ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

(蔵:あきつく)未知なる世界にコンニチワ

2020-09-23 21:07:20 | 蔵入り部屋
ちょっと下ネタ系になります。
そういった類いが苦手な方は、回れ右でお願いします。



幸運な事に、好きになった人に『好きだ』と言ってもらえたつくしは、いわゆる異性交遊なるものを始めた。
彼氏と動物園やピクニックや買い物に行ったり、レストランやカフェで飲食したりと、夢のような時間を過ごしている。

・・・んが!

一緒に過ごす時間が増えれば増えるほど、もっと相手の事を知りたいと思うし、もっと近付きたい、触れたいと願う自分がいる。
それに気付いてしまったつくしは、アレやコレやと頭を悩ませ中だ。

「私から手を繋いでもいいのかな。何か、ガツガツした女だなってドン引きされない!?き、嫌われちゃったりしない!?」

本音を言えば、腕を組んで歩きたいし、肩を寄せあいながらベンチに座りたい。
もうちょっと踏み込んで言えば、頬や額にチューなんてものもしてもらいたいのだ。

「くくく唇にチューもそのうち・・・ギャー!」

彼氏のキレイな唇が自分の唇に重なる。
それを想像しただけで、つくしの胸はドキドキしっぱなしだ。

「唇にチューなんてしたら、不純異性交遊になっちゃわない!?校則で罰せられたりしたら停学、下手したら・・・退学!?」

顔を強張らせながらそんな事を口にしたつくしは、別にふざけている訳ではない。
本当にそう思っているのだ。

っつうか、チューくらいで退学になるはずがない。
もしチューで退学になるのなら、それ以上の行為をしてきたつくしの彼氏は、とっくに英徳から消えている。
永久追放の憂き目に遭っているだろう。
しかし、今のつくしにはそこまで思い至る余裕はない。

「でも!いつかはチューしたいなって思うし、チューより先も・・・ぎゃあ~!恥ずかしい」

女の自分からそんな事を言うなんて、破廉恥だって思われないだろうか。
愛想つかれたりしないだろうか。
などと、あ~だこ~だと一人で思い悩んでいたつくしだったが、

「堂々巡りだよね」

何の解決にもならない事にやっと気付いた。

「ここはやっぱり、私より大人の階段登った人に話を聞いてみないと」

そうポツリ呟いたつくしは、善は急げとばかりに何処(いずこ)かへと猛ダッシュした。





「えっ?」

「いや、あの、だからね、優紀って西門さんと大人の階段登ったでしょ?それって、どうやってそんな流れに持ち込んだのかなって」

「大人の階段って・・・そんな回りくどい言い方しなくても、エッ───」

「うわぁ!はははハッキリ言わなくてもいいから!」

「つくし、案外シャイなんだね」

「そそそんな事はどーでもいいから、優紀の話を聞かせてよ」

「う~ん・・・確か『温めてあげます』って私が言って、西門さんが『温めて。俺がリードするから大丈夫』的な返事をしてくれたような・・・」

「温めてあげます!?そんな言い方しただけで、体の関係に持ち込んだの!?」

「体の関係に持ち込んだって言い方、何かすごく卑猥に聞こえるんだけど」

「それで!?優紀から誘って、西門さんはドン引きしなかったの!?」

「全然」

「そ、そっか・・・って、アレ?確か西門さん、優紀に『恋愛感情を抱く事はない』って言ったんだよね?」

「うん」

「それなのに、優紀と関係を持ったの!?西門さん」

「まぁ・・・男の人は恋愛感情なくても、女性を抱けるって言うしね」

「ななななんですってぇ~~!?」

「ちょっ、つくし!?髪が逆立ってるよ」

「エロ門のヤロウ、恋愛感情ないくせに優紀のハジメテを奪いやがって!女の敵め!エロ門ジュニアを剪定ばさみでチョン切ってやる!」

「何で剪定ばさみ!?って言うか、同意の元でエッチしてるからね!?」

「とんでもない色魔だなエロ門。これ以上の被害者を出さない為にも、やっぱりチョン切ってやらねば!欲望の赴くまま女性を抱くとは、何て恥知らずな男なんだ!」

「つくし、人の話を聞いてる?」

「・・・はっ!?ま、まさか・・・そんなエロ門とマブダチな美作さんも、恋愛感情ナシに女性とニャンニャン出来ちゃうって事!?そ、そうだよね。私と付き合う前って確か、夜な夜なエロ門とクラブ行って女漁りしてたっけ」

「あ、か、過去は過去だから。大事なのは今!心配しなくても今の美作さんは、つくしにゾッコンラヴだから。ね?」

「チューどころか手さえ繋ごうとしないのは、私とニャンニャンする気がないから!?女性としての魅力がないから・・・そうなのね~~!」

「多分違うよ。本当につくしの事が大好きで大事にしたいからこそ、臆病になってるんだと思う。簡単に手を出して嫌われたら元も子もないって思ってんじゃないかな」

「ささやかなオッパイに幼児並のウエストだから・・・そ、ソノ気にならないんだ・・・私じゃ勃たないんだ~~うっわ~~ん!」

「一人で暴走しないの!って言うか、恥ずかしい言葉をサラリと口にしないで・・・え?あ、コラ、どこ行くの!?つくしぃ~~!」



〈あとがき〉

ここで停滞したまま放置されていたので、蔵入り部屋に直行です。
あきつくなのに、あきら全く出てこないし(笑)



うまずたゆまず(あき→つく←総) 7

2020-09-19 08:19:40 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
「正直に言うと、認めるのが怖いんです」

「怖い?それは、牧野さんを好きだと素直に認める事が怖いという意味ですか?」

「はい」

認めてしまえばきっと、求めてしまう。
牧野つくしの心も身体も、そして人生までもを。
そうなるときっと、何もかもが欲しくなりワガママになる。
だから意図的に、自分の気持ちに目を背けているんだと、総二郎は自嘲気味に話した。

「俺にはゼロか100しかないんです。中間がない」

「ゼロか100?」

「はい。牧野を取れば西門を棄てる事になるし、西門を取れば、牧野を永遠に諦めなければならなくなる。両方得る事など無理だ」

「そうですね」

「茶道を取り巻く環境は大嫌いだけども、別に茶道が嫌いな訳じゃない。むしろ好きなんです。だから、踏ん切りがつかない」

「牧野さんを選ぶという事は、茶道から離れる事と同義ですから当然です。西門を名乗れなくなると同時に、茶道に一切関われなくなるでしょう」

御家騒動の芽となるものは、最初から摘み取らねばならない。

もし将来、総二郎とつくしが結婚し子供が出来たとして、その子供が西門流の跡目を継ぎたいと言い出したらどうなるか。
そんなものは火を見るより明らかだ。
当然の如く、西門流は揺れに揺れる。
だから西門宗家では、直系だろうが傍系だろうが、茶道と関わりのない人生を歩む場合は、絶対に茶道で生計を立ててはならないし、西門を名乗る事も許されない。
厳しい決まり事ではあるが、無用な争いを避ける為にも至極当然の事であった。


「総二郎さんのお気持ちは分かりました。確かに今の状況では、どちらか一方を選べというのは酷な話かもしれませんね」

「・・・」

「でもやはり、総二郎さんには行ってもらいたいのです。この演奏会に」

「・・・何故」

「?」

「何故、それ程までに牧野にこだわるんです?その理由をお聞かせ下さい」

まるで、つくしを我が子のように気にかける家元夫人の様子に、違和感しか覚えない。
一体、自分の知らないところで何があるのか、何があったのか、それを教えて欲しい。
そう訴えかけてくる総二郎に、家元夫人は軽く深呼吸してから事の真相を話し始めた。


「私には、幼き頃より将来を約束した方がおりました。親同士が決めた縁組みではありましたけど、私もあの方も慕い合っておりました」

「縁組みって・・・家元夫人には婚約者がいたって事ですか」

「そうです。あの方と一緒に過ごした時間は、それはそれは夢のように楽しく、幸せだった。このまま何事もなく、あの方の元へ嫁ぐものだとばかり思っていました。それなのに、ある日突然───」

当時の西門流大宗匠と当代が、何の前触れもなく突然家にやってきて、帯封のついた札束を山のように積み上げながら、一方的にこう言ったという。

「お宅のお嬢さんを西門流の家元夫人にしたい。だから、男とは縁を切ってくれ。この金は手切れ金として、男に渡して欲しい・・・と」

「ジィさんとオヤジが!?」

「ええ」

当時、総二郎の父親である家元は妻を病で亡くしたばかり。
喪中どころか忌中の最中(さなか)、縁談を持ちかけてくるなど常識では考えられなかった。

「まだ幼い祥一郎さんに母親が必要だと言う事は分かります。ですが、忌中にその様な話をするなど言語道断。先妻さんに失礼だし、そもそもが非常識です」

「それで?」

「当家が貧しているからといって、馬鹿にしないでもらいたい。お金でものを言わせるつもりですか!?娘はもうすぐ、許婚と結婚します。娘の幸せの邪魔をしないで下さい・・・と、毅然とした態度で父が断ってくれました」

家元夫人の実家は、歴史を遡(さかのぼ)れば国母を何人も出した名家である。
しかし、明治維新により環境は激変。
当時の当主が、甘い言葉で近付いてきた得体の知れぬ人間に騙され、馴れない事業に手を出し失敗。財産は底をついた。

「代々の屋敷もその時、売り払われたそうです。ですから、零落した実家に残っているのは、歴史ある家系図と平安期に帝より下賜された龍笛のみ」

「屋敷が売り払われた?えっ、いや、しかし、オフクロ・・・家元夫人の実家は、敷地も広くて建物も立派ですよね」

「あれは、西門流の先代が用意した屋敷であって、代々受け継がれてきた屋敷ではありません」

「ジィさんが用意した!?」

「あんな家、私にとっては監獄も同然」

拳を握りしめ、眼光鋭く宙を睨んだ家元夫人は、その当時を思い出したのか、静かな怒りを露にした。

「西門に嫁がなければ、婚約者やその家族はもちろんの事、実の親や弟の安全は保証できない。大事な人たちが不幸になってもいいのか・・・そう脅されたら、従わざるを得ないでしょう!?ですから私は、泣く泣く西門に嫁いだのです」

「・・・」

「ですが、先代は兎も角、家元はそれだけでは満足しませんでした」

「と、言うと?」

「私の婚約者に女性をあてがい、強引に結婚させました。結婚に同意しなければ、私の身の安全は保証出来ないと脅して。おまけに、陰で私達が接触しないよう、四六時中見張りまでつけて」

西門に目をつけられた時から、私の人生は狂い始めた。
まるで、奈落の底に突き落とされたかのよう。
深くて暗い、先の見えない底。
もがいてももがいても、脱け出す事が出来ない。
そう話す家元夫人の瞳はわずかに揺れ、濡れていた。

「あの方が若くに亡くなられ、私の心は死にました。生きていく糧を失ったのです。ですが・・・」

「・・・」

「あの方には娘さんがいる。それを知った時、一筋の光が射し込みました」

「一筋の光?」

「私の血を引く総二郎さんと、あの方の血を引く忘れ形見の娘さんとの結婚です」

「娘?」

「家元が目を光らせていたので大っぴらに動けませんでしたが、私にもそれなりに伝手はあります。ですから、あの方に関する情報は得ていました」

元婚約者が亡くなった事だけは家元から知らされたが、それ以外の情報は与えられなかった。
だから家元夫人は、家元に悟られる事のないよう慎重に動き、最低限の情報を得ていたのだ。

「端的に申し上げます。あの方の娘さんは、牧野つくしさんです。牧野さんの存在を知り得たと同時に、その事実を知りました」

「なっ!?」

「ですが、どの様な経緯で『牧野つくし』となったのかまでは分かりませんでした」

「はっ?それはどういう・・・」

「牧野さんの本当の名前は『清辻篤子』さんと言うのですよ」

「きよつじあつこ?・・・では、牧野とあの家族は赤の他人だと?」

「ええ。清辻家の娘を利用する為に、あの方に近付いたんでしょうね。その辺りの経緯は私には分かりませんし、家元も把握していないと思います」

ですが、何らかの方法で牧野つくしさんが清辻家の娘だと知ってしまった。
だから家元は、牧野さんに関する情報を私の耳に届かないようにしていたんだと思います。
清辻の血を西門に入れようと、私が画策しない様に。

そこで言葉を一旦切った家元夫人は、ふうっと一息吐いてから言葉を続けた。

「この琵琶奏者が牧野つくしさんだという事に、家元は気付いておりません。牧野さんが亡くなったと聞いて、安心しきっているのでしょう。彼女の今の名前は、清辻でも牧野でもありませんしね」

「では何故、家元夫人はこの琵琶奏者が牧野だと知ったんです?」

「牧野さんが師事する琵琶奏者の演奏会に行った時に・・・ね」

そう話しながら軽く首を振った家元夫人は、自分をじっと見つめる息子の総二郎に再度、平家琵琶の演奏会チケットを差し出した。


〈あとがき〉

どんどん収拾がつかなくなってきてる・・・。
ここからどう三角関係に発展していくのか。
想像以上に、総ちゃんのターンが増えてしまった。


うまずたゆまず(あき→つく←総) 6

2020-09-03 19:18:53 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
「今日も収穫ゼロ・・・か」

溜息混じりにそんな言葉を呟いた男は、軽く頭を横に振ってからパソコンの電源を落とすと、落胆した表情を浮かべながらソファに横たわった。

牧野つくしが死亡した。
当時、そんな報告を受けたのたが、にわかには信じられなかった。
いや、厳密に言えば、未だに信じてはいない。
何故なら、己の目で亡骸を確かめた訳ではないからだ。


「あれから10年も経つのか。ま、何年何十年経とうが、俺は信じやしねぇけどな」

左目を失明し、見舞金を持ち逃げして失踪した家族に絶望し、将来を悲観して自ら命を絶った。
つくしを荼毘に付した美作夫妻からそう聞かされても、にわかには信じられなかった。

赤札による壮絶なイジメを受けても、それを跳ね返して闘い抜くような女だ。
そんな女が、自らの命を絶つとは到底思えなかった。
だから咄嗟に、美作夫妻が何かを隠し、嘘を吐いているのだと総二郎は考えたのだ。


「戸籍上、牧野は死亡した事になってる。だが、そんなモンはどうとでも改竄(かいざん)出来るしな」

日本でも海外でも、指折りの大企業として名を馳せる美作商事の社長なら、戸籍をいじるくらいの事は簡単にやってのけるだろう。
それが出来る程の力と人脈が、美作商事の社長にはある。


「あきらの父ちゃんは何で、そこまでして牧野の存在を徹底して消したんだ?」

赤札による執拗なイジメからつくしを守る為か、それとも他に理由があるのか。
他に理由があるなら、それは何なのか。
総二郎には分からない事だらけだ。


「分からないと言えば、どうして俺はこんなに必死になって、牧野の行方を探してるんだろうな」

意固地なだけなのか、強情なだけなのか、単なる興味本位なだけなのか。
しかし、それらの感情だけで10年もつくしの行方に執心するほど、総二郎もヒマではない。
まだ若宗匠を名乗っていないとはいえ、それに見合った仕事が沢山舞い込んでくるのだ。
なので、つくしの行方を追う事ばかりに時間を割いてはいられない。


「ホント、何でこんなに牧野が気になるんだろうな」

つくしに対する感情が何なのか、分かりそうで分からない、分かっているけど分かりたくない。
それが総二郎の本音だ。

気付いてしまえばきっと、後戻りは出来ないから。
今歩いている道を、はみ出さねばならなくなるから。
自分を抑える事が出来なくなるから。
だから敢えて目をそらし、直視しない様にしている。
例えそれが、逃げてるだけだとしても・・・だ。

そんな事をソファに横たわりながら、つらつら考えていた総二郎の耳に、この部屋を訪うノックの音が届いた。


「誰だ?」

「私です。今、宜しいかしら」

「えっ!?あ、はい」

予想だにしなかった家元夫人である母親の声に、総二郎は面喰らいながらもソファから身を起こし、部屋の扉を開けた。

「何かありましたか?」

「・・・中に入れてもらえるかしら」

「はっ?」

「お話があります」

常にない空気を身にまとい、有無を言わさぬ圧をかけてくる家元夫人に、総二郎は何か込み入った話があるんだなと察しをつけ、素直に中に入れた。

「お休みになるところだったかしら?」

「あ、いや、まあ・・・はい」

「それは申し訳ない事をしました。でしたら、前置きはなしにして本題に入りましょう」

そう言いながらソファに座した家元夫人は、怪訝そうに自分を見やる総二郎を一瞥すると、懐から何やら紙切れを取り出し、それをローテーブルの上に置いた。

「それは?」

「平家琵琶の演奏会のチケットです。この演奏会、私と一緒に行って頂きます」

「・・・はっ?」

「そして、総二郎さんの目で確認してほしいのです」

「確認?・・・って、何をですか」

「琵琶奏者が、牧野つくしさんであるかどうかを」

「っ!!?」

予期せぬ人物の口から出た名前に、総二郎は思わず狼狽した。

今まで一度たりとも牧野つくしに対し、関心も興味も示さなかった家元夫人だ。
その家元夫人が何故、今頃になってつくしの名を口にしたのか、総二郎には理解出来なかった。

「何を仰ってるのか私には分かりません」

「総二郎さん?」

「牧野は10年前に死んだはず」

「表向きはそうです」

「表向きは・・・ね」

どういう意図があって、つくしの名を出したのか。
どうして家元夫人は、つくしにこだわるのか。
それには何か深い意味があるのか。
返答如何(いかん)では、賽(さい)の目が大きく変わる。
ここは慎重に受け答えしないとなと気を引き締め直した総二郎は、心の動揺を見せないよう家元夫人に接した。

「世の中には、自分によく似た人物が三人いると言います。恐らくその琵琶奏者も、そのうちの一人なのではないですか?」

「ですからそれを、総二郎さんに確認してもらいたいのです」

「何故?」

もし、その琵琶奏者が牧野つくしだったらどうするつもりか。
そこまでつくしに執着するのは何故か。
家元夫人の腹積もりが分からぬだけに、下手な事は言えない。
そんな総二郎の心境に気付いた家元夫人は、ふっと表情を和らげながら口を開いた。

「時間の無駄ですから、腹を割って話しましょう。牧野さんに関する情報は、家元によって全て握り潰されておりました。ですから、牧野さんが左目を失明し入院していた事も、家元が入院先にお邪魔して暴言を吐いたであろう事も、私は全く知りませんでした」

「・・・本当ですか?」

「ええ。それどころか、牧野さんが英徳学園に在籍していた事すらも知りませんでした。私の耳に牧野さんの情報が入らない様、家元が裏で手を回していたのです」

「家元が?」

あの父親なら遣りそうだなと思う一方、何で神経質なまでに、つくしの情報を家元夫人の耳に入らないようしていたのか、それが総二郎には分からなかった。

「どうして家元は、そこまで徹底的に牧野の情報を握り潰していたんですか?私にはそこのところが分かりません」

「・・・それを話す前に一つ、総二郎さんに窺(うかが)いたい事があります」

「何でしょう?」

「牧野さんに対して、恋心を抱いておりますか?」

「・・・はぁ!?」

「もし、少なからず牧野さんを想われてらっしゃるのなら、総二郎さんに協力します」

「・・・」

「ですが、これといって特別な感情がないと言うのなら、この話は忘れなさい。演奏会には私一人で伺います」

「何で急にそんな事・・・」

「総二郎さんがずっと、牧野さんの行方を追っていると知ったからです」

そう言いながら、まるで真意を探るかのように、家元夫人は総二郎の表情に注視した。
それは総二郎も同様で、家元夫人の狙いがどこにあるのか、それを探るべく凝視した。

「私が牧野の行方を追っている事を知ったという事は、家元夫人も牧野の行方を追っていたと解釈しても宜しいので!?」

「そうです」

「家元夫人が牧野の行方を追っていたのは、徹底的に西門から排除する為なのでは?」

「西門と言っても総二郎さんからではなく、西門流から遠ざける為かしらね」

西門流は、魔窟と言っても過言ではありません。
権謀術数が渦巻く、汚い世界です。
そんな世界に、牧野さんを巻き込みたくない。
そもそも、私が牧野さんに害意を加える訳ないでしょう。
そう続けて言葉を放った家元夫人は、軽く頭を左右に振りながら総二郎の考えを否定した。

