ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

秋は夕暮れ【魅悠】

2020-06-27 12:27:16 | 短篇【有閑倶楽部】
「夕日の差して山の端いと近うなりたるに、からすの寝所へ行くとて~って言うけどよ、ホントだよな」

「はっ?」

「山の端に夕日が差した時、二、三羽のカラスが寝所に帰る姿は、確かに趣があるよな」

「・・・また枕草子?」

「おっ!分かってきたか」

「まあな」

だから、前から分かってるっての。
知らないフリしてるだけだ。

しかしさぁ、相変わらず魅録ってばズレてるよな。
二、三羽のカラスなら趣あるかもしんないけど、うちらが見てる光景は、どう見ても大群じゃん。
しかも、寝所に帰るどころか、都心でメシの在処を探してる集団じゃん。
コレのどこに趣を感じるんだよ。
マジで魅録の感性が分かんねぇ。

「秋の夜長に聞こえる虫の声や風の音も、またいいもんだよな」

「うん」

あ、それは分かる。
秋風にそよぐ音も虫の音も、耳にすると不思議と心落ち着くんだよな。
と同時に、ほんの少しだけ物寂しさも覚えるけど。


「何でいなくなったんだ?」

「はっ?」

「今日の学園祭だよ。途中からいなくなっただろ?お前」

「あ~・・・うん」

何だ。気付いてたのかよ、魅録。
あたしが学園祭サボってたの。
だってさ、見たくなかったんだよ。
お前と野梨子が肩を並べて立つ姿をさ。
だから、生徒会室の奥にある仮眠室でフテ寝してたんだ。

そもそも何だよ!?
『聖プレジデント理想の最強カップル』っつーコンテストは。
誰がこんなの許可したんだ。
・・・って、文化部長である野梨子が許可したに決まってるよな。
こんなの、ぶっちぎりで魅録と野梨子が優勝するに決まってんじゃん。
だって、校内新聞の『理想のカップル像』って記事に、魅録と野梨子の名前が書いてあったんだから。

「優勝したら、ホットドッグ1年分がもらえたんだぜ!?」

「ホットドッグ1年分!?」

「ああ。だから、優勝するつもりでエントリーしたのに、肝心のお前がトンズラしちまうから貰いっぱぐれたじゃねーか」

「・・・はっ?」

なに言ってんだ?魅録。
あたいがトンズラしたのと優勝するのとは、全く関係ないじゃん。
つうか、コンテストってエントリー制だったのか!?
理想のカップル名を書いて、得票数が多かったカップルが優勝ってシステムじゃなかったのかよ!?
そう問い質すあたしに対し、魅録は心持ち頬を赤く染めながら答えてくれた。

「コンテストはエントリー制だ」

「ふ~ん」

「優勝商品がホットドッグ1年分だって聞いたから、エントリーしたんだぜ!?お前が喜ぶかと思って。食いてぇだろ?ホットドッグ」

「あ、まあ、そうだな」

「だろ?だから俺と悠理の名前を書いて、コンテストにエントリーしたんだ。俺ら二人なら、ぶっちぎりで優勝すると思ったからよ」

えっ!?
あたしと魅録なら、ぶっちぎりで優勝すると思った!?
それって、あたし達が理想の最強カップルだと魅録自身が確信してたって事?
つまり、あたしを女として見てくれたって事だよな。
彼女にしてもいいと思ってくれたんだよな。
だからエントリーしたと、そう捉えちゃっていいの?
と、魅録本人に聞きたくとも聞けないあたしは、口をつぐんだまま話の先を促した。

「俺らがぶっちぎりで優勝するかと思ってたのによ、思わぬ伏兵が現れて肝を潰したぜ」

「伏兵?」

「野梨子だよ」

「野梨子ぉ!?」

「ああ。野梨子のヤツ、清四郎と自分の名前を書いてエントリーしやがった」

とんだ邪魔が入っちまったぜ。
そのせいで接戦する羽目になったけど、最終的には僅差で俺らが勝ったからヨカッタよ。
終わりよければ全てヨシってヤツだ。
なのに、肝心なお前がトンズラしちまうもんなぁ。参ったぜ。
なんて愚痴をこぼす魅録に、あたしは何て言葉を返していいのか分からず、取り敢えず愛想笑いを浮かべておいた。

「お前がトンズラするから優勝したのに辞退して、準優勝した野梨子も辞退して、他にエントリーしてた奴らも辞退しちまったから、結局優勝者はナシってなっちまった」

「そ、そっか」

「高校生活最後の学園祭で、思い出作りをしたかったのによ。お前がいなけりゃ意味ねぇじゃん」

「えっ!?」

それってどういう意味だ。
あたしは特別って事!?
それとも深い意味なんてなくて、野梨子や可憐にも同じ事を言ってた?
魅録の中では、あの二人とあたしは同列?
そう聞きたいのに聞けないもどかしさ。
魅録は気付いてないだろうなぁ。

