ジャパネット絶好調のウラで、二代目社長が決断した「捨てる勇気」 髙田旭人社長が語った通販で知られるジャパネットホールディングス。通販番組に自ら出演していた名物社長・髙田明氏が'15年に退任したが、長男・髙田旭人社長(40歳)のもと、同社は創業以来初の売り上げ2000億円を達成するなど、業績は絶好調だ。父に似たアイデアマン社長である旭人氏に、経営哲学を聞いた。
業績好調のカギ
リスクをとらない限り、高い競争力は生まれません。当社は、バイヤーが選んだ商品を数万台単位で買い取って販売しています。売れなくても、メーカーさんに返品はしません。当社は在庫リスクを抱えることになりますが、その代わりに商品を安く入荷しすぐに発送することができるのです。商品の目利きにも絶対の自信があります。だから大量にメーカーから買い取っても、お客様に選んでいただける、という好循環があるのです。アフターサービスもアップデートしました。以前は、故障があったら当社で商品をお預かりし、メーカーさんに修理を依頼して、お客様にお戻ししていました。しかし現在は、修理も7割程度当社で対応しています。この方がお預かりの期間を短縮でき、修理代も下げられ、顧客満足度が大幅に上がるのです。
当社に集まってくるお客様の声も重要です。「この機能はいらない」といったご意見をもとに、メーカーさんに次期商品の製造を依頼することができるのです。お得な商品は、メーカーさんに「安く」「もっと多機能で」など抽象的なことを言うだけでは生まれません。これがジャパネット流の共存共栄です。
私の代で取り扱い商品の絞り込みを行いました。以前は約8500点もの商品を扱っていたのですが、これを約600点にまで絞ったのです。
約93%もの商品を扱わないと決めることには勇気が必要でした。しかし600点だと、商品を厳選して大量に仕入れ、社員も一つ一つの商品に詳しくなれます。さらに、アフターサービスも充実し、商品開発力も高まると、いいことばかりでした。売る商品を絞ることこそが、業績好調のカギだったのです。
中学生の頃から福岡で寮生活をしていたので、普段、出身である長崎の方言はほぼ出ません。また、テレビショッピングにも出演せず、経営のことも論理的に話すことが多いので、初対面の方に「息子はお父さんと違うタイプ」と思われがちです。でも家族に言わせると父と私は「そっくり」らしく、私もそう思います。幼少期の髙田社長。家族は店舗の2階に住んでおり旭人少年は「父の仕事を間近に見ていた」とか
父はああ見えて論理的ですし、私も、父に似て人情深いつもりです。正社員900名の多くの顔と名前が一致しますし、退職する社員がいると、社員からは「社長とは数回くらいしか会ったことがない」くらいに思われていても、私は「ああ、寂しい」と、人知れず落ち込んでいたりします。メールにも一工夫
働き方改革にも取り組んでいます。ポイントは、制度だけでなく考え方を改革することです。
商品点数の削減は労働時間の短縮にもつながり、かつ社員の商品知識が深まって、商品の魅力をより深く伝えられるようにもなりました。考え方次第で、労働時間を減らしつつ、今より多くの成果を得られるのです。
会議も、ただ報告を受ける時間はお互いもったいない。そこで、耳に入れたいことがあれば、私にメールをしてCCに関係者を入れてもらえばいい、と伝えています。その代わり、見逃さないようタイトルに「耳」と書いてもらっています。便利ですよ。
事業承継で印象深かったのは、やはり「家業から社業へ」の改革です。創業者は「自分の会社」という思いが強い。しかし二代目以降は、そう思い込んではいけないと思います。経理も財務もそれぞれに責任者を置いて人に任せないと、社員にとっての「自分の会社」にならないのです。社長交代会見。現在、父・髙田明氏(右)はJリーグチーム、V・ファーレン長崎の社長として敏腕を振るう
休日はよく、グループ会社のJリーグチーム、V・ファーレン長崎の試合を観に行きます。あとは語学の勉強とジム通い。長く続けるため「これはリフレッシュだ」と自分に言い聞かせています。あとは仕事柄、よく買い物をします。やっぱり商品は使ってみないとわからないのです。このカメラは反応が速いなどと、自分の言葉で勧められるのは、使った人間だけだと思います。当社は元々、街のカメラ屋でした。事業規模が大きくなっても、きめ細やかで温かな対応は可能でしょう。一方、事業の規模が大きくなれば、スケールメリットを活かしてより安く商品をお届けできるようになります。
要するに私たちは流通に人の思いを加えたいのです。自分が商品を選んで、試して本気でお勧めしたいものに磨き上げ「ここがいいですよ」と伝えたい。さらに、困りごとがあれば対応し、「こうならいいのに」というご意見も本気で伺いたい。
ものを売って、届ける―。当社はこれからも、そんな四面四角になりがちな関係を面白くしていきます。(取材・文/夏目幸明)
髙田旭人(たかた・あきと)
'79年、長崎県生まれ。東京大学を卒業し、証券会社に入社。米国留学を経てジャパネットたかたへ入社、商品開発推進本部長などを歴任し、'10年、ジャパネットコミュニケーションズ設立時に社長就任。その後、'15年にジャパネットホールディングス代表取締役社長に就任し、以来現職