「これだけは言っておきます。私と家元は一生涯、相容れない関係です。子である総二郎さんには酷な話でしょうが・・・」

「いえ、お二人の仲が良くないのは分かっております。お気遣いは無用です」

「そう・・・ごめんなさいね、総二郎さん。子供である貴方にそんな事を言わせてしまって」

「いえ、構いません。で?」

「ですから、私と家元の考えが同じではないと知ってほしいのです」

「・・・」

今までのやり取りでただ一つだけ分かるのは、家元夫人はつくしに対して悪い感情は抱いていないという事だ。
いや、悪い感情というよりはむしろ、愛情に近いものを抱いている。
それだけはハッキリしていた。
だから総二郎も、正直な気持ちを家元夫人に吐露しようと覚悟を決めた。


〈あとがき〉

書けば書くほど、泥沼化になっていく。
当初と違ってきているぞ!?話の展開が。
重たい流れになっちゃったなぁ。
長篇になりそうな予感・・・。



父さん頑張れ 11

2020-09-01 20:29:45 | 父さん頑張れ(総つく)
「おとーさん、きょうだよね?おかーさんがかえってくるの」

「ああ。一緒にお母さんを迎えに行こうな」

「うん!」

「だから、学校帰りに寄り道するんじゃないぞ!?真っ直ぐ帰って来いよ」

「わかってるよ。じゃ、いってきます!」

「行ってらっしゃい。気をつけてな」

ランドセルを背負い、元気いっぱいに手を振りながら登校する息子を、総二郎は微笑を浮かべながら見送った。

息子である修平が口にした「おかーさんがかえってくる」というのは言葉通り、母親であるつくしが帰ってくるという意味である。
但しそれは、旅行先から帰ってくるという意味ではなく、病院から帰ってくる事を示唆したものだ。

実は修平の夏休み期間中に、延ばし延ばしにしていた心臓の手術をつくしは受けている。
体力、気力、抵抗力のあるうちに手術をした方が延命率も高い。
本来あるべきカタチに収まり、修平の先行きも金銭的な面でも不安はなくなった。
だから、手術するなら今のタイミングだろう。
そう判断した総二郎により、つくしは手術に踏み切ったのだ。

それともう一つ、つくしが手術に踏み切った要因がある。
それは───


「修平、もう行っちゃったんだ。行ってらっしゃいって言って、送り出したかったのに」

「・・・何でココにいる?」

「何でって決まってんじゃん。退院する牧野を迎えに行くからだよ」

「仕事はどうしたよ!?アイツを迎えに行くヒマがあるとは思えねぇけど」

「牧野が心配で、仕事なんて手につく訳ないだろ!?」

「胸を張って堂々と言うな!お前ソレ、手術する前日にも言ってたよな。で、手術当日と翌日、正味三日間も仕事そっちのけで病院に顔出してたっけ!?」

「そんなの当然だろ」

「・・・おい。そんなんで、花沢物産は大丈夫なのかよ!?」

「肝心なところだけ押さえてれば、後はどうとでもなる。別に俺がいなくても、大概の仕事は回るし。最終的な判断や指示は俺がして、何か問題があれば頭下げて謝ればいい。だから俺は、デンと構えてればいいだけ」

「色々と大変だな・・・お前の秘書や部下が」

息子を送り出した時とは一変し、渋い表情をのぞかせた総二郎は、飄々とした様子で自分の隣に立つ花沢物産の御曹司を一瞥(いちべつ)した。

「なに?」

「・・・家に上がって茶でも飲んでくか?」

「当然、そのつもりだけど!?」

「ですよね」

軽い溜息を吐き、思わずこめかみに手を当てた総二郎は、つくしのソウルメイトである類を我が家へと誘(いざな)った。

総二郎とつくしの結婚、そして、修平を含めた牧野家の新たなる門出を祝う名目で、仲間達がそれぞれのカタチで三人を祝う事となり、その中で類が、牧野家に新居をプレゼントする運びとなった。
だが、祝いの品の桁が違いすぎ当然の如く、つくしは固辞したのだが、

