今回のブログでは『脳は「1つの脳」』という、初めて見聞きする方には「意味不明な言葉」について解説していきたいと思います。『脳は「1つの脳」』とは「脳(知的機能)は1つの脳(知的機能)として機能している」という意味で用いている言葉です。この言葉は、「知・情・意の神経心理学」などの多数の名著がある神経心理学者の山鳥重博士に神戸学院大学人文学部の教授室で面談していただいた際、面談の最後に山鳥重博士から小生に授けられた「金言」なのです(今から20年以上前のことです)。

人(ヒト)の知的機能や運動機能を担う「脳のはたらき」(大脳新皮質の機能)は19世紀以降に詳しく解明されてきましたが、「機能局在論」(脳の様々な機能は脳の局在した各部位によって担われているという考え方)と「機能全体論」(脳の様々な機能は脳全体として一体的に担われているという考え方)の2つの考え方に大別されているようです。
下図に示されるとおり、脳の表面にある大脳新皮質は「前頭葉」「頭頂葉」「側頭葉」「後頭葉」から構成されています。そして、「機能局在論」では「ブロードマンの脳地図」や「ペンフィールド・ホムンクルスの脳地図」などで良く知られているように脳の機能を担っている「領野」や「野」の機能分担が詳しく示されています。


大脳新皮質は、下図に示されるとおり、機能の局在が明らかにされている「運動野」や「感覚野」(視覚野、聴覚野など)「言語野」(言語中枢)とこれらの機能を結び付ける(連合する)「連合野」から構成されています。「連合野」とは「感覚野」や「運動野」を除いた領域で、人(ヒト)では圧倒的に広い部分を占めています。そして「連合野」は認知、判断、記憶、言語、緻密な運動などの高度な機能(高次機能)を統合する領域とされ「前連合野;前頭連合野」と「後連合野;頭頂連合野・側頭連合野・後頭連合野」から構成されています。

さらに、「視覚情報が後頭葉の視覚野に、聴覚情報が側頭葉の聴覚野に入力される」という解剖学的な事実や「運動失語がブローカ野(言語野)の障害から、感覚失語がウェルニッケ野(言語野)の障害から起こる」という事実が明らかにされているように「思考や計画、判断、感情抑制などの人間的な機能には「前頭前野」(前頭連合野)が密接に関わっていることも確かな事実であると考えられています。また、連合野は人(ヒト)の心的機能(心理機能/精神機能)と関わっているとされていますが、前頭前野(前頭連合野)は他の連合野や感覚野の機能のみならず、このブログで知的機能として位置付けている大脳辺縁系の機能を含め、人(ヒト)の知的機能全体を統合する「知的機能の司令塔」の役割(最高次機能)を担っている領域です。
一方、知的機能の「局在性」に関して、左右の大脳半球のうち、ある特定の機能に密接に関係している大脳半球が「優位半球」、そうではない反対側の大脳半球が「劣位半球」(非優位半球)と位置付けられ、一般的に(頻度の多さから)言語機能に密接に関係している左脳(左大脳半球)は「優位脳(優位半球)、右脳(右大脳半球)は「劣位脳」(劣位半球/非優位半球)と呼ばれています。

このブログ「誰も知らない認知症」では、自分自身や読者の方々が理解しやすいことを最優先に考え、これまで「脳のはたらき」(知的機能)について「機能局在論」(局在性)の視点から記述してきました。さらに、下記の図表に示されるとおり、「機能局在論」をさらに単純化した表現で「脳のはたらき」(知的機能)の担当領域や特性などを説明してきました。


しかしながら、運動機能にみられる「局在性」はさておき、特に人(ヒト)の心的機能(心理機能/精神機能)を含めた多種多彩な知的機能に関しては、脳科学者の多くによって支持されている「機能全体論」(脳の機能は脳全体で担われている)の立場を前提としてこのブログのテーマである「誰も知らない認知症」を探求していきたいと思っています。したがって、このブログにおいて今後とも用いていく知的機能の名称について、読者の方々には下記のように理解して(読み換えて)いただくようお願いしたいと思います。
(1)前頭葉;前頭前野/前頭連合野
(2)左脳;脳後半部に位置する優位半球の「連合野」「感覚野」「言語野」
(3)右脳;脳後半部に位置する劣位半球の「連合野」「感覚野」「言語野」
また、このブログで用いている「知的機能(知・情・意)のネットワーク」という言葉は、「機能局在論」ではなく、「機能全体論」を前提に用いていることを再確認していただきたいと思います。
今回のブログでは、冒頭で述べたように、山鳥重博士から小生に授けられた金言でもある『脳は「1つの脳」』というテーマで、「脳(知的機能)は1つの脳(知的機能)として機能しているという意味で用いている言葉」について解説してきました。そして、老人性認知症の本質的な病態である『認知症の「事実」』を理解するためには知的機能を正しく理解することが必要不可欠であるという強い思い(重要性)から、『脳は「1つの脳」』(重要)と表現することにしました。
今回のブログも結果的に難解な内容になったかも知れません。このブログを時々閲覧していただいている奇特な読者の方々の中にも「そろそろ付いて行けなくなった」と思っている方々も少なくないと思います。また、小生が「認知症のことばかり考えているマニアックな医師」と感じておられる方々もおられると思います(そのとおりですが)。
言い訳をするつもりはありませんが、小生の当面の優先事項は1番目が「山登り」2番目が「草テニス」3番目が「仕事」(生活のため)、4・5がなくて6番目以降に「認知症」「旅行」「グルメ」「オンライン麻雀」等々であり、「元気に、楽しく、逞しく」生きていこうと思っています(死ぬまでは)。ちなみに最優先事項は「妻を幸福にするよう努力すること」です(悪しからず)。
【参照】 ・02 知的機能(1)〔2018/05/01〕
・03 知的機能(2)〔2018/05/07〕
・04 知的機能(3)〔2018/05/09〕
・05 知的機能(4)〔2018/05/15〕
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます