「昨夜は楽しかったよ」 総一郎は嬉しそうだった
その声を聞いて安心し、私は今日の自分の予定を告げた
総一郎は明日会社に顔を出さなければならないということで、今日中には帰るということだった
姉の家へは総一郎を送った後 行くことにして、朝から総一郎の泊まっているホテルへと出向いた
私は、明日に控えた “大文字さん” を見て帰るつもりだった
会社は明日業務があるが、実家が遠いという理由で有給も使って長い休みを取っていた私は
土曜の朝に帰るつもりだと伝えた
観光客に混じって清水寺へ
総一郎は“ああ・・・この景色ずい分前にも見たよあの時はみんなでじゃれあって
寺なんかに来てもたいして面白くもないなぁ~なんて、じっくり景色を眺めたりしなかった”と
改めて清水の舞台から京の街並みを見下ろし“ここは、なんだか落ち着くな~”と優しい顔で笑った
自分自身もこんなことでもない限りこの辺りへ来ることはなく、景色を頭の隅っこへ記憶して
“いつかまたこの人とここからこの景色を眺めることになるかもしれない” と
ぼんやり総一郎の笑顔を見上げた
早めのランチを食べ 「帰ったら連絡してきて」と、総一郎は昼前の新幹線に乗り帰って行った。

お昼時に姉の家へ遊びに行った
幸助ちゃんはお昼寝中だったので、姉には今回こっそり総一郎と一緒だったことを話した
「え?もう帰らはったん? 私にも会わしてくれたらよかったのにぃ」
と、姉は少し残念そうにしていたがまたそのうち会わしてや~とにこやかだった
姉だけは・・・・
憧れていた男にひどいことを言われ、それが原因で“京都にいたくない”と
わざわざ横浜の大学へ進学したことを知っていた
「そうそう、あの男! 私、あいつに会うてしもたわ~床で・・・ほんま
相変わらず嫌な奴! 何であんな奴が好きやったんやろ? 自分で自分が腹立つわ」
ちょっと興奮した私に、「いろんなことあるよ、でも総一郎さんには気づかれてないんやろ?
よかったやん・・・・そうかぁ~川島さんお店継いではるんやね・・・・」
思い出したことがあった・・・・・姉はその昔、兄の友達だった川島さんのことが好きで、
川島さんが遊びに来ると、何気なく兄の部屋へと顔を出していた
姉は、結局告白したわけでもなく見つめているだけだったらしいが
姉にとっては、大事な思い出の人だったのだろう
みんなそれぞれに心に想う人がいて、それでも生涯を共に過ごそうと思える人に出会う時が来る
それは、考えてそうなるのではなく 運命みたいなものなんだろう・・・
よくわからないが、なんとなくそれが総一郎なのかどうか・・・・
まだその時私には、はっきりしたものがなかった