駄文ブログ-だぶろぐ-

めんどくさがりな自分が日常の茶飯事を書き綴ります

結び方を忘れた日

2009-12-27 23:49:08 | 日記
一人の男が、ネクタイを持って首をかしげている。
首に掛けては結ぼうとするが上手くいかない。
また首をかしげる。
この作業を繰り返して、かれこれ10分が経とうとしていた。
何か腑に落ちない、何故こうなったのか理解できない混沌とした表情。
それもそのはず。彼は毎朝、何百何千と繰り返してきた『ネクタイの結び方』を、完全に忘却したのである。
いや、『忘れた』のではなく、今まで全自動で首にネクタイを巻いていた両手の機能が完全に停止し、バグを起こしているような感覚。
何故そうなったのか…その理由は解らない。理由が解った所で、手が瞬く間にネクタイを結び出す訳でもないのだが…。
また首にネクタイを掛ける。
どっちを長くするのか。右が上か、左が上か。
序盤でつまづく有様である。
もはや中学1年生の『初ネクタイ』である。ジャメビュを見ているかのような感覚に陥りつつ、アプローチ方法を変える。
まずネクタイをハンガーに掛ける。シャツを脱ぐ。
そう、仕切り直しである。リズムが大事なのだと思った男は、シャツを着るところから再度挑戦を試みたのだった。
今一度シャツを着る。ボタンを止める。ネクタイを手に取る。ネクタイを結…べない。
やはり同じ所で手が止まる。
ネクタイを首にかけた途端、催眠術にでもかかったように全身が硬直した。
結ばれないネクタイを両手に持ったまま、時計を見る。一瞬焦る顔。
観念した男はそのままネクタイをバッグに押し込むと、自宅を後にしたのだった。


結局その日はネクタイを結べず、翌日何も考えずに着替えていたらいつの間にか結んでいたのでした。
何だったのだろう。
考え過ぎは良くないって事かね。

電車の男

2009-12-22 02:59:50 | 日記
混沌とした世界。
それは今朝遭遇したような事を言うのだろう。

今朝…と言っても時刻は12時半過ぎだが、夜が遅く、従って朝も遅い自分にとってはこの時間帯はまだ"朝"なのだ。

兎にも角にも、12時半過ぎ。電車に乗る俺。混雑率は110%くらいになっている。座席が埋まり、立っている人が何人かいる感じだ。
普通の日常だった。
優先席に座る黄色いスエットの男を見るまでは…。

年は30歳半ば程。自分より幾分年上に見える。
髪の毛は整えられておらず、茶色に染めたところか斑になっている。
加えて、無精髭で、2~3日剃ってないような印象を受けた。

身嗜みにルーズな事以外、特に目立った特徴はない。

ふと、目線を落としてみる。男が手に何かを持っていた。
10cm×5cm×2cmくらいの箱。
ずいぶんボロボロになっているが、辛うじて手の隙間からその箱に記されている文字を読み取る事ができた。

『GAME BOY ADVANCE』

ゲームボーイアドバンス。
一瞬、自分が過去にタイムスリップしてしまったような錯覚に陥る。
この男、任天堂DS-LL、任天堂DSライト、任天堂DSを超え、アドバンスを未だにプレイしているのだというのか。
いや、それはそれでいい。無骨なドット絵が好きな人間もいるし、自分もその一人だ。
しかし、ソレだけは理解し難い。

その左手に持っているカセットテープレコーダーだけは。

なぜ今、ゲームボーイアドバンスなのか。また、なぜゲームボーイアドバンスのソフトを箱ごと持ち運んでいるのか、そんな数多の疑問を打ち消すかのように現れたカセットテープレコーダーに、俺は釘付けになった。

純粋に"凄い"と感じた。

現役で稼動しているゲームボーイアドバンスとカセットテープレコーダー。凄い。
それを何の臆面も無しに持ち歩く男。凄い。
そして、この日最高気温9度の中、サンダルで外出しているこの男。
…凄い。

駅に着き、立ち上がる男。見上げる身長182cmの俺。身長が優に190cmを超えている。凄い。

なにもかもが常軌を逸していた。時代も季節も頭の中で混沌となる。西暦何年の何月なのか…何かがおかしい。
発狂しそうになった時、目に映った中吊り広告の『2010年』の文字。少し安堵した。自分は2009年を生きている。
落ち着いて前を見たと同時に電車の扉が開く。

外の風は冷たかった。