本日はものの見事に曇りましたねー。
亀ちゃんをお外に出せなかったよ。昨日は久々に出してあげてたんですよ?
まぁ奴は陶器の欠片(物陰用)二つを移動させて、そこに潜り込んでやがりましたが。
自力移動させられるんだね! 知ってたけどね!
いつものことです。
へい、いつものノリの聖戦ですー!!
昨日は遠くのデパートに行ってきましたー。
食品解体セールです。
おかしいっぱい買ったよーww ゆっくり食べるんだーww
あとハムも買いました。一袋千円。中身はソーセージとか生ハムとか。二千円相当の品物らしいよ。
他にも色々買ったんですが。遣いすぎたよ…。
あー、疲れた。
Fate/Zero。
終わりの先、救いの先。そんな話を書いてみたかった。
桜ちゃんに優しくない話。
長いので分ける。
ハッピーエンド/アンビバレンス 前編
遠坂桜は間桐桜になった。
ある日突然、間桐のおうちの子になるんだよ。そう言われ、ただ父に手を引かれ間桐の屋敷に連れて行かれて、置き去られた。
それが全ての始まり。
間桐の屋敷はじめじめとして、暗くて、冷たくて、嫌な臭いに溢れていて。
お爺様も新しいお父さんも使用人も、誰もが桜に冷たかった。
真っ暗で気持ちの悪い、いつだって桜を殺し続ける蔵の中で過ごすうちこの世には決して手の届かない物が存在するのだと思い知った。
それは暖かな夜であったり、慈しみに満ちた声であったり、眩しい日差しであったり。一番は、最早無い『家族』だったけれど。
奪われたとすら思わなかった。
だって、捨てられたのだから。
何も感じなくなった頃、雁夜おじさんが来た。
家を出て行ったのに、一体どうして戻ってきたのか。桜の幼い頭では欠片も理解できず、だからただ眺めているだけ。
何より一番意味がわからないのは自らあの蔵に入ることだ。
桜の顔を見るたび、優しく笑うが、正直何がしたいのかさっぱりだ。
血を吐き、蟲を吐き、一人死にそうになる雁夜を、やはり黙って見詰めて。
馬鹿な人だなぁと思った。
この間桐の人間なのに、お爺様に逆らうなんて、大人なのに頭が悪い。感想は、それだけ。
心は何も動かない。
そして、雁夜が良く外に出るようになって数日。
その時はあまりにも唐突にやってきた。
暗く異臭のする蔵の中、いつもの様に蟲に心が喰われていく最中。
轟音と共に眩しい光が差し込んだ。
「助けに来たよ、桜ちゃん!!」
光を背にして笑う、それが桜のヒーローとの出会い。
ヒーロー、彼は凄かった。
桜を片手に抱いたまま蟲倉を粉々にして、真っ直ぐにおぞましいお爺様と向かい合い軽々と退治してしまった。
そして彼は桜に言ったのだ。
「さぁ、家族に逢いに行こう?」
「……うん!!」
彼は本当に凄い人だった。あっという間に桜を救ってしまった。
明るくて暖かい陽の下に連れ出して、大好きな姉や優しい母に逢わせてくれた。
彼女たちも泣きながら再開を喜んでくれた。
彼は間違いなく桜のヒーローだった!!
甘い甘い幸せな現実。
ヒーローは、大好きなお兄ちゃんは優しかった。
間桐の家の陰惨さを時臣たちに伝え、桜はもう一度遠坂の屋敷で暮らし始めた。
学校にも近々通えるようになる。
父やお兄ちゃんはなにやら忙しく動き回っているが、姉も母も出来るだけ桜の傍にいてくれた。金色の王様も何かと構ってくれた。
魔術だって習い始めた。
苗字は間桐のままだったが、これだってきっとすぐにどうにかなるだろう。
幼い桜の心は、満たされていた。
間桐で失ったものが、還ってきた。
大好きなお兄ちゃんの後を着いて歩きながら、少女らしく無邪気に可愛らしく笑った。
お兄ちゃんはいつだって桜に優しくしてくれた。お兄ちゃんの一番は桜だと言ってくれた。
抱き上げて、頭を撫でて、飛び切りの笑顔を向けてくれる。
父も母も姉も大好きだけど、一番はお兄ちゃん。
それが桜の不文律になった。
――しかし、魔術師という家系と桜の身に宿る稀有なる力はやがて全てに等しく牙を剥く。
「だからそのままの意味だ」
ソファに座った男が、至極冷たい声で言った。
薄紫の髪が、陽光を受けて輝く。
ドアの外、桜の体が強張った。
突然の来訪者――間桐鶴野。
桜の間桐での『お父さん』。勿論、良い思い出なんて一つも無い。
一体何をしに来たのか?
父とお兄ちゃんだけが彼を迎えて、桜は待つように言われた。
だけど心配だったのだ。『お父さん』が桜の大好きな二人に何か酷いことを言わないか。
応接室の外、こっそりと小さな体をドアに張り付かせた。
「もはや間桐の中でまともな魔術回路を持っているのは雁夜しかいない。もう血は廃れている。
これ以上御三家だのなんだのにしがみつくつもりは無いし、どうでも良い。私は息子を魔術に関わらせたくない。
桜は要らない。これ以降の間桐に魔術の血は不要。養子縁組は取り消す。もともと臓硯が勝手に決めたことだしな」
そんな風に男は言った。
要らないと言われて、正直桜は安堵した。
もし桜が必要だから間桐のままでいてくれなんて言われたら、また捨てられるかもしれない。
お兄ちゃんがいる限りそんなことは無いだろうけれど。やっぱり不安だった。
だから父やお兄ちゃんが激昂していることになど気付かずに、桜はほうっと息を吐いた。
帰るとき、男の桜を見る目がひどく冷たくて慌ててお兄ちゃんに背に隠れた。
桜がもう少し大きければわかったろう、その目はゴミを見る様なと形容されるものだったと言うことに。
それからなんだか家の中が慌しくなった。
父もお兄ちゃんも難しい顔をして話し合うことが多くなって、その内容は桜に関することなようで。
桜は不安に顔を曇らせる。
けれどそのたびにお兄ちゃんは優しく笑って桜の頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ。俺が絶対に桜ちゃんを守ってみせるからね」
「うん、お兄ちゃん」
その腕の中で桜は安心して身を任せた。
あの恐ろしいお爺様を倒したお兄ちゃんなのだ、きっと大丈夫。彼に任せていれば何の心配も要らない。
だって彼は、ヒーローなのだから!
桜は遠坂桜に戻った。なのに、どうして父は難しい顔をするのだろう。お兄ちゃんは悲しい顔をするのだろう。
わからない。
未だ幼い少女は何もわからなかった。
「これじゃ桜ちゃんが…」
「…どこかいい家はないものか…」
「……相手がどう言ってきても俺が説得して…」
「あの子のために…新しい養子先を」
「間桐雁夜なら多分……」
ある日聞いてしまった会話。
それは桜を新しい家にやるという相談。
目の前が真っ暗になる。
なんで? どうして? あの人は桜を守ってくれると言ったのに! 父はまた桜を捨てるつもりなのか!?
哀しくて辛くて、部屋に引き篭もってただ泣いた。
やはり自分は要らない子供でしかないのだろうか?
心にこびり付いたその思いは、染みの様にどうしても拭いきれず。
だから大好きなお兄ちゃんが笑いかけてきても裏があるのだと勘繰ってしまう。父が優しく抱き上げてもその同じ手で捨てられるのかと警戒してしまう。
姉や母は知っているのだろうか? もし知っていてあの態度だったら。そこまで考えてぞっとした。
あの人たちは間桐に捨てられるときも何も言わなかった。
次に同じことがあっても何も言わないだろう。
哀しかった。一人で泣くことが多くなった。
「教会に行くよ、桜ちゃん」
そう言われ連れられて行ったのは大きな教会。
たくさんの、色んな人がいた。金色の王様に似た不思議な人もいて固まってしまった。
ここでとても大切な話し合いをするのだと聞かされた。
自分もいて良いのかと不安気に問えば、勿論!と笑顔が返って来た。
なにやら難しい顔をした大人たちはセーハイやアンリマユとかよくわからない言葉を口にして、悲しんだり怒ったり忙しそうだった。
金色の王様も一番大きな王様も桜に構ってくれていたが、他の人に呼ばれて行ってしまう。
取り残された桜は、俯いた。
捨てられるという恐怖はまだある。
ここに来たのも、もしかしたら桜を捨てるための家を決めるためかもしれない。
だって、跡継ぎとなる姉は来ていないのに。連れて来られたのは桜だけ。
その可能性は捨てきれない。
「退屈そうだな」
そう声をかけたのは神父。
この人は見たことがある。父の弟子だった。真っ黒いその人は、ぞっとする目で桜を見下ろして、暇なら庭に出てはどうかと言った。
「花でも見てくると良い。時臣師には私から言っておこう」
それに、桜はどうしてか頷いてしまった。
だから大人しく示された出入り口から、高い塀に囲まれた庭に出た。
誰が手入れしているのだろうか?
