ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

若宗匠の懐刀(総+つく)後篇

2022-01-02 02:01:00 | 短篇(花より男子)
※下品な会話が出てまいります。
苦手な方は回れ右でお願いします。
なお、読まれた後の苦情は受付不可ですのであしからず。





「にぃ〜しぃ〜くぅあどぉぉ〜!おんどりゃワレェ〜どういうつもりじゃあああ〜コラァァ〜!!」

「ななな何だ!?」

二軒目に訪れたクラブで見事、若宗匠を見つけ出した牧野様に私は感動しました。
流石、流石でございます。
若宗匠の行動パターンや行きつけの店など、ちゃんと把握されているんですね。
司様やあきら様、類様が「牧野に聞け」と口を揃えて仰っしゃられた意味が今、分かりました。

「このボケ、カスゥ〜!どういうつもりじゃ」

「どういうもこういうもお前、口が悪すぎるぞ。つうか、個室のドアを蹴破るな。凶暴すぎるだろ。どうすんだコレ、ドア壊れてんぞ」

「そんなの決まってんでしょ!アンタが弁償するのよ」

「何で俺!?壊したのは牧野だろ。俺は関係ねぇ」

「関係ないワケないでしょ!アンタのせいでしょうが」

「はぁ?」

「はぁ?じゃないっつーの。大事な茶会を明日に控えてんのに、フラフラ夜遊びしてるアンタのせいだっつってんの。可哀想にアンタの秘書さん、「若宗匠の居場所を探して下さい」って、私に泣きついてきたのよ!?」

いや、あの、泣きついてはいません。
泣き言めいた発言はしましたけれども。
と、反論したいところをジッと堪え、お二人の成りゆきを見守ります。

「そっちの事情は分かった。けど、俺の事情は?分かってんの?」

「アンタの事情?・・・って何よ」

「お前、この状態を見て何も思わないワケ?勤労処女とは言え、ニブすぎるだろ」

「ナイスバディなオネーサンが、半裸状態でアンタに跨ってるだけでしょーが。そんなのどーでもいいわ。こっちはねぇ、こんな夜更けに下半身が病気なアンタを探す羽目になって、とんだ迷惑被(こうむ)ってんのよ。さっさとサクッと終わらせて、秘書さんと一緒に家に帰れ!このスカポンタン!」

す、凄いです、牧野様。
その・・・何と言うか、営みの最中であろう若宗匠を正視出来るんですから。
並の心臓をお持ちじゃないですね。肝が据わってます。
私なんて、目の遣りどころがなくて困っておりますのに・・・流石です!牧野様。

「あと何分で終わるの!?つうか、今すぐフィニッシュして。ほら、早く」

「出来るかー!」

「そっ。じゃ、オネーサンから離れてチャッチャと服を着てちょうだい。で、続きは明日の茶会が終わってからドウゾ。て言うかさ、大事な茶会を控えてるのによくこんな事できるよね。性欲を抑えきれず欲望の赴くまま行動するって、何かの病気じゃない!?自分の欲に忠実すぎるのってどうよ。そんなんで家元になれるの?もう破門じゃね?」

「お前・・・処女のくせして恥じらいはないのか!?何で冷静に説教できるんだよ」

「アンタと違って、まともな人間だからに決まってんでしょ」

「お前のドコがまともなんだよ。立派な異常者だ!つうか、何でお前が俺の秘書と一緒にいるんだよ」

「秘書さんがアンタの居場所を教えてくれって言うから仕方なく」

「何で牧野に?」

「そんなの知らないわよ!アイツらに聞いてよ」

「アイツら?」

「美作、花沢、道明寺の三バカの事に決まってんでしょ!?バカの大親分」

「誰がバカの大親分だ!」

「アンタ以外に誰がいるってのよ!何で私がそんなバカの大親分のお目付け役をやらなきゃなんないの。なぁぁぁ〜んの関係もありゃしないのに。それをあの三バカ・・・かぁぁ~腹立つ」

