ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

六花の軌跡【魅悠】 7

2021-10-25 15:41:48 | 六花の軌跡【魅悠】
「だ、そうですわよ?悠理」

「・・・うん」

「胸の支(つか)えは取れまして?」

「・・・多分」

「まぁ!あれだけ魅録に想われてますのに、まだ何か気になる事があるんですの!?」

「気になるって言うか、引っ掛かるって言うか・・・」

「仰って?悠理」

「ん。魅録に大切にされてるのは知ってる。大事にされてるのも分かってる。けど・・・」

「けど?」

「あたし、魅録から好きだとか愛してるだとかさ、言われた事ないんだよな」

告白した時も付き合う時も、誕生日とか記念日とかプロポーズの時も、魅録からそういった言葉をもらった覚えがないんだ。
だからと言って、魅録の気持ちを疑った事はないよ。
あたしに心が向けられてるのは、ちゃんと肌で感じてるから。
でもさ、やっぱり言葉で示して欲しい時もあるじゃん。
そう本音を打ち明けたあたしに、野梨子は微笑を浮かべながら言葉を放った。

「悠理も可愛らしい事を仰るのね。それだけ魅録に対する想いが強いという事かしら」

「・・・うん」

「では、美童のように四六時中、愛の言葉を囁いてもらいたいのね?魅録から」

「えっ゙!?」

美童みたいに愛の言葉を?
あの硬派な魅録が?
恋愛事はからきし苦手で不器用な魅録が、美童みたいに『愛してるよ』『僕には君だけだよ』なんて、年がら年中あたしに囁くって!?

うへぇ・・・。
想像しただけで吐き気がする。
あんな甘ったるい言葉、耳元で囁かれた日にゃ寒気がするっての。
それに、しょっちゅう『愛してるよ』なんて言われたら軽々しく聞こえるわ。
逆に、何かやましい事があるんじゃないかって疑っちまうよ。

「・・・美童みたいなのはヤダ」

「でしたら、清四郎はどうですの?」

「清四郎!?」

「清四郎でしたら、悠理のご希望通りの言葉をくれますわよ?但し、愛の定義を延々と語りそうですけど」

愛の定義?
そんな難しい事、分かる訳ないじゃん。
頭であれこれ考える必要ないだろ。
あーだこーだご託を並べず、素直に『愛してるよ』って言えばいい話だろ。
なんて言った日にゃ、説教コース&勉強会に早変わりしそう。
愛とは何かを知らずして、それを軽々しく口にするな。
自分の言葉に責任を持て・・・ってな。
あ~、想像しただけで頭痛くなってきた。
何が悲しくて、学校卒業してんのに勉強会しなきゃなんねーんだ。

「やっぱり、今のままの魅録が一番いい」

「気の利いた言葉一つ言えない、不器用な魅録が?」

「うん。不器用だろうと何だろうと、どんな魅録でもあたしは好き。浮気されても愛想尽かされても嫌われても、あたしは魅録を嫌いになれないし諦められない。死ぬまでずっと魅録が好きだ」

「まっ!浮気されて許せますの?魅録の事」

「う~ん・・・あの魅録が浮気するって事は、あたしにも原因があるんだろうし。許せないって気持ちより、悲しいって気持ちのが強いかな。だからこそ、魅録を手離してなんかやんない。あたし以外の女になんて渡してやるもんか」