遠坂邸の庭と遜色の無いほどに美しく様々な花が咲き誇っていた。
「わぁ…!」
自然と口元が綻ぶ。
花壇に近付き咲く花の一輪一輪を愛でてゆく。薄い花びらを指でなぞって、色の鮮やかさに目を細めた。
「ふふ」
そうやって微笑んで過ごしていれば、物音。
思わず、桜は隠れてしまった。
建物を己を隠す盾にして、桜はこそりと覗き込む。
自分と同じ様に花壇を見に来た誰かの姿。
「……」
それは少女。
美しい銀の髪を背に流す、とても可愛らしい女の子。
あんな可愛らしい子は始めて見た。
姉の凛も人目を引く容姿をしているが、彼女もまた違う魅力を持っている。
凛が大輪の薔薇ならば、彼女は百合といったところか。
同じくらいの歳なのに、桜は彼女に見蕩れてしまった。
――羨ましいな。
姉に感じる劣等感を、彼女にも感じてしまって。
なんとなく、目を離せなかった。
しばらく相手を眺めていると、彼女は花に手を伸ばしぽきりと茎を折ろうとして。
「あ…!」
それはいけないと声をかけようとして一歩踏み出した足が、止まる。
「駄目だよ、カレンちゃん」
穏やかな声が、少女の手を止めた。
ずるずると不恰好な音を立て、現れたのは雁夜。
桜がヒーローに助け出されて以来姿を見なかった彼。桜自身すっかり雁夜のことを忘れていた。
あの暗い屋敷の中で桜よりも下にいた人。惨めで憐れな人。
どうしてここにいるのだろう? どうして間桐にいないのだろう?
雁夜はにこりと少しばかり瘢痕の薄まった頬に笑みを刻む。
「お花を折っちゃいけないよ。かわいそうだろ?」
「…はい」
「うん、いい子だね」
素直に頷いて花から手を離す彼女の頭を、雁夜が柔らかく撫でてやる。
「おやつにしようか。カレンちゃん、何食べたい?」
「ホットケーキ」
「ホットケーキかぁ。作るの手伝ってくれるかい?」
「うん」
「ありがとう」
穏やかに続くやり取り。
二人は手を繋いで教会の中へと消えていった。
後姿を見送った桜は動けなかった。
大きく息を吐いて、ようやく自分が傷付いているのだとわかった。
何にショックを受けているのか。
嗚呼、雁夜が自分に気付かなかったからだ。
公園で一緒に遊んだ時、かくれんぼだってなんだって雁夜が桜を見付けなかったことなどなかったのに!
それにあの少女に向けていた笑顔。あれはいつだって桜に向けられていたものだ。あの真っ暗な間桐の家の中でさえ!!
なのに、こんな近くにいたのに雁夜は気付かなかった。
がたがたと足が震える。嫌な汗が噴出して止まらない。
――だって、そんな、もしかして。
考えてはいけない。それ以上は考えてはいけない。
どうして笑ってるの? いつも苦しそうな顔をしていたのに。どうしてそんなに幸せそうなの? 桜はまた捨てられるのではないかと怯えているのに。
ヒーローに救われたはずの自分は今こんなにも哀しいのに。
何故雁夜おじさんは笑っていられるの!? そこに桜はいないのに!
あの子がいるから?
あの女の子がいるから、雁夜は桜が要らなくなった。
代わりがいるから、もう要らない?
やっぱりじぶんはいらないこ?
「あ、ああああ、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!」
暖かな日差しの中に、少女の絶望が響き渡った。
亀ちゃんをお外に出せなかったよ。昨日は久々に出してあげてたんですよ?
