横須賀うわまち病院心臓血管外科

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左上大静脈遺残

2018-07-31 02:36:05 | 心臓病の治療
 血行動態的には正常ですが、胎生期の名残で左上大静脈遺残(Patent Left Superior Vena Cava = PLSVC)という奇形があります。頻度は0.4%とほどといわれていますが、日常臨床ではCTで時々見られます。他の奇形を合併していることもあります。
 これはもともと心臓に静脈血を返すルートの一つである上大静脈には、左右の二本あり、胎生期に心臓の頭側で、腕頭静脈(無名静脈)でつながって一つの上大静脈に通常なるのですが、このPLSVCがあると、通常上大静脈につながる左総頚静脈や左鎖骨下静脈がPLSVCを経由して多くは大動脈弓部の左側全面、心臓の左側を通って冠静脈洞に流入し、そこから右房内に開口します。
 単純CTでも水平断画像で大動脈弓部の左側に1cmほどの普段見られない脈管を認めるので、簡単に見つけられます。また超音波検査でも左心房の背側に異常に拡張した冠静脈洞があればこれを疑います。
 血行動態的には正常なので、特に治療は必要ありませんが、心臓手術やカテーテル治療などでは、重要な情報となります。そいうのも、左頸静脈や左鎖骨下静脈から、たとえばスワンガンツカテーテルやペースメーカーを留置しようとすると、通常通りのルートではないので、挿入が困難となります。また、開心術の時は、このPLSVCを閉鎖しないと、右房内の視野確保が悪くなったり、冠静脈洞からの逆行性冠灌流ができなくなります。その意味で、治療前にCTでこの存在を知っておくことは非常に重要となります。一度見たら忘れない特徴的なCT画像ですが、見逃さないように注意することが重要です。



 心臓手術の際に左上大静脈遺残があり、これを遮断して、冠静脈洞から逆行性心筋保護を行っても、通常の逆行性注入よりも心筋組織に十分心筋保護液がいきわたらない危険性があります。遮断している部分は通常、左心耳の外側の心嚢内であることが多い為、遮断部位までの遺残している上大静脈の方に心筋保護液が主に注入され、リザーバーのような形になってしまう可能性があるからです。このため、この奇形が合併する患者さんには必ず、逆行性心筋保護を併用する場合でも、順行性をメインに心筋保護する必要があります。逆行性をメインにして手術した場合、術中、術後のLOS(Low Output Syndrome 低拍出症候群)のリスクが高くなります。

また、三尖弁形成術など右房石灰を必要とする手術の場合は、通常の上下大静脈脱血だけで右房切開すると、このPLSVCからの逆流が多いので視野の確保に苦労する可能性があります。通常の胸骨正中切開の場合は左側の左心耳の奥に見えるPLSVCを遮断するか、ここにカニュレーションして脱血して冠静脈洞から還流する血流を減らして視野を確保するする可能性があります。しかし、最近症例が増えている、右小開胸の低侵襲心臓手術においては、心臓の左側は見えません。その場合は拡大した冠静脈洞の周りにタバコ縫合をかけて脱血管を追加して流入してくる血液を吸引して視野を確保する必要があります。
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