「おいおい、よく思い出せ。俺達、何の関係もない仲とは言えねぇだろ」

「はぁぁ〜!?」

「お前が国立大学を受験するって言い出した時、ボンビーなお前の為に誰が家庭教師役を買って出たっけ?貴重な時間を割いてまで問題集を手作りし、ボランティアで受験勉強に付き合ってやった、心が広くて優しい男は誰だったっけなぁ〜!?」

「ぐっ!そ、それとこれとは別でしょ」

「カァ〜!随分と都合がいい事で」

「うっさい!」

あの〜お二人とも、周りの状況が目に入ってます?
ここ、VIP客用の個室とは言え、人目にはつくんですけど。
この騒ぎで数人の従業員が駆けつけて来ちゃったんですけど。
そして、若宗匠に跨ってた女性もこの騒ぎに乗じて、さりげなく消えちゃったんですけど。
て言うか牧野様、人知れず若宗匠を連れ帰るという作戦が見事に失敗ぶっこいちゃってますけど!?
これじゃあいずれ、家元のお耳にも入っちゃいますよ。
と、なれば、若宗匠と私は大目玉を喰らう訳でありまして・・・。
その辺り、分かってますかね?
分かって・・・ないだろうなぁ。
絶対、失念してるだろうなぁ。
と、言う訳で若宗匠、仲良く家元から説教喰らいましょうね。逃しませんよ!?


《あとがき》

コメディ系が書きたくなったので、衝動的に描いてしまいました。
コメディだとやはり、この二人が一番書きやすいです。
需要があるか分かりませんが、おまけ的な話を書いてアップする予定です。


若宗匠の懐刀(総+つく)前篇

2022-01-01 01:11:00 | 短篇(花より男子)
私がお仕えする西門流の若宗匠は、半端なくモテる。
想像を絶するほどのモテ具合なのだ。
何せ若宗匠は、美形でスタイル抜群で頭脳明晰でお金持ちで家柄も良くて愛想も良い。
だから当然、女性陣が放っておかない。
ワンナイトラブでもいいからお相手願おうと、女性達が若宗匠の周りをウロウロする。
となれば、どうなるかは火を見るより明らか。
据え膳食わぬは男の恥とばかりに、アッチへフラフラ、コッチへフラフラとして日に日に女遊びが激しくなっていく。

そしてある日の事、ついに若宗匠はやらかしてしまう。
大事な茶会を翌日に控え、事もあろうに夜の街へと繰りだしてしまったのだ。
流石にこれはマズい。
こんな事が家元にバレたら、叱責を浴びるだけではなく三日三晩、説教を喰らう羽目になるだろう。
若宗匠も、若宗匠のお目付け役である私も。
まあ、それだけで済むのならまだいい。
宗家だけの話として、内々に処理すればいいのだから。
一番厄介なのは、一門衆や後援会や門弟にバレた時だ。
大事な茶会を前に遊び惚けていたと知られたら、叱責どころの騒ぎではなくなる。
示しがつかないどころか、下手をすればそっぽを向かれ、若宗匠を返上しなくてはならなくなる・・・かもしれない。
そう思い至った私は若宗匠の居所を掴むべく、一人の女性の元へと駆けつけた。


「いや、あの、何で私に聞くんですか?私は西門さんの彼女でもなければ、友達でもありません。単なる後輩です。しかも、大学は別々だし余計に接点は少ないです。なので当然、西門さんの居場所なんて知りませんよ」