まぁ奴は陶器の欠片(物陰用)二つを移動させて、そこに潜り込んでやがりましたが。
自力移動させられるんだね! 知ってたけどね!
いつものことです。
へい、いつものノリの聖戦ですー!!
昨日は遠くのデパートに行ってきましたー。
食品解体セールです。
おかしいっぱい買ったよーww ゆっくり食べるんだーww
あとハムも買いました。一袋千円。中身はソーセージとか生ハムとか。二千円相当の品物らしいよ。
他にも色々買ったんですが。遣いすぎたよ…。
あー、疲れた。
Fate/Zero。
終わりの先、救いの先。そんな話を書いてみたかった。
桜ちゃんに優しくない話。
長いので分ける。
ハッピーエンド/アンビバレンス 前編
遠坂桜は間桐桜になった。
ある日突然、間桐のおうちの子になるんだよ。そう言われ、ただ父に手を引かれ間桐の屋敷に連れて行かれて、置き去られた。
それが全ての始まり。
間桐の屋敷はじめじめとして、暗くて、冷たくて、嫌な臭いに溢れていて。
お爺様も新しいお父さんも使用人も、誰もが桜に冷たかった。
真っ暗で気持ちの悪い、いつだって桜を殺し続ける蔵の中で過ごすうちこの世には決して手の届かない物が存在するのだと思い知った。
それは暖かな夜であったり、慈しみに満ちた声であったり、眩しい日差しであったり。一番は、最早無い『家族』だったけれど。
奪われたとすら思わなかった。
だって、捨てられたのだから。
何も感じなくなった頃、雁夜おじさんが来た。
家を出て行ったのに、一体どうして戻ってきたのか。桜の幼い頭では欠片も理解できず、だからただ眺めているだけ。
何より一番意味がわからないのは自らあの蔵に入ることだ。
桜の顔を見るたび、優しく笑うが、正直何がしたいのかさっぱりだ。
血を吐き、蟲を吐き、一人死にそうになる雁夜を、やはり黙って見詰めて。
馬鹿な人だなぁと思った。
この間桐の人間なのに、お爺様に逆らうなんて、大人なのに頭が悪い。感想は、それだけ。
心は何も動かない。
そして、雁夜が良く外に出るようになって数日。
その時はあまりにも唐突にやってきた。
暗く異臭のする蔵の中、いつもの様に蟲に心が喰われていく最中。
轟音と共に眩しい光が差し込んだ。
「助けに来たよ、桜ちゃん!!」
光を背にして笑う、それが桜のヒーローとの出会い。
ヒーロー、彼は凄かった。
桜を片手に抱いたまま蟲倉を粉々にして、真っ直ぐにおぞましいお爺様と向かい合い軽々と退治してしまった。
そして彼は桜に言ったのだ。
「さぁ、家族に逢いに行こう?」
「……うん!!」
彼は本当に凄い人だった。あっという間に桜を救ってしまった。
明るくて暖かい陽の下に連れ出して、大好きな姉や優しい母に逢わせてくれた。
彼女たちも泣きながら再開を喜んでくれた。
彼は間違いなく桜のヒーローだった!!
甘い甘い幸せな現実。
ヒーローは、大好きなお兄ちゃんは優しかった。
間桐の家の陰惨さを時臣たちに伝え、桜はもう一度遠坂の屋敷で暮らし始めた。
学校にも近々通えるようになる。
父やお兄ちゃんはなにやら忙しく動き回っているが、姉も母も出来るだけ桜の傍にいてくれた。金色の王様も何かと構ってくれた。
魔術だって習い始めた。
苗字は間桐のままだったが、これだってきっとすぐにどうにかなるだろう。
幼い桜の心は、満たされていた。
間桐で失ったものが、還ってきた。
大好きなお兄ちゃんの後を着いて歩きながら、少女らしく無邪気に可愛らしく笑った。
お兄ちゃんはいつだって桜に優しくしてくれた。お兄ちゃんの一番は桜だと言ってくれた。
抱き上げて、頭を撫でて、飛び切りの笑顔を向けてくれる。
父も母も姉も大好きだけど、一番はお兄ちゃん。
それが桜の不文律になった。
――しかし、魔術師という家系と桜の身に宿る稀有なる力はやがて全てに等しく牙を剥く。
「だからそのままの意味だ」
ソファに座った男が、至極冷たい声で言った。
薄紫の髪が、陽光を受けて輝く。
ドアの外、桜の体が強張った。
突然の来訪者――間桐鶴野。
桜の間桐での『お父さん』。勿論、良い思い出なんて一つも無い。
一体何をしに来たのか?
