少女はまどろみの中、夢を見ていた。
見知らぬ母親と男の子の夢だ。
二人とも寄り添って大声で泣いている。
少女にとって、
今まで一度も会ったことのない二人だった。
どちらも涙と鼻水で顔中がグチャグチャになっていた。
抱き合ってひたすら泣いている。
まるでこの世の終わりでも来たかのように。
泣き止む素振りはまったくない。
二人は誰かを叫ぶように呼んでいた。
「あなた」「パパ」とそれぞれ繰り返し口にした。
母親にとっては夫、男の子にとっては父親、
二人にとってなくてはならない大事な人だったようだ。
二人の泣き声が一面に響いていた。
時にすするような嗚咽となり、
また時折は、場を引き裂くような絶叫となった。
二人の服は涙でビショビショになっていた。
少女は無言で二人を見ていた。
立ちすくむようにその場から動けなかった。
ふと、母親が少女の方を見た。
母親は少女を恨むような目で見つめた。
そして母親は言葉を発した。
「お願い・・・あの人を返して・・・」
さらに言葉を重ねる。
「お願い・・・私たちに・・・あの人を返して・・・」
言葉は段々と強さを増していく。
「返して! あの人をすぐに返して!」
あの人?
少女には心当たりがなかった。
と、その瞬間、
少女の頭の中で電光のようにひらめくものがあった。
あ・・・ひょっとして・・・
まさか・・・
「返して!! 今すぐ返して!!」
母親は力の限り絶叫した。
「うあああああああああああああああ・・・!!」
男の子は両目を固く閉じて顔を上げて泣き叫んだ。
あ・・・あ・・・
あの時の・・・あの時の・・・
少女は心が震えるような思いがした。
「邪神の総大将」の家族だ。
あの時の「邪神の総大将」もきっと生身の人間で、
奥さんとかわいい子供がいたんだ・・・
あ・・・あ・・・
少女は絶句していた。
絶句しながら立ち位置から一歩も動けなかった。
そんな・・・そんなそんな・・・
私をそんな目でみないで!!
少女は掛け布団を手で跳ね飛ばして、
両目を大きく見開いた。
自分の部屋にいた。ベッドの上だ。
時刻はまだ夜中のようだ。
夢だった。怖い夢だった。
もう見たくない。こんな夢はもう見たくない。
でも、
同じ夢をこれから繰り返し見るようになったら、
自分はどうしたらいいのだろう・・・
その後、少女は朝まで起きていた。
再び眠るのが怖かったからだ。