本と音楽とねこと

成熟社会の経済学、節約したって不況は終わらない

 小野さんの主張は、ほぼ一貫しており、かつとても分かりやすい。
 耐久消費財市場が飽和状態となり、脱物質主義的価値観が優勢となって久しい。
 それに加えて、所得税の累進性の緩和、消費税の導入と高率化、非正規雇用の増加、労働分配率(賃金水準)の低迷等は、さらに商品やサービスの需要を冷え込ませ、人々は、将来不安に怯え、ひたすら貯蓄に励む。コロナ禍における定額給付金のほとんどが貯蓄にまわってしまったことは記憶に新しい。
 モノへの飽くなき渇望が冷え込んだことは、なにも悪いことではない。気候変動や資源枯渇の問題があるのだから、むしろ良いことだろう。一方、育児、教育、介護、相談援助等の対人サービスは、いくら消費されようが、環境、資源問題にはほとんど影響しない。高齢者をはじめとして、将来不安ゆえ溜めこまれた資産を吐き出させるべく、対人サービスと(不安を軽減する)生活保障の水準とