月曜日・・・
長い休暇のせいで、はっきり言って私は仕事に身が入らなかった
アサコ先輩に「こら! 野村! しっかりしなさいよ」 と小さく活を入れられ
「あっ!! はいっ!!もうお昼ですか?」 とアホな返事をしてしまった
アサコ先輩は呆れた顔で笑いながら「ちょっと~仕事もしないでお昼って・・・・
野村ぁ~ちょっと出るわよ! 外っ! ほらほらぁ~~!!」
お尻を軽くポンッと叩かれ、私は「あああ・・・すいません すいませーーん置いていかないで~~っ」
と、情けない声でアサコ先輩の後ろを追いかけた
“はぁ~しっかりせな! まだ仕事頑張りたいって思ってたんやから!!” と自分に活を入れ
気合を入れなおしてエレベーターを降りた
お客さん周りを済ませた後、少し遅めのランチを食べるため店を探していた時
以前見かけたような撮影隊に再び遭遇した
アサコ先輩は、「ねぇねぇ~ちょっとぉ この間のかっこいいモデルくん またいるんじゃない??」
と、期待を持った声でたずねてくる
私も“もしかしたら本当にいるかもしれない・・・久しぶりだな~亮介くん元気かな~?”
なんて、まだその時何も知らなかった私は 撮影隊の中にいるかもしれない亮介の姿を探したのだった

隅っこの方にいた女性に小声で声をかけた
「あのぉすいません・・・雑誌の撮影ですか?
もしかして、杉山亮介くんってモデルさんいらっしゃいませんか?」
尋ねられた女性は、一瞬とても驚いた表情をしてその後すぐ怪訝そうな顔になり
「あの・・亮くんの知り合いの方ですか?」と聞いて来た
私は咄嗟に「あ、はい・・・弟のお友達なんですよ」 と嘘をついた
女性の顔が急激に暗くなり「あの・・・ご存じないのですか?」と、訳のわからない質問をぶつけてきた
私は何のことやらわからず 「あ、ごめんなさい 今日はいらっしゃらないのですね?
お仕事中お邪魔してごめんなさい」 と、丁寧に頭を下げた
それを見ていた別の女性が「こんなこと言っていいのかわかりませんが、杉山は、その・・・
先日の飛行機の事故で・・・・・・・・」
私は愕然とした
その女性の話によるとお盆の前に起きた飛行機事故の犠牲者の一人として
杉山くんが亡くなったというのだ
私は信じられず、とにかくその場で頭だけ下げて
アサコ先輩に手を引っ張られながら、かろうじて会社まで戻ったのだった。
アサコ先輩も呆然としていて「まさか・・・?うそでしょう?」と私の背中をさすりながら
「絵里ちゃんきっと何かの間違いよ、彼に・・・前の彼に確認取ってみなさいよ」と震えていた
私は、“は・・そうですね・・・” と言いながらも 体中の震えがおさまらなかった
すぐにでもマスターのお店へ行きたい気持ちを抑えて
午後の仕事をこなし、定時きっかりに退社させてもらった
その後は、自分でもびっくりするほどの勢いで動いたような気がする・・・・
慌てて横浜へ向かう電車に飛び乗り、マスターの店へと必死で坂を上った
店はクローズの看板が掛かっていて、仕方がないので啓太の家へと向かった
「啓太は・・・? 真理子ちゃんは?? そうだ・・・真理子ちゃんはどうしているんだろう?」
亮介くんの彼女である啓太の妹の真理子ちゃんのことがすごく気になった
啓太の家に着くと私は深呼吸をしてインターホンを鳴らした
メイドのハルさんが出て来て “お久しぶりですね”と挨拶してくれたが
私がちょっと興奮気味に 「あのっ! 啓太くんは? 真理子ちゃんは??」 と尋ねたので
事情を察してやって来たのだとわかったようで “ささ・・・こちらです。坊ちゃんは自室で
真理子さまは、まだ神戸にいらっしゃいます。」 と、教えてくれた
コンコン・・・啓太の部屋をノックしたが返事がない
「啓太・・・? 私・・・絵里子です」
しばらくして啓太がドアを開けてくれた 啓太の顔はげっそりと痩せこけていて
目は虚ろ・・・・今までに見たこともないような表情をしていた。