「えっ!?あ、いえ、あきら様に若宗匠の居所を尋ねたんですが、『生憎と俺は知らない。牧野なら知ってるかもな』と言われたものですから」

「はぁぁ!?」

「とは言え、いきなり牧野様を訪ねても、牧野様が面食らってしまうと思い、道明寺財閥の司様に若宗匠の行方を尋ねてみました」

「・・・既に面食らってますけど」

「司様のオーラに圧倒されそうになりましたが、それでも私は勇気をふり絞って窺(うかが)ったんです」

「・・・スルーかい!」

「そうしましたら『牧野に聞け!』と一喝されまして」

「あぁん!?」

「もっと粘ろうかと思いましたが、取り付く島もない状態でして。ですが、立ち止まる訳には参りません。若宗匠不在を家元に知られる前に、是が非でも見つけ出さなければ。ですので、一縷(いちる)の望みをかけ、花沢類様に尋ねました。そうしましたら・・・」

「そうしましたら?」

「類様は『俺が総二郎の居場所を知ってる訳ないだろ?そんなの、牧野に任せておけばいいんだよ』と、仰っしゃられまして」

「あンのヤロー・・・」

「と、言う訳で牧野様、後生ですから若宗匠の居場所を教えて下さい。でないと、私も若宗匠も大目玉を食らってしまいます。下手すればお家騒動になるやもしれません。お願いですから助けて下さい」

「ですから、何で私!?先程も言った通り、私と西門さんとの間にはなんっっっにもありません。ええ、ええ、それは見事なまでに何っっっひとつもありません。ぺんぺん草一つ生えないくらい真っさらなもんです。そんな私が、西門さんの居場所を知る訳ないじゃないですか」

「ですが、あきら様や司様、類様は口を揃えて牧野様に聞けと・・・」

「アイツら・・・鏖魔(みなごろし)にしてやろうか」

「はっ?」

「いえ、こちらの話です。兎に角、私はアイツらとは何の関係もありませんから」

「そんな後生な!お願いですから、お力を貸して下さい。若宗匠がいそうな所を教えて下さい。私にはもう、牧野様を頼るしか道がないんです」

「何でやねん!」

何でやねんと言われても、意味不明だとボヤかれても、私は諦めませんから。
頼みの綱は牧野様、あなたしかいないんですから。
貴女様は私にとって救いの神なのですから。



本年もお世話になりました

2021-12-30 14:22:34 | 雑記
皆様にとって、どんな一年になりましたか?
十人十色ではあるでしょうけど、何事もなく年末を迎えられます様、祈っております。

さて、私めの話になりますが、この年の瀬に携帯・・・今はスマホと言うのか。
スマホの調子が最悪な状態になっております。
機種変更をして間もないのに、これはどうした事か。
私が使っている機種は不具合が出るらしいので、お店に行ってみてもらいます。

ストックしてある話があるのに・・・。
データぶっ飛んだら泣くになけない。
年始から話をアップしようと思っていたんですが、それもお釈迦になりそうです。
そんな中将ブログですが、来年も宜しくお願い申し上げます。
皆様、良いお年を。


時としてドキッとして【魅悠】

2021-11-23 15:21:26 | 短篇【有閑倶楽部】
人は時として恋に落ちる。
ふとした瞬間に、予想だにしない展開で、思いもよらず突然に。
そんなミラクルな状況に陥ってしまったのが、恋とは無縁と思われた悠理である。
恋愛よりもケンカや食い物が大好きで、誰よりも色恋沙汰から縁遠く、花より団子だと思われたあの悠理が・・・で、ある。

「何だってあたしがこんな事に・・・うがぁ〜!」

頭をかきむしり、激しいヘドバンをキメながらそんな事を言われても、誰にも分からない。

「何であたしが魅録にドキドキしなきゃなんねーんだ。何で魅録なんかに・・・ぬおぉぉ〜っ!」

だから、それは誰にも分からない。
魅録とていい迷惑だろう。
と言うか、魅録「なんかに」とは失礼ではないのか。

「ううっ〜あれこれ言ってても仕方ない。コレを見よう」

そう独り言を呟きながら悠理が手にしたものは、恋愛系の雑誌である。
誰にもバレない様、変装までして本屋に出向き、購入したものだ。
こんなモノ、自分には一生関わりがないと思っていたのにと、ブチブチ文句を言いながらもページをめくる。