「なあ、悠理」

「・・・なんだ?魅録」

「秋の夜長に鳴く虫の声、聞きに行こうな。二人で」

「二人で?」

「何だよ。俺とじゃ不満か!?」

「ち、違う違う!不満なんかないって」

不満なんてあるワケねーだろ。
むしろ、嬉しい。
って言うか、二人きりだと魅録を意識し過ぎて、逆に緊張しちまうけどな。
でもやっぱり嬉しいよ。





慕情残火(あきつく) 8

2020-06-22 22:43:53 | 慕情残火(あきつく)
「決めた!私、告白する」

「「「はっ?」」」

「このままじゃ、余計に想いが募って自分が苦しくなる。後にも退けず先にも行けず、八方塞がり状態がずっと続く。だったら、玉砕覚悟で美作さんに当たって砕けろ。そう西門さんに指摘されたから・・・って訳じゃないけど、背中を押してもらったからさ。だから、自分の為にも美作さんに告白する!」

「方向転換しすぎやろ。振り切れすぎや」

「極端すぎるわ」

「1か100しかないの?50はないんか?牧野には」

ノゾヤ、難波、山科が飽きれ顔でそんな事を言うけど、仕方ないじゃん。
これが私の、持って生まれた性格なんだから。
ついウジウジ悩んじゃって、自分の気持ちから逃げる為に関西にある大学に進学しちゃったけど、それじゃあ何の解決にもならないよね。
薄々自分でも気付いてたけど、みんなに指摘され、西門さんに止めを刺されてからやっと向き合えるようになった。

周りに迷惑かけて道明寺と付き合った割に、あっけなく別れて次の恋に走る軽薄な女。
そう思われるのが怖くて、想いが膨らみすぎる前に美作さんから逃げ出してきたけど、これ以上自分を偽るのは限界だ。
だから、正面からぶつかる。
西門さんじゃないけど、当たって砕けろの精神で美作さんに告白するよ。

「告白するって勇んでるけど、いつ美作氏に告白するん?」

「あきら君にどうやって告白するの?」

「何て言うて告白するつもりやの?」

矢継ぎ早にノゾヤ、難波、山科からそんな事を言われたけど、まだ具体的な日や場所なんて決めてる訳ないじゃん。
だって、美作さんに告白するって決意したのは、ついさっきなんだから。

「無計画かいな。無鉄砲すぎるやろ」

「牧野らしいと言えば、牧野らしいけど」

「東京に行って告白するの?」

「東京に行ったらお金かかるじゃん。無理無理」

「「「じゃあ、どうするの」」」

「手紙をね、出そうと思うんだ」

「「「手紙!?」」」

「うん。美作さんと約束したんだよね。暑中見舞いとバースデーカードと年賀状を必ず出すって。だから、暑中見舞いの代わりに手紙を出そうと思って」

ほら、手紙の方が素直な気持ちを綴れるでしょ?
自分自身に向き合えるって言うかさ。
面と向かって言えない事も、書面でなら伝えられる。
それに、メールや電話で気持ちを伝えるよりも、情緒溢れてない?
なんて言う私に対し、三人の反応は芳(かんば)しくない。

「美作氏って、美作商事のボンボンなんやろ?そのボンボンに女性からの手紙をお手伝いさんとか執事とかが、おいそれと渡すかね!?慎重になるんちゃう?仮にボンボンに渡すとしても、検閲してからなんちゃうか?」

「検閲!?勝手に手紙の封を開けて読んじゃうの!?そんなの絶対イヤ!」

「可能性はなきにしもあらずだよね。だからさ、こっちに遊びに来る夢子おばさんと双子ちゃん達に託したら?それなら確実に本人の手に渡るでしょ」

「そっか・・・うん、そうだね!ナイスアイデア、難波」

「逆に握り潰されるんやない?息子が牧野の毒牙にかからない様にって」

「「「山科!」」」

毒舌にも程があるでしょ。
毒牙って何よ!?毒牙って。わたしゃ、性悪女か。
まあ、私みたいな庶民というか貧民が、美作さんの周りをウロチョロしてたら目障りだろうけどさ。
でも、告白するくらいは許されるでしょ。
何も、嫁にしてくれとか彼女にしてくれとか言ってるワケじゃないんだから。
ただ、好きだって気持ちを打ち明けるだけなら、美作さんのお母さんも見逃してくれると思うんだよね。
そう話す私に、三人は呆気にとられた表情を浮かべた。

