2019年1月の添付文書改訂によってニューキノロン系抗生物質が大動脈解離の既往のある患者さんに慎重投与になるようです。
ニューキノロン系抗生物質は最も使用頻度の多い合成抗菌薬の一つです。広範囲(Broad Spectol)の菌種に有効で、抗菌力が強い為、かなり高頻度で使用されています。
しかしながら、このニューキノロン系抗生物質が大動脈瘤や大動脈解離と関係あるという事で慎重投与になるようです。術後の創部感染などで比較的使用されることが多い薬だけに臨床現場に影響が大きいと思います。
2015年の論文:Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinoloneによると、
フルオロキノロン(ニューキノロン)系抗菌薬の服用者では、大動脈瘤と大動脈解離のリスクが約2倍になることが、台湾で実施されたネステッド(コホート内)症例対象研究で明らかになった。国立台湾大学醫学院付設醫院のChien-Chang Lee氏らが、JAMA Internal Medicine誌電子版へ2015年10月5日に報告した。
ニューキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン(商品名シプロキサン他)が広く投与されるようになり、コラーゲンの異常に起因すると考えられる、腱断裂を含む腱障害と網膜剥離の報告が増えている。その背景として、ニューキノロン系抗菌薬にコラーゲン分解の促進作用やコラーゲンの成熟架橋の阻害作用があることが指摘されていた。
著者らは、コラーゲンが、大動脈壁の細胞外マトリクスを構成する主要な成分であることに着目。ニューキノロン系抗菌薬により、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクが上昇する恐れがあると考えて、台湾の全民健康保険研究データベース(National Health Insurance Research Database:NHIRD)を用いた症例対象研究を行った。
まず、NHIRDから、2000年1月から2011年12月までに、初回の大動脈瘤または大動脈解離を発症し入院した1477人(症例群)を抽出。症例1人につき100人ずつ、性別と年齢などがマッチする人を抽出し、対照群(計14万7700人)とした。次に、症例群と対照群について、ニューキノロン系抗菌薬の調剤歴を調べ、大動脈瘤と大動脈解離を発症するリスクとの関連を分析した。
ニューキノロン系抗菌薬の使用時期については、イベント発生前の60日間に調剤歴がある場合は「現在使用」、31~365日間に調剤歴があれば「過去使用」、イベント発生前1年間に3日分以上の調剤歴がある場合は「過去1年使用」と定義した。
症例群1477人中850人が大動脈瘤、662人が大動脈解離を発症しており、35人は両方を併発していた。対照群と比べ症例群では、心血管疾患を有する患者の割合が高く、Charlson併存疾患指数が高く、心血管疾患に対する治療薬を使用している患者の割合も高かった。
傾向スコアで調整して率比を求めたところ、ニューキノロン系抗菌薬の現在使用は、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクを2.43倍に上昇さることが判明(率比2.43、95%信頼区間1.83-3.22)。傾向スコアマッチングも行うと率比は1.75(1.11-2.74)になったが、引き続き有意なリスク上昇が見られた。
過去使用も同様にリスク上昇に関係していた。調整率比は1.48(1.18-1.86)だったが、傾向スコアマッチングを行うと両群の差は有意ではなくなった(1.19、0.85-1.66)。過去1年間のいずれかの時期の使用の場合には、調整率比は1.74(1.44-2.09)で、傾向スコアマッチングを行っても1.37(1.04-1.78)と有意な差となった。
ニューキノロン系抗菌薬の調剤日数とイベントリスクの間にも、有意な関係が見られた。調剤日数が3日未満だった人を参照群とすると、3~14日群の傾向スコア調整率比は1.60(1.10-2.52)、14日超群では1.81(0.91-3.17)となった。
今回得られた結果について、著者らは「ニューキノロン系抗菌薬の使用は、まれではあるが死亡リスクが高い大動脈瘤と大動脈解離の発生に関係していた」と総括。症例対照研究であるため、この関係が因果関係であることは示されていないが、大動脈瘤や大動脈解離のリスクの高い患者に対するニューキノロン系抗菌薬の処方には注意が必要だと警鐘を鳴らしている。
原題は「Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinolone」、概要は、JAMA Intern Med誌のWebサイトで閲覧できる。
