【随分と違う昔の咳と今の咳。
~ 群青の空、墨色の車内、桜色はまだかいな の巻】
咳をしても一人 尾崎放哉
咳をしても、案じてくれるヒトとていないーー。
放哉の代表句のひとつ。大正14年の作。
孤独な生活のなか、現実をしっかりと受け止めている。
エリート会社員としての豪奢な生活から、
失職、事業の失敗、病、離婚となり、全てを失い、
社会から離脱して懺悔の生活に入る。
しかし安心境に至ることなく、流浪の日々。
おざき・ほうさい(明治18年~大正15年) 種田山頭火と並ぶ自由律俳句の著名俳人のひとり。東京帝大法学部を卒業後、東洋生命保険(現・朝日生命保険)に入社し、大阪支店次長を務めるなど出世コースを進む。しかし、突然それまでの生活を捨て、俳句三昧の生活に入る。寺男で糊口をしのぎながら、句作を続ける。周囲とトラブルが多く、気ままな暮らしぶりから「今一休」といわれた。
◇代表句鑑賞
墓のうらに廻る
足のうら洗えば白くなる
肉がやせてくる太い骨である
いれものがない両手でうける
こんなよい月を一人で見て寝る
一人の道が暮れて来た
春の山のうしろから烟が出だした (辞世の句)
とある肌寒い日の夕暮れ迫りくる頃、
ジェイアール西の電車が疾走する。
車内はひところよりは混みだして、
ちょっぴり澱んだ空気が気にかかる。
マスク姿のヒトがコホっと咳をする。
周囲の視線が一斉に注がれる。
密というほどではないにしても、
空気は一瞬にしてピリッピリ。
昨今は感染者がまたもや増え出し、
数字だけが右肩上がりの不気味。
喉がいがらっぽくウッとなっても、
我慢する小心な わたしがいる。
こんな世情を観察しつつ
ちょっとシツレイして
皆様のご様子をパチリ。
視線の先はブルーであるか
そのまなこは鈍色であるか。