魅録の幸せを願うなら自由にしてあげるのが一番なんだけど、でも自由になんてしてやんない。
それが、浮気した魅録に対する罰になるだろうから。

「魅録に浮気されても、結局は許しちゃうんだろうなぁ」

「でも、実際に浮気されたら冷静にはなれないでしょう?同じ空間にいるのも嫌になるのではなくて?」

「う~ん・・・もしそうなったら、野梨子んトコに避難しようかなぁ。迷惑だろうけど」

「いいえ、ちっとも。魅録が浮気した時は、いつでもいらして下さいな。魅録が泣いて謝るまで、この家の敷居は跨(また)がせませんから」

「おいおい、随分と物騒な話をしてるじゃねーか」

「「魅録!」」

「泣いて謝るような真似はしねぇから、浮気の心配はご無用だぜ?野梨子」

「うっ!」

「それと悠理、俺がお前以外の女に興味抱く訳ないだろ。ずっと傍にいるのに分からねぇのか?」

「ご、ごめん・・・」

「こりゃ、お仕置きが必要だなぁ」

「「お、お仕置き!?」」

そう言ってニヤリと笑みを浮かべた魅録からは、嗜虐的(しぎゃくてき)な空気が漂っていた。
正直言って不気味で怖い。
こんな顔した魅録、初めて見るよ。
うすら寒いったらありゃしない。
これはもしかして、かなり怒ってるんじゃないのか!?
魅録が浮気する前提で、野梨子と話をしてたから。
それが逆鱗に触れて、お仕置きなんて言い出したんじゃないの?
つうか、お仕置きって何だよ。
拷問とかそういった類いのヤツか!?
水責めとか火あぶりとか崖から突き落としたりとか打ち首とか。
・・・ヤダ!絶対にヤダ!そんなの無理。
何でそんな目に遭わなきゃなんないんだよ。
あくまで『タラレバ』の話なんだから、そこまで怒る必要ないじゃん。
そもそも、あたしと野梨子の話を盗み聞きしてる魅録の方こそお仕置きが必要なんじゃねーのか!?
それよりも、どの時点からあたし達の話を聞いてたんだよ。
しっかり気配まで消してさ。
という、あたしの心の声など届くはずもなく、魅録は相も変わらず不気味な笑みを浮かべていた。

「安心しろ、野梨子。お仕置きが必要なのは悠理だけだ」

「「・・・はっ?」」

「覚悟しとけよ?悠理」

「ひっ!」

覚悟って、どんな覚悟だよ。
あたしに何するつもりだ。
そう言いたくても、舌が喉に張りついて言葉が出てこない。
そんなあたしの状態を知ってか知らずか、魅録の話は続く。

「でけぇヤマを片付けた褒美に、明日から5日間の休暇をもらった」

「えっ!5日間も!?そんなの初めてじゃん」

「ああ。だから思う存分、お前にお仕置きが出来るな」

「ひいっ!」

「メシ、風呂、トイレ以外はベッドから出られると思うなよ?そう簡単には解放してやんねぇ。腰砕けになる覚悟はしておくんだな」

「・・・へっ?」

「今回の事件解決に伴い部署異動になるんだ。幸いにして、今後は危険を伴わない職場に配置転換される。仕事も一区切りついたしな。だから、今まで控えてた子作りも解禁だ。俺がお前しか眼中にないって事をベッドで証明してやるよ。お前の声が枯れるくらい何度でも抱くからな。それがお前へのお仕置きだ」

「なっ!?」

「ベッドは買い替える羽目になるだろうよ。俺達のニオイとシミでエライ事になるから。それは頭に入れとけ」

「うっ!」


お仕置きって・・・腰砕けって・・・子作りって・・・だだだ抱くって!?
なななな何て事を口にするんだ。
破廉恥にも程があるぞ。
しかも、野梨子の前で。
言葉が露骨すぎるっての。
ベッド買い替えって、何の話をしてるんだ。
んな事、ハッキリキッパリ口にするんじゃない。
と、魅録に抗議をしようとしたその時、

「人前で何て事を仰るの!?はしたないですわよ、魅録。人の家でノロケるくらいなら、さっさとご自宅にお帰り遊ばせ!」

茹でタコみたく顔を真っ赤にさせた野梨子に、体よく白鹿邸から追い出されてしまった。


六花の軌跡【魅悠】 6

2020-08-09 20:35:21 | 六花の軌跡【魅悠】
「遂に冬眠から目覚めたんだね。そう彼女に言われてやっと、俺は気付いたんだ」

「何に気付いたんですの?」

「単なるダチじゃなく、一人の女性として悠理を見てたって事にな。しかも、我を見失いそうになるくらいに」

無意識のうちに抑えこんでたんだろうな。
悠理に対する想いを。
有閑倶楽部内での均衡を保つ為に。
だから、彼女の言う深意に気付けなかった。
しかし───


「悠理への想いに気付いた以上、そ知らぬ顔して彼女と付き合う事は出来ねぇ。自分の心を偽ってまで彼女と付き合うってのは、彼女に対して失礼だ」

「では、正直に『別れて欲しい』と言いましたの?」

「いや。向こうから『別れて欲しい』って切り出してきた」

彼女は大の少女漫画好きで、そういう世界に憧れを抱いてたんだと。
そんな中、俺との出会いが運命的なものに思えたらしくて、好きになったそうだ。
いや、正確に言うと『好きになったつもり』でいたってヤツだな。
で、少女漫画の世界では、その運命的な出会いがキッカケとなり、二人は付き合う様になるんだと。