「ど、どうしたの!?三人とも」

「どうしたのって・・・それはこっちのセリフや。なあ!?難波」

「うん。あきら君と付き合いたいから告白するんじゃないの?あきら君と彼氏彼女の関係になりたいんじゃないの!?」

「好きですって告白して終わり?思いきり牧野の独りよがりやないの。告白された方も困惑するやろ」

と、まあ散々な言われようで。
正直言うと、美作さんに私の想いが受け入れられるなんて考えた事ないんだよね。
だってさ、美作さんの好きなタイプと真逆じゃん?私って。
童顔だし幼児体型だし子供っぽいし。
多分、美作さんにとって私は妹みたいな存在だと思うんだよね。
そんな人に対して「彼女にして」とか「彼氏になって」なんて、言えるはずないでしょ。
おまけに、道明寺の元彼女っていう肩書きまで背負ってるし。

「山科の言う通り、独りよがりで自分勝手だと思う。ただ告白するだけなんて」

「「「牧野・・・」」」

「美作さんに迷惑かけるだけかもしれない。告白した事によって、友達関係が崩れるかもしれない。それでも、私が美作さんを好きなんだって本人に伝えたい。知ってもらいたい。爪痕を残したい。完全なるエゴだけどね」

「せやな。完全なるエゴやな」

「自覚してるんだ」

「ドSやね。ま、せいぜい気張りなはれ」

三人の言葉にさすがの私も多少は凹む・・・はずもなく、余計に燃えてきた。
何が何でも美作さんに告白するぞって。
一度腹を括れば、後は前進するのみ。
踏ん切りつくまで時間がかかるけど、私の性格上、踏ん切りをつけてしまえば後は早い。
やらずに後悔より、やって後悔の方が自分自身にケジメをつけられるもん。
だから、

「フラれたら慰めてね」

「分かった。ウチの実家の本堂で、残念会を開こうや。多少騒いでも大丈夫や」

「それいいね。ノゾヤの実家で、ノゾヤの叔父さんも加えて一緒に騒ごう」

「心配しなくても、私達が牧野の骨を拾ってあげるから。未練なく成仏してな?」

「「「山科!」」」

あーでもない、こーでもないと言いながら、美作さんに告白する宣言をした私は、自分の思いの丈を手紙にしたためる事を改めて決意した。
そして、夢子おば様と双子ちゃん達に会うという難波に恋文を託した私は、審判が下されるのを待つだけの身になった・・・はずだったのに、難波からの電話で事態は急変した。


「どうしたの?難波。夢子おば様と双子ちゃん達を、新幹線の駅まで迎えに行ってる時間じゃない?」

『ききき緊急事態発生!』

「はっ?」

『来た!来ちゃったよ!』

「ちょっ・・・落ち着いて、難波。どうしたのよ」

『落ち着ける訳ないでしょ!来ちゃったのよ』

「来ちゃった?夢子おば様と双子ちゃん達の事でしょ?そんなの知ってるってば。何を興奮してんのよ」

『違う違う!本人が来ちゃった』

「本人?」

『そう!夢子おばさんじゃなくて、あきら君が双子ちゃん達と来たのよ!』

「・・・」

『・・・』

「えー!?」

『ウルサイ!牧野』

「ちょっ、なっ、ええっ!?美作さんが双子ちゃん達を連れて来たの!?何でよ!?」

『そんなの知らないわよ。まだ声をかける前の状態なんだから』

「そんな・・・」

『あと・・・何て名前だったかな・・・そうそう!ノゾヤの実家のお寺で会ったエロ門さん!その人も一緒にいるよ』

「何ですって!?」

予想外の出来事に、頭が全く働かない。
え~っと、夢子おば様じゃなく美作さんが来て、美作さんへの恋文を難波が持っていて、エロ門・・・西門さんも一緒にいる。
で、私は・・・どうすればいいの!?
って言うか、面白がってついて来たでしょ!エロ門め!


〈あとがき〉

くどい様ですが、あきつく話です(笑)
やっと、少しずつ動き始めましたね。
つくしはどう出るのでしょうか。



六花の軌跡【魅悠】 5

2020-06-18 20:33:08 | 六花の軌跡【魅悠】
息をしていないのではないかと見紛うくらい、青白い顔で寝ている悠理を目にした俺は、心が千々に乱れそうになるのをグッと堪えながら、その枕元に静かに座した。
そして、震える指先で悠理の頬に触れ、生を感じる温もりを実感すると、無意識のうちに安堵の溜息を漏らした。

