怠惰なひな菊

漫画家・萩原玲二(はぎわられいじ)の怠惰なブログ(2006~2019)

伊丹万作

2010-07-07 05:02:11 | 映画


『伊丹万作エッセイ集』
伊丹 万作 著 , 大江 健三郎 編集

が、ちくま学芸文庫で復刻され、読む。

伊丹万作といえば、いわずもがな伊丹十三のお父さんであり、大江健三郎の義父である。

本書のコンテンツは、基本的に伊丹万作が映画を撮れなくなって以後のもので、晩年のエイゼンシュテインを彷彿するのはおれだけか。
そういう意味でどことなく辛気臭い(!)文章が多く、『映画読本/千恵プロ時代―片岡千恵蔵・伊丹万作・稲垣浩 洒脱にエンターテイメント』(フィルムアート社)に収録されている現役当時のエッセイの方が、山中貞雄をちゃかしたり(山中顎堂・笑)、無邪気でずっと面白い。

ともあれ、監督昇進前の黒澤明のシナリオを激賞した、有名な「シナリオ時評」を読むことができて満足。
大江健三郎が巻末の解説で、

かれ(黒澤明)の偉大な全作品を観ている私らは、伊丹の見抜く長所はもとより欠陥もまた黒澤の生涯の「個性」であったことに気がつく

と指摘しており、まったくその通りなのだった。

大東亜戦争への言及は『戦艦大和の最後』(吉田満)を連想しつつも、所詮銃後の知識人の「繰言」は、総力戦の末期だろうが、リーマンショック後の不況下であろうが‥‥‥すなわち昭和20年代であろうが平成20年代であろうが大差はない―――というのが率直な感想。


ところで、伊丹万作作品をおれはどれだけ観ているのかと考えるに、そもそも現存作品が何本あるのかはっきりしない。
山中貞雄のように「現存3本」と、決まり文句にはなっておらんからである。

ここでフィルモグラフィーを参照するに‥‥‥

『国士無双』〔1932〕 / 20分ほどの断片をフィルムセンターで鑑賞
『戦国気譚 気まぐれ冠者』 〔1935〕 / BS2で鑑賞・録画
『赤西蠣太』〔1936〕 / BS2で鑑賞・録画
『新しき土 』〔1937〕 / ドイツとの合作、フィルムセンターで鑑賞
『巨人伝』〔1938〕 / 「レ・ミゼラブル」の翻案、池袋文芸座で鑑賞‥‥‥

ふむ。

ということで、わたくし4と1/2本観たことがあるようだ。
あと現存するのは、J.O.スタヂオ(東宝の前身のひとつ)で撮られた『故郷』と『権三と助十』くらい?

『気まぐれ冠者』も荒唐無稽でなかなかだが、やはり『赤西蠣太』が最高作といえるのかのう。

自分的には遺作の『巨人伝』がお気に入り。
コゼット役が17歳の原節子である。
もちろん子供時代は別の子役だが、例のジャン・ヴァルジャンがコゼットを救い出す件―――森の中の井戸のシーンは素晴らしかった記憶があるので、再見したいのう。



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