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横須賀総合医療センター心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

大動脈弁狭窄症

2018-02-14 20:10:51 | 医療
 大動脈弁狭窄症は、大動脈弁が硬化して可動性が低下し、心臓の収縮期にうまく開かなくなるために心不全や不整脈を呈する病気です。大動脈弁の硬化の原因として、加齢、脂質異常、高血圧、腎障害、先天性の二尖弁などがあります。昨今の高齢者の急速な増加とともに、この病気も急速に増加しています。高齢化社旗とともに増加する疾患の代表といえます。
 大動脈弁狭窄症は一度発症すると、自然に治ったり、薬で治ったりすることはありません。
 症状が出現してから死亡するまでの時間が短い疾患と言われています。
 学生の頃、教科書に書いていたのは、胸痛や意識消失が起こるようになってからは2年以内に半分が死亡する、心不全で搬送された場合はおおむね寿命は一年以内と言われています。2年以内に半分以上が命を落とす疾患としては、進行性の肺がん、膵臓癌、Stage IVの大腸癌や乳がんなどがあり、このいわゆる末期癌と匹敵する病気といえます。
 これら末期癌と大きく違うのは、大動脈弁狭窄症は手術で治癒させることが出来る病気であることです。
 基本的には人工弁置換をすることで、早期に治療できれば、その後の寿命は正常の人と同じになることも可能です。心筋障害が進行してから手術した場合は、心筋の回復が十分期待できないこともあり、また手術そのもののリスクも上昇してしまうため、手術適応と判断された場合は早めに治療した方が良いといえます。
 最近の心臓手術は成績も向上していることもあり、より早期に手術して良好な結果を享受する、という考え方が一般的になっています。

最新の冠動脈バイパス術

2018-02-13 15:10:07 | 医療
 冠動脈バイパス術は、冠動脈の狭窄部位の遠位側に、新しい道筋を作り、心筋への血流量を増加させる手術です。約1~3mmの細い血管を顕微鏡を見ながら吻合する手術なので、細かい作業となりますが、残念ながら他の血管のように人工血管はいまだ有用なものはないため、自分の血管(自家血管)を使用する必要があります。使用する血管は、静脈よりも動脈が開存率が良く、特に内胸動脈が最も長期的に信頼できる血管といえます。左右の内胸動脈の他に、動脈グラフトとしては橈骨動脈、右胃大網動脈も使用します。特殊な例として、当関連施設では、左胃動脈を使用した冠動脈バイパス術も経験しており、術後の胃潰瘍発生の可能性は高くなりますが、有効な血管といえます。
 2000年以後は人工心肺を使用しないで、心拍動下に吻合するオフポンプCABG(CABG=Coronary Artery Bypass Grafting:冠動脈バイパス術)が主流となってきました。特に日本国内においては既に7割のCABGがオフポンプで行われていると学会が集計しています。欧米を含む海外でのオフポンプの実績が3割と言われている現状を考慮すると、日本が冠動脈バイパス術において世界で最も先進国といっていいと思います。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科および当院の関連施設(自治医科大学附属さいたま医療センター、横浜市立みなと赤十字病院、練馬光が丘病院、さいたま赤十字病院、春日部中央総合病院等)では、冠動脈バイパス術におけるオフポンプCABGの割合は99%で、基本術式としています。
 最近の新しい手術方法として、低侵襲冠動脈バイパス術(MICS-CABG; Minimally Invasive Cardiac Surgery)が今後話題になってくるのではないかと思われます。今までも左開胸での左内胸動脈ー左冠動脈前下行枝(LITA-LAD)をMID-CAB(Minimally Incvasive Direct CABG)と呼び、1枝のCABGには行われてきましたが、更にそれをすすめて複数のバイパス作成を左小開胸で行う方法が確立されつつあります。左開胸で、大伏在静脈を上行大動脈に吻合する、左開胸から両側内胸動脈を剥離して採取、吻合する、上腹部切開で右胃大網動脈を横隔膜越しに右冠動脈領域に吻合する、こうした方法を採用することで、胸骨正中切開をしないでも冠動脈バイパス術が可能となれば、特に腎不全や糖尿病患者等、術後縦隔炎のリスクがある患者様には非常に大きなメリットがあるものと思われます。また左開胸によるオフポンプCABGは心臓の脱転をほとんどする必要が無いため、安定した循環動態での血管吻合が可能であり、低左心機能の症例にも有効と考えられます。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも左小開胸の複数枝冠動脈バイパス術を行っており、また上腹部正中切開による冠動脈バイパス術(Trans-Abdominal MID-CAB)も行っております。将来的にはロボットの使用によるグラフト採取や血管吻合もコストの問題が解決できれば一般化していく可能性もあります。