───よかった。ちゃんと息をしている。

手の届かぬ所へ召されなくて、本当によかった。
心底そう思うと同時に、ここまで悠理を追い詰めてしまった自分に、そこはかとない怒りを覚える。

いくら守秘義務を伴う仕事とは言え、コイツをここまで傷付け苦しませる必要があったのか。
せめてコイツにだけは、ある程度打ち明けてもよかったのではないか。
いや、例え身内にでも極秘捜査の内容は教える訳にはいかない。
そんな複雑な思いが交錯する中、俺は悠理の温もりに触れたい一心で、コイツの頭をそっと優しく撫でた。

「ありがとな、野梨子」

「何がですの?」

「悠理に寄り添ってくれて。付き合ってくれたんだろ?コイツの話に」

「え?え、ええ。別に大した事ではありませんわ」

「・・・そうか」

俺にも気を遣い、心配無用と言わんばかりの野梨子の物言いに、心底感謝した。
こういうところは流石だなと思う。

もしこれが可憐だったらどうなるか。
そんなモン、火をみるより明らかだ。
こちらの言い分に一切耳を傾けず、頭ごなしに否定して、問答無用とばかりに俺を追い払う。
呪詛まがいの恨み言を口にしながら。
絶対に悠理と会わせてくれなかっただろう。
それが分かるだけに、悠理の頼った先が野梨子で本当によかったと沁々(しみじみ)思った。

そんな事を胸の内で思いながら再度、感謝の念を伝えようとした時、野梨子が頬を赤くしながらやたらと俺をチラチラ見ている事に気付いた。

「何をそんなに見てるんだ?何か顔についてるか?」

「あ、いえ。その・・・」

そう問う俺に対し、野梨子は気恥ずかしそうな素振りを見せながら言葉を発した。

「目のやり場に困っているだけですわ」

「目のやり場?」

「ええ。だって、魅録の全身から伝わってきますもの」

「何がだ?」

「悠理が大切で、かけがえのない存在だっていうオーラが。本当に心から求めてらっしゃるのね。悠理の事を」

「ああ。コイツは俺の核となり、俺を形成してる女だからな」

「核?」

「悠理ありきの俺だ。何かするにしても、悠理を派生して事にあたる。コイツがいなけりゃ、俺は俺じゃいられねぇ。コイツが傍にいてくれねぇと、俺はダメになる。だから・・・」

「だから・・・何ですの?」

「何があっても手離さねぇ。みっともないくらい足掻いてやるさ。コイツを自分の元に引き留める為ならな」

悠理が俺の元からいなくなる。
それを想像するだけで、身の毛がよだつ。
コイツが傍にいない人生なんて、考えられない。
もしコイツがいなくなったら、俺は生きた屍となるだろう。
だから俺は足掻く。
コイツを手離さないように。

「さっき、昔付き合ってた女と何で別れたのかって聞いたよな?俺に」

「え?え、ええ」

「悠理本人の前で答えるって約束したからな。今、ここで話すよ」

「でも悠理は眠って───」

「今、話す」

悠理が目を覚ましてから話せばいいのに。
そう言いたげな野梨子を目で制した俺は、悠理の頭を撫でていた手を止め膝の上に置くと、その当時を振り返りながら別れた理由を述べた。

「偶然、街中で鉢合わせした事は聞いてるか?」

「ええ。魅録に彼女を紹介されたと窺いましたわ」

「そうか。まあ、その後の話なんだけどな」

軽い挨拶を交わし別れた後、当時の彼女がポツリと呟いたんだ。
あの子の事、好きなんだね・・・と。
最初俺は、彼女がどういう意味を持ってそんな事を口にしたのか分からなかった。
だから、額面通りにその言葉を受けとめ、こう返したんだ。

「好きに決まってんだろ。大切な仲間の一人なんだから。あんなに気の合うダチは、そうそういねぇよってな」

「それで、彼女は何と?」

「ただ一言『冬眠中なんだね』って」

言われた当初はチンプンカンプンだったさ。
だってそうだろ!?
いきなり冬眠中って言われても、何の事だか分かりゃしねえ。
何を指して言ってるのか、何を比喩して言ったのか、全くもって理解出来なかった。

「けど、その言葉の意味を知る出来事があった」

「出来事?」

「ああ」

彼女とデートしていた時、街中にいる悠理を偶然見かけたんだ。
珍しく女っぽい格好をして、薄化粧した悠理をな。

「あんな悠理の姿を今まで見た事がなかったからさ、てっきり罰ゲームかと思ったんだよ。可憐や美童に無理やり女っぽい服を着せられ、化粧もされちまったって」

「まっ!」

「だから、冷やかしてやろうと思ってさ、声をかけようとしたんだ。けど、アイツの隣に誰かいる事に気付いた瞬間、全身固まった」

俺の知らねぇ男の隣で、無邪気に笑う悠理を目にした時の衝撃は、未だに忘れる事が出来ない。
俺ですら見た事のないあんな悠理の笑顔を、あの見知らぬ男は引き出せている。
俺以外の男が悠理の笑顔を、悠理の隣を、そして悠理との時間を独占している。
それを思っただけで体中の血がたぎり、言い様のない怒りがこみ上げてきた。

今すぐにでも、あの男から悠理を引き離し、誰の目にも触れぬ場所へ閉じ込めてしまいたい。
俺以外の男の前から、悠理を隠してしまいたい。
そんな衝動にかられた。

「心ん中に嵐が吹き荒れたって表現が、一番しっくりくるのかな。兎に角、感情が乱れに乱れた。自身をコントロールするのに必死だった」

けど、そんな俺の心中を彼女は見破った。
隠せば隠すほど、誤魔化せば誤魔化すほど、心の動揺は全身に現れる。
それを彼女は見逃さなかった。
と、その当時を振り返るうちにまたも怒りがこみ上げてきた俺は、軽く頭を左右に振って雑念を追い払ってから先を続けた。



父さん頑張れ 10

2020-06-17 22:41:20 | 父さん頑張れ(総つく)
「・・・おい。何で修平が、類の膝の上に乗ってんだよ。おかしいだろ」

「別におかしくないよ。ね?修平君」

「うん!」

初対面の人間、特に大人に懐く事など皆無な人見知りの修平が、ほんの数十分で類には懐いた。
それは類にも言えて、子供など好きではない彼が、修平にはすぐ心を開き可愛がった。
これは本当に珍しい光景だ。
類はいざ知れず、修平に関しては初めてと言っていいくらいの姿だ。

実の父親である総二郎にさえ、しばらくは懐かず距離を置いていた修平が、類には自ら近付きすっかり打ち解けている。
当然、総二郎にはそれが面白くない訳で、自然と類に対しても口調がきつくなり、態度も硬化する。

「あきらと司はどうしたんだよ。一緒に来たんじゃねーのか」

「あきらに司を押しつけて、俺だけ先に来た」

「はぁ!?何やってんだよ、お前は」

「当然だろ?だって、あきらん家はずっと、牧野の情報を操作してたんだから。そのせいで、牧野の行方が掴めなかった。あきらだけ牧野の情報を知っててズルイじゃん。だから、面倒な司を押しつけた」

「お前な・・・ガキか!あきらだって、コイツの事は知らなかったんだ。それなのに、こんな仕打ちを受けて気の毒に。つうか、ダチを面倒って言ってやるな。そもそもお前は昔から───」

「ちょっと!子供の前でケンカは止めてよ」

「おとーさん、メッ!」

親指をたて、父親に「ダメッ」と注意をする修平に、類とつくしは思わず噴き出した。
7歳の息子に叱られる父親の姿は、何とも滑稽である。
これでは、どちらが親で子か分からない。
父親としてのプライドを大いに傷付けられた総二郎は、その怒りを妻や息子にぶつける訳にもいかず、イライラを募らせた。
一方、そんな総二郎をチラリと見やった類は、大皿に入ったパンの耳ラスクを2本手にすると、1本を修平に渡し、残りを口の中に放り込んだ。

「うん、相変わらず美味しいね。懐かしいよ」

「あ、ありがとう」

「よく食べたなぁ。牧野の手作りラスク」

「ホント?おかーさんのラスク、類クンもたべてたの?」

「そうだよ。修平君のお母さんの手作りラスク、よく食べたよ。後、お弁当もよく食べたっけ。美味しいんだよな、牧野の手作りって」

「うん!ぼくも、おかーさんのごはん、だいすき!」

「俺と一緒だね、修平君」

「類クンといっしょ!わ~い」

「修平も花沢類も、恥ずかしいから止めてよね」

「だって、本当の事だから。ね?修平君」

「ね~」

「・・・おい。何からどう突っ込めばいいんだ」

またしても置いてけぼりを喰った総二郎は、腕を組み、眉間にシワを寄せ、行儀悪く貧乏ゆすりをしながら類をジロリと睨んだ。

本当なら表立って怒鳴りつけたいところだが、そんな事をすればまた、息子に叱られる。
父親としての威厳をこれ以上、失墜させる訳にはいかない。
何としても、それだけは避けなければ。
とは言え、自分と初対面の時には「オジサン」と呼び、類に対しては「類クン」と君付けした息子に、その辺りの意図を問い質したい。
けど、そんな事をすれば、息子に嫌われる・・・かもしれない。
それだけは避けなければ。

