
さあ、買って参りました。黄色い表紙。例によって特別定価750円。でも関係ない。そこに小野不由美の文字があれば・・・
そして、読みました、「落照の獄」。
タイトルは読んでみればラストシーンの情景を示すのですが、それはそれは重いダブルミーニング。
以下、まだお読みでない方には内容を示し過ぎないようにレビューさせて頂きましょう。
とはいうものの、やはりネタバレです。読みたい方は、読んでからお越しの程を。
死刑。内容は全く現代日本が抱える問題をなぞっている。
申し訳ないが、十二国記、あの懐かしい人々が活躍する世界を期待する向きには、全く背を向けた内容だろう。そう、前回小品のラスト、陽子の登場、あの喜び(ささやかではあったが)に匹敵するものすらない。
柳国と聞いて、帰山を思い起こし、利広や隣国の2人を思い浮かべた筋はがっかりであったろう。
もちろん、設定や世界観に酔う人々には、しっかりあの世界が描かれている。秋官やら難しい官姓を聞いて懐かしく喜ぶ方もいよう。
だが、作者はひたすら死刑と死刑廃止論を語り続ける。それは容赦なく。
別段作者が死刑廃止を訴えているのではないが、その、死刑廃止論という、日本では割合響き難いテーマを実に分かりやすく展開しているように思えた。
裁く側から見て、実に困難で身を削る問題であるかが切々と語られて行く。
更生という刑の本質。死刑は民の復讐というメカニズム。短絡で言えばそういう構図が浮き彫りにされる。
被害者の家族、裁く側の役人の妻。そういう狂言回しを得て辿り付く選択は・・・
ファンとしては残念なのかもしれない。そこに求めているのは「あの」世界なのだから。
しかし、このシリーズを通して政治を、社会を問うて来た作者としては、民主党政権、しかも、死刑廃止論に踏み込んでいる法相が就任した直後、実にタイムリーだったのかもしれない。
小野主上、ありがとうございました。
また、この世界にめぐり合える時まで。
FANは絶対何時までも待っていますよ。