blueな日々

( Art で逢いましょう)

破滅と再生の物語

2006年11月20日 | 読書メモ

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10年前の、江戸川乱歩賞を競いあった作品~2冊である。
古書を買った時、そんなことは知りもしなかった。普段、
小説の賞にはほとんど興味がない~受賞した作品が私に
とって必ずしも、いい内容であるわけでもないし。
写真は、映画化された『破線のマリス』から転載・加工。

………
『破線のマリス』古書を購入(文庫本)
著者:野沢 尚  出版:講談社 発行:2000.07

出版社の内容紹介:テレビ報道局。そのニュース番組で
映像編集を担う彼女は、虚実の狭間を縫うモンタージュ
を駆使して刺激的な画面を創りだす。彼女を待ち受けて
いたのは、自ら仕掛けた視覚の罠だった。事故か他殺か、
1本のビデオから始まる超一級のフー&ホワイダニット。
第43回江戸川乱歩賞受賞の傑作ミステリ。

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処女作である。シナリオライターとして一線で活躍して
いた人だけに~彼は故人である~実にうまいものである。
テレビでの報道番組の制作の内幕を、いびつな生き方に
象徴される、主人公や登場人物に集約させている。

破線とはテレビモニタの走査線。マリスとはメディアの
意図的な作為や悪意のこと。つまり『破線のマリス』と
いう小説のタイトルは、情報操作や虚偽報道、やらせや
でっち上げのことをいう。内部告発の作品でもある。

報道の送り手側の欺瞞や犯罪的な勘違い、絶大な被害を
受ける国民~いつ自分が犠牲者になるか本当に怖いのだ。
殺人事件は結局、闇に残されてしまう。主人公や被害者
の姿が哀れでもある。私はある放送局のある報道番組を
思い浮かべながら読んでいた。偽善をまとったその裏側
~制作者や司会者の本意がどこにあるのか想像しながら。

野沢 尚は『砦なき者』という、同じ背景でのメディアの
暗部を描いた作品もある。近いうちに読みたい~図書館
から借りた本が汚れがひどく手にしたくなかった。

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『川の深さは』古書を購入(文庫本)
著者:福井晴敏  出版:講談社 発行:2003.08

出版社の内容紹介:「彼女を守る。それが俺の任務だ」
傷だらけで追手から逃げのびてきた少年と少女。少年の
中に自分の忘れていた熱いたぎりを見た元警官は、彼ら
をかくまうことに。底なしの川のごとき状況に引き込ま
れてゆく。やがて浮かびあがる敵の正体。風化しかけた
地下鉄テロ事件の真相が教える、この国の暗部とは何か。
出版界の話題を独占した必涙の処女作。

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数年前?に読んだ『亡国のイージス』以来。この作家の
処女作である『川の深さは』は、彼の『Twelve Y.O.』と
いう2作目~近いうちに読むことになりそう~とも関連
の深い作品らしい。エンターテインメントの創作の才能
がある人なのだろう、よく書かれた作品である。

社会や国民の現状~その腐敗した体勢や認識、への批判
や苦言や提言などがちりばめられている作品でもある~
そこに私は違和感がない。ひと言多い作品が好きなのだ。

………
この年~1997年の乱歩賞は『破線のマリス』が受賞した。
『川の深さは』と、どちらが受賞しても、おかしくない
ほどの出来である。処女作でここまで書けるのが信じら
れない印象でもある。才能と努力のたまものなのだろう。
ちなみに福井晴敏は、翌年に発表した『Twelve Y.O.』で
乱歩賞を受賞している。正当に評価・選出されたようだ。


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