父とお兄ちゃんだけが彼を迎えて、桜は待つように言われた。
だけど心配だったのだ。『お父さん』が桜の大好きな二人に何か酷いことを言わないか。
応接室の外、こっそりと小さな体をドアに張り付かせた。
「もはや間桐の中でまともな魔術回路を持っているのは雁夜しかいない。もう血は廃れている。
これ以上御三家だのなんだのにしがみつくつもりは無いし、どうでも良い。私は息子を魔術に関わらせたくない。
桜は要らない。これ以降の間桐に魔術の血は不要。養子縁組は取り消す。もともと臓硯が勝手に決めたことだしな」
そんな風に男は言った。
要らないと言われて、正直桜は安堵した。
もし桜が必要だから間桐のままでいてくれなんて言われたら、また捨てられるかもしれない。
お兄ちゃんがいる限りそんなことは無いだろうけれど。やっぱり不安だった。
だから父やお兄ちゃんが激昂していることになど気付かずに、桜はほうっと息を吐いた。
帰るとき、男の桜を見る目がひどく冷たくて慌ててお兄ちゃんに背に隠れた。
桜がもう少し大きければわかったろう、その目はゴミを見る様なと形容されるものだったと言うことに。
それからなんだか家の中が慌しくなった。
父もお兄ちゃんも難しい顔をして話し合うことが多くなって、その内容は桜に関することなようで。
桜は不安に顔を曇らせる。
けれどそのたびにお兄ちゃんは優しく笑って桜の頭を撫でてくれた。
「大丈夫だよ。俺が絶対に桜ちゃんを守ってみせるからね」
「うん、お兄ちゃん」
その腕の中で桜は安心して身を任せた。
あの恐ろしいお爺様を倒したお兄ちゃんなのだ、きっと大丈夫。彼に任せていれば何の心配も要らない。
だって彼は、ヒーローなのだから!
桜は遠坂桜に戻った。なのに、どうして父は難しい顔をするのだろう。お兄ちゃんは悲しい顔をするのだろう。
わからない。
未だ幼い少女は何もわからなかった。
「これじゃ桜ちゃんが…」
「…どこかいい家はないものか…」
「……相手がどう言ってきても俺が説得して…」
「あの子のために…新しい養子先を」
「間桐雁夜なら多分……」
ある日聞いてしまった会話。
それは桜を新しい家にやるという相談。
目の前が真っ暗になる。
なんで? どうして? あの人は桜を守ってくれると言ったのに! 父はまた桜を捨てるつもりなのか!?
哀しくて辛くて、部屋に引き篭もってただ泣いた。
やはり自分は要らない子供でしかないのだろうか?
心にこびり付いたその思いは、染みの様にどうしても拭いきれず。
だから大好きなお兄ちゃんが笑いかけてきても裏があるのだと勘繰ってしまう。父が優しく抱き上げてもその同じ手で捨てられるのかと警戒してしまう。
姉や母は知っているのだろうか? もし知っていてあの態度だったら。そこまで考えてぞっとした。
あの人たちは間桐に捨てられるときも何も言わなかった。
次に同じことがあっても何も言わないだろう。
哀しかった。一人で泣くことが多くなった。
「教会に行くよ、桜ちゃん」
そう言われ連れられて行ったのは大きな教会。
たくさんの、色んな人がいた。金色の王様に似た不思議な人もいて固まってしまった。
ここでとても大切な話し合いをするのだと聞かされた。
自分もいて良いのかと不安気に問えば、勿論!と笑顔が返って来た。
なにやら難しい顔をした大人たちはセーハイやアンリマユとかよくわからない言葉を口にして、悲しんだり怒ったり忙しそうだった。
金色の王様も一番大きな王様も桜に構ってくれていたが、他の人に呼ばれて行ってしまう。
取り残された桜は、俯いた。
捨てられるという恐怖はまだある。
ここに来たのも、もしかしたら桜を捨てるための家を決めるためかもしれない。
だって、跡継ぎとなる姉は来ていないのに。連れて来られたのは桜だけ。
その可能性は捨てきれない。
「退屈そうだな」
そう声をかけたのは神父。
この人は見たことがある。父の弟子だった。真っ黒いその人は、ぞっとする目で桜を見下ろして、暇なら庭に出てはどうかと言った。
「花でも見てくると良い。時臣師には私から言っておこう」
それに、桜はどうしてか頷いてしまった。
だから大人しく示された出入り口から、高い塀に囲まれた庭に出た。
誰が手入れしているのだろうか?
