blueな日々

( Art で逢いましょう)

私の原罪

2009年03月09日 | 読書メモ

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『父』 小林恭二・新潮社・文庫(2003.2)
満州で生まれ、朝鮮で育ち、一高・東大に進学した輝かしい経歴の父は、
反面、十代で結核に罹患。敗戦の引き揚げで弟妹を失う挫折を味わった。
天才的資質ゆえに深かった屈託は、独特の直情的行動に現れ、家庭では
小学生の私に毎ごと文学や哲学を講義する。庭を花で埋めつくす。鉄鋼
会社の役員を退いた後、自ら死をたぐり寄せるかのように、せき止めの
シロップなどを多飲する。鮮烈だった「父」の生と死。

『したたるものにつけられて~自選恐怖小説集』
 小林恭二・角川書店・角川ホラー文庫(2001.9)
ふとした出会いから日常が歪み、狂いゆく過程を静かに追う表題作ほか、
伝説の女形の鬼気迫る恋物語「田之助の恋」、世界の終末を描くSF調の
短編「星空」などを収録。多彩なスタイルで人間存在を浮き彫りにする。

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はじめての作家。出会いのよろこび。才能を感じる。この作家の作品を
もっと読んでみたい。昨日、図書館で在庫を調べ、複数の本を予約した。
私小説なのか評伝なのか私にはよくわからないが、『父』は息子=作家
の必要不可欠な脱皮へのもがき、だと私は感じた。息子には自己の内部
に父親という要素が存在する以上、避けては生きられない。父親を理解
するとともに対決しなければならない。自分もやがて父になるのだから。
『したたるものに~』は奇妙な短編集。異世界というより、人の存在の
不安を描いたものに思えた。しのび寄る奇怪なできごと。人々の変容。

私は父を、ほとんど知らない。ものごころついたころには、すでに存在
しなかった。その死も人づてに聞いた。母は私にかまうことはなかった。
他人に子育てをまかせていた。私は幼いころから、ひとりで生きてきた
ようなもの。ゆえに?私は、家族を家庭というものを、理解しづらい。
しつけというものもなく、自分の感受性や限りある能力のまま、社会性
などといったものを、私は試行錯誤で、自己の内部にたぐり寄せてきた。
両親に責任を押しつけるつもりはないが、私が現在も抱えるさまざまな
問題は、そのほとんどが幼少期に種をまかれたものに違いないと考える。
親の存在は子にとって、きわめて重要なのだ。悲しいことに私はおなじ
過ちを、我が子たちにも引き渡してしまった。これが私の原罪である。




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