帰省1 ~帰ろかな 1~

2005-08-31 12:20:03 | コラム
急きょ、福岡のお仕事をTAMAYO姐さんに頂く。
今年の御盆も実家に帰れそうもないな…、と嘆いていたところのグッドタイミング。
しかも唄のお仕事なもんで、故郷でステージを踏むのが初めてだという喜びもある。
とうとう、ワタシは故郷に錦を!!
…と素直に喜びたいのだがその反面、
家族にワタシの素性をどこまで明かせばよいのかが悩みの種であった。
女装で唄っている、なんてハッキリとはまだ伝えていないし、
「女装」なんてキーワードを言ったものなら、
とくにその辺りに敏感な母親の吟線に触れてしまい、
「貴女は、ゲイですか?(涙目)」という流れになってしまう。
おぉぉ、それだけは勘弁。
両親にワタシがゲイであるという事は、「時」が来るまでは絶対に知らせない、
その時が来るまで…と思春期の頃から強く思っており、
それがワタシにとっての親切であった。
(「親切」とは「親」を「切る」と書くのか…フーム…複雑。)
しかしもしかすると、今回がその「時」になってしまうのか!? 
…今回の帰省の喜びには、この不安がどうしても拭い切れず、
福岡初舞台にも関わらず何だか気が重かった。

そんな旅立ちの前夜、バーソワレで衣装やら小道具を用意しながらソワレ氏とその事を話す。

「どうも気掛かりでして…、何だか気が重いのデス。
 もし親にゲイだとカミングアウトしなくてはいけなくなった時、
 冷静に話が出来るかどうか…。」

「フミフミ、じゃぁワタシが親になるのでシュミレーションしましょう」

「OKです、分かりました。『 実はね、ボクはゲイなんだ』」

「『え!?オーイオイオイオーイ…(号泣)』」

「『いや、確かにショックかも知れないけど、
 でも、ボクにとっては15年前からこの事をずーっと抱えて生きて来たんだ、
 お母さんにとっては初めて聞いてショックかも知れないけど』(非常に冷静に、涙ひとつ見せず)」

などなどと小芝居を続けてシュミレーション。
ソワレさんと話していると、なんやかんや言って楽しくなってしまうので(イイ意味で)、
気分は持ち直し、とりあえず福岡に帰れる喜びを胸に抱き、次の日に備えウチへ帰る。

ー続くー


帰省1 ~帰ろかな 2~

2005-08-31 12:18:30 | コラム
ー続きー

当日。
空港でTAMAYO姐さんと待ち合わせ、飛行機に乗り込み二人の故郷、福岡へ。
道中、福岡の人やら街やら文化やらの気質についてあーだこーだ喋る。
そう、ワタシ達福岡人にとってさえ、
地元ならではのアートや文化を発信している場所が一体何処であるのか分からない。
福岡とはそういう街だ。土壌が肥えていない。
ファッションやアートを取り入れる感覚は優れているのだが、
自ら発信する土壌が非常に弱い。
そして、少なからず今回のお仕事は、
その発信源とはほど遠い…ように思えた。
あれ…福岡、大丈夫か??

福岡に到着、TAMAYO氏と空港で別れ、
ワタシは今晩の家族会議に備える為、少しばかり天神を散歩した。
…気が重い。首筋が急に凝ってきた…。
何でこんな思いをしなくちゃならないんだ。
家族に会うことで、何でワタシはこんなに気を重くしなくてはいけないんだろう。
ワタシは正直、家族を愛している。
たとえ自分がひどく傷付いても、親を傷つけることは何よりも苦しい。
だけど、これは親を傷付けるためにやっているわけじゃない。
何で後ろめたく思わなくてはいけないのか?

日が暮れ始め、渋々父に電話。
新しく出来た地下鉄に乗り、初めて降りる実家近くの駅で待ち合わせることになった。
そして、駅を降り、地上に上がるとそこには両親が。
父親は久しぶりなのか妙に不馴れな挨拶。
母親は相変わらずいつもの曇った表情で幸せも逃げる程の悲し気な顔をしていた。
てっぺんからつま先をなめるように見て、東京暮らしを伺っているようだった。
はぁ…、暗い!何だこの空気は!
久々帰って来たのに、何だこの暗い空気は!

