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ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

父さん頑張れ 3

2020-05-22 18:32:42 | 父さん頑張れ(総つく)
「つくしちゃんと、つくしちゃんの子供を守る為よ」

思いもかけぬ言葉を耳にし、総二郎の思考回路は停止した。
さもあらん。
予想の斜め上をいく返事が返ってきたのだから。
つくしの身の上だけではなく、その子供の身の上まで案じ、守っていたと言われたのだから。
その衝撃の事実に驚愕したのは、何も総二郎に限った事ではない。
隣に座るあきらも同様に、目を大きく見開き固まっている。
そんな総二郎とあきらに、

「つくしちゃんと、つくしちゃんの子供を守る為、情報を撹乱させたわ」

言い含めるかの様に、夢子は静かな口調で告げた。
そんな夢子の言葉を耳にし、冷静さを取り戻したのはあきらである。
当事者ではない分、頭の切り替えも早かった。

「牧野に子供がいるって事は、結婚してんのか?」

「牧野さんが結婚してるなら、私達が情報を操作する必要はないだろ?」

「・・・」

「・・・」

「・・・親父、子供の年齢は?」

「7歳だよ」

「・・・なるほどな」

「分かったかい?あきら」

「ああ」

思わず天井を見上げたあきらは、軽く息を吐きながら頭の中を整理した。

もし、つくしが結婚して子供もいるとなれば、父親が言う様に情報を隠す必要はない。
むしろ、結婚していると公表した方が、つくしの身の安全をはかる為にも都合が良いだろう。
何故なら、つくしが人妻で子持ちだと知れば、F4はそれ以上深追いしないはずだから。
そんな境遇の女を追いかけ回したらどうなるか、それが分からぬF4ではないから。
だから、公表した方が都合がいい。

社会に出て、後継者としての道のりを順調に歩いている最中(さなか)だからこそ、慎重に行動せねば足許を掬(すく)われる。
信頼を失う怖さ、信頼を取り戻す難しさ。
自分が背負っているものの大きさを理解しているからこそ、天秤にかける。
女か地位か。
欲望か権威か。
そして結果的に、自分の置かれた立場に比重を置く。

「其々の親は、俺達がどっちに比重を置くか見抜いてるって訳か。だから、結婚してるなら公表した方が、全て丸く収まる・・・だろ?」

「そうだね。実際、一人の女性にかまける程、暇があるとは思えないが。違うかね?あきら」

「それは確かに言えてる。大勢の社員やその家族の生活がかかってるからな、俺達の肩には。下手な事をして、社の信用を失墜させる真似は出来ねぇよ」

「随分と成長したな。学生時代のあきらに聞かせてやりたいよ」

「親父!?」

学生時代にしていた人妻との火遊びを指摘したのだろう。
その事に気付いたあきらは、気まずさもあってか大袈裟に咳払いをした。
すると、その咳払いが合図となったのか、総二郎の思考回路が徐々に動き始めた。

「・・・牧野に子供がいる・・・その子供は7歳・・・7年前に姿を消した」

「総二郎?」

「・・・結婚はしていない・・・シングルマザー・・・だから情報が漏れない様に気を配った」

「総二郎、どうした!?」

隣でぶつぶつ独り言を呟く総二郎を訝(いぶか)しむあきらだったが、当の本人はそんな事に気付いてはいない。
独り言を呟きながら、頭の中を整理している様だ。
つくしが失踪した年月と子供の年齢、そして神経質なまでに周囲に気を配った美作夫妻の行動。
それらを全て繋ぎ合わせると、おのずと答えは導きだされる。
つまりは───

「・・・俺の血をひいた子ですね?」

「・・・」

「しかも男の子。跡目相続に巻き込まれない様に、余計に神経を遣った。違いますか?」

「その通りだよ、総二郎君」

自分の推察を肇に肯定された総二郎の全身に、得も言われぬ感情が駆け巡った。
つくしが無事で、自分以外の男と結婚していなかった事に対する安堵、自分の血をひいた子を産んでくれた事に対する喜び、女手一つで子供を育ててくれた感謝と、それに対する罪悪感。
色々な感情が吹き荒れ、自身をどうコントロールしていいのか分からない。
そんな様相をのぞかせる総二郎に、夢子は鋭い視線を向けると共に、厳しい言葉を発した。


「あまりにも無責任すぎるわ。総二郎君もつくしちゃんも」

「・・・はっ?」

「100%の避妊なんてないの。妊娠する可能性だってあるの」

「・・・」

「実際、つくしちゃんは妊娠したじゃない。妊娠したら子供はどうするのか、どうやって生きていくのか。そういう諸々の事は何も考えてなかったの?二人は考えもなしに、ただ快楽を得る為に安易に体の関係を結んだの!?」

「オフクロ、それ以上は───」

「あきら君だって同じです!もし人妻を妊娠させたら、どう責任をとるつもりだったの。パパに泣きついてお金で解決するつもりだった!?美作商事の看板に傷をつけ、自分のエゴの為に新しい命を奪って、のうのうと生きていくつもりだったの!?」

「それは・・・」

「子供が可哀想よ。親を選べない子供が可哀想。無責任な親のせいで───」

「ママ、もうよしなさい」

「だって!」

「ママの言いたい事は、あきらにも総二郎君にも伝わったはずだよ。これ以上はよしなさい。ママが傷付くだけだ」

そう言いながら、今にも泣き出しそうな夢子の手を、肇は優しく握った。
労(いたわ)るかのように、包み込むかのように。
そんな二人の姿を目にし、あきらと総二郎は黙って頭(こうべ)を垂れた。

「男として分からなくもないが、軽率である事に変わりはない。それを努々(ゆめゆめ)、忘れなきように。分かったね?」

「「・・・はい」」

「では、話を先に進めよう」

「話を先に進めるって?」

「私達が何の考えもなしに、急に牧野さんの話をしたとでも思うのか?あきら」

「・・・つまり、のっぴきならない事情が発生したって事だな?親父」

「そうだ。今日明日といった急な話ではないが、のんびりともしていられない事情が出てきた」

ここで一旦言葉を区切った肇は、目を潤ませ涙を堪える夢子の手を握り直すと、意を決してこう言い放った。

「牧野さんは心臓病を患っているそうだ。医者から手術を薦められたらしい」

「「手術!?」」

「手術を受けないと、数年しか生きられないらしい。手術を受けて成功したとしても、天寿を全うするのは難しいと宣告されたそうだ」

総二郎の思考回路は、再び停止した。






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