「なになに?『その人の事ばかり考えてしまい、眠れない時もある』だって!?魅録の事を考えて・・・おおっ!あるある」

ダチの店の開店祝いに行くと言う魅録に「あたしも連れてけ」と迫ったら、今回は男子限定だから女のお前は連れて行けないって断られたんだよな。
そん時は頭にきたけど、魅録に「女」だと言われた事に気付いて嬉しくなったんだ。
ほらアイツ、あたしの事「女じゃねーな」って言ってたじゃん!?
だから余計に嬉しかったんだよ。
でさ、ベッドに入っても頭が冴えちゃって、ついつい「今頃、何を食ってんのかなぁ〜魅録のヤツ」って考えちまってさ。そしたら寝るタイミングを失って、眠れなくなったんだよね〜。
と、ニタニタしながらその当時を回顧する悠理だが、それは単に食べ物が気になって眠れなかっただけで、魅録は関係ないのでは!?
と思わなくもないが、そんなツッコミを入れる人間はここにはいない。


「えっと『お腹は空いているのに食欲がない』・・・分かる!今日も食欲なかったんだよ〜」

などと口にするが、ファンからの差し入れ弁当をしっかりチャッカリ4つも平らげている。
それは食欲がないとは言えないだろう。
しかし、そう突っ込む人間はここにはいない。


「次は『四六時中、その人の事が頭をよぎり、その人に好きな人がいるんじゃないかと不安になる』だと?・・・うんうん。なるなる」

魅録、もう晩メシ食ったのかなぁ。
何を食ったんだろ。
アイツん家のお手伝いの文さんが作るメシ、すごい美味いんだよなぁ。特に煮物が最高!
魅録も「文さんの煮物は絶品」って言ってたし。
ああ〜文さんの煮物食いたくなってきた!
いや、だからそうじゃなくって!
好きな人がいるのかどうかって話だよ。
やっぱさぁ、美味いメシを作れるって大事だよな。
可憐も言ってたじゃん。
「胃袋をしっかり掴まないとね」って。
その為には努力は惜しまない。料理もバッチリよって胸をはって言ってたよなぁ。

・・・ってオイ!この写真、何だよ。
魅録と可憐が隣同士で写ってるけど、可憐のデカ乳が魅録の腕にめり込んでるじゃん。
ワザとか!?ワザと魅録の腕にデカ乳を押し付けてんのか!?
色気使って魅録を誘惑するつもりかよ。
つうか、魅録のヤツ、鼻の下伸びてね?
満更でもないってか・・・ハッ!
まさかまさかまさかまさかまさか!
この二人、両想いなんじゃ・・・ハッ!
もしかしてもしかしてもしかしてもしかして!
既に付き合ってて、エッチも経験済みとか!?

と、春に6人で撮った写真を見ながら妄想をぶちかます悠理だが、そんな彼女を諭す仲間はこの場にいない。


「はぁぁ・・・次は『どうせ私なんて振り向いてもらえないとネガティブになる』か。正に今、そうじゃん」

だって魅録、あたしの事「嫁の貰い手ねーな」とか「男同士の付き合い」だとか言ってくれちゃってさ。
挙句の果てに、あたしと清四郎との婚約騒動の時には「最高のカップルだぜ」なんて言いやがるし。
全くこれっぽっちも気にかけてくれてねーじゃん。
嫉妬の「し」の字もねーし。
こんなの見込みゼロだろ。

ったく・・・て、オイ!この写真は何だ。
魅録と野梨子が並んで写ってるけど、魅録の手が野梨子に触れてるじゃん。
ワザとか!?ワザと野梨子の手に触っちゃってんのか!?
偶然を装って自ら触りにいったのかよ。
つうか、野梨子のほっぺた赤くね?
満更でもないってか・・・ハッ!
まさかまさかまさかまさかまさか!
この二人、既にデキてるんじゃ・・・ハッ!
もしかしてもしかしてもしかしてもしかして!
実は婚約済みです、私達。
だから、私の体に触れてもいいんですのよ。
な〜んて言うんじゃないだろーな!?野梨子のヤツ。
でなきゃ、身持ちが固すぎる野梨子がお触りを許すワケねーじゃん。

