誰も知らない認知症;脳のはたらき(知的機能)からみた老人性認知症の予防と介護

老人性認知症の確実な予防方法と認知症高齢者の適切な介護方法をシリーズで解説します。

53 知 からみた介護のポイント

2019-01-16 12:16:02 | 日記

 前回のブログ「52 知的機能からみた介護のポイント〔2019/01/09〕」では「知(認知機能)からみた認知症高齢者の介護のポイント」として下記の3項目(①~③)を提示しました。今回のブログではこの3項目について詳しく解説したいと思います。
① 言語性知能(論理的な認知)が徐々に低下していくので「MMS」の「下位項目」の
  評価を実施し「残存機能」(まだ出来ること)と「欠落機能」(出来なくなったこと)
  を把握する。
② 理性(論理的に考える知能)が障害されているので、認知症高齢者と会話する際には
  「逆効果」や「悪循環」になるような論理的な説明や説得は避けるように留意する。
③ 性差や個人差はみられるものの、認知症高齢者においては感性(直感的に感じる認知
  機能)が保持されている場合が多いので、認知症高齢者と接する場合には表情や態度
  などを観察して、感性を重視した対応を心掛ける。



① 言語性知能(論理的な認知)が低下していく;MMSを実施して残存機能と欠落機能を把握する
 言語性知能(左脳が担う認知機能)を構成している要素は「MMS」の「下位項目」として位置付けられています。そして、老化廃用型認知症においては言語性知能の障害の程度や内容を下位項目の「項目困難度」として評価することができます。つまり、言語性知能の障害の進行に伴って「MMS」の合計得点が減少していく過程においては、下図に示されるとおり、まず「MMS」の下位項目の「想起」が障害され、次いで「見当識」「口頭命令」「記銘」「命名」「復唱」の順序で下位項目が障害されていくことが「エイジングライフ研究所」の解析によって明らかにされています。



 例えば、言葉を用いての意思疎通に関わる認知機能に関しては、MMS得点が20点前後の場合には「想起」の機能が障害されているために「短期記憶の障害」がみられます。しかし「口頭命令」「記銘」「命名」「復唱」の機能は保持されているので、その場における意思疎通(会話)には特に支障はありません(上図①)。また、MMS得点が17点前後の場合には「口頭命令」の機能が不安定となり、何らかの(複数の)指示や依頼などを口頭で分かりやすく伝えたとしても実際には十分に認知できていない(忘れてしまう)場合もあることが分かります(上図②)。さらに、MMS得点が10点~5点以下のレベルにまで悪化した場合には「記銘」や「命名」「復唱」などの機能も障害されるため、言葉を用いて意思疎通を図ることが徐々に困難になっていきます(上図③,④)

 少し難解な内容であったかもしれませんが、認知症高齢者における認知機能の障害を「MMS」の合計得点のみで把握するだけでなく「MMS」の「下位項目」(認知機能の具体的な内容)を含めて詳しく把握することが重要であることを理解していただければ幸いです。そして、その最大の理由は、身体機能に障害がある高齢者の介護と同様、認知機能の障害がある高齢者の介護においても「残存機能」(まだ出来ること)と「欠落機能」(出来なくなったこと)を的確に把握することによって、認知症高齢者の自立支援や認知障害の進行防止を目的とした介護を展開することが可能となるからです/参照「05 知的機能(4)〔2018/05/15〕」」「38 日付の確認(難解)〔2018/10/17〕」。

② 理性(論理;考える知能)が障害されていく;逆効果や悪循環になるような説明や説得は避ける
 認知機能とは、五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)などによって得られた様々な情報(知的刺激)を「感じ考えて理解、判断し記憶する機能」です。これらの認知機能は大脳新皮質の後半部に位置する左脳と右脳によって担われていますが、言語性知能を担う左脳が「考えて認知する」論理的な認知機能を担う「理性の脳」と呼ばれているのに対し、動作性知能を担う右脳は「感じて認知する」直感的な認知機能を担う「感性の脳」と呼ばれています。したがって、認知機能は理性(考える脳)と感性(感じる脳)とによって維持されていると表現することもできます。また、理性と感性とは相互に対立する脳として機能しているのではなく、相補的かつ相乗的に影響し合って協同することにより認知機能をより高度なレベルに維持していることを理解しておく必要があります/参照「02 知的機能(1)〔2018/05/01〕」「45 左脳と右脳〔2018/11/21〕」「47 理性と感性〔2018/12/05〕」。