車に乗り込み、実家のある山を登る。
だんだんウチが近付くにつれて、ワタシの首筋の凝りが激しくなっていた。
う…何かイヤな「気」を感じる。
近付けば近付くほど、何か強大な「気」を感じる!
森の木々がイヤに重々しく、ワタシと拒絶反応を起こしている!
そしてウチに到着し、扉を開けるとそこには!

…純粋無垢の、神聖な赤ん坊が待ち受けていた。 

 -続く-


帰省2 ~星空の孤独 1~

2005-08-31 12:15:13 | コラム
 -続き-

ワタシの姉が、去年の11月に目出たく子供を産んだ。女の子だ。
その子の写真を時々送ってくれてたのだが、
実家に帰っていなかったため一度もまだ会ってなく、
今回の帰省の1つのイベントでもあった。

ワタシは子供と接するのが非常にニガテ。
特に赤ちゃんと接するのは最高にニガテなのです。
凄くカワイイんだけど、どう接してよいのか分からない。
そんな赤ちゃんが、扉を開けると待ち構えていた。
するとどうでしょう。
さっきまで曇りっぱなしの母親が、
見た事もないくらいの満面の笑みでハイテンションになっている。
父親も普段出さないような領域の声を出している。
何だこれは!?
そして、何と言っても姉。
姉が完全に「母親」になっていた。簡単に言うと「違う人」。
そう言えば一番最近に姉と会ったのは、子供作ろうかなぁーと悩んでいた時。
結婚して、思ったより時間が退屈に過ぎていることをワタシに打ち明けて、
それだったら子供作ったら?などと話をしていたのが1年以上前。
今目の前にいる姉は、完璧に「明解な役割を持った」女、だった。
その事実は非常に嬉しいことだ。立派なもんだ。
だけど、単純にワタシは「え?」と思ったのです。
1人の「ベイビー」を取り囲んで、
このウチの空気は一昔前と全く姿を変えてしまっていた。
ワタシが思い悩んでいたわりに、

『家族は何げに、幸せそうだった』。

そして、赤ちゃんとも接するのが下手なワタシなので、
居場所を探してソファーでくつろいでいても、
話題の中心は「ベイビー」なのである。
そりゃわかる。可愛いもん。
みんなが赤ちゃんを常に構う気持ち、わかる。
ワタシも構いたくなる(下手だけど)。
でもさ、問題は、
ワタシは今、どこに居ればいいのかが分からない、ということです。
この家族構成に、ワタシは入る余地が見つからないわけです。
この人たちが、みんな「他人」に見えるわけです。

ー続くー


帰省2 ~星空の孤独 2~

2005-08-31 12:10:24 | コラム
ー続きー

夕食の準備が進むなか、相変わらず父はワタシにビールを呑ませる。
まずは晩酌から始めようか、といういつもの流れに入る。
そして、今回の帰省の目的(仕事の内容)などを、遠慮しながら探りを入れてくる。
遠慮させる原因を作ったのは紛れも無くワタシ、なのだが。
ある程度予測をしていた家族会議がとうとう始まったゾ…と思いきや、
気が付けば「ベイビー」に常にシフトされている。
全体の空気がいつもならワタシ一色に染まるところなのだが、
気が付けば「ベイビー」に常にシフトされている。
つまり「ベイビー」がワタシの澱んだ空気を清浄化しているのだ。
うーむ…ベイビーの力は凄い。
何だかワタシだけ、この新生家族に混じることが出来ない。
いつまで経ってもワタシは変わらず「子供」だ。
もう次のステップに移ってもいいだろう時期に、1人だけ変わらず「子供」だ。
親は「祖父母」になり、姉は「母親」になり、新しく「孫」が誕生し、新しく「姉の旦那」が加わる。
ワタシだけ、昔からのらりくらりしている「息子」のままだ。
…ああ!もうだめ!この空気に耐えられない!!
何でワタシは実家に帰りたいなんて思ってたんだろう。
もうここはワタシが思い描いてた「実家」じゃない!
ワタシが親や姉に安心を与えることがこの家族の安泰に繋がる、なんてごう慢に思っていたのが間違い、
実は思っている以上に家族は平和じゃないか!!

