日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

おばちゃんの車にひかれた小学生(前編)

2009年03月11日 | 引っ越しな日々
着物をクリーニング屋さんへ預けた帰り道。

引越し予定のマンションを見るために、
ひと駅手前で地下鉄を降りて、
てくてくと歩き出した。

あと一筋向こうへ行けば、コンビニ、
そのまた向こうに目的のマンション、
というところで、
手前の交差点で信号待ちをしていた。

その交差点は、人通りも車が通るのも少なく、
信号無視をしても、渡れるようなところだった。

だけど、
信号の向こう側に、小学生が3人ほどいたので、
なんとなく赤信号を守った。

小学生らは、
黄色い帽子とランドセルをしょったまま、ハイテンションだった。
コンビニと向かい側の喫茶店のあいだを、
わーきゃー言いながら往復して走っている。

車が少ない、と言っても、車が全く通らないわけではない。
地元の人なら、おそらく抜け道として利用しているような道。

コンビニと喫茶店の間の道の奥の方から、
軽自動車が、決して速くないスピードでやってきた。

それは警戒しているスピード。
おそらく子供たちに気がついているんだろう。

しかし子供たちは、
そんなそろりとくる車を全く気にしていなかった。

ワーキャー言いながら、ふたりの小学生が、
喫茶店からコンビニのほうへ道を横切った。

遅れた小学生の視界には、
おそらく、友達のふたりしかなかったのだろう。

車が近づいたとき、
その子のからだは、ブレーキがかかったような、
無理矢理なストップがかけられた。

だけど、イキオイは止まらなかった。

それは、私が信号待ちをしている交差点から、
向こう3メートルほど奥での出来事。

私は思わず、両手で口を覆った。

     ★

減速していた軽自動車が、
小学生を跳ね飛ばすことはなかったけれど、
急に飛び出した小学生は、
車をよけることは出来なかった。

気がつくと、
右足だったか、左足だったか、
小学生の男の子の上に、前輪が乗っかっていた。

「車どけて~!!」足を踏んづけられている小学生が、
軽自動車を運転していたおばちゃんに声を上げた。

車の前輪が、
小学生の足を乗り越えたとたん、
その子は、喫茶店のドアのところまで戻っていった。

私は驚いて、まだ青に変わっていない信号を無視して、
「大丈夫かー!!!」とその子に駆け寄った。

コンビニ側にいた友達のふたりも、
笑いながら駆け寄ってきた。

楽しくて仕方ないらしい。この非日常な状況が。

理屈ではなく、でもどうしようもなく、
「だから子どもって、嫌いよ!!」と思う。

「シップ持ってる?」とおりすがりのおばちゃんである私に、
足を踏まれた小学生Aは聞いてきた。

「そんなん持ち歩いてない」私が答える。

「そしたらええわ。大丈夫やし」
多少の興奮を抑えて、Aは答える。

「何を言うてるのん。足見せてみ」

残りの小学生BとCはワクワクしながらそのやり取りを見ている。

おそらく、歩けたのだから、骨は折れていないだろう。
が、うっすらと赤くなっている。
意識してみなければ「赤い」と思わない程度の。

そう。直後の足って、そうだ。

軽自動車は、交差点の信号の手前で止まったまま。
誰も降りてこない。

……このまま行くつもりなのか?

軽自動車のおばちゃんより、
喫茶店の夫婦のほうが先に
「どうしたん?」と店から出てきた。

小学生Aは、「シップ持ってる?」と聞く。
喫茶店の夫婦も、「今手元にはないわ」と答える。

私は夫婦に状況を説明した。

夫婦のうちの奥さん側が、
誰も出てこない軽自動車を見つめながら、

「まぁ、保険には入っているだろうしねぇ……」とつぶやく。

そうなんだ。
自動車保険に入っているだろうから、
こんな軽症の支払いを嫌がる必要は全くない。

むしろ、このまま立ち去るほうが、問題なんじゃないのか?

喫茶店の旦那さんの方が、
「おうちは近所?おかあさんは?」
と小学生Aに聞いてみると、
「おうちにはいない。仕事に行ってる」という。

こういう場合、一体どうイニシアティブをとるのが得策なんだろうか?
ペーパードライバーの私には、最善の対処方法がよくわからない。

っていうか、これってドライバーが対処すべきことなんじゃないの?

そりゃ、急に飛び出した小学生が、
真のところでは、一番悪いと思うけど、
社会的には、車側が悪くなってしまうわけで、
その責任は負うべきなんじゃないのか?

喫茶店の夫婦の、
オロオロ感も伝わってくる。

私はもう一度、
「お母さんの勤め先はどこ?近くじゃないの?お父さんは?」
と、聞いてみると、

「この子、お父さんおれへんねんで!!」

と、横から嬉々として、小学生Bの女の子が私に教えた。
小学生Aは黙ったまま。
「なんやねん、こいつ」と私は心で毒つく。

心なしか、小学生Aの顔が赤くなってきたような気がした。

「なんや?熱でてきたんか?しんどいんか?」

と、聞くと小学生Aは、

「ううん。大丈夫。僕汗っかきやねん」と必死で主張。

「そのせいじゃないかもしれへんで。お医者さん行ったほうがいいんと違うか?」

誰がこの場合、お医者さんに連れて行くのがいいんだ?
と、心に迷いを持ちながら言う。

そんなところで、ようやく、
軽自動車から、ひとりのおばさんが出てきて、
こちらのほうへ歩いてきた。

後ろに乗っていたふたりのおばさんは、心配げな様子で、
車のところから、歩いていくおばさんの背を見ているかのようだった。

おばさんは、これから観劇でも見に行くかのような、
おしゃれをしていた。

ここらへんが私の引き際かな、と、
少し安堵した気持ちで、やってくるおばさんを見つめた。

私はまず、
急に飛び出したことを、子どもに謝らせようと思っていた。

おばさんが、開口一発、

「何飛び出してくれてるの!!」

と、怪我をした子どもに怒鳴るまでは。

                    ……つづく。

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