「でも、いざ付き合ってみると、漫画の主人公みたいなドキドキやワクワク感が全く湧いてこないし、デートしても高揚感ゼロだし、何だかなぁって言われてよ。挙げ句の果てには『好きとか付き合うとか、それがどういう事なのかよく分からない』とまで言われたぜ」

「まぁ!つまり、彼女は恋に恋してただけで、別に魅録に恋していた訳ではないと?」

「ま、そういうこった。本人がそう言ったんだから、間違いないだろ」

「本当は魅録が好きのに、肝心の魅録の心は悠理に向いている。だから彼女は、自分の心を押し殺して身を引いた。そんな可能性もあるのではなくて?」

「悠理への想いを認めた俺に、少女漫画で得た知識を披露し、あーだこーだアドバイスしてくるんだぜ?そんな人間が、俺に未練を残してるとは思えねぇよ。仕舞いにゃ、悠理に早く告白しろってせっついてくるし」

勇気を出して一歩前に踏み出せ。殻を破れ。
後悔先に立たずを地でいくつもりか。
悔やんでも悔やみきれないだろうが。
悠理が他の男にかっ拐われるのを、指をくわえて黙って見てるつもりか。情けないぞ。
そんな説教じみた事を言われたんだ。
何かさ、拍子抜けするよなと話す俺に、野梨子はふっと表情を和らげながら、眠っている悠理にチラリと視線を向けた。

まあ、眠っていると言うより、眠っている『フリ』と言った方が正しいんだがな。
けど俺は、敢えて気付かぬフリをする。
悠理がとっくの前に目覚めていて、ずっと狸寝入りをしながら俺達の話を聞いている事に。

「魅録、うかがいたい事がありますの。宜しくて?」

「何だ?」

「その彼女と再会されたのは、今回のお仕事で?」

「ああ」

「それ以前にお会いになった事は?」

「あるワケねぇだろ」

そもそも連絡先も知らねぇのに、どうやってコンタクト取るんだよ。
例え連絡先を知っていたとしても、コンタクト取る気なんて更々ねぇよ。
そう口にする俺に、野梨子は一つ頷いてみせてから言葉を続けた。

「再会されて、悠理との関係は話されましたの?」

「関係?・・・ああ、結婚してるって事か。当然、話したぜ?」

「その時、彼女は何と?」

「よかった。ちゃんと私の手紙を読んで、実行に移してくれたんだねって言ってたな」

「て、手紙!?」

「何の事を言ってるのかその時は分からなかったけど、取り敢えず話は合わせておいた」

厳密に言うと『悠理に託した手紙』って言われたんだけどな。
だが、そこの部分は敢えて濁しておいた。
じゃないときっと、悠理を追い詰める事になるだろうから。
だから俺の口からは言わない。

何もかもを正直に話す必要なんてないだろ!?
話したところで、悠理を傷付けるだけだ。
だったら、俺からはその部分に触れない方がいい。
もし何かあれば、悠理の方から切り出してくるだろう。
そんな事を胸の内で呟いていたら、野梨子がまたも昔の彼女について訊ねてきた。


「何だよ。まだあんのか?」

「魅録は何故、彼女と付き合おうと思いましたの?」

「はっ?」

「彼女が好きだから、お付き合いをされたのでしょう?」

「そりゃまあ、好きじゃなきゃ付き合わねぇよな」

「その割りには未練なくサッパリ別れましたのね。いくら悠理への想いを自覚したとは言え、悩んだりしませんでしたの?彼女と別れるという決断に」

「悩んだり?いや、ねぇな」

薄情だと言われようが、酷い男だと言われようが、一点の曇りもなく別れられた。
何故かって?
そりゃ、決まってんだろ。
さっきから何度も言ってるが、悠理に対する想いに気付いたからだよ。

