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朝日記240627 ―随想―はかれないものをはかる

2024-06-27 15:46:14 | 自分史

朝日記240627 ―随想―はかれないものをはかる

初出し 「HEARTの会」会報 No.113 ,2023年春季号、NPO法人人間環境活性化研究会 ISSN 2186-4454

 

―随想―はかれないものをはかる

会員 荒井 康全

 

親愛なるいろは様

「はかれないものをはかる」というのを準備しています。気の付いたときにやっておかないと忘却の彼方へ旅してしまうからやっておくということです。

この十余年、「システム思考における目的論構造と社会倫理」というテーマにとりくみ、ようやく社会的倫理というところに至り、その芯の意識とは?というところに私はいます。

いま近代西洋哲学の一方の巨人スピノザとくに彼の著Ethicsエチカに焦点を当てています。

彼は人間精神を思考に限定せず、(思考をふくめて)精神と身体を一体としてとらえた点で、私がすきなカントやハイデガーなど大陸の主流哲学である経験と理念を悟性と理性でむすぶ認識批判哲学とは一線を画しています。 

後者は論理・合理性中心の哲学で、やさしさとか尊さとかといった人間の意識(無意識を含む)や感情は哲学的思考から別に置くという一貫した姿勢をとります。むしろ意識、とくに感情は論理的な思考を混乱させるものとして控えの部屋においてきた歴史を持ちます。これをも

って近代科学技術を推進し、西洋の文明的圧勝をもたらしたといっても過言ではありません。そして人類の人口頭数を爆発的に増大した、地球環境の環境変化をもたらし、さらに情報的統合化による情報処理の一元高速化した一方、深刻な矛盾と、紛争の予兆や不安を現在と未来にのこしたといえます。

しかし、上にのべた論理思考など人間精神からの知性とともに本来並ぶべき、ひとのいきる尊さや優しさなどの徳性については、詩や音楽や絵画など文学や芸術系に片寄せされた観があります。経済や政治、生活とそしてそれを支える科学技術などの実践系とは分断されてきたようにおもいます。 

そして、それが不味いという考え方と、それでよいという考え方へとも尾をひいてさえありそうです。これらが整合会合するということにより叡智に通じるという恩恵はありそうですが、一方つながっているがために世俗実践系の邪悪な野心からの悪用がし易くなり、世界は特定の“うつけもの”の手によって死息、破滅に至るということも危惧も想像できます。

しかし、これを乗り越えるのも人間の叡智と相互愛によってのみ可能であるので、やはり上のような知性と徳性がつながったという意味での叡智が根幹であるとおもいます。

スピノザはそのために「意識」概念を彼の哲学の中心において位置付け、人間精神活動の復活を問いかけてきます。わたくしは、彼のこの哲学は、きわだって

 


現代世界に生きてくるとみます。たとえばいま過剰にもてはやされるAIでは人間精神活動は確実にほろび、(過剰に表現すれば)世界もほろぶと見ます。

そんなことをおもいめぐらせていたら、たまたま、絵本で「はかれないものをはかる」というのがわたくしが住む町田市文学館の棚にあるのが目にとまりました。そうだよね、「意識」などを測るという発想が、逆におもしろいとおもって手にとったのでした。測れるかどうかわからないから絵本になるとも言えるのですが、(狡猾な「客観」に取り込まれるまえに、)「主観」の世界で「意識」を測るという投げかけで、なるほどねえという問題意識に面白みがあるとみました。作者自身がそのようにとらえているかわかりませんが、みえざる時代の意識をとらえているといっておきます。    康

 

絵本 『はかれないものをはかる』

工藤あゆみ著から 49測定のうちからいくつかを紹介します;

1 Measure how much water it takes to wash the past away

その過去を洗いながすのに必要な水の量を測る

2 Measure how cozy a bed can be

 


ベッドに居過ごすことの優しさを測る

3 Measure the vision needed to guess the truth

真実に思い至るために必要なそのビジョンを測る

4 Measure the fragility of piled up excuses

溜まってしまった‘ごめんなさい’の脆さを測る

5 Measure the resistance of the door of the heart

閉ざしたこころの扉を開く固さを測る

6 Measure how big the feeling is on the happiest day

お祝いの日でのその感覚の大きさを測る

7 Measure darkness in a heart

ひとのこころの闇を測る

8 Measure the effect of your works of encouragement

きみが励ましてくれたことごとの効果を測る

9 Measure the intensity of love at first sight

一目惚れのつよさを測る

10 Measure how much white is needed to protect purity

清純を護るためにはどのくらいの量の純白が必要かを図る

11 Measure how long it will take my body and heart, wet with sadness, to dry

かなしみに湿り切った私の体と心を乾かす時間を測る

12 Measure the heaviness of memories; happy, good and bad ones

記憶の重さを測る;幸福、善そして悪のひとつひとつ

13 Measure the ability to inhale happiness

幸福を吸い込む力を測る

14 Measure the strength arms capable of carrying so many smiles

たくさんの笑顔を運ぶ奥行きのある腕の力を測る

15 Measure how fast one’s heart can change

ひとのこころの変わる速さを測る

16 Measure the difference to temperature between instinct and reason

本能と理性の間の温度差を測る

親愛なる康全さまへ

両目の白内障の手術を挟んで執筆をされたとか、かすんだ眼で見るのとクリアに見える世界は、入ってくる情報量の違いがでてきますね。情報量も「はかれないもの」ですね。

毎日の料理はこの「はかる」という作業の積み重ねです。まずは何人で何を食べるかで、材料は何を使いどれだけの分量が必要かを考えなくてはなりません。ある女優さんが結婚するまで料理を作ったことがなかったそうですが、早くに美味しい料理を作れるようになったそうで、いまはネットを検索すれば料理のレシピが出てくる世の中。書かれた分量に添ってきっちりと作れば美味しいものが作れ、わたし失敗しないので、と。女性の方が元気で長生きできるのは常日頃から「はかりごと」をしているからかもしれませんね。

小さじ1杯(15㏄)、大さじ1杯(30㏄) 1カップは200㏄、お米1合は180㏄と決まっていますが、料理の言葉には面白い表現がたくさんあって、塩少々は親指と人差し指で軽くつまんだ量、ひとつまみは親指と人差し指と中指でつまんだ量です。他に、きっちりとは量れないような、ひたひたに鍋に水を入れて煮るなど、口伝のような言葉もあります。慣れてくると次第に適当な感覚や目分量で作れるようになります。また、理科系男子や定年後に始めた男のかたの中には、レシピに忠実に作るので味が安定して美味しく作れるという話も聞きます。

私の所属する短歌会の主催の佐佐木幸綱先生は、ご結婚された時からずっと朝食のお味噌汁はご自分で作っておられるそうで、夜のうちに煮干しと昆布を準備され、だしをとって作るそうなのです。これでもう美味しいお味噌汁が想像できてしまいますね。

「はかれないものをはかる」話から飛躍していきますが、もっともはかれないのはひとのこころで、それゆえにずーっと考え続けているのが宗教や哲学なのでしょうか。南米の少数民族で、文明と交わらずにきた人達の言語に、過去や未来をあらわす言葉がなく、その人たちは不安を抱かずに暮らしていたそうですが、文明が入り、不安をいだくようになったというのです。

未来に希望を抱く者もいれば不安をおぼえる者もいるわけですが、未来への不安が減れば、多少なりとも世界の争いごとも減るのではないかと考えるこの頃です。  

いろはより

 


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