認印は認められてなくても、私のキャラは認められていた。

大阪の前の家の近所まで、
朝から出かけなければならなかったので、
ラッシュアワーの電車に乗った。

前の家では、
主な引き落としを大阪の地方銀行でしていたが、
その支店が、明石にないので、
引き落とし先の変更が完全に完了したら、
解約しようと思ってて、

どうせなら、ついでに、
いろんな人と会えるようにセッティングできる日に、と、
今日を選んだ。

朝、７時に明石を出て、
地方銀行へは、開店１０分前についた。

閉まっているガレージの前を並んで、
一目散に解約の手続きの番号カードを引き抜く。

　　　　　★

手続きの書類に名前を書いて、
使っていた認印を押す。

……ん？この印鑑だったっけ……。

気のせい。気のせい。
悪い予感は当たらない。

な、わけない。

しばらく座って待っていたら、
窓口の人に呼ばれて、
「こちらのご印鑑ではないようなんですが……」

　　　　　★

ちょっとオーバーアクションで、

「今ね、私、明石に住んでいるんですよ……。
すぐに印鑑取りにいけないんですよ……」

なんて思わず言ってしまったりしても、
窓口の人を、苦くさせるだけ。

「解約って、加入した支店でないとだめなんでしょ？」

と、あきらめ口調で言ったら、

「いえいえ。どこの支店でも対応させていただきますよ」

そうなんですか～！！！と、
舞台劇的オーバーアクションでまた返す。
そして、演技は再び、静の動きで、

「でも、ネットで調べたんです……。明石にはないですよね……」

窓口の人は、支店一覧表を見ながら、
「え、えっと……尼崎支店とか、西宮支店とか……」

遠いんです。同じ兵庫県でも、
それは遠いんです……。

「せめて、神戸市内にはないんですか？」
と、聞いてみると、

「中央区と、須磨区とですね……」と言う。

須磨区？須磨区！

その一覧表を覗き込んだら、
山陽電鉄「板宿」徒歩３００ｍとある。

ネットでは、中央区しか見当たらなかった気がしたけれど、
やった！それくらいなら、気力出るぞ！

一覧表を貰って、
通帳や間違えた認印など貰って、
二時間かけて来た、銀行を１０分で後にする。

よかったぁぁ……。他にも用事作っといて。
これで、とんぼ返りだったら、むなしすぎる。

　　　　　★

後に会いに行った、
前の職場の同じバイトの女の子とランチの際、

「解約の為にわざわざここまで来なくちゃいけないのかな？
って、思っていたんですよ！え？違うところでもよかったんですか？」

とか、

「稲田（筆名。ここでは仮名）さんのことだから、
認印間違えてたりして、とか、みんなで話してたんです！
……嘘！本当に間違えたんですか！
さすがだわ。やってくれますよね。ほんと、裏切らないわ。稲田さん」

って、
開口一番で、百発百中で、
きゃらきゃらと、当てられた。

ありがとう。
人に笑いを提供できただけで、
ここまできたかいがあったってもんです……（泣）。

そして、２９日の話は、もう少し続きます。