食事は進まず、酒も進まない。ただ首筋がひどく凝っているだけ。
席をはずし玄関を出てタバコを吸う。

…静かな町だ。なんせ山の中だからなぁ。
近所のウチからは、昔と変わらずシャンソン好きのオバさんの陽気な唄声が聴こえてくる。
何だか泣きたい気分だ。
また扉を開けて中に入る気分になれない。
みんな他人だ。父親も、母親も、もう「父」にも「母」にも思えない。他人だ。
どこかの家庭に紛れ込んだような気分だ。
こんなことなら予約されていたホテルに泊まるんだった。
今からでもホテルに泊まりたい…。
随分と長く外でタバコを吸ってから、結局食卓に戻る。
が、すぐに風呂に入って寝た。余計な話をするよりはまだマシだ…。

やけに無愛想だった。
親が少し可哀想になるほど、無愛想に夜を過ごしてしまった。
朝、目が覚めて、1人昨日の残りの御飯を食っていると、
母親が降りて来て、隣に座って話を始めた。
父は足が不自由になりかけているらしい。相当辛いそうだ。
これからワタシたちを面倒見てもらわなければ困る、というお話だ。
とても建設的な話をする。
ワタシの想いなどは汲み取らず、ただただ一方的に建設的に話をする。
この人はいつもそう。でも父が心配だ。
さらに、
「あなた、お土産買ってこなかったでしょう?
 普通 帰ってくるときはお土産を買ってくるのが当然なのよ。
 いとこの○○君なんてエラいのよ、
 ちゃーんと毎回お土産買って帰るらしいんだから…」
本当につまらない人だ。悲しい。
さらにみんなが起き始め、ベイビーも目を覚まし登場。
またワタシの知らなかった「いつもの」家族がスタートする。
もう昼前にはワタシはウチを出なくてはいけない。
少しばかりだったけど、もう実家には帰ろうなんて思わないだろうな…と感慨に耽っていると、
「ピンポーン」とチャイムが鳴ったと思いきや、家の中が慌ただしくなる。
姉と旦那が何やら相談、父もそれに参加し、玄関で何やら業者さんと話をしている。
何かと思いきや、メジャーでウチの中の広さを計りはじめる。住宅雑誌を引っ張り出す。
どうやら姉家族は、ウチを建てるらしく、家族みんなで大賑わいだ。
ワタシはそのお祭りをソファーで眺めてたのだが、やっぱり居心地が悪くなり、
外に出てタバコを吸いながら近所を散歩した。もう帰ろう…。

2階に上がって荷物をまとめ、階段を降りる前に親の部屋を覗いた。
写真が幾つか飾ってある。
姉の赤ちゃんの写真、両親の祖父母に抱かれた赤ちゃんの写真、
旦那さんの家族が我が家に訪問してきたのだろうと思われる集合写真…。
どこにもワタシの過去や現在の姿は写っていなかった。
急にワタシはクールになり、
階段を降りてすぐさま「じゃ、帰るね」と目を見ることも無く伝え、靴を履き始めた。
「何だかバタバタしちゃってゴメンねー」と姉は謝る。
いや、いいんです。もう早くこのウチから出させてください。
みんなが作業をやめて一斉に玄関に集まる。
安泰の神「ベイビー」はベッドの中で静粛を保っていた…。
今までにないくらいクールに別れの挨拶をし、
背中に非情な目が突き刺さる覚悟でワタシはウチを出た。

「子供」だ。泣けてくる。
これから唄のステージがあるのに。
泣けて泣けてしようがない。

会場に入る前に、中洲に立ち寄った。
今日唄う予定の歌詞を覚える為、小さな声で川に向かって歌を唄う。
「十五、十六、十七と、わたしの人生暗かった…」
なんでこんな歌を選んだのだろう。
また泣けた。

-続く-


帰省3 ~旅立つ朝 1~

2005-08-31 12:05:45 | コラム
 -続き-

会場に入るのが、14時半。
ワタシのリハがそのくらいの時間だった。
そしてオープンが19時。そしてそしてワタシのステージが21時半、である。
この間だけですでに7時間!!オイ!!
そしてTAMAYO姐さんのステージ終了が24時、それからクローズが29時。
この間だけで5時間。オイ!!
異常に長いイベントでした。

会場であるlogosというライブハウスは、
ワタシが予備校に通っている時に、その予備校の近くに新しく出来た、割と大きなハコ。
全国から様々なミュージシャンが連日やって来ては、
出待ちの客が夜遅くまで目の前を埋めつくす中、
「誰が今日は来てるのかな?」と人込みをかき分けては覗いていた、そんな場所。
初めて今回足を踏み入れたのだが、ワタシが歌を唄った今までのハコの中で一番大きなハコでした。
ワタシ1人でこの空間が持つのかが不安でもあったが、
ここまでちゃんと1つの曲に対して照明の演出を行えたのは実は初めてで、
何げにワタシのショーには照明による演出がかなり重要だということも改めて認識出来た。