ハッキリ言っちまうと、悠理以外の女はいらねぇと断言出来るくらいに惚れてたからな。
いや、現在進行形で惚れて「る」んだけどな。
だから、彼女と別れた事に対して何の後悔もしていない。

「悠理に対する好きと、野梨子や可憐や彼女に対する好きとは種類が違う。それに気付かぬまま付き合っちまった」

「・・・その彼女に対する『好き』は、私や可憐に対するものと同類だと?」

「だな」

「では、もう一つ。その彼女が王女チチに似ていたから、お付き合いされた訳ではありませんの?」

「はっ?」

「少なくとも、悠理はそう思ってますわよ?」

思いもよらぬ名前を耳にした俺は、思わず口を半開きにし、呆けた面を無防備にも晒す羽目となった。

えっと・・・どういう事だ?
付き合ってた彼女がチチに似てただって?
そんな風に思ってたのか、悠理のヤツ。

「似てたのは、髪の長さくらいだろ」

「えっ?」

「正直言うとよ、ボンヤリとしかチチの顔を思い出せねぇんだよな。つうか、白状すると覚えてねぇ」

「覚えてない?王女チチの顔を・・・ですの?」

「ああ。今はもう、思い出す事すらねぇよ」

「でも、その当時は覚えてらしたでしょ?王女チチを」

「だからと言って、付き合ってた女とチチが似てるとは、一度も思った事ないぜ?」

それじゃまるで、チチの身代わりとして元彼女と付き合ってたみてぇじゃねーか。
そんな、チチにも元彼女にも失礼な事、しねえっての。

マイタイ王国から帰ってきてしばらくは、確かにチチの事ばかりを考えてたさ。
だからと言って、チチの面影を追ってた訳じゃねーし、チチ似の女を求めてた訳じゃねーし、そもそも、そんなつもりは毛頭ねーし。

「チチはチチだし、元彼女は元彼女だ。比べる必要がどこにある!?」

「・・・そうですわね」

「だから、元彼女とチチを重ねて見た事なんて皆無だ」

「分かりましたわ」

「っと。ワリィ、部下から電話だ。少しだけ席を外すから、悠理を頼むな」

「はい」

そう言いながら、寝たフリしてる悠理にチラリと視線を這わせた俺は、受信ボタンを押しながら部屋から出て行った。


〈あとがき〉

悠理の憂いが一つ消えた・・・かな?
硬派で照れ屋でウブな魅録が、こんなに饒舌に語るかねぇ!?
ま、いざ腹をくくったら、誰よりも自分の気持ちをぶちまけそうではあるけど・・・。





六花の軌跡【魅悠】 5

2020-06-18 20:33:08 | 六花の軌跡【魅悠】
息をしていないのではないかと見紛うくらい、青白い顔で寝ている悠理を目にした俺は、心が千々に乱れそうになるのをグッと堪えながら、その枕元に静かに座した。
そして、震える指先で悠理の頬に触れ、生を感じる温もりを実感すると、無意識のうちに安堵の溜息を漏らした。

───よかった。ちゃんと息をしている。

手の届かぬ所へ召されなくて、本当によかった。
心底そう思うと同時に、ここまで悠理を追い詰めてしまった自分に、そこはかとない怒りを覚える。

いくら守秘義務を伴う仕事とは言え、コイツをここまで傷付け苦しませる必要があったのか。
せめてコイツにだけは、ある程度打ち明けてもよかったのではないか。
いや、例え身内にでも極秘捜査の内容は教える訳にはいかない。
そんな複雑な思いが交錯する中、俺は悠理の温もりに触れたい一心で、コイツの頭をそっと優しく撫でた。

「ありがとな、野梨子」

「何がですの?」

「悠理に寄り添ってくれて。付き合ってくれたんだろ?コイツの話に」

「え?え、ええ。別に大した事ではありませんわ」

「・・・そうか」

俺にも気を遣い、心配無用と言わんばかりの野梨子の物言いに、心底感謝した。
こういうところは流石だなと思う。

もしこれが可憐だったらどうなるか。
そんなモン、火をみるより明らかだ。
こちらの言い分に一切耳を傾けず、頭ごなしに否定して、問答無用とばかりに俺を追い払う。
呪詛まがいの恨み言を口にしながら。
絶対に悠理と会わせてくれなかっただろう。
それが分かるだけに、悠理の頼った先が野梨子で本当によかったと沁々(しみじみ)思った。

