夢千夜 1000dreams

漱石「夢十夜」へ挑戦する

97夜

2005-07-16 10:50:19 | Weblog
小さな川にかかる橋。コンクリートでできた普通の橋だ。鉄の低い手すりがついている。川は深いところでも、一メートルくらいの深さに見える。季節は春。川の周りは緑が芽吹いた畑が広がっている。川の向こうにビートたけしがいる。十年前の顔だ。私は無性に懐かしくなり、橋を渡ってたけしに駆け寄る。たけしが私に言う。「あんたは十年前に、いくつだった?」。「二十五くらいかな」。私はサバをよむ。本当は既に三十五になっていた。たけしに聞かれたとたん、私は自分の言葉通り、二十五歳になっている。誰かがキャッチボールをしている。球がそれて、私に当たる。強い球で痛い。私はなぜか怒らず、笑って投げ返す。私にも自分がなぜ怒らないのか、わからない。また球が当たる。怒らない。「十年目の私は、こうだったのかな」と、私は思い返す。「人間、若いってことは、それだけで世界が違ってくるものだな」と思う。今の私なら「裁判に訴えるぞ」と騒いでいるところだ。畑の中の道の横に小さなコンビにがある。このコンビには、テレビのオーディション番組で優勝し、今では大スターになった少女の実家のはずだ。私はテレビでそのスターを見たことがある。しかし、十年前ということは、その少女はまだ小さくオーディションに出るはるか前だ。店を覗くと、その少女らしい少女が暇そうに店番をしている。

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