マンガは五官をだめにする! (東海戯言)

気ままに読んだマンガのことを。タイトルは『チョコレート工場の秘密』の「テレビは五官をダメにする」から

みなもと太郎 『風雲児たち』30巻 外伝 宝暦治水伝

2005年05月02日 | ないてしまう
みなもと氏が幕末編の前にどうしても描きたかった「サムライ」達の魂!



ええと。私のもうひとつのブログ、「東海雑記」でも取り上げたのですが、「宝暦治水」。名古屋の小学生は必ず勉強する歴史事件。その宝暦治水をみなもと氏が『風雲児たち』の締めくくりに取り上げてくださった。

『風雲児たち』はあの横山版『三国志』が連載されていた「コミックトム」に長期にわたり掲載されたもので、タイトルどおり幕末の風雲児たちを描くドラマなんですが。。。
全30巻では幕末は語られていないんです、これが!
幕末にいたるドラマを描くにあたり、まず関が原の合戦から筆を起こすんですね。で、薩摩の島津、長州の毛利(というより、吉川)、それに土佐の長宗我部の動向を描き、それら三国の幕府に対する怨念を読者に語っています。

まことに気の長い話ですが、もちろんこのまま江戸300年をすべて語っているのではありません。みなもと氏が幕末にいたる流れとして重要視しているのは

・江戸幕府成立時の薩長土と幕府の軋轢
・会津松平家の成立
・江戸中期以降の封建制のひずみ
・江戸後期の外国船の接近

の四点。この視点から魅力的なキャラクタたちがみなもと氏特有のベタなギャグ全開で縦横無尽に活躍します。とくに第2期の江戸中期(天明~寛政)編は全体のかなりの部分を占め、平賀源内などの蘭学者たち、高山彦九郎などの活動家、田沼意次などの幕府改革者、大黒屋光太夫の漂浪、最上徳内などの北方探検と盛りだくさん。

マンガだからと軽く見ることなかれ。取材も熱心で、田沼意次の人物像など連載当時(1980年代)の研究を取り入れ、当時としては斬新なものになっております。

また、第4期以降に出てくる勝海舟。
これでも結構海舟には詳しい私ですが、その私が思わずひざを打った新解釈もあります。反面、坂本竜馬のキャラクタは司馬遼太郎が作り上げたお決まりパターンでやや物足りません。

その第4期(天保期以降)になってやっと「風雲児たち」が登場してくるのですが、まだ彼らも幼少で、主役はシーボルト、高野長英など。
で、高野長英の死をもってコミックトムでの連載(コミックス29巻まで)が終わり、掲載誌を変えて、現在幕末編として続いているんですが、外伝と銘打たれたこの30巻は他とは独立した内容となってます。

これだけ多大なエネルギーを使って描かれた大河マンガの外伝で、宝暦治水が取り上げられている。ここにみなもと氏の国や人に対する非常なこだわりを感じるんですね。

宝暦治水工事、木曽川、長良川、揖斐川の治水工事を、その土地に何の縁もゆかりもない薩摩藩士たちが文字通り命を懸けて行ったものです。
詳細はこちらにも書いたので繰り返しません。薩摩藩士たちの尊い行いは多くの人の感動を引き起こし、名古屋、岐阜での学校での教育はもちろん、文学作品にも取り上げられました。

そんな熱い魂の物語をマンガでも読めるなんて! みなもと氏の情熱にただただ感謝するばかりです。

最新の画像もっと見る