そんな事を胸の内で思いながら再度、感謝の念を伝えようとした時、野梨子が頬を赤くしながらやたらと俺をチラチラ見ている事に気付いた。

「何をそんなに見てるんだ?何か顔についてるか?」

「あ、いえ。その・・・」

そう問う俺に対し、野梨子は気恥ずかしそうな素振りを見せながら言葉を発した。

「目のやり場に困っているだけですわ」

「目のやり場?」

「ええ。だって、魅録の全身から伝わってきますもの」

「何がだ?」

「悠理が大切で、かけがえのない存在だっていうオーラが。本当に心から求めてらっしゃるのね。悠理の事を」

「ああ。コイツは俺の核となり、俺を形成してる女だからな」

「核?」

「悠理ありきの俺だ。何かするにしても、悠理を派生して事にあたる。コイツがいなけりゃ、俺は俺じゃいられねぇ。コイツが傍にいてくれねぇと、俺はダメになる。だから・・・」

「だから・・・何ですの?」

「何があっても手離さねぇ。みっともないくらい足掻いてやるさ。コイツを自分の元に引き留める為ならな」

悠理が俺の元からいなくなる。
それを想像するだけで、身の毛がよだつ。
コイツが傍にいない人生なんて、考えられない。
もしコイツがいなくなったら、俺は生きた屍となるだろう。
だから俺は足掻く。
コイツを手離さないように。

「さっき、昔付き合ってた女と何で別れたのかって聞いたよな?俺に」

「え?え、ええ」

「悠理本人の前で答えるって約束したからな。今、ここで話すよ」

「でも悠理は眠って───」

「今、話す」

悠理が目を覚ましてから話せばいいのに。
そう言いたげな野梨子を目で制した俺は、悠理の頭を撫でていた手を止め膝の上に置くと、その当時を振り返りながら別れた理由を述べた。

「偶然、街中で鉢合わせした事は聞いてるか?」

「ええ。魅録に彼女を紹介されたと窺いましたわ」

「そうか。まあ、その後の話なんだけどな」

軽い挨拶を交わし別れた後、当時の彼女がポツリと呟いたんだ。
あの子の事、好きなんだね・・・と。
最初俺は、彼女がどういう意味を持ってそんな事を口にしたのか分からなかった。
だから、額面通りにその言葉を受けとめ、こう返したんだ。

「好きに決まってんだろ。大切な仲間の一人なんだから。あんなに気の合うダチは、そうそういねぇよってな」

「それで、彼女は何と?」

「ただ一言『冬眠中なんだね』って」

言われた当初はチンプンカンプンだったさ。
だってそうだろ!?
いきなり冬眠中って言われても、何の事だか分かりゃしねえ。
何を指して言ってるのか、何を比喩して言ったのか、全くもって理解出来なかった。

「けど、その言葉の意味を知る出来事があった」

「出来事?」

「ああ」

彼女とデートしていた時、街中にいる悠理を偶然見かけたんだ。
珍しく女っぽい格好をして、薄化粧した悠理をな。

「あんな悠理の姿を今まで見た事がなかったからさ、てっきり罰ゲームかと思ったんだよ。可憐や美童に無理やり女っぽい服を着せられ、化粧もされちまったって」

「まっ!」

「だから、冷やかしてやろうと思ってさ、声をかけようとしたんだ。けど、アイツの隣に誰かいる事に気付いた瞬間、全身固まった」

俺の知らねぇ男の隣で、無邪気に笑う悠理を目にした時の衝撃は、未だに忘れる事が出来ない。
俺ですら見た事のないあんな悠理の笑顔を、あの見知らぬ男は引き出せている。
俺以外の男が悠理の笑顔を、悠理の隣を、そして悠理との時間を独占している。
それを思っただけで体中の血がたぎり、言い様のない怒りがこみ上げてきた。

今すぐにでも、あの男から悠理を引き離し、誰の目にも触れぬ場所へ閉じ込めてしまいたい。
俺以外の男の前から、悠理を隠してしまいたい。
そんな衝動にかられた。

「心ん中に嵐が吹き荒れたって表現が、一番しっくりくるのかな。兎に角、感情が乱れに乱れた。自身をコントロールするのに必死だった」

けど、そんな俺の心中を彼女は見破った。
隠せば隠すほど、誤魔化せば誤魔化すほど、心の動揺は全身に現れる。
それを彼女は見逃さなかった。
と、その当時を振り返るうちにまたも怒りがこみ上げてきた俺は、軽く頭を左右に振って雑念を追い払ってから先を続けた。



六花の軌跡【魅悠】 4

2020-04-25 19:07:00 | 六花の軌跡【魅悠】
あれだけ真っ直ぐに、ただひたすら魅録を恋ふ悠理に、何の不満があると言うのか。
何故、悠理を裏切る様な真似をしましたの!?
何故、面やつれさせるほど悠理を苦しめ、悲しませ、追い詰める様な真似をしましたの!?
悠理の想いが重かった?
負担だった?
だから、他の女性と浮気したとでも言うのか。
しかも、昔お付き合いされていた女性がお相手だなんて、悠理にとってこれ以上の屈辱はありませんわ。
何という酷(むご)い事をなさいますのと気色ばむ私に対し、魅録は涼しげな表情でさらりと聞き流している。
そんな姿が余計に私の怒りを煽るとも知らずに。
いいえ、魅録の事ですもの。
きっと、分かった上で敢えて、そんな態度を示しているのだろう。
そう思うと更に、怒りがこみ上げてくる。

許せない。
あんなひたむきな悠理を傷つけ、平然としている魅録が許せない。
誰が何と言おうと、私は容赦しない。
だから私は、もっと罵ってやろうと思い言葉を発しようとしたのだけど、それを既(すんで)の差で魅録に止められてしまった。

「勘違いするな。女とホテルに行ったのは事実だが、浮気したとは言っていない」

「何を仰いますの!ホテルのフロントでルームキーを受け取った後、お二人がエレベーターに乗った場面を悠理は見てますのよ!?」

「だから、それがどうして浮気に繋がる?」

「・・・まさかとは思いますけど、ルームキーを受け取りはしたが部屋には入らず、最上階にあるレストランに向かっただなんて見苦しい言い訳、なさいませんわよね?」

「なるほど。そういう解釈も出来るな」

「魅録!ふざけないで下さいな」

どこまで私をおちょくれば、気が済みますの。
往生際が悪くてよ!?魅録。
これ以上、白々しい嘘は吐かないで下さいな。
そう口にする私をチラリと見やった魅録は、軽く溜息を吐いてから言葉を放った。

「守秘義務があるから、話せる範囲も限られてくる。それでもいいなら話すが!?」

「勿論、うかがいますわ」

こういう物言いをするという事は、お仕事絡みの話とみて間違いなさそうですわね。
そう胸の内で呟いた私は、早く話を聞かせて下さいなと言わんばかりに先を促した。

「俺がどの部署に所属し、どんな事件を扱い、何の任務を遂行しているのかは、色々と支障を来すから言えない。悠理ですら、俺が何をしているのか知らないんだ。ただ、警察庁から警視庁へ出向している事だけは伝えてある」

警察キャリアとして警察庁に入庁した事までは私も存じておりましたけど、まさか警視庁に出向しているとは夢にも思いませんでしたわ。
と、思ったままを述べた私に、魅録はふっと表情を和らげながら話を続けた。

「国際指名手配犯が、東京のホテルに潜伏してたんだよ。で、潜入捜査の為にホテルに行った。アメリカのとある機関に所属する、昔付き合ってた女と一緒にな」

「・・・アメリカのとある機関?」

「ワリィがこれ以上、詳しい事は言えねーよ」

ええ、それは分かっております。
特殊なお仕事ですもの。
おいそれと話せる訳がありませんものね。
ですが、私がひっかかった所は仕事内容ではなく、何故、日本国籍を持つその女性が、アメリカのとある機関で働けるのかという事です。
日本の警察と連携捜査するくらいですもの。
その女性が所属する組織も、それなりに大きいとみて間違いないはず。
そんな組織で、外国籍である日本人女性が働けるものなのかしら。
という私の疑問に対し、魅録はあっさりと答えてくれた。

