安全靴メーカーが発売した1900円スリッポン、なぜ女性に激売れしたのか?
作業服や安全靴のワークマンが今年4月に発売した『ファイングリップシューズ』が“お出かけ靴”として売れている。本来は水に濡れた滑りやすい厨房の作業用に生まれた靴が、いかにして老若男女から広く愛される仕様へと生まれ変わったのだろうか。
ワークマン『ファイングリップシューズ』(1900円)
定番の厨房靴をターゲットを変更して再開発
1900円と低価格でありながら、「雨の日の濡れた地面や油で汚れた床でも滑りにくい」と、好評を得ている『ファイングリップシューズ』。実はこの靴、作業服や安全靴の開発・販売を行うワークマンが販売する厨房靴がもとになっている。厨房靴とは、飲食店の濡れた厨房で作業をしても滑りにくく、かつ、動きやすさも追求して作られたもの。長年、シェフや調理師らの間で、作業靴として定番化した商品だった。ところがある日、同社の社員がSNS上で意外な書き込みを目にする。雨の日にレインシューズを履いていても、滑る床が多いと困っていた女性に、同社の厨房靴をすすめる人がいたのだ。そこでは、子供を抱っこしていたり妊娠していた場合は、ブーツだと脱ぎ履きしづらいので、おしゃれ度を優先するより、スリッポンタイプがいいといったやり取りもあった。
たしかに、従来の厨房靴は、スリッポン型ののっぺりしたシルエットで、とてもおしゃれとは言い難い。ならば、本来の厨房靴として利用できつつ、妊婦をはじめ、滑って転倒する危険を避けたい人たちにも広く履いてもらえる、デザイン力のある靴を作ろう─新たなターゲットを据えた開発が始まった。
スリッポン型のデザインで街履きにもなじみ、子連れのママにも人気がある。
より大勢の人に受け入れてもらうためには、まず価格を抑える必要がある。安心して買える1900円と決め、予算内で性能を制限することなく、むしろ最大限に引き出して、滑りにくい靴を作る。それは予想以上に難しいことだった。
より滑りにくい靴底を追求
最も苦労したのが、従来比よりさらに滑りにくい靴底を作り出すこと。そしてそれを低価格で引き受けてくれる工場を探すことだった。滑りにくさは、靴底のデザインとゴムの配合によって決まるのだが、この耐滑性(たいかつせい)は、1~5までの区分で表される。同社では、商品の耐滑性(滑りにくさ)を謳うとき、3を基準にしている。従来の厨房靴の靴底は、耐滑性が3。しかし、靴底は三角形が縦に並んだデザインだったため、縦の動きには強いが、横の動きには弱かった。
そこで新たに滑りにくい靴底のパターンをいくつも考え、検査を重ねた。しかし、低価格の商品でありながら、高耐滑な靴底を製造してくれる工場がなかなか見つからない。それでも諦めず、工場との交渉を重ねていくうち、大小の六角形を組み合わせたデザインの靴底にたどり着く。溝の彫りの角度を直線的にすることで、油や水の浸入を防ぐことができ、縦や横の動きにも強い。なんと、耐滑性は最高値の5。性能面でも価格面でも目標をクリアする靴底を製造してくれる工場が、ついに決まった。