アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

あいものがたり Ⅵ

2016-12-14 02:59:25 | 伝奇小説
 あいちゃんは客席の後方に佇む一人の学生を見つけると、頬は桃色に染まり、胸は張り裂けそうになりました。あいちゃんはその学生さんに恋をしていたのです。
 ドロドロドロとドラムのロールが不気味に響き。
 ピーピーピーヒャラ、笛が不安を客席の不安を募ります。
 あいちゃんは舞台袖の座員達に哀願の眼差しを送って、哀しげに首を振り続けます。
 ドロドロドロ、ピーピーピーヒャラ。
 哀しいことに,心とは裏腹に、あいちゃんの首が反応してしまいます。その美しい項が、少しずつ伸びて行きます。
 ドロドロドロ。
 二メートル、三メートル、そして十メートル以上も伸びて、客席を徘徊します。
 阿鼻叫喚、残念ながら客席に恐怖の叫び声など上がりません。むしろ、皆喜んで拍手喝采! それほどあいちゃんはここの常連に愛されていたのです。
 あいちゃんは舞台の奥で震える子犬に気がつき、その首が子犬(座長のシロ)をめがけて襲います。
 キャイ~ンとばかりに鳴いたシロの首筋から真っ赤な血がしたたり落ち、あいちゃんは舌なめずり、その血はイチゴシロップの味がしました。
 アーイッと現れるからあいちゃんと呼ばれるその娘はろくろ首だったのです。重ねて断言します。この一座にインチキは有りません。座員は皆本物の妖怪でした。

 無事興業が終わり、一同はテントの前の縁台でのんびりと過ごしていました。楽しそうに話し合う一座の面々の中であいちゃんだけは俯いて哀しそうです。
「あいちゃん、元気出しなよ」
 お軽があいちゃんを励まします。
「人の世に起きる事なんかにくよくよしたってしょうがない。あいちゃんご覧よ綺麗じゃないか、蛍が光ってるよ」と、さこひめが言った。
 確かに辺り一面に蛍が光ってゆらゆらと飛び交っていた。
 あいちゃんはやっと顔を上げて蛍を見た。
「ほんとだ、キレイ!」
「綺麗だけどね」と、小雪がお軽の耳元で密やかに囁いた。「河太郎のいたずらさ、こんな汚い隅田の河に蛍なんか棲めるもんか」
 小雪の囁きが聞こえなかったのか、お軽も蛍に喜んで、飛ぶ蛍と戯れだした。
 辺りを見回すさこひめ。
「おや、おまあばあさんの姿が見えないね」
「今夜もかい、ひさ火もけち火も付き合ってるみたいだね」と小雪。
 
 林の小道を急ぐ若い娘がいた。
 数人の不良が後をつけてていた。
 気配を感じた娘は歩みを早め、やがて小走りに走り出した。
「極上の獲物だ。逃がしちゃならねえ」と、不良達も走り出した。
 大木の陰から突然現れるおまあばあさん。
「おまあらの母じゃ」
 驚いて立ち止まる不良達。
「おまんらの母じや」
「ふざけた事抜かすな。俺っちのおっ母は、・・・男と逃げた」
「おいらは自慢じゃ無いが孤児だ」
「俺のお袋は二日前におっ死んだ」
「おまあらの母じゃ」
「おい、こんなきちがい相手にするな」
「そうだ、急がなくては逃げられてしまう」
 不良達はおまあ婆さんを残して、娘の後を追いかけた。
 遠ざかる不良達に呼びかけるおまあ婆さん。
「おまあらの母じゃ!」
 なぜか嬉しそうに微笑んでいるおまあ婆さん。

 急ぐ不良達の前に二つの人魂が現れて、おいでおいでとばかりに墓場のほうに誘う。
 ジャンジャンジャラ、どこからともなく不気味な三味線が聞こえて来た。
 怯んで竦む不良達。
 人魂はだんだん数が増えて行く。
「てやんでえ。人魂なんか怖くねえぞ! だよなあ」
「あたぼうよ。人魂が怖くて浅草で悪さなんて出来るか」
 不良達はだんだん元気を取り返します。
「かまうことはねえ! とっ捕まえて見世物小屋に売り払っちまおう」と、匕首を抜き放って人魂に飛びかかって来た。
 これには、人魂のむさ火とけち火の方が怯んで姿を消した。
「ざまあ見ろ!」
「さあ早く追いかけようぜ」
 娘の後を追う不良達ですが、残念無念、娘は我が家に逃げ込んでいました。
     2016年12月14日   Gorou


コメントを投稿