しかししかし、このイベント。
「お化け屋敷」がテーマということで、一体どんな趣向が凝らされているのか…と思いきや、
天井からは頭部だけのマネキン(しかも理髪店などにディスプレイされているようなヤツ)が、
横1列に吊り下げられていて、
壁には「ホラー」をテーマに秋葉原的なイラストが個展という形態でディスプレイされている。
そしてスタッフは目の周りを黒のシャドーでメイク、
女の子に限っては四谷怪談のお岩さんのような着物を着て、
口元からは血が流れているようなメイクを施していた。
おぉぉぉぉぉぉぉ…!!
もしかしてアキバのコスプレイベントとかってこんな感じなのかしら??
イヤーン、初体験☆
世紀魔2、のようなバンドを中心としたメタルなバンドに加え、
スーパーアングラな劇団(というかステレオタイプなキチ●イを目標としたようなハイテンション演劇)、
ホラーをテーマにした(かどうかは定かではないが)ファッションショー、
ここまではまだ「お化け屋敷」的なイメージは垣間見れるのだが、
アコースティックなギターデュオが爽やかにオールディーズを唄っているんだが、
とりあえずメイクがホラー、とか、
ピアノをステージのセンターに置き、スポットの中で静かに弾き語りをしてるんだが、
とりあえずメイクがホラー、とか、
終いには「さぁ、みんな!ここは、ネバーランドだよぉ!」と声優ばりにMCをしては、
もうホラーという形容詞で包み隠していたはずアキバ要素を、開き直ってか惜しみ無く全開!
という感じになっていて、
もう、一体このイベントは何なんだ??
しかも10時間もステージの連続よ!?
ホント、ビックリしましたよ。
TAMAYO姐さんと「何でワタシ達がこの中に組み込まれてるのかサッパリワカラン!」
と脱力いたしておりました。

さすがにこのハコでじっとしているわけにもいかず、
途中抜け出してTAMAYOさんのお知り合いのお店に呑みに行く。
とってもオシャレなお店だった。
福岡はカフェだったりバーだったり、飲食店だったりが、
基本的にクオリティが高く、アートなセンスもかなり高く、
さらにそんなお店がたくさん街の中に点在している。
そして、そんなお店を嗅ぎ付ける力も備えている若者が、
需要と供給を満たしあっているような感じである。
「食」の街だけあって、
やっぱみんな、美味しいものを飲み食いすることのこだわりは、
こういう所で美意識を向上させているのだなぁ。
こういうお店に来る臭覚の鋭い人たちこそ、
ワタシは福岡でのイベントのお客さんにしたいのだ。
何より飲み食いをすることに最高の楽しみと喜びを見い出す福岡人だから、
イベントなどに興味を示すかどうか、それは非常に難しい問題だけれども、
アート感覚に包まれてるだけで、アートを満たしている気分(それはそれで悪くはないんだが)のままだと、
福岡という街は結局また新しいアートや流行に衣替えされ、それを繰り返していくばかり。
その土地ならではのアイデンティティーは、
「とんこつラーメン」だの「どんたく」だのに転化されて、
多様な「文化」を受け入れる独自の「文化」を持ち合わせない。
「とんこつラーメン」だって食「文化」だけれども、
ワタシが言いたい「文化」はそういう事ではなくて、
「音楽」だったり「演劇」だったり「舞踏」だったり、
「ファッション」だったり「アート」だったりの単ジャンルではない、
その背景にあるものだったりして、それこそ「文化」なわけで、
それはやっぱり地方なんかに行くと強く感じることが出来るし、
受け入れる独自の「文化」があるから響かせることが出来る、と思う。
ワタシが福岡にその「文化」を感じることが出来ないのは、ワタシが福岡人だからなのだろうか…。
何と言っても福岡の土壌が弱い理由は、そんな「文化」を作り上げたい人間は、
大体みんな「東京」に殴り込みに行ってる率が非常に高いからかもしれない。
だけど、福岡を愛している。だから嘆いてしまうのだ。

そのことをそのお店のお兄ちゃんに話すと、頷いてくれた。
そして、何か楽しいことをしましょうよ!と約束をし、協力してくれるようだった。
嬉しい。それだけでも今回の収穫だ。来てよかった。

 ー続くー