「脂質の代謝」 解答と解説です.
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4 アミノ酸・たんぱく質・糖質・脂質の代謝
(3) 脂質の代謝 解答と解説
1=(2)
(1) 誤 脂肪酸の生合成は, 細胞質で行われる. アセチルCoAからパルミチン酸までは細胞質で行われ, 鎖長延長 (パルミチン酸→ステアリン酸) はミトコンドリアや小胞体で, 不飽和化 (ステアリン酸→オレイン酸) は小胞体で行われます.
(2) 正 脂肪酸生合成の初発反応は, アセチルCoAへの炭酸付加によるマロニルCoAの生成である. 酵素はアセチルCoAカルボキシラーゼです.
(3) 誤 アセチルCoAカルボキシラーゼによるマロニルCoAの合成には, ATP, ビオチン, HCO3-, Mg+が必要である.
(4) 誤 脂肪酸は, 糖質やケト原性アミノ酸 (から生成したアセチルCoA) から合成される.
(5) 誤 脂肪酸は, β酸化経路とは全く異なる経路で合成される. 脂肪酸の生合成は細胞質で行われ, β酸化はミトコンドリアで行われるのだから, 経路も全く異なります.
2=(2)
a 正 脂肪酸合成に用いられる還元剤は, NADPH+H+ である. NADPH+H+は, ペントースリン酸回路でつくられます.
b 誤 細胞質における脂肪酸合成系で合成されたパルミチン酸は, 小胞体膜で鎖長延長反応によりステアリン酸となる. 前後関係を入れ替えた引っかけです.
c 正 ステアリン酸からオレイン酸への不飽和化反応は小胞体で行われ, 不飽和化酵素, NADPH+H+のほか, 分子状酸素 (O2) が必要である. 分子状酸素 (O2) が関わるものには, オレイン酸合成や電子伝達系などがあります.
d 誤 トリアシルグリセロールは, 肝臓, 脂肪組織, 腸壁などでグリセロール 3-リン酸に脂肪酸が付加されて生成される.
3=(4)
(1) 誤 アシルCoAは, アシルカルニチンとしてミトコンドリア内膜を通過する.
(2) 誤 脂肪酸のβ酸化はミトコンドリアマトリックスで行われ, カルボキシ基側から炭素原子が2個ずつアセチルCoAとして離脱する.
(3) 誤 不飽和脂肪酸のβ酸化では, 還元剤としてNADPH+H+が利用される.
(4) 正 脂肪酸のβ酸化によって生じたアセチルCoAはクエン酸回路に入って酸化され, 最終的に水と二酸化炭素になる.
(5) 誤 脂肪酸のα-酸化では, カルボキシ末端から炭素原子が1個ずつ切断される.
4=(2)
a 正 非必須脂肪酸のオレイン酸は, 体内でステアリン酸の不飽和化により生成する n-9 系一価不飽和脂肪酸である.
b 誤 n-3 系不飽和脂肪酸や n-6 系不飽和脂肪酸は, 体内で飽和脂肪酸から合成されない. だから, リノール酸とα-リノレン酸が必須脂肪酸なのです.
c 正 摂取したα-リノレン酸から, 体内でエイコサペンタエン酸 (EPA) やドコサヘキサエン酸 (DHA) が合成される.
d 誤 摂取したリノール酸から, 体内でγ-リノレン酸やアラキドン酸が合成される. これも前後を入れ替えました.
5=(3)
(1) 誤 プロスタグランジン, トロンボキサン, ロイコトリエンなどを総称して, エイコサノイドという.
(2) 誤 エイコサノイドは, アラキドン酸やEPAなど炭素数20の多価不飽和脂肪酸から誘導される. 「エイコサ」 は, 「20の」 という意味です.
(3) 正 ロイコトリエンは, 肥満細胞や白血球でアラキドン酸から生合成される. ロイコトリエンの 「ロイコ」 は, 「白い」 すなわち白血球です.
(4) 誤 プロスタグランジンは, 子宮筋や血管などの平滑筋の収縮を引き起こす.
