや半次郎です。
台風4号が九州に上陸するおそれがあり警戒している最中ではありますが、やや半次郎の可笑しな世界をお届けします。
これで台風を笑い飛ばして下さい。
………………
『大岡政談・隅田の川縁り』
暑いね、どうも。こう暑くちゃ、仕事なんかしてらんねェよ。どっかで涼んで行きてェなぁ。
…って、えぇ、大川、隅田川だよ、こちとら江戸っ子だよ、川面を走る風は、心地いいこたぁ知ってらぁな。
大川の近くで生まれ育った者にしか、分からねえってヤツだなぁ、…ンとうに。
おっ、あすこへ通るは熊の野郎だ。
「お~い、熊や~い!」
「何だよ、誰かと思ったら八公じゃねェか。どしたィ?」
「いやね、今日はこの暑さだろ? 朝から汗ばっかり拭いてて仕事が手につかねぇんだよ。 だから今日は店仕舞いして涼もうと思ってよ、ここまで来たらお前ェに出くわしたってェ訳だ。 お前ェこそ、どこ行くんだい?」
「オレかい? オレは今日はもう仕事はやっつけちまったんでぃ。」
「そうかい、お前ェは何でも早ぇからな。で、どこへ行こうってんだよ?」
「えへへ。」
「何だよ、言えよ。」
「…と言うことは、お前ェは今日が何の日か知らねぇようだな。」
「ん? 知ってらぁ。今日はお前ェ、何じゃあねぇか、あの~、ほら~。」
「町内のみい坊の…。」
「ん、みい坊の? みい坊の婚礼は明後日じゃねぇか?」
「そうよ。だから二日前てぇ訳だ。」
「二日前だとどうなる?」
「おや、ご存知ない?」
「ご存知も、ろく存知もねえョ。知らねぇんだから教えてくれよ。」
「お前ぇ、さっき知ってるって言ったじゃねぇか。ありゃあ一体…?」
「嫌な野郎だねぇ、…ったく。うっちゃっといてくれよ。それより、二日前だとどうなるんだよ、教えてくれよ。」
「長くなるぜ、いいかい?」
「ここまでで十分長ぇよ。掻い摘んで喋ってくんねぇな。」
「それじゃぁ、そうするョ。斯く斯く云々…てェ訳だ。」
「えぇっ、そうだったのか、それじゃあ俺も行くとしよう。」
…てな訳で、二人は連れだってみい坊の家に行きます。
ところが、集まっているのは熊さんや八っつぁんだけじゃない、植木屋さん、建具屋さん、大工の棟梁からご隠居さんまで、町内の男という男はみな集まっております。
もう入り切れない状態ですが、それでも何でも集まって参ります。
婚礼の準備で何かと忙しい中、集まって来るのは、町内の男衆ばかり。
さて困ったのは、集まって来られた当のみい坊の家でございまして…。
何故集まって来たのか皆目、見当がつきません。
ただ、放っておく訳にもいきませんでねェ…。
婚礼の当日に嫌がらせでもされちゃあ困るてんで、そこは苦労人ですから、酒、肴を一通り出しまして、前祝いという塩梅で。
ところが、まぁ、気の荒い連中が集まって酒が入ればどうなるか…、今どき子どもでも分かろうてぇ寸法で。
これから、大変な騒動が持ち上がりまして、お奉行様にお恐れながら…と訴え出まして、後々、語り継がれる名裁きに触れると言う、お馴染み『大岡政談・隅田の川下り』の序でございます。
By やや半次郎
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