「コイツらの好意を素直に受け取ろうぜ。もらって邪魔になる訳でもなし。それに、コイツらの性格上、受け取ってもらえるまでしつこく付きまとってくるぞ?嫌だろ?そんなの」

そう総二郎に説得され、それならばと、有り難く受け取る事にしたのだ。

そしていざ、家を探そうと動き始めた時、修平の親友である健太郎の父親の転勤が決まり、海外へ引っ越す事が判明した。
となると、無理して今住んでいる地域に固執する必要はなく、家探しは振り出しに戻った。

そもそも、この地域にこだわっていたのは修平の為であり、その修平の親友である健太郎一家が海外に引っ越すとなれば話は別だ。
修平の存在が知れ渡らない様、人付き合いを最小限にし、ひっそりと暮らしてきたつくしにとって、今住んでいる地域にそれほどの執着はない。
だから、新たなる土地で新たなる生活を始めようと決意したのだった。
そしてその際、

「引っ越しするにも時間が少しかかる。だからその間に、手術受ければいいんじゃね?」

「えっ?」

「修平の事は心配するな。父親である俺がちゃんと面倒みるから。お前は自分の体を治す事だけに集中しろ」

「でも・・・」

「お前が退院する前までに、引っ越しは終わらせとくよ。俺や修平の為にもそうしてくれ。頼む」

総二郎からそう懇願され、つくしはそれに従った。
とは言え実際のところ、何もかもを任せるのに多少の不安はあったのだが、そんなつくしの不安を他所に、総二郎は手際よく事を進めていった。

新学期が始まる前に修平の転校手続きを済ませ、一足先にご近所への挨拶回りをし、転入転出届も役場に提出してくれた。
面倒な水道、電気、ガスの手続きも全てやってくれた。
そんな総二郎の働きを友人から伝え聞いたつくしは、改めて伴侶に惚れ直したのだが、残念ながら当の本人は知る由もない。
そして、意地っ張りで照れ屋なつくしが素直に気持ちを伝えるはずもなく、今に至る。


「牧野の退院を祝いに、あきらと司も来るってさ」

「はぁ!?」

「牧野、喜んでくれるかな」

「喜んでくれるかなって・・・あのな、退院手続きにお前ら三人がついてきたら、周りに邪魔だし迷惑だろーが」

「病院に行くのは俺と修平と総二郎だけだから」

「はっ?」

「あきらと司は、そんなに早く来れないよ」

「何でそう言い切れる!?」

「だって、どんなに早くても夕方以降にしか来れないよう、あの二人に仕事を振ったから。今頃、ヒィヒィ言いながら早出して仕事してるんじゃない?」

「類・・・お前、鬼だな」

司に家を担当させると、自分の部屋を勝手に作って入り浸る。
そうなると面倒くさいだろ?
だからそれを阻止する為に、家は俺が担当したんだとか言ってたくせに、ちゃっかり自分が専用部屋を作って隙あらば来ようとするし、つくしや修平に会いたいが為に、面倒な仕事をあきらや司に回してサボって来ようとするし、総二郎にとって類は頭痛の種だ。

「おい。まさかとは思うが、泊まってく気じゃないだろうな!?」

「泊まる気だけど何か?」

「退院したばかりで、体力も回復してないアイツに世話させるつもりか!?お前には気遣いってものはないのかよ」

「牧野に世話させる訳ないだろ。当然、総二郎が俺達をもてなすんだよ」

「・・・はっ?」

「退院したばかりの牧野に俺達の世話をさせるつもりだったの!?えっ、牧野をこき使うつもりだったのか!?総二郎、鬼畜だな」

いやいや、鬼畜はお前の方だろ。
呼んでも招いてもないのに、退院当日に勝手に泊まり掛けで来やがるし、おまけに猛獣・・・司やあきらに仕事押しつけてやがるし。
周りの迷惑考えず、自分勝手な行動をするな。
ちぃ~とばかし、空気を読め。
あの司ですら、周りの空気を読むようになったぞ!?
お前は司以上にワガママで俺様だな。

と、口にすれば何十倍もの仕返しがくる事を知っている総二郎は、何度目かの溜息を吐きながらワガママ御曹司の類に茶をふるまった。