京都の夏は暑い
新幹線を降りるとねっとりと身体に絡みつくような熱気が襲ってきた
「あ~ぁ やっぱり暑いなぁ 何でこんなに蒸し暑いねんやろぉ~」
そう言った私を見て総一郎は笑いながら「絵里ちゃん、関西弁もいいね」 と言った
えっ? と思ったが、よくよく考えると総一郎の前で関西弁はほとんど使っていなかった
新幹線のホームから見えたタワーにほっとしたように私の言葉が自然に出ていたのだろう
「さてと・・・どうする? とりあえずチェックインだけ済ませるよ
その後ご飯に行こうね 絵里ちゃんのお勧めのお店ある?」
私は頭の中でいろいろなお店を思い浮かべてみたが、思い浮かばなかった
こちらでご飯といえば、家か姉の嫁いだ竹田さんのお店か
いずれにしても家がらみの馴染みの店しか知らず
総一郎を連れて行ったとなればすぐに実家にばれてしまう
その他はほとんどといっていい程 こちらのお店のことは知らなかった
しゃれた店など知るはずもなく“どないしよう~まだ時間も早いですよね~”と思案していると
「じゃぁさ、せっかく京都に来たんだからフレンチやイタリアンなんかじゃなくて
和食のお店に行こうよ どこか知らない?」 総一郎はにやにやしながら意地悪な事を言う
私は総一郎を きっと睨んで
「総一郎さんって、いけずやわぁ・・・私があんまし お店知らん思うて
実家へ連れて行かなアカンように仕向けてはるんでしょう?実家は行きませんよ!」
と膨れ顔で言うと、あはは と笑って “ごめんごめんそう言うつもりじゃなかったんだよ”
と、どこまで本気なのかわからない顔をして言うのだった。

「とりあえず荷物をホテルまで運ぼうかな 絵里ちゃんは一度実家に顔を出す?
それとも今夜は・・・・」
私は、今夜は実家へは行かずに総一郎とゆっくり過ごしたいと思っていたので
「総一郎さんの泊まるホテル一緒に行きたい」 とつぶやいた
鴨川を見降ろせる老舗のホテルにチェックインし
“本当はお店で渡そうと思ったけれど、ここでもいいよね? お誕生日おめでとう”
と言って、総一郎は真っ赤なBOXに入った三連のリングをくれた
サイズがわからなかったというリングは左手の中指にしっくりと収まった
“ここは、まだしばらくあけておきます” と薬指を押さえて笑うと
“その指もオレからのプレゼントをしてほしいな” とにっこり笑って抱きしめられた
そのままベッドでの甘い時間に突入しそうだったけれど
“絵里ちゃん、せっかくの京都だからゆっくり散策しよう お腹も満たしたいし”
総一郎のひと言で外へ出ることになり川のほとりを歩いた。
少し歩くと賑やかな繁華街があるのはよく知っていた
その辺りで適当なお店がいくつかあるはずだと思ったので、さして気にもせずゆっくりと散歩を楽しんだ
河原ではどこかの大学の学生たちが大騒ぎしていたり カップルが並んで座ったり
この風景は今も昔も変わらないな~としみじみ思いながら歩いた
総一郎が「あれ! あれが有名な床だよね? あの中のどこかへ行かないか?」
興味津々で嬉しそうに床を指さして総一郎が言ったので 私は内心
”あんなんたいして美味しくないし、高いばっかりで蚊にも刺されるし・・・” などと思ったが
たまにはこういうのもいいだろうと思い 「ほな、あのお店に行きましょう」 と
ひとつ目ぼしい店を思い出し案内することにした
その店は兄の友達のお父さんのお店だったので、直接店の人にばれることもなく
かといって訳のわからない知らない店でもなかったので
お味の方は、安心して紹介できると思ったのだった
総一郎はえらく感動した様子で、「やっぱり京都はいいね、料理も美味いし雰囲気も最高だよ」
と楽しそうだった