外まわりの仕事に出ず座っていると余計に眠気が襲ってくる
昼までの間、部屋の中には課長と主任と私だけ
居眠りするわけにはいかない・・・けれど眠くて仕方がない
眠気覚ましにブラックコーヒーをがぶ飲みするとなんだか胃が痛くなってきた
“ああ・・・サイアクや・・・”小さくひとり言を言いながら必死で午前中を過ごし
お昼に戻ってきたアサコ先輩に声をかけた
私はとにかくアサコ先輩に聞いてもらいたくて近場の店へ連れ出した
近所の定食屋さん・・・
ここは、多少大きな声で話しても自分たちの話など聞く人もいないほどにぎわっている
お昼のTV番組に大笑いするか、スポーツ新聞に没頭するかどちらかのオジサマが来るような店で
味は太鼓判だが、女子一人では入りにくい雰囲気だ
アサコ先輩は黙って私の話を聞き終わると“ううううん・・・”と腕組みをして難しい顔で考え込んだ
私もしばらく黙っていると 「で? 絵里ちゃんはどうするつもりなの?」
「あの・・・どうしたらいいのかわからなくて・・・アサコ先輩ならどうするのかな?と思いまして」
「あ~そうか・・・私だったら・・・・そうね、私ならそっとしておくわ
とにかく今、何を言ってもどうしようもないでしょう~?
話を聞いてあげて彼が楽になるなら聞いてあげればいいけれど
突然失ったものを取り戻すことは出来ないわ
もちろんまだ心の中は整理できないでしょうし・・・ね
しばらくそっとしておくしかないんじゃないかしら? ごめん・・・
さすがに、私もこんな経験したことないから
はっきり言ってどうしたらいいかわからないわ・・・」
先輩でもお手上げなんだな・・・私は、「すみませんへんなこと相談して」
とだけ言って食べ残しの魚を突っついた
その日は、さすがに自分がひどい顔をしていることや2泊もするのは躊躇われ帰ることにした

そのまま、しばらくの間 啓太のところへ行く事が出来ない程多忙な日々が続いた
週末には総一郎から誘いの電話が入り、京都で会った日以来久々のデートとなった
私の態度に何かを感じたのか総一郎が何気なく
「絵里ちゃん・・・・?最近なにかあった?気のせいか元気がないようだけど・・・」
鋭い質問だった 私は話そうかどうしようか迷った
結局あの日啓太の横にいたことは確かだが、肌を重ねたわけではなかった
啓太は泣いて話すだけで、私を求めてはこなかった・・・
別に悪いことをしたわけではないので、正直に話すことにした
「総一郎さん・・・実は先日啓太に会いました」
「えっ? どうして? 偶然会ったの?」
「いいえ・・・会いに行きました」
「・・・・? 何か理由があるね?」
「はい・・・実は、啓太の親友が亡くなったんです。先日の飛行機の事故で・・・」
「え・・それ、本当? で、啓太はどうしてた?」
「はい、すごく落ち込んでいて 食事もほとんどしていないようで痩せていて
そのなくなった彼って、妹の真理子ちゃんの彼氏だった人で・・・
私、真理子ちゃんには会ってないんですけど
きっと真理子ちゃんの落ち込みはそれ以上かと・・・・」
「そうか・・・それは、そのなんと言っていいのか、大変だったんだね啓太も」
私の心は複雑な思いでいっぱいだった。 総一郎はどう思っただろう?
いい気はしないだろうが、かといって 頭ごなしにとやかく言うような人ではない
「啓太は絵里子ちゃんが来てくれてきっと嬉しかっただろうな ちょっと妬くけどそんな理由じゃ仕方ないね
何が、今日の絵里ちゃんの顔を暗くさせているのかがわからなかったんだが
そう言うことなら・・・うん、わかったよ とにかく今夜は美味しいものを食べよう
今はオレとの時間を楽しんでほしい オレもさ・・・なんて言うか、
絵里ちゃんの前では大人のふりしているけど決して心の中は穏やかではないんだぜ、
いつまでも悲しい顔をされてちゃ なんだか辛いよ」
やっぱりこの人は大人だ・・・自分に無理をしてでもこんな風に接してくれる正直な人だ

私は、啓太の事はしばらくそっとしておこう
近いうち会いに行ったら、目の前のこの人を裏切ってしまうかもしれない
今の私には 正直自信がなかった、もし啓太に求められたら・・・・
雰囲気にまかせて肌を重ねてしまうに違いない、
あの日そうなってもいいと思った悪い私がいたのだから・・・