「昔付き合ってた女、父親がアメリカ人で母親が日本人のハーフなんだ。アメリカ移住した際、国籍をむこうにしたんだってよ。だからアイツは、今じゃ立派なアメリカ人だ」

「そういう事でしたの」

「ちなみに、アメリカ人男性と結婚して子供もいるぜ?今、一緒に来日してるって言うから挨拶程度はしておいたんだけどよ、目のやり場に困るくらい仲が良いんだぜ?」

「まぁ!」

結婚して子供もいるですって!?
まさか、そんな展開の話になるだなんて、予想だにしませんでしたわ。
昔お付き合いされていた方が、結婚して子供も授かっていただなんて。
おまけに、夫婦仲も良さそうだと言うし。
となると、今度は余計な事が頭をよぎってしまう。
その事実を知った際、魅録はどう思われたのか・・・と。
後悔の念が生じたのか、それとも───

「・・・魅録。不躾ながら、一つうかがってもよろしくて?」

「何だ?」

「その女性と別れた理由は何ですの?」

「何故、そんな事を聞きたがる?」

「それは・・・その・・・」

「悠理が気にしてるって言うのなら、本人の前でその質問に答えるさ」

やはり、見抜いてましたのね。
悠理が魅録の過去に囚(とら)われ、身動き出来ない事に。
さすが魅録ですわ。

「では、もう一つ。これだけは確認させて下さいな」

「何をだ?」

「その女性に対し、未練はありませんの?」

「未練があったら俺の性格上、アメリカまで追いかけてるよ。中途半端なマネはしねぇ」

「だと思いましたわ」

「ちなみになんだが、潜入捜査の為に昔付き合ってた女とホテルに行ったが、部屋には俺達を含め捜査員が6人いた。信じられないって言うなら、部下に証言させるが!?」

「いえ、結構ですわ」

「そうか。なら、さっさと悠理のところに案内してくれ。早く顔が見たい」

「まっ!」

こうも堂々と言われたら、恥ずかしさを通り越してむしろ、清々しいくらいですわ。
一点の曇りもなく、愚直なまでの眼差しでこちらを見やる魅録に一つ頷いた私は、悠理が休んでいる部屋へ、静静と足を向けた。







六花の軌跡【魅悠】 3

2020-04-23 21:21:00 | 六花の軌跡【魅悠】
この数日、ろくに眠れなかったのだろう。
泣きながら私にしがみつき、心の澱(おり)を吐き出した悠理は、泣き疲れてそのまま寝てしまった。
目の下にクマを作り、頬が少しこけ、どことなく陰があり、頼りなさげな風情を漂わす悠理は、女性の私から見てもドキリとする程の色気を醸(かも)し出している。

「食べる事しか興味のなかった悠理が、恋煩いに陥るほど魅録を深く想う日がくるだなんて、あの頃からは想像も出来ませんわ」

男と恋愛なんて気持ち悪い。
あたしは一生、独身でいるんだと豪語していた悠理が、いつの間にか魅録に恋をし、やがてそれが愛に変わって一人の女性として幸せを掴んだ。
想い想われ傍に寄り添い、何の変哲もないまま、順風満帆な日々を過ごしているものだとばかり思っていたのに、まさかこんな事態に陥っていただなんて。

「昔、お付き合いをされていた方とよりを戻し、ホテルに行ったところを目撃したと悠理は言ってましたけど、本当なのかしら」

別に、悠理を疑っている訳ではない。
ただ、腑におちないだけなのだ。

「誰の目から見ても、魅録は悠理を一途に想ってらっしゃるし、溺愛してますものね」

だからこそ、違和感しか覚えない。
あの魅録に限って、浮気など考えられないと。
何か他に、理由があるのではないか・・・と。

「これはもう、両方のお話を聞くしかありませんわね」

片方だけの話では真実は見えない。
魅録の言い分を聞き、悠理の話とすり合わせて判断しなければ。

「安易な事を口にして、悠理を傷つける訳にはいきませんし」

楽観的にも悲観的にもとれる言葉など、口に出来ようはずもない。
事と次第によっては、傷口に塩をぬる羽目になるだろうから。

「そうなるとやはり、魅録に直接会ってお話を聞かなくてはなりませんわね」

それも、なるべく早く。
悠理の心の傷が、広く深くならないうちに。
とは言え、いつお会いして話せばよいのやら。
今日の今日という訳にはいきませんし。
何せ、魅録は多忙を極める人だから。
などと、一人あれこれ思案しながら、居間に足を踏み入れたその時、