(5) 誤 プロスタサイクリン (アラキドン酸から合成されるプロスタグランジンI2) には, 血小板凝集抑制効果がある.
「ロリ」 って知ってますか? 変な意味ではなく, ロイコトリエンはリポキシゲナーゼ反応で生成するのです. したがって, プロスタグランジンとトロンボキサンはシクロオキシゲナーゼ反応で生成する. これで, 酵素名を入れ替えられても解けますね. 教科書で調べてみてください.
6=(4)
(1) 誤 アセトン, アセト酢酸, 3-ヒドロキシ酪酸を総称して, ケトン体という. 酢酸, プロピオン酸, 酪酸は短鎖脂肪酸です.
(2) 誤 ケトン体は, 肝臓のミトコンドリア内で生成する. だって, ミトコンドリア内で過剰になってクエン酸回路に入れなくなったアセチルCoAからできるのだから.
(3) 誤 ケトン体は, 肝外組織でエネルギー源として利用される. 肝臓にはケトン体を利用するための酵素が無いのです.
(4) 正 グルコースの利用障害や脂肪酸の分解亢進によりケトン体の合成が亢進し, 血液pHが低下する. ケトン体のうち, アセト酢酸と3-ヒドロキシ酪酸は, 「酸」 です. ケトアシドーシスを起こします.
(5) 誤 ケトン体は肝外組織で利用されるほか, 尿中にも排泄される. 糖尿病患者の尿は, アセトン臭です.
7=(4)
(1) 誤 ホスファチジン酸は, トリアシルグリセロール合成およびリン脂質合成の中間体である. ホスファチジン酸の構造式を描き, どうしたらトリアシルグリセロールになるのか, どうしたらリン脂質になるのか, 考えてみてください.
(2) 誤 ホスファチジルコリンの合成経路におけるコリン残基供与体は, CDP-コリンである. したがって, ホスファチジルコリンの合成にはCTPが必要です.
(3) 誤 コリン, セリン, エタノールアミンは, 動物体内で合成できる.
(4) 正 コリンはレシチンなどの成分となり, またアセチルコリンとなって神経伝達に関与する.
(5) 誤 コリン欠乏症やアルコール中毒症の際に, 脂肪肝がみられる.
8=(3)
(1) 誤 コレステロールは, アセチルCoAを出発物質として合成される. コレステロールの一歩手前の前駆体である 7-デヒドロコレステロールに紫外線が当たると, ビタミンDができます.
(2) 誤 コレステロールの主な生合成の場は, 肝臓, 小腸, 皮膚などである. 小腸や皮膚でも作られるんですよ.
(3) 正 コレステロールは, 体内でグルコース, 脂肪酸, ケト原性アミノ酸などからも合成される. 要するにアセチルCoAがあればいいわけで…
(4) 誤 コレステロール合成の律速酵素は, HMG-CoAをメバロン酸に変換するHMG-CoA還元酵素である. 基質と生成物を入れ替えてみました.
(5) 誤 HMG-CoA還元酵素は, コレステロールによるフィードバック制御をうける. 生成物による合成の調節です.
9=(3)
a 正 組織間のコレステロールの輸送は, 血漿リポたんぱく質が担っている.
b 誤 コレステロールは胆汁酸およびステロイドホルモンの前駆物質であり, コレステロールのほとんどが胆汁酸になる. コレステロールはエネルギーにはならず, ほとんどすべて胆汁酸になります.
c 誤 コレステロールは, 多くがエステル型で生体内に貯蔵されている.
d 正 体内に存在するコレステロールの大部分は体内で合成されたもので, 肝臓などで1日約 1 g が生合成される.
10=(4)
(1) 誤 疎水性の脂質は, アポたんぱく質 (アポリポたんぱく質) と結合して, リポたんぱく質として各組識へ血中輸送される. アポとリポを入れ替えてみました.
(2) 誤 リポたんぱく質は, 内部に疎水性の部分, 外部に親水性の部分を持つ. だって, まわりは血液すなわち水系だから.