横須賀心不全パンデミックセミナー

2018-02-11 10:56:17 | 医療
 2月17日 横須賀医師会で心不全パンデミック講演会が開催されます。主に医師会員向けのセミナーですが、そこでは、今、爆発的に増加している心不全患者さんを今後どうしていくか、を考えるための講演会です。循環器内科、小児心臓専門医、心臓血管外科等から心不全治療の最近の話題提供と今後の課題などについて情報提供し日常診療に役立てようという企画です。
 心臓血管外科からは、心不全の最新の外科治療という内容でお話させていただきます。心臓血管外科の診療の約半数の手術は心不全に対する治療であり、大きな柱として、虚血性心疾患の外科治療(冠動脈バイパス術、左室形成術、心筋梗塞合併症手術)、弁膜症手術、あと数は少ないですが、先天性心疾患の手術治療があり、現在の問題および今後の課題として、外科治療では救うことが難しい難治性心不全に対してどう対処していくか、という問題があります。
 虚血性心疾患の最新の外科治療として21世紀に入ってからは、日本では人工心肺を使用しないオフポンプCABGが主流となり、人工心肺を使用しない低侵襲さと、コスト削減により手術成績も含め大きく社会貢献してきたといえます。最新の手術方法として、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、まだ国内では実施施設がきわめて少ない左小開胸の冠動脈バイパス術も実施しており、胸骨正中切開をしないので、縦隔炎のリスクが少なく、より早期の社会復帰が可能な方法を対象患者さんによっては採用しています。
 また弁膜症の外科治療の中心は人工弁置換と自己弁温存した弁形成術です。特に僧帽弁形成術は弁置換に比較して長期の生存が有意に高いとも報告されており、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科でも基本的に僧帽弁逆流症にはほとんどの症例で弁形成術で対処しています。最新の方法として、右小開胸での僧帽弁形成術も実施しており、早期の社会復帰が可能となっています。
 これからの課題として、難治性の心不全においては心臓移植しか治療法がないという患者様もたくさんいらっしゃいます。法改正によって移植数が増加していますが、それでも移植の申請数が圧倒的に上回っており、平均の移植待機期間が3年半から4年もかかると言われています。この間は、多くの患者様は補助人工心臓を装着して心不全管理しながら待つことになります。補助人工心臓は最近はすべて外国製のものが採用されるようになりましたが、成績が良好になったことから、心臓移植を前提としない装着、いわゆるDestination Therapy(DT)にも注目されるようになってきました。アメリカでは既に10年以上補助人工心臓を装着して生存している患者様もいて、保険の適応にもなっています。現在では年間1000例以上のDT導入患者がいるそうで、日本でも近々導入されていくと思われます。


神奈川ハートセミナー:僧帽弁形成術

2018-02-10 13:18:49 | 医療
 僧帽弁再形成術の経験につき、発表しました。僧帽弁形成術は現在は僧帽弁逆流症に対する手術では、弁置換よりも優先的に行われています。自己弁を温存して、形成し、逆流を停止させる術式の方が、人工弁置換よりも術後の遠隔成績(遠隔死亡)が良好と報告されています。しかしながら僧帽弁形成術後、年間1%前後の再治療が必要な僧帽弁逆流の再発が一般にみられると言われており、その際の追加治療で再度弁形成するのか、それとも人工弁置換するのかが議論になるところです。
 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、基本的に僧帽弁形成術を第一選択にしており、演者は、過去10年間で200例あまりの僧帽弁形成術を執刀しており、その中の2%に再発が診られました。執刀していない症例も含めると、7例の再手術症例を経験しており、うち6例(85%)で僧帽弁再形成術が成功しています。
 セミナーでは、僧帽弁形成における人工腱索の設置方法について、また再発予防するための手術手技等についても話し合われました。


病院の実力 横須賀市立うわまち病院心臓血管外科

2018-02-08 14:48:16 | 医療


毎年更新される病院紹介の本です。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、成人の心臓血管疾患の外科治療を担当しています。胸部や腹部の大動脈疾患の手術治療は特に得意とする分野です。特に急性大動脈解離は緊急手術が必要な場合、一刻を争う状態で、より治療に慣れた施設で治療を受けることが、救命には重要です。最近は技術の進歩もあり、手術成績もかなり向上してきましたが、まだ施設間に差があるのも事実と思われます。横須賀・三浦・逗子・葉山・鎌倉および横浜市南部地域において、より多くの患者様を救うべく日々努力しています。