「よう。世話になって悪いな、野梨子」

スーツ姿であぐらをかき、微笑を浮かべながら私を出迎える魅録の姿が、目に飛び込んできた。


「み、魅録!?どうしてここに!?」

「どうしてって言われてもなぁ」

「魅録!ふざけないで下さいな」

「悪い悪い。別に、ふざけてるワケじゃねーんだけどな。まあ、単刀直入に言うと、悠理を迎えに来た」

眼光鋭く私を見据え、ズバッと言いきる魅録の様相に、思わず身震いしてしまった。
他を寄せ付けぬほどの風格、有無を言わせぬほどの圧、そんな威風堂々とした魅録の姿に圧倒された私は、体がすくみそうになるのを必死で堪えながら、言葉を返した。

「ゆ、悠理を迎えにって、どういう事ですの?」

「どうもこうも、そのままの意味だ。だって、いるんだろ?」

「いるって?」

「とぼけても無駄だ。俺には通用しねぇぞ?」

そう言いながらククッと笑う魅録は、顔は笑っていても、目は全く笑っていなかった。
どんな言い訳も許さない。
正直に言え。
じゃないと、何するか分からねぇぞ?
と、背筋が凍るかの様な空恐ろしい瞳で私を射る魅録に、これ以上とぼけるのは無理だと悟り、白旗をあげた。

「確かに悠理はここにいますわ。でも、どうしてそれがお分かりになりましたの?」

「何故だと思う?」

「・・・まさか、GPS?」

「いや、違う。悠理のヤツ、携帯を家に置いて外出しちまったからな。GPSで行方を探すのは無理だ」

「では、どうやって突き止めましたの?」

まさか、尾行しながら監視していたのではなくて!?
そんな疑惑を抱く私に気付いたのか、魅録は苦笑いを浮かべながら「単なる消去法だ」と種明かしをしてくれた。

「まず、悠理の頼る先で100%ないと確信したのは、可憐と美童だ」

「何故ですの?」

「何故って、可憐は新婚旅行中だし、美童は嫁さんと子供連れてスウェーデンに帰省中じゃねえか。もしかして、忘れちまったのか?」

・・・はい。
完全に失念しておりました。
そう言えば、お二人とも日本を離れていましたわね。
などと、胸の内で呟く私を知ってか知らずか、魅録の話は続く。

「となると、考えられるのは、野梨子か清四郎のどちらかとなる」

「でしたら、清四郎の方が可能性は高いのではなくて?」

何せ、清四郎は剣菱グループの一員として働いているし、剣菱のおじ様からの信頼も篤い。
それに、昔から悠理は何かと清四郎に頼る癖があるので、私よりは清四郎のところに向かう確率が高いのではないかいう意見に対し、魅録はそれを完全に否定した。

「剣菱に近しい清四郎の元に行けば即、義父母の耳にも入る。俺が女とホテルに行ったって話がな」

「!!」

「あの清四郎の追求に、悠理が逃れられるワケねぇだろ。見たままの事を話すに違いない。となると、有無を言わさず俺と離婚する様に迫るだろう。清四郎と剣菱の義父母はな。それが分かってるから、悠理は清四郎のところには行かない。俺との離婚なんて望んでないからな、悠理は」

「・・・」

「と同時に、剣菱や和貴泉関連のホテルにも泊まらない。何故かって?そりゃ簡単だ。宿泊記録が残るからな。例え偽名を使っても、防犯カメラにバッチリ姿が映っちまう。そんなヘマ、悠理がするはずねぇ」

「・・・本当でしたのね」

「何がだ?」

「女性と・・・その、ホテルに行かれたって・・・」

「本当だ。悠理に見られたのも知ってる」

「なっ!?」

悪びれもせず、女性とホテルに行った事を認める魅録に、私はこれ以上ないくらいの怒りを覚えた。