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/jama/201510/544327.html
ニューキノロン系抗生物質は最も使用頻度の多い合成抗菌薬の一つです。広範囲(Broad Spectol)の菌種に有効で、抗菌力が強い為、かなり高頻度で使用されています。
しかしながら、このニューキノロン系抗生物質が大動脈瘤や大動脈解離と関係あるという事で慎重投与になるようです。術後の創部感染などで比較的使用されることが多い薬だけに臨床現場に影響が大きいと思います。
2015年の論文:Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinoloneによると、
フルオロキノロン(ニューキノロン)系抗菌薬の服用者では、大動脈瘤と大動脈解離のリスクが約2倍になることが、台湾で実施されたネステッド(コホート内)症例対象研究で明らかになった。国立台湾大学醫学院付設醫院のChien-Chang Lee氏らが、JAMA Internal Medicine誌電子版へ2015年10月5日に報告した。
ニューキノロン系抗菌薬のシプロフロキサシン(商品名シプロキサン他)が広く投与されるようになり、コラーゲンの異常に起因すると考えられる、腱断裂を含む腱障害と網膜剥離の報告が増えている。その背景として、ニューキノロン系抗菌薬にコラーゲン分解の促進作用やコラーゲンの成熟架橋の阻害作用があることが指摘されていた。
著者らは、コラーゲンが、大動脈壁の細胞外マトリクスを構成する主要な成分であることに着目。ニューキノロン系抗菌薬により、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクが上昇する恐れがあると考えて、台湾の全民健康保険研究データベース(National Health Insurance Research Database:NHIRD)を用いた症例対象研究を行った。
まず、NHIRDから、2000年1月から2011年12月までに、初回の大動脈瘤または大動脈解離を発症し入院した1477人(症例群)を抽出。症例1人につき100人ずつ、性別と年齢などがマッチする人を抽出し、対照群(計14万7700人)とした。次に、症例群と対照群について、ニューキノロン系抗菌薬の調剤歴を調べ、大動脈瘤と大動脈解離を発症するリスクとの関連を分析した。
ニューキノロン系抗菌薬の使用時期については、イベント発生前の60日間に調剤歴がある場合は「現在使用」、31~365日間に調剤歴があれば「過去使用」、イベント発生前1年間に3日分以上の調剤歴がある場合は「過去1年使用」と定義した。
症例群1477人中850人が大動脈瘤、662人が大動脈解離を発症しており、35人は両方を併発していた。対照群と比べ症例群では、心血管疾患を有する患者の割合が高く、Charlson併存疾患指数が高く、心血管疾患に対する治療薬を使用している患者の割合も高かった。
傾向スコアで調整して率比を求めたところ、ニューキノロン系抗菌薬の現在使用は、大動脈瘤や大動脈解離の発症リスクを2.43倍に上昇さることが判明(率比2.43、95%信頼区間1.83-3.22)。傾向スコアマッチングも行うと率比は1.75(1.11-2.74)になったが、引き続き有意なリスク上昇が見られた。
過去使用も同様にリスク上昇に関係していた。調整率比は1.48(1.18-1.86)だったが、傾向スコアマッチングを行うと両群の差は有意ではなくなった(1.19、0.85-1.66)。過去1年間のいずれかの時期の使用の場合には、調整率比は1.74(1.44-2.09)で、傾向スコアマッチングを行っても1.37(1.04-1.78)と有意な差となった。
ニューキノロン系抗菌薬の調剤日数とイベントリスクの間にも、有意な関係が見られた。調剤日数が3日未満だった人を参照群とすると、3~14日群の傾向スコア調整率比は1.60(1.10-2.52)、14日超群では1.81(0.91-3.17)となった。
今回得られた結果について、著者らは「ニューキノロン系抗菌薬の使用は、まれではあるが死亡リスクが高い大動脈瘤と大動脈解離の発生に関係していた」と総括。症例対照研究であるため、この関係が因果関係であることは示されていないが、大動脈瘤や大動脈解離のリスクの高い患者に対するニューキノロン系抗菌薬の処方には注意が必要だと警鐘を鳴らしている。
原題は「Risk of Aortic Dissection and Aortic Aneurysm in Patients Taking Oral Fluoroquinolone」、概要は、JAMA Intern Med誌のWebサイトで閲覧できる。
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/mem/pub/hotnews/jama/201510/544327.html