閉塞性動脈硬化症の治療方針

2018-02-07 17:59:49 | 医療
 閉塞性動脈硬化症における治療として、循環器内科が行うカテーテル治療が著しく進歩しております。横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では、カテーテル治療が難しい病変や長期成績を考慮し手術療法を施行しております。特に膝から下の末梢の血管の病変の場合はバイパス手術により劇的に血流が改善致します。潰瘍や壊死に陥ってしまった足の切断を免れるよう、もしくは切断するとしてもなるべく範囲を狭められるよう形成外科・皮膚科とも協力し治療にあたっております。 また、靴外来などフットケアにも力を入れています。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科 下肢静脈瘤レーザー治療

2018-02-05 17:39:32 | 医療
下肢静脈瘤の治療について

  横須賀市立うわまち病院心臓血管外科では下肢静脈瘤の手術も積極的に行っております。昨年2017件も100件以上のレーザー治療を行いました。美容上の目的と、足のだるさ、攣り、色素沈着等の症状緩和のために小さな創で行っております。
 また2015年4月より静脈瘤レーザー治療を開始致しました。日帰りにて手術を行い、生活制限なく治療が可能です。創も非常に小さくほとんど目立ちません。抗血小板薬や抗凝固薬などの、いわゆる「血液さらさら」の内服薬を内服されている場合も、薬の中止をせずに施行可能です。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科 大動脈疾患の治療方針

2018-02-02 13:09:40 | 医療
4. 大動脈疾患(大動脈瘤・大動脈解離)

 胸部大動脈: 最大径が55mmを超えた場合は人工血管置換術を施行しております。上行大動脈、弓部大動脈は基本的に人工血管置換術を行います。近年はオープンステント手術の導入により、より短時間に弓部大動脈置換を行うことができるようになってきました。胸部下行大動脈の拡大に対してはステントグラフト内挿術を第一選択としております。
急性大動脈解離や大動脈破裂は生命に直結する重篤な疾患でありますので、可及的速やかに緊急手術を24時間体制で施行しております。

 腹部大動脈: 最大径が40mmを超えた場合は人工血管置換術もしくはステントグラフト挿入術を施行しております。

大動脈疾患は家族歴のある人や、体質や生活習慣に関連して発症する場合もあるため、リスク因子評価や大動脈疾患のスクリーニング検診、定期的な外来フォローアップ、または予防のための相談も積極的に行っております。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科 弁膜症の治療方針

2018-02-01 18:32:47 | 医療
心臓弁膜症の外科治療

弁膜症におけるスクリーニング検査や定期的フォローアップ、外科治療を行っております。

手術が必要な患者様には、

大動脈弁疾患: 大動脈弁置換術を行っております。 安全に実施可能な症例は右小開胸か胸骨部分切開による低侵襲手術を積極的に行っております。症例によっては自己弁温存手術を行います。

僧帽弁疾患: 積極的に自己弁を修復する僧帽弁形成術を行っております。右小開胸による低侵襲心臓手術(MICS)にも積極的に対応しています。病態に応じて人工弁置換術も行います。

三尖弁疾患:弁形成術や弁輪縫縮術を積極的に行っております。 症例によっては、右小開胸による低侵襲手術を行っております。



右小開胸手術は、内視鏡補助下の創15cm以下の手術において、2018年4月から新たな保険償還が認められております。当院では2011年より神奈川県内では先駆けて導入してきましたが、2016年のチーム再編後は更に積極的に行っております。しかしながら小さい創で手術するには、患者さんへの体の負担は小さく創部感染のリスクが少ないですが、その分操作が難しくなって時間がかかったり、出血した場合の対処が困難ですが、安全に行うことが重要であり、この安全に行える基準として
①大動脈の性状が良好である
②心機能が良好である
③片肺換気が可能である
④著明な心拡大がない
などです。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科 虚血性心疾患に対する手術方針

2018-01-31 18:44:19 | 医療
1. 虚血性心疾患
 心臓を栄養する冠動脈の狭窄や閉塞に対して、循環器内科によるカテーテル治療が困難な症例や手術が適切であると判断された症例に対し冠動脈バイパス術を施行しております。当院では人工心肺を用いず、心臓を動かしたままバイパスを行う心拍動下冠動脈バイパス術を第一選択にしております。
また皮膚小切開による左開胸での低侵襲冠動脈バイパス術(MID-CABまたはMICS-CAB)にも症例によっては対応しております。また、カテーテル治療と冠動脈バイパスを組み合わせたハイブリッド手術も循環器科との連携の元、積極的に行っています。
 陳旧性心筋梗塞による心不全や難治性不整脈に対して、左室形成術や冷凍凝固療法を行っています。