遠坂邸の庭と遜色の無いほどに美しく様々な花が咲き誇っていた。
「わぁ…!」
自然と口元が綻ぶ。
花壇に近付き咲く花の一輪一輪を愛でてゆく。薄い花びらを指でなぞって、色の鮮やかさに目を細めた。
「ふふ」
そうやって微笑んで過ごしていれば、物音。
思わず、桜は隠れてしまった。
建物を己を隠す盾にして、桜はこそりと覗き込む。
自分と同じ様に花壇を見に来た誰かの姿。
「……」
それは少女。
美しい銀の髪を背に流す、とても可愛らしい女の子。
あんな可愛らしい子は始めて見た。
姉の凛も人目を引く容姿をしているが、彼女もまた違う魅力を持っている。
凛が大輪の薔薇ならば、彼女は百合といったところか。
同じくらいの歳なのに、桜は彼女に見蕩れてしまった。
――羨ましいな。
姉に感じる劣等感を、彼女にも感じてしまって。
なんとなく、目を離せなかった。
しばらく相手を眺めていると、彼女は花に手を伸ばしぽきりと茎を折ろうとして。
「あ…!」
それはいけないと声をかけようとして一歩踏み出した足が、止まる。
「駄目だよ、カレンちゃん」
穏やかな声が、少女の手を止めた。
ずるずると不恰好な音を立て、現れたのは雁夜。
桜がヒーローに助け出されて以来姿を見なかった彼。桜自身すっかり雁夜のことを忘れていた。
あの暗い屋敷の中で桜よりも下にいた人。惨めで憐れな人。
どうしてここにいるのだろう? どうして間桐にいないのだろう?
雁夜はにこりと少しばかり瘢痕の薄まった頬に笑みを刻む。
「お花を折っちゃいけないよ。かわいそうだろ?」
「…はい」
「うん、いい子だね」
素直に頷いて花から手を離す彼女の頭を、雁夜が柔らかく撫でてやる。
「おやつにしようか。カレンちゃん、何食べたい?」
「ホットケーキ」
「ホットケーキかぁ。作るの手伝ってくれるかい?」
「うん」
「ありがとう」
穏やかに続くやり取り。
二人は手を繋いで教会の中へと消えていった。
後姿を見送った桜は動けなかった。
大きく息を吐いて、ようやく自分が傷付いているのだとわかった。
何にショックを受けているのか。
嗚呼、雁夜が自分に気付かなかったからだ。
公園で一緒に遊んだ時、かくれんぼだってなんだって雁夜が桜を見付けなかったことなどなかったのに!
それにあの少女に向けていた笑顔。あれはいつだって桜に向けられていたものだ。あの真っ暗な間桐の家の中でさえ!!
なのに、こんな近くにいたのに雁夜は気付かなかった。
がたがたと足が震える。嫌な汗が噴出して止まらない。
――だって、そんな、もしかして。
考えてはいけない。それ以上は考えてはいけない。
どうして笑ってるの? いつも苦しそうな顔をしていたのに。どうしてそんなに幸せそうなの? 桜はまた捨てられるのではないかと怯えているのに。
ヒーローに救われたはずの自分は今こんなにも哀しいのに。
何故雁夜おじさんは笑っていられるの!? そこに桜はいないのに!
あの子がいるから?
あの女の子がいるから、雁夜は桜が要らなくなった。
代わりがいるから、もう要らない?
やっぱりじぶんはいらないこ?
「あ、ああああ、ああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁっ!!」
暖かな日差しの中に、少女の絶望が響き渡った。
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