アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

窮れる女王と女狐 Ⅱ

2016-12-09 03:56:32 | 伝奇小説
 扉をたたく音で眼を冷ました窮れる女王、庭に大勢の人の気配がして、ザワザワと騒がしかった。
「どなた様」
 女王の許可が出る前に扉が開いた。
 驚いて息を潜める女王。なんと、数年前に館を離れた乳母と仲良しだった侍女が立っていたからだ。
「まあ!」
「まあまあ、お元気そうで安堵致しました」
 乳母の言葉が終わらぬ内に、女王と侍女は再会の喜びの余り抱き合っていた。
「姫様」
「女刀自(めとじ、たんに女の子の意味で当時庶民の女子には名など無い)」
 抱き合う二人の顔は涙でグシャグシャだ。
 ピシッ! 来寝麻呂の鞭が唸った。妹狐の裳から尻尾が覗いていたからだ。
 慌てて尻尾を隠す女狐。
「姫様に又お合いになれて嬉しゅう御座います」
 来寝麻呂の指示で従者達が食べ物などを次々と運び込んでいる。
 呆然と見とれる女王。
「これは?」
「姫様が宴を開く事が出来なくて,お悩みだと、風の噂に聞きましたので、こうやって飛んで来ました」
「嬉しい!」と、次々と土間に積み上げられる物物に見惚れて、呆然と佇むばかりであった。
「私共が参りましたからには、もう姫様にお不自由はお掛け致しません。早速宴の準備を致しましょう。それ! 皆様方も励みなされ」

 まず、皇族方への招待状が認められたが、王女は不満顔であった。天智系の皇族のみえの招待状だったからだ。
「お願い。天武天皇のお孫様方にも文を差し上げて」

 宴の当日、四十人もの皇族が集まり、贅を凝らした持てなしにに皆喜んだ。
 窮れる女王などととんでもない、なんと裕福で幸せな女王なのだろう、あやかりたいものじゃ。
 諸王達が舞いかつ歌う様はまるで天上の楽のようで有った。
 一人一人が女王の前に来て招待のお礼をいい、土産の反物や酒などを献上してくれた。とりわけ、天武系の諸王の献上物は豪華な物ばかりだった。
 白壁王も来ていたが、窮れる女王の幸せな姿を見ながら隅で嬉しそうに酒を嗜んでいた。
 最期に葛城王が挨拶に来た。
 女王は驚きの余り、声も出ず、しどろもどろになってしまった。葛城王は皇族派の貴族では長屋王に次いでの位階と人気を持っていたからだ。
「姫、お喜び下さい。盗人の正体を突き止め、きつく咎めましたので、お心を安らかに」

 葛城王の言葉通り、とどこっていた分も含めた献上物が窮れる女王の元に届けられた。
 突然の幸せを喜んだ女王は、せめてもの恩返しにと、手に入れた一番美しい衣を乳母に与え、一番鮮やかな裳を侍女に持たせた。
「吉祥天様にもお礼を言わなければ」と、女王は服部堂に行って吉祥天を拝むと、不思議な事に衣は像が着ており、腕には侍女に与えた裳が掛かっていた。
「なんと有りがたい事でしょう。一生貴女様を拝み続けます」
 女王は吉祥天に心からの祈りを捧げた。
 ちらっと女狐が像の陰から顔を出したのに女王は気がつきません。
 女狐は堂を走り出ると、ピョンビヨンと跳ねながら生駒に向かって一目散。二度と女王邸には戻りませんでした。裕福になって、人の出入りが多くなった館は居心地が悪かったからに違いありません。

 女王は、夫と子にも恵まれ、生涯裕福で幸せな生活を送ったそうです。
【窮れる女王と女狐 完】
 
 追記。
 目立たぬ処世術が功を奏して、白壁王は神護景雲四年(770年 ) 、第四十九代・光仁天皇として即位されました。光仁天皇と百済系の高野新笠(夫人)の間に生まれたのが平安京を造営した桓武天皇です。
 この直系が今の皇室の基となって居ります。
2016年12月9日    Gorou


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