 特に最近は、左小開胸による冠動脈バイパス術が増えております。低侵襲心臓手術の潮流の中、冠動脈バイパス手術においてもその流れが加速しつつあります。もちろん、大きな手術創を作らずに冠動脈の血行再建が可能なカテーテル治療(PCI)はゴールドスタンダードではありますが、カテーテル治療では治療困難もしくはリスクが高いと判断される場合は今後も多々あるものと思います。現在の国内の年間の冠動脈カテーテル治療件数は15万件に比較して、冠動脈バイパス術は15000件。10件に1件の割合で冠動脈バイパス術が実施されており、その比率は若干の変化があっても冠動脈バイパス術はなくなることはありません。今後はより重症症例や難治性の症例が増える傾向にもあるといえます。その中で、左小開胸での冠動脈バイパス術、およびそれとカテーテル治療の組み合わせ(ハイブリッド手術)は今後の冠動脈バイパス術の主流になる可能性があります。当院でも適応のある症例には積極的に行っていく予定です。
 左小開胸で左内胸動脈と左前下行枝をつなぐ1枝バイパス術のことをMID-CAB(Minimally Invasive Direct - Coronary Artery Bypass:ミッドキャブ)と呼んできましたが、最近は2枝以上吻合する左小開胸バイパス手術のことをMICS-CABG(Minumally Invasive Cardiac Surgery - CABG:ミクスーCAB)と呼んだりしています。

神奈川ハートカンファレンス「僧帽弁形成術」

2018-01-30 09:59:50 | 医療
2017年2月3日 神奈川ハートカンファレンスでは、僧帽弁形成術に関するエキスパートの講演会が行われます。



横須賀市立うわまち病院からは、僧帽弁形成術後の再手術において、再度形成を行った症例経験について発表しました。緊急で行った第一例目を除いて、7例中6例で再形成に成功しており、僧帽弁逆流に関してはあくまでも自己弁を温存して形成で逆流を制御する手術手技にこだわるチャレンジ・スピリットが重要と考えます。しかしながら、ハイボリュームセンターといわれている施設においても症例経験が少ないようです。

下肢難治性皮膚潰瘍(下肢壊疽)の集学的治療

2018-01-29 17:38:53 | 医療
 横須賀市立うわまち病院では心臓血管外科、循環器科、形成外科、皮膚科、内科、リハビリ科など、各科連携で下肢難治性創傷(下肢壊疽)の治療も行っております。下肢血流を改善する手術やカテーテル治療から、足部の形成手術や、重症糖尿病の治療、治療後のフットウェア作成やリハビリまで院内で完結した治療が可能です。
 下肢難治性創傷を患う方々には心臓や脳の血管にも問題がある場合がありますが、こちらに対しても並行して治療を行うことが可能です。外来受診は火曜日と金曜日の午後に受け付けております。

横須賀市立うわまち病院心臓血管外科 2017年手術実績

2018-01-28 09:59:51 | 医療
 2017年の手術件数は、383件で、スタッフの入れ替えなど体制を一新してからは、開設以来最も多い件数となっており、前年に比較して100件以上増加しました(図1)。そのうちわけは、心臓胸部大血管手術133例、腹部大動脈瘤37例、末梢動脈手術23例、下肢静脈瘤手術118例となっております(図1)。静脈瘤手術は血管内レーザー焼灼術を導入してからは日帰り手術が可能となり、横須賀・三浦地区唯一の治療施設として大幅に手術件数が増加しています。透析センター開設に伴い、シャント造設手術も増加しています(図2)。

地域における心臓血管疾患すべてに対応しているため、疾患のバリエーションが多くなっておりますが、特に近年は患者様の高齢化がすすみ、80歳以上の方も増えており、90歳以上の患者様に対しても疾患、病態によっては対応しております。


主な対象疾患として、
A.虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞、心筋梗塞後合併症)
B.心臓弁膜症(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁疾患など)
C.大動脈疾患(胸・腹部大動脈瘤、大動脈解離、大動脈ステントグラフト手術)
D.成人の先天性心疾患
E.末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症など)
F.静脈疾患(下肢静脈瘤レーザー治療など)
G.透析用シャント造設、経皮的シャント血管形成術
などの手術治療を担当します。

2017年の手術件数

手術総数      383例

心臓胸部大血管手術総数     133例
 虚血性心疾患          40例 
 弁膜症               74例 
 胸部(胸腹部)大血管     45例  (重複なし)
先天性心疾患         2例
心臓外傷            1例

腹部大動脈瘤     37例
末梢血管疾患     23例
内シャント        16例
下肢静脈瘤       118例