そう心の中で自分に言い聞かせた総二郎は、鋭い視線を類にぶつけたまま口を開いた。

「コイツの手作り、よく食ってたのか?」

「そうだけど?」

「・・・俺は結婚するまで一度も、コイツの手作りラスクや弁当を食った事ねーぞ」

「だって総二郎は、司と一緒になって『ボンビー飯なんか食ったら腹壊す』って言ってたじゃん。まさか忘れたの!?牧野だって覚えてるよな?総二郎と司が言った言葉」

「もちろん!だから、花沢類以外には作らなかったの。美作さんは神経質だし、残り2名は腹壊すって言って私の料理をバカにするし」

「おとーさん、おかーさんにそんなヒドイこと言ったの?」

「ぐっ!」

「おとーさん、メッ!」

「「ぷっ!」」

再度、息子から叱られた総二郎は、唇を噛みしめ沸沸と沸き上がる怒りを抑えた。
この怒りは、息子に対するものでは決してない。
むしろ、自分に対してのものである。
それと、類に対しても。
いや、類に関しては怒りと言うよりも、嫉妬と言った方が正しいかもしれない。

妻や息子の心をガッチリ掴み、懐かれ、信頼される類に。
最近になってようやく、警戒心のとれた息子から「おとーさん」と呼んでもらえる様になった自分とは対称的に、初対面ですぐ「類クン」と名前呼びされた類に。
自分の預かり知らぬところで、妻の手作り料理を口にしていた類に。
とてつもない嫉妬心を、総二郎は抱いた。

そんな総二郎の様子に気付いたのか、何とかこの重い空気を変え話題も変えようと、つくしは苦笑いを浮かべながら言葉を放った。

「そ、そう言えば、今日は私達家族に話があるって言ってたけど、何の話なの?花沢類」

「うん。本当はみんな揃ってから話そうと思ってたんだけど、司がいると話が脱線するから、先に俺から話すよ」

そう一言断りを入れてから、類は事の次第をかいつまんで、今日ここに来た理由を説明した。

「牧野と総二郎の結婚祝と、修平君に本当のパパができた祝と、牧野家の新しい門出の祝。これを皆でしようって話になったんだ」

「「はっ?」」

「俺が家、あきらが結婚式、司が野球道具、大河原のサルが新婚旅行、三条の女ギツネがエステ、松岡が家族写真を担当して祝う事になったんだ。俺達からの御祝儀だと思って受け取ってね」

「「・・・はっ?」」

「おとーさん、おかーさん、どうしたの?」

「あ、いや。どうしたのっつーか・・・なあ!?」

「うん。こっちが聞きたいくらいよね」

突拍子もない話に、二人の頭はついていけない。
類の話は、事の次第をかいつまむどころか、事の次第がまず不明だし、かいつまむと言うより引っこ抜いていると表現した方が正しいかもしれない。
どのみち理解不能で、何がどうなってこうなった話なのか皆目見当がつかない総二郎とつくしは、互いに目線で合図を送りあうと、この後も続くであろう類の話に耳を傾けた。

「二人が結婚して、本来あるべき家族が揃った。やっと、牧野も総二郎も修平君も幸せになれる。そう思うと嬉しくてさ。何かカタチにして喜びを表現したいよなって、誰とはなしに言い出して」

だから、其々が担当を受け持ち三人を祝おうって決めたんだ。
と、楽しげに話す類は、総二郎とつくしに口を挟む隙を与えず先を進めた。

「新進気鋭の写真家として人気のある松岡は、三人の家族写真を撮りたいって言うからお願いした」

「優紀が写真家!?」

親友であった優紀の今の生業を耳にし、つくしは勿論の事、総二郎も驚きの色を隠せずにいる。
と言うのも、どこかの企業で事務仕事をしているイメージがあったからだ。

つくしは息子を守る為、総二郎はつくしの行方を探す事に必死だったとは言え、優紀と疎遠になってしまった。
それ故、優紀がどんな職業に就いたのかを、二人とも把握しきれてなかった。
だから、再会した時には優紀に「心配かけさせてゴメン」と謝り、不義理をした事に対する詫び言を述べよう。
そんな決意をする牧野夫婦を他所に、類の話は続く。

「後は、話し合いで決めた。って言うか、俺が割り振った」

「「はっ?」」

「だってさ、司が家を担当したら入り浸りするよ?牧野家に。もしかしたら、自分の部屋を作って居座るかもね。そうなったらイヤじゃん!?俺が」

「「ええっ!?」」

「だから、牧野家の新居は俺が用意するからね。どの辺りに住みたいか言ってくれれば、いくつか物件をピックアップするよ。費用は心配しないで。俺からの御祝儀なんだからさ」