(3) 誤 リポたんぱく質は, 密度によって分類される. 「比重」 って書いた本が多いのですが, 比重は specific_gravity, 密度は density でしょ. で, LDLは low_density_lipoprotein なわけで…
(4) 正 キロミクロンは小腸吸収上皮細胞で合成され, 食事由来のトリアシルグリセロールを主に脂肪組織や筋肉, 心臓に運ぶ.
(5) 誤 VLDLは, 肝臓で合成されたトリアシルグリセロールを末梢組織に輸送する. 肝臓で合成されたコレステロールを末梢組織に輸送するのは, LDLです.
11=(4)
(1) 誤 リポたんぱく質リパーゼは, キロミクロンやVLDL中のトリアシルグリセロールを加水分解する. 脂肪組織中のトリアシルグリセロールを加水分解するのは, ホルモン感受性リパーゼです.
(2) 誤 VLDLはリポたんぱく質リパーゼの作用によってLDLとなり, 肝臓で合成されたコレステロールを末梢組織に輸送する. リポたんぱく質リパーゼは血管壁にあり, ホルモン感受性リパーゼは脂肪組織にあります.
(3) 誤 LDLはコレステロール含有比が大きく, コレステロールエステルとトリアシルグリセロールが中心部を構成している. コレステロールはちょっとだけ親水性, コレステロールエステルは疎水性です. だから, コレステロールエステルはLDLの中心部を構成するのです.
(4) 正 アポたんぱく質Bは, LDLの主な構成たんぱく質である.
(5) 誤 肝細胞は, LDLを取込むための受容体をそなえている. 受容体は, 標的細胞側に存在します.
12=(1)
(1) 正 LDLは, 血漿中の抗酸化物によって酸化が防止されている.
(2) 誤 LDL画分には, 抗酸化作用をもつビタミンEやカロテノイドが含まれている. ビタミンAには抗酸化作用はありません.
(3) 誤 HDLは, 種々の組織からコレステロールを肝臓へ輸送する. 十二指腸へ輸送してどーするの.
(4) 誤 脂肪組織から動員された遊離脂肪酸は, アルブミンと結合して血液中を運ばれる. 遊離脂肪酸やビリルビンなどは, アルブミンと結合します.
(5) 誤 コレステロールエステル転送たんぱく質 (CETP) は, HDLのコレステロールエステルとLDLのトリアシルグリセロールを交換する. 末梢から引き抜いたコレステロールエステルをLDLに渡し, 別の末梢に運んでもらいます.
13=(3)
a 正 中鎖脂肪酸のω-酸化では, カルボキシ基から最も遠い炭素原子から酸化を受ける.
b 誤 トロンボキサンは, 血小板凝集と血管収縮を引き起こす. 「収縮」 を反対語の 「拡張」 と入れ替えてみました.
c 誤 スフィンゴシンは, パルミトイルCoAとセリンから生合成される. スフィンゴシンに脂肪酸がアミド結合したものがセラミドです. エステル結合ではありませんよ.
d 正 ホスホリパーゼは, リン脂質を分解する酵素である.
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生化学の模擬問題, ラストでーす!
なお, 「個体の恒常性 (ホメオスタシス) とその調節機構」 の後半部分, すなわち
B 恒常性 a 恒常性とフィードバック機構
B 恒常性 b 体液・電解質バランス, 酸塩基平衡
B 恒常性 c 体温の調節
B 恒常性 d 生体機能の周期性変化
B 恒常性 e ストレス応答
については, 次回からの 「基礎栄養学の正文集」 の後にアップします.
なんか, 電解質とか生体リズムとかストレスとか, 基礎栄養学や応用栄養学とカブッてるものが多いので, どうしたものかと迷っています.
それから, 「個体の恒常性 (ホメオスタシス) とその調節機構」 はこれから発展的な出題が予想される分野なので, 管理栄養士国家試験だけでなく薬剤師国家試験からも過去問を集めてきました. ちょっと難しいですが, ちゃーんと記載されている管理栄養士養成施設向けの教科書もありますので, 今のうちに押さえておきましょう.
