ホコ天でGLAYに出会ってから1週間後、神楽坂のエクスプロージョンに足を運んだ。
午後7時頃になると、すでにセッティングを終えたGLAYが演奏を始めた。初めて見るGLAYのステージ。それを見た瞬間、俺(AKIRA)はぶっ飛んでしまった。カッコいい。あまりにもカッコよすぎた。
休日の昼下がり、ホコ天バンドの一つとして演奏していた彼らとはまったく別の人間がそこにいるようだった。ただ、ボーカルの歌唱力は、あの時と変わらなかった。
●GLAYのサウンドに興味
この日のGLAYはファンデーションで化粧し、髪をツンツンに逆立て、モノトーンの衣装に身を包んでいた。TAKUROの絞り出すようなギター音と聴く者をとらえて離さないTERUのボーカル。
技量はともかく、当時注目を集めていたビジュアル系バンドとして売れるであろう素質を十分に備えていた。その日、エクスプロージョンに集まったGLAYのファンは20人にも満たない少数だった
しかし、1曲目から『FLOWERS GONE』、そして『JUNK ART』、続いて『TWO BELL SILENCE』と、GLAYのサウンドを存分に発揮する曲を、TERUは歓声に応えながら歌い続ける。
ライブを聴いていると、自分がドラマーであるからかもしれないが「ドラムの腕はたいしたものではない」と感じた。
一人ひとりのギターの腕も、それまで自分が経験してきたバンドのギターテニックを凌ぐものでもなかった。しかし、ステージ上でGLAYというバンドがかもし出す、サウンドそのものに俺は非常に興味を引かれた。
そして、GLAYの出番が終わり、次のバンドがステージに上がった。
●メンバー入り申し込み
俺は目的を達成するため、エクスプロージョンの楽屋へと向かった。しかし、どこをのぞいてもメンバーはいない。
「GLAY? ここは楽屋が狭いから、店の前に止めている自分たちの機材車に行って休んでるはずだよ」 違うバンドのメンバーからそう聞かされて、俺は楽屋から表へ出た。
すると、GLAYの機材車が止まっていた。車体に『GLAY号』と書かれていたのですぐにわかった。よく見ると、TERUたちメンバーの何人かは路上で自分たちのファンとおしゃべりの真っ最中。
俺は断りもなく車のドアを開けると、「GLAYのメンバーの方ですか?」と車の中に1人でいたヤツに声をかけた。それがTAKUROだった。「ええ、そうです。なんですか?」
俺は、挨拶もそこそこに用件を切り出した。
「実は先日、ホコ天の時に猫来 (ねこ) というバンドでドラムを叩いていた者なんです。目の前にGLAYさんがいてとても興味を持ったものですから、今日のライブを見に来たんですよ」
そして、「正直言って、今ドラム叩いてるヤツはあまりうまくないですね。俺、そこそこドラムには自信あるから、GLAYのドラムとして使ってもらえないかなぁ」 と、初対面ながらメンバー入りを申し込んだ。
●一緒にやりましょう
その時のTAKUROは、背もたれに体を預け、自分たちで作ったアンケートのファンからの回答に目を通していた。
俺の言葉に、TAKUROが身を乗り出す。「あ、そうなんだ。あの時の猫来のドラム叩いてたの、あなただったんですか。俺、あの時の猫来のドラム、気に入ってたんですよ。音がね」
「俺、上島といいます」 TAKUROが右手を差し出してくる。俺もその手を取った。「うちのドラム、まだ高校生なんだ。だから、学校のある時なんか、ライブ活動とか地方のツアーなんかに行けなくて困っているんだよ」
俺は驚いてしまった。GLAYといえば、函館から上京し、プロを目指しているバンドだと聞いてきた。なのになぜ、高校生のドラマーが参加しているのだろう。
「いや、ドラムが次々に交代しちゃって、音楽雑誌で募集したら今の子が来てくれたんだ。とりあえずって形でね」 当時のGLAYのドラムはイソといった。
ボーカルはTERU、ベースはシンゴ、ギターはHISASHIとTAKURO。まだ、JIROが加入する前だった。
GLAYのメンバーの前で、それまでのバンド活動の経歴などを語った。TAKUROは俺の目を正面から見すえ、「わかった。やりましょう。一緒にやりましょう」 こう言って、何度も頷いた。
「今のドラムの子は、どうするんですか?」 俺がそう聞くと、TAKUROは、「大丈夫ですよ。ちゃんと断りますから。『君のドラムでは、GLAYの音楽は表現できないから』ってね」
その時の会話から、リーダーであるTAKUROの回転の速さとキレに、「このリーダーなら、ひょっとすれば成功するかもしれない」と思った。
●メンバー入り内定
HISASHIもTERUも、なかなか機材車に戻ってこない。
俺が、「メンバーに加えてくれるんなら、ほかの3人のメンバーにも、挨拶していったほうがいいのかな?」 こう言うと、TAKUROは、「いや、俺から言っとくから今日はまだいいですよ。まだ今のドラムいることだし・・・」
「それより、1回スタジオで音合わせしたいね。とにかく、ちゃんとした所で音を聴きたいから」 そう言うと、TAKUROは俺に1本のデモテープを渡した。それは、『Angerus Bell』だった。
「俺たちの持ってる曲ってまだ10曲ぐらいだけど、とりあえずこの中の曲を覚えてきてくれないかなぁ。今度スタジオで音合わせする時に、この曲でやってみたいから」 そう言われた。
俺は、その時TAKUROに「猫来のメンバーから『LOVE SLAVe』を借りて聴いたんですよ。なかなかいい曲ですよね」 と言った。
すると、TAKUROは急にうれしそうな顔になって、「あぁ、そうなの?もう、そういう準備してくれたのか。それは心強い。ぜひ一緒にやりたいね」と言ってくれた。
【記事引用】 「Beat of GLAY/上島明(インディーズ時代のドラマー)・著/コアハウス」