と、夏に6人で撮った写真を見ながら妄想爆走中の悠理だが、残念ながら彼女の暴走を止める人間はいない。


「で?『特徴として、恋愛経験が少なく、相手にアピールする術を知らない、相手の本心が知りたくても怖くて聞けないなどが挙げられる』だと!?ああ、全くその通りだよ。恋愛経験が少ないどころかゼロだし、何をアピールすればいいのか分かんないし、魅録があたしをどう想ってんのかなんて本人に聞く勇気なんてないし」

どうせあたしはガサツで、色気のイの字もなくて、ペチャパイで凹凸もなくて、バカで単細胞でケンカっ早くて、料理は食べる専門のどーしょもない底辺女だよ。
などと独りごちた悠理は、自分で自分が情けなくなったのか哀しくなったのか惨めになったのか、珍しく夜食をメイドに頼む事なくベッドに潜り込み不貞寝を決めこんだ。


紫土に染まる 肆

2021-11-03 11:40:52 | 紫土に染まる(あきつく)
紫土に染まりし怒りの焔(ほむら)に、培ってきた全てが焦土と化す。
やり場のない感情が、出口を求め暴れだす。
鋭い牙が、獲物を求め疼(うず)きだす。

一度に天国と地獄を味わった15回目の誕生日を、俺は絶対に忘れない。
忘れてなどやるものか。



紫土に染まる 肆



家族に誕生日を祝ってもらい、幸せな気分を味わいながら自室へと戻ろうとした際、

「あきら、私の書斎に来なさい」

いつになく厳しい表情をのぞかせる親父に引き留められた。
柔和で温厚で厳しくも優しい美作肇としてではなく、美作家を束ね導いていかんとする美作家当主としての顔を見せる親父に、自然と俺の気持ちも引き締まる。

つくしの親父さんを不慮の死で失った事により、ジワリジワリと邸内に綻びが出始めてきた。
有り体に申さば、統率力と団結力が低下し、まとまりがなくなってきた。
人畜無害で飄々とし、頼りなさげで時として不安に思う事もあったけど、実はつくしの親父さんは美作家の執事として上手に手綱を引いていたんだ。
その事を、失ってから気付かされるとは思いもしなかった。

多分、その辺りの話をするんだろうなと予測をつけた俺は、大人しく親父の後に続き、書斎へと足を踏み入れた。
するとそこで待ち受けていたのは、恐ろしいくらい顔立ちが整った、見た事もない男だった。

「親父、この人は・・・」

「そうか、あきらは初対面だったな。紹介しよう。私の『シノブ』だ」

「!?」

「初めまして坊っちゃん」

「っ!初めまして。美作あきらです」

親父の『シノブ』から放たれる圧倒的なオーラに思わずしり込みしそうになったものの、それを面に出す事なく無難に挨拶を交わした俺は、不躾にならない程度に親父の『シノブ』を盗み見した。

一見、物腰が柔らかそうに見えるその風貌も、俺には空恐ろしく感じる。
一変すれば瞬く間に、悪鬼へと変貌するだろう。
何の躊躇もなく、ただ愚直なまでに親父の命令に従い、的確に敵の喉笛を咬みきって。
俺の目には、そんな獰猛な獣にしか見えない。
興味本位で深入りするのは危険だ。命取りになる。
そんなニオイが、親父の『シノブ』からは漂っていた。

「あきら、『シノブ』が気になるかもしれんが、今は私に集中してほしい」

「・・・あっ、はい」

「大事な話がある。そこに腰掛けなさい」

そう言いながら定位置の椅子に腰かけた親父からは、疲労の色がうかがえる。
これは、かなり難しい話になるかもしれないな。
そんな事をぼんやり思いながら、俺は親父の正面にある椅子に腰かけた。
するとそれを合図かの様に、親父は軽く息を吐いてから言葉を発した。