想像のナナメ上をいく発言をした類に、牧野家は誰も何も言えなかった。





父さん頑張れ 9

2020-06-12 15:36:27 | 父さん頑張れ(総つく)
紆余曲折あれど、総二郎がつくしと結婚し、正式に修平の父親となってから1ヶ月が経過した。
初めのうちは修平から「僕の大好きなお母さんを独り占めするオジサン」と警戒されていたものの、今では立派なお父さん子に成長し、総二郎もいたくご満悦の様子だ。
さて、そんな仲睦まじい牧野家に本日、来客がやって来るという。

「え~!?けんたろーとキャッチボールしたかったのに~」

「ゴメンね、修平。健太郎君とはいつでもキャッチボール出来るから、今日は我慢してくれる?」

「・・・わかった。じゃあ、がまんするから、おかーさんのハンバーグたべたい」

「えっ?」

「おかーさんがハンバーグつくってくれたら、がまんするよ、ぼく」

「分かったわ。じゃあ、今夜はハンバーグにするね。お父さんと一緒に作るから、楽しみにしててね」

「やった~!」

「おいっ!?俺も作るのかよ」

「当然です。ね?修平」

「うん!ぼく、おとーさんのハンバーグもすきだよ。だって、おかーさんがつくったハンバーグより大きいもん」

「だ、そうよ?お父さん」

「しゃーねーな。よし!じゃあ、修平の為に飛びきり美味いハンバーグ作ってやるよ」

そう言いながら総二郎は、満面の笑顔を浮かべ喜ぶ修平を肩車した。
その姿は、何処からどう見ても正真正銘の親子だ。
息子を可愛がる父親と、父親に懐く息子。
誰の目から見ても、疑いようのない姿だ。
そんな夫と息子を微笑ましく見つめていたつくしだったが、客人が来訪する時刻が迫ってきた事に気付き、慌ててお茶の準備を始めた。
すると、まるでタイミングを計ったかのように、来訪を告げるチャイムがリビングに響き渡った。

「えっ!?もう来たの?」

「予定より20分早ぇな」

「ひょっとして、宅配の人なんじゃない?」

「宅配?何か頼んだのか?」

「ううん。何も」

「ヲイ」

「もしかしたら、誰かがウチに何か贈ってくれたかもしれないじゃん。だから、取り敢えず出てくれる?修平は、お母さんと一緒にお茶の用意をしよう」

「へーへー」

「は~い」

総二郎に来訪者の応対を頼んだつくしは、修平と一緒におもてなしの準備を急いだ。
今日は3名の客人が来る予定なので、お茶やお茶菓子の用意をするにも時間がかかる。
お茶菓子は、余っていたお餅を使ってつくしお手製あられを作ったし、もう一品、貰ったパンの耳でラスクも作った。
それらを修平と一緒に、大皿に盛りつける。

「おかーさんのおかし、おいしいからすき」

「本当?嬉しいな」

「ぼく、あられもラスクもだいすき!」

「ありがとう、修平」

「・・・だから、たべてもいい?」

「いいわよ。但し、お客さんが来てからね」

「は~い」

母親にしっかり釘を刺された修平は、駄々をこねる事なく、お菓子が入った大皿を両手で持ち運んだ。
そして、あられとラスクの入った皿を運び終えた修平が母親のいる台所に戻った時、父親の声と一緒に、聞き慣れない男性の声が耳に届いた。

「時間厳守がビジネスマンのモットーとは言え、早すぎるだろ。こっちの都合も考えろよ」

「仕方ないじゃん。少しでも早く、牧野と牧野の子供に会いたかったんだから」

「おい。もう一人忘れてねぇか?」

「なに?もしかして、総二郎にも会いたかったんだ~って言ってもらいたかったの?やだよ、気持ち悪い。俺は、牧野と牧野の子供に会いたくて来ただけだよ。別に総二郎に用はない」

などという、辛辣な言葉が部屋中に響き渡った。
当然、つくしにはその口調と声音だけで、誰が来たのかすぐに分かる。
それは、言わずもがな、

「花沢類!」

「牧野!」

つくしの一番の理解者であった、花沢類だ。
互いが互いの一部だと自負するほどの間柄で、総二郎に対する想いとは、また違った意味での好意を抱いている。
それは決して、恋愛に結びつくような感情ではない。
と、あくまでつくし自身はそう思っている。
そんな類との再会は約7年振りとなり、何やら感慨深いものがある。
だから、思わず泣きそうになるのも致し方ない事で。
そう自身に弁解したつくしは、泣きそうになるのを必死で堪えながら、類に声をかけた。

