むかし・あけぼの

田辺聖子さん訳の、
「むかし・あけぼの」
~小説枕草子~
(1986年初版)角川文庫

「今昔物語」について

2021年07月08日 07時43分21秒 | 「今昔物語」田辺聖子訳










・「今昔物語」は十二世紀頃成った説話集。

三十一巻(うち八、十八、二十一の三巻を欠く)から成り、
天竺(インド)震旦(中国)本朝(日本)の三部に分かれている。

仏教説話、世俗人情をテーマにした短編集で、
第三部の本朝篇の説話集は興趣尽きぬものがあり、
私(田辺さん)もまた、本朝世俗篇を愛する。

もし孤島に赴く時、携える書物はと問われれば、
私なら「源氏物語」と「今昔物語」本朝世俗篇と答えるであろう。

この二作は王朝の両極端の世界を示す。
貴族と庶民、優美と野生、夢と現実、教養社会と無智階級、
というように。

この二作は王朝の光と影である。

それにしても「今昔」の野人たちのたくましい哄笑は、
エネルギッシュである。

このおびただしい短編に登場するのは庶民だけではない。
天皇后妃をはじめ公卿、武者、僧侶、女房、
ありとあらゆる階層の人々である。

それが心のままに、
泣き笑い怒り悲しみ恋し欲情しむさぼるのである。

作者はまだつまびらかでない。
仏教説話や仏教的教訓が多いところから、
複数の僧侶であろうかと思われるが、
私にとって魅力的なのはゴツゴツした漢字まじりの文章である。

一見、そっけないようでありながら、
正確無比な描写力、簡潔なユーモアに富んでいて飽かせない。

全篇「今ハ昔」ではじまり、
「トナム語リ伝へタルトヤ」で終わる。

このすてきな民族遺産を私なりに語り伝えてみようと思う。


(1990年9月 角川書店刊より)







          



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