TVのお笑い芸人のネタ紹介番組でのことである。
腹話術のいっこく堂が登場し、男性ゲストの口に口を模ったマスクをあて、いっこく堂のインタビューに、ゲストに代わって腹話術でそのマスクの口が答えるという芸を披露した。
いっこく堂がゲストに「好きな女性のタイプは?」と訊く。で、ゲストのマスク(いっこく堂の腹話術)が、「実は、好きなのは女性ではなくて・・・」と答えかけると、いっこく堂が「その先は言わないで・・・」とさえぎる。また、マスクが言いかけて、いっこく堂がさえぎるということをくり返し、観客の笑いを取るという芸ネタであった。
いっこく堂が演じるマスクは、言葉にこそ出さなかったが、あきらかに「好きなのは男」と言おうとしていることは観客に想像でき、笑うのである。彼は同性愛を笑いのネタにした芸を披露したのだ。
TVでは、時に「おねえキャラ」で売り出しているタレントが同性愛を自虐ネタにすることがあるが、だからといって、当事者でない者が同性愛を笑いのネタにすることがあってもいいということではない。
笑いは時に毒を含む。しかし、L(レズ)G(ゲイ)B(バイセクシュアル)T(トランスジェンダー)と呼ばれる性的少数者の人権をないがしろにするようなことをネタにすることは許されないことだ。
ぼくは、腹話術の新たな境地を切り開いてきたいっこく堂の芸を高く評価してきただけに、彼が同性愛をネタにしたことに大いに失望したのであった。