「7年前、何も言わず急に姿を消してゴメンね?そして、今日は来てくれてありがとう。花沢類」

「あんたのゴメンとありがとうは、聞き飽きたって言ったろ?」

「・・・うん」

「とは言え、牧野からの『ゴメン』と『ありがとう』は、何度聞いてもいいね。懐かしいよ」

「花沢類・・・」

「おかえり、牧野。思ったより元気そうで安心した」

「ただいま、花沢類。花沢類も元気そうね」

「うん。牧野に会えたから余計に元気になった」

「ふふっ」

「7年前より綺麗になったね。素敵な大人の女性って感じ」

「あ、ありがとう。花沢類も、凄く素敵な大人の男性に成長したのね」

「ホント?俺って、牧野から見て素敵な男!?」

「うん。花沢類は、いつだって素敵だよ」

「ありがとう。牧野だって、昔も今もこれからも、ずっとずっと素敵な女だよ。俺の中では、牧野が断トツでイイ女だから」

「そんな大袈裟な。花沢類の周りには、綺麗で素敵な女性が沢山いるでしょ?」

「見掛けだけ綺麗にしてる女ならね」

「もう。そんな事言わないの」

「だって事実だし。内面も外面も綺麗なのは、牧野しかいないよ。牧野以上にイイ女はいない」

「花沢類・・・」

「・・・おい。俺達そっちのけで、なにピンクオーラを撒き散らしてんだ。いい加減にしろ」

今まで黙って事のなり行きを見守っていた総二郎であったが、遂に堪忍袋の緒が切れたようだ。
つくしと類の会話に割って入り、二人ならではの独特の空気感を、見事なまでに打破した。
しかし、そんな事でへこたれる類ではない。
自分を威嚇する総二郎を敢えて無視した類は、つくしの後ろに隠れている小さな男の子に視線を移し、その子の目線に合わせる為、床に膝をついて挨拶した。

「こんにちは。花沢類です。うるさくしちゃってゴメンね」

「・・・」

「修平、ご挨拶は?」

「あ、あの・・・まきのしゅーへいです。7さいです」

「修平君っていうんだ。いい名前だね」

「・・・」

「あれ?嫌われちゃったかな?俺」

「違うわよ。恥ずかしがってるだけ。ちょっとだけ人見知りしちゃうの」

人様との付き合いや接触をなるべく最小限に留めた結果、修平は若干人見知りするようになった。
それは、総二郎の血を引く修平の存在が、西門家に知られない様にする為だ。
人との関わりが増えれば増えるほど、修平の存在が知れ渡る。
となると、いつ何時(なんどき)、西門家の耳に届くか分からない。
そんな危険を回避する為、つくしは修平をあまり外に連れ回したりしなかったし、家にも人をほとんど呼ばなかった。
唯一容認していたのは、キャッチボール相手である幼馴染みの健太郎と、その両親だけだ。

英徳学園という特殊な学校で学生生活を送ったつくしには、人の善悪を見抜く能力が備わっている。
いくら善人面しても、親切ごかしな態度はすぐに分かるしメッキは剥がれる。
何故なら、中身が空っぽだから。心がないから。
だから、つくしは用心した。
大事な息子を守る為に。
だが、

「私のせいで、修平には窮屈な思いをさせちゃって・・・修平には何の罪もないのに。もっと色々な人と色々な場所で遊びたかっただろうに、私が制限しちゃったせいで、人見知りするようになって。私の都合で修平に不自由させて、本当にこの子に申し訳なくて・・・」

「そんな風に自分を責めるもんじゃないよ。そんなお母さん、修平君だって見たくないだろ。泣き言を口にするお母さんより、笑ってるお母さんの方が大好きなはずだから。だよな?修平君」

「うん!ぼく、ニコニコしてるおかーさん、だいすき!」

「修平・・・」

「俺も、ニコニコしてる牧野が大好きだよ。修平君と一緒だ。ね?修平君」

「うん!いっしょ!」

「だから、もう自分を責めないで。修平君も見たくないよね?元気のないお母さんの姿を」

「うん!みたくない。ぼく、イイ子にするからニコニコしててよ、おかーさん」

「修平っ・・・」

「悪いのは、ここまで牧野を追い詰めた総二郎の方なんだから。牧野が気に病む必要は全くないからね」

「花沢類ってば・・・ふふっ」

「笑ったね。やっぱり牧野には笑顔が似合う。ね?修平君」

「うん!」

「・・・おい。これじゃあ、どっちがコイツの旦那で修平の父親か分からねぇじゃねーか。」

「その役目、いつでも交代するから安心して」

「はあ!?」

「簡単には許さないから。覚悟しなよ?総二郎」

「類!」

牧野家の室内温度が、氷点下と沸点を目まぐるしく行き来していた。