「つくしの家族が襲われた事件は、もうカタがついた。心配はいらん」

「・・・カタがついた?」

「そうだ」

「カタがついたって、どうやって犯人を・・・」

「今から『シノブ』に報告させる。シノブ、あきらに事件の全貌を聞かせてやってくれ」

「へいへい。じゃ、遠慮なく報告させてもらいますかね」

苦笑いしながら親父の背後に立ち、俺と対峙した『シノブ』は、事件のあらましについて淡々と話してくれた。
つくしの家族を襲った犯人達や、ソイツらの犯行に至るまでの経緯、そしてどう始末をつけたのかまで全て。
それらを顔色一つ変える事なく俺に報告する『シノブ』からは、何の感情も読み取れない。
ただ業務の一貫として報告をするだけ。
冷静に正確に、事のあらましを俺に伝える。
そんな『シノブ』から告げられた真実は、俺を絶望の淵へと追いやるに充分だった。

「・・・俺のせいだ。俺がつくしの家族を奪ったんだ。つくし以外の女に興味がないって突っぱねたせいで、あのジジィはプロの殺し屋につくしを襲うよう依頼した。そして・・・結果的につくしの家族が殺された。元はと言えば俺が・・・俺が悪いんだ!つくししか眼中にないって態度を示したから。安易な言動をとったからジジィは・・・ジジィは強硬手段をとったんだ。俺が・・・俺がつくしを苦しめた元凶なんだ!」

「あきら、自分をそんなに責めるな。自分で自分を追い詰めるな」

「だって事実だろ!俺が軽薄な言動を慎んでいれば、こんな事にはならなかった。俺がつくしを苦しめたんだ。誰よりも幸せにしたいと願った女を、俺が誰よりも不幸せにした」

「つくし本人はそんな事、思ってもいない。だからあきら、そんなに───」

「そんなの分かんねーだろ!」

「あきら・・・」

「俺が引き金になったんだ。俺がつくしの家族を奪った張本人だったんだ。それなのに俺は、つくしの全てを手に入れたと喜んで、浮かれて、有頂天になって・・・最低な男だ」

「「!!」」

「・・・は・・・はははっ!そうか。だからあの時、つくしは首を縦に振らなかったんだ。俺からのプロポーズを受け入れてくれなかったんだ」

「・・・なるほど。つくしと関係を持ったんだね」

「何だよ。文句でもあるのか!?」

「いや、そうじゃない。納得したんだよ」

「はっ?」

「つくしが『あきらのシノブとして働きたい』と言った真意と覚悟がね。そうか、つくしはつくしで自分の気持ちに区切りをつけたんだな。そして、あきらの恋人としてではなく、あきらの『シノブ』としてあきらと共に人生を歩む決意を固めたんだ」

・・・今、何て言った!?
つくしが俺の『シノブ』として働きたいだって!?
冗談か?もちろん冗談だよな?
俺の『シノブ』になりたいなんて、性質の悪い冗談に決まってる。
だって『シノブ』だぞ。
主人に命を捧げ、主人の為だけを考え、主人の為なら顔色一つ変えず人を殺め、いつも危険と隣り合わせで過酷な任務を遂行するあの『シノブ』になりたいなんて、何かの冗談に決まってる。

「何を言ってるんだ親父。つくしが『シノブ』になりたいなんて、そんな事を言う───」

「事実だ。つくし本人から『シノブになりたい』と申し出があった。これからは、あきらと美作の為に働きたいと・・・両親のように美作を守りたいんだと、私の目を見てはっきり言ったんだ。私のシノブもその場にいたから間違いない」

「お嬢ちゃんの腹は決まってる。何が何でも坊っちゃんの『シノブ』になるつもりだ。いや、なる。そんな強い意志を感じたね」

「ふざけるな!そんなの、認められるワケねーだろ!」

「認める認めないは坊っちゃんが決める事じゃない。坊っちゃんの『シノブ』を決める決定権は俺のご主人様、つまり、美作家の当主が持っている。坊っちゃんが口を挟む権利はない。そもそも、坊っちゃんが迂闊にお嬢ちゃんの名前を出さなけりゃ、こんな事態にならなかっただろ」

「シノブ、あきらを追い詰めないでくれ」

「へぃへぃ。ご主人様は本当にお優しい事で」

「すまないね、あきら。シノブは物事をオブラートに包む事を知らないんだ」

「・・・」

「あきら?」

「・・・何も考えたくねぇ」

「えっ?」

「美作の為だとか美作を守るだとか、知った事か。煩わしい」

「・・・」

「つくしと一緒にいたい。そんな簡単な事が出来ねぇ家なんて、どうだっていい。俺はただ、つくしが欲しい。つくししかいらねぇ。つくしが傍にいてくれるだけでいい」

「・・・」

「ああ、そうか。そんな幸せを望む事すら、俺には許されないよな。俺の顔なんて見たくもねぇだろうし」

自分の家族を奪った元凶の俺を、つくしが受け入れてくれるはずがない。
例え受け入れてくれたとしても、つくしの心の奥底で燻(くすぶ)る火種を消す事なんて出来やしない。
俺に対するわだかまりはなくなりゃしない。
きっと俺を、本心から許してくれる日なんて来やしない。
そんな絶望が俺を襲う。

「あきら、つくしはそんな子じゃない。あきらのせいで家族を失ったと思う様な子じゃない。もしそう思うなら、自ら『シノブ』になりたいとは言わないんじゃないのか?つくしは二心を抱くほど器用じゃない。自分の置かれた立場を理解し、ベストを尽くそうとする」

「親父・・・」

「つくしを誰よりも理解しているあきらなら分かるだろ?」

「分かりたくもねぇよ。ちくしょう!つくしを苦しめた自分が憎くい。俺の心に爪をたてるつくしが憎くい。そこまでつくしを追い詰めた自分が憎い。俺に何も言わず勝手に人生を決めるつくしが憎い。俺を好きだと言いながら、離れていくつくしが憎い。でも・・・それ以上につくしが愛しい」

「あきら、そこまでつくしを・・・」

「坊っちゃんよ。たかが15のボウズに、愛の何たるかが分かるのか?そもそも愛って何だ。そういうのはさ、軽々しく口にするモンじゃねーと思うぜ!?」

「シノブ!」

「はいはい。これ以上、余計な事は言いません」

ホールドアップし降参のポーズをとるものの、全く悪びれた様子のない『シノブ』に、俺は何も言い返せなかった。
だって、『シノブ』の言葉に間違いはないから。
世間知らずの中学生の俺が、愛の何たるかを知る由もないから。
だから不思議と『シノブ』に対して怒りは沸いてこない。
その変わり、自分に対する怒りだけは沸沸と沸いてくる。
抑えても抑えきれない怒りが。
そんな俺を正面から見据えていた親父は突然、

「先代のところに行きなさい」

と言いだした。
先代というのは、前当主である俺のジィ様の事だ。
早くに隠居し、世捨て人のように暮らすジィ様は、あまり俺達家族と交わろうとしない。
顔を合わせるのは年に1回程度。
それだけ行き来がないジィ様のところに行けなんて、親父は何を考えてるんだ。

「何でジィ様のところに行けと?」

「今のあきらの心には、先代の言葉が一番響くと思ったからだ」

「ジィ様の言葉・・・」

「これからどう美作の家と向き合っていくか、つくしと接していくか、先代と話をして答えを見つけてきなさい。あの人の哀しい過去の話を聞いて、自分の行く末と照らし合わせなさい」

有無を言わさぬ親父の圧に負けた俺は、ジィ様のところに行くと約束し、ここを後にした。