ツアーに出てホテルに泊まる。レコード会社が前もって予約を入れておいてくれたホテルに入り、そこからライブ会場に向かう。そんな生活が1週間、10日と続く。
部屋割りはシークレットツアーのときと同じで、僕とTERUとローディーくんで1部屋。TAKURO、HISASHI、JIROで1部屋だった。
「ホテルの質もこの間よりいいじゃん。ボロっちくてもホテルって名前がつくんだから、それ以上のことは言えないよな。」 最初はメンバー誰もがそんなことを言って、ホテル生活をエンジョイしていた。
●給水制限で水が出ない
しかし、そんな生活が1週間、10日と続いてくる。広くもない部屋に3人がつめ込まれているわけだから、まるっきり自分の時間が持てない。徐々に険悪な雰囲気が漂ってくる。
四国に行ったときなど、古いあげくに設備が悪いホテルだった。
元々、四国は降雨量が少ないことに加えて、折からの乾燥した天候が続いたことともあって、コンサートが終わり、ホテルに帰っても水道の水が出ない。「給水制限があるので水が出ません」 ホテル側からこう申し渡された。
しかしこう言われても、エネルギーの限りを尽くし、汗まみれになってライブを終えたメンバーにとっては、我慢にも限界というものがある。
次の福岡のホテルでも同じような事件があった。
福岡でのライブも盛り上がりに盛り上がった。ライブの後、シャワーを浴びて汗をさっぱり流し、気持ち良く打ち上げに行こうとホテルに戻ると、「給水制限のため水が出ません。よろしくお願いします。」 そんな張り紙がしてある。
2日連続水が出ない。さらに1部屋で3人で眠る。ツインルームだからベットは2つしか付いていない。誰か1人はエキストラベットということになる。
あまりの待遇の悪さに、全員がキしてしまった。
●これ以上仕事できない
TAKUROがレコード会社のスタッフの元に走った。
「僕たち、今まで我慢してきましたけど、こんなホテル事情が悪いようなツアーだったら、これ以上仕事できません。だいたいこんな狭い部屋に3人ずつめ込まれて、1ヵ月も過ごさないといけないなんて、いくらなんでも息がつまってしまいます。」
「一緒にステージをする。一緒に食事をする。それはいいとして、夜、部屋に戻って寝るときくらいは自分の時間がほしいです。どんな小さな、汚いホテルでもかまいませんから。1人1部屋確保してください。そうでないと、僕たちこれ以上ツアーを続けることも、いいステージを続けることにも自信がありません。」
TAKUROが理路整然と自分たちの意見を述べると、レコード会社の人たちもわかってくれたようだ。
「こんなんじゃ夜だってオチオチ眠れないし、絶対にヤダ。」 メンバーからそういった意見が出ていることを、レコード会社の関係者も薄々は気が付いていたようだ。
その日、TAKUROの申し出を聞くと、「わかった。次からは1人1部屋取るようにするから、とりあえずは我慢してくれないかな。そのことは本社のほうとも話し合って、すぐに解決するようにするから。」とレコード会社の人は言ってくれた。
ようやく1人1部屋もらえるようになったのは、新潟から仙台に移動した夜のことだった。
【記事引用】 「GLAY‐夜明けDaybreak/大庭伸公(デビュー初期のドラマー)・著/コアハウス」