 認知症高齢者においては記憶障害や見当識障害などの認知機能の障害(認知障害)が認められますが、この認知障害は主に左脳が担う言語性知能(理性)の障害です。認知症高齢者が訴える不安や混乱、妄想などを軽減しようとして介護する側が説明や説得を行う場合に、詳しく懇切な説明や説得を反復すればするほど認知症高齢者の不安や混乱、妄想などが増悪してしまう場合が決して少なくありません。このような「逆効果」や「悪循環」は、認知障害がなければ十分理解できるような論理的な説明や説得の言葉や文脈を、認知症高齢者が正しく理解(認知)できないために発生します。特にMMS得点が20点前後から10点前後の認知症高齢者の場合には、このことに十分配慮して対応することが大変重要です。したがって、認知症高齢者との会話に際しては逆効果や悪循環に繋がりやすい論理的な説明や説得は避けることが賢明です/参照「16 認知症高齢者の介護(4)〔2018/06/18〕」。




③ 感性(直感;感じる知能)は保持されている;表情や態度など、感性を重視した対応を心掛ける
 認知症高齢者においては左脳が担う言語性知能(理性)の障害は認知障害の進行に比例して徐々に低下していきますが、右脳が担う動作性知能(感性)は老化廃用型認知症の進行期(大ボケ)の終末の段階まで保持されています。したがって、認知症高齢者の認知障害を評価する際には、論理に基づいて「考えて認知する」言語性知能の障害が進行した場合であっても、直感に基づいて「感じて認知する」動作性知能が残存している限りは認知機能全体としては実用的なレベルに保持されていることを知っておくことが大切です。分かりやすく言えば「いつ、どこで、だれが、どうした」というエピソードは分からなくなっても(認知できなくても/忘れても/言葉で説明できなくても)、体験したエピソードのイメージ(その時の情景や人の風貌、自分の思いなど)は「パッと見れば(聴けば/体験すれば)直感的に分かる(憶えている/思い出す)」のです(特に快・不快の強い情動を伴うエピソードであれば)。

 認知症高齢者の動作性知能(感性)を具体的に評価する指標は見当たりません。しかし、性格や生活歴、趣味、特技などからある程度は推測できると思います。また、感性を評価するためには評価する側の感性を高めておくことが必要ですが、評価する側の「こころの知能指数」が参考になるかもしれません。いずれにせよ、認知症高齢者においては感性(直感的に感じる知能)が保持されている場合が多く、認知症高齢者と接する際には表情や態度など、感性を重視した対応を心掛けることが大切です。性差や個人差はみられますが、認知症高齢者が周囲の状況や物事などを認知する際には「考えて論理的に認知する」よりも「感じて直感的に認知する」傾向が強くなります。したがって、表情や態度、言葉遣いなどに十分配慮して認知症高齢者の感性に働きかけることが重要です/参照「44 こころの知能指数〔2018/11/12〕」。



 今回のブログでは「知(認知機能)からみた介護のポイント」の3項目(①~③)について詳しく解説しました。このブログ「誰も知らない認知症」を初回(平成30年4月)から閲覧し続けていただき「脳のはたらき」(知的機能)に関する知識を深めてこられたた読者の方々には「脳のはたらきからみた認知症;予防と介護の新しい視点」の真髄をさらに実感していただけたのではないかと思います。
 一方、たまたまこのブログを閲覧された読者の方々の中には「何のことなのか訳が分からない」と感じておられる方も少なくないと思いますが、このブログ「誰も知らない認知症」の「本編」(02~23)特に「13~22;認知症高齢者の介護(1)~(10)」を熟読していただければ幸いです。
 次回のブログでは「情(情動機能)からみた介護のポイント」の3項目(④~⑥)について詳しく解説する予定です。

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