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5 個体の恒常性 (ホメオスタシス) とその調節機構 問題
1 細胞間情報伝達に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) ホルモンや神経伝達物質, cAMPなど, 細胞外で作用する物質は, ファーストメッセンジャーである.
(2) グルタミン酸, アセチルコリン, エンドルフィンなどは, 神経伝達物質である.
(3) 神経終末と標的細胞が接合する部位を, ネフロンと呼ぶ.
(4) ファーストメッセンジャーが細胞外液中に拡散し, 近隣の細胞に情報が伝達される形式を, オートクリンという.
(5) ファーストメッセンジャーが細胞外液中に拡散し, 分泌した細胞自身に情報が伝達される形式を, パラクリンという.
2 受容体による情報伝達に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) 受容体は, 情報伝達物質の標的細胞に存在する.
(2) ペプチドホルモンなど, 水溶性情報伝達物質の受容体は, 細胞内に存在する.
(3) ステロイドホルモン, 甲状腺ホルモン, 脂溶性ビタミンなど, 脂溶性情報伝達物質の受容体は, 細胞膜上に存在する.
(4) グルカゴン受容体, アドレナリン受容体など, Gたんぱく質に結合している受容体は, 細胞内のたんぱく質のチロシン残基をリン酸化する.
(5) インスリン受容体はチロシンキナーゼ関連受容体であり, 7つの膜貫通領域をもつ.
3 受容体による情報伝達に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) インスリン受容体は, 細胞膜を7回貫通する受容体である.
(2) 細胞膜上のLDL受容体は, LDLのアポたんぱく質であるアポA-Ⅰを認識してLDLを取り込む.
(3) 細胞膜受容体は, 細胞膜を貫通するたんぱく質である.
(4) 細胞膜受容体には, Gたんぱく質共役型受容体, チロシンキナーゼ関連受容体の2種類がある.
(5) GDPが結合しているGたんぱく質共役型受容体は, 活性型である.
4 細胞内シグナル伝達に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) 水溶性情報伝達物質の情報は, 細胞膜上の受容体とそれに続くセカンドメッセンジャーによって細胞内に伝えられる.
(2) イオンチャネル内蔵型受容体にリガンドが結合すると, Na+, K+, Ca2+, Mg2+チャネルが開口する.
(3) Na+, Ca2+, K+チャネルが開口してそれぞれのイオンが細胞内に流入すると, 過分極が起こる.
(4) Cl-チャネルが開口してCl-が細胞内に流入すると, 脱分極が起こる.
(5) 一酸化窒素 (NO) は, アデニル酸シクラーゼを活性化させ, サイクリックAMPを生成させる.
5 細胞内シグナル伝達に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) ステロイドホルモンと受容体の複合体は核内へ移行し, アデニル酸シクラーゼを活性化する.
(2) 甲状腺ホルモンと受容体の複合体は, 転写調節因子として作用する.
(3) ビタミンD3と受容体の複合体は, 転写調節因子として作用する.
(4) プロテインキナーゼは, たんぱく質を構成するシステインの -SH をリン酸化する.
(5) カルパインは, 細胞内Ca2+濃度をセカンドメッセンジャーとする情報伝達系に関与する.
6 サイクリックAMP (cAMP) に関する記述である. 正しいのはどれか.
(1) cAMPは, AMPからアデニル酸シクラーゼによって合成される.
(2) cAMPは, 細胞内情報伝達をつかさどるセカンドメッセンジャーである.
(3) 細胞内のcAMPの濃度の上昇は, ある種の酵素の脱リン酸化を促進する場合がある.
(4) cAMPは, ホスホジエステラーゼによってATPとなる.
(5) cAMPは, プロテインキナーゼAの活性化などを介して, グリコーゲン合成や体脂肪合成を促進する.
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明日 (5月21日) の晩は, 泊まりがけで遊びに行くので, 更新休みまーす.
日曜の夜 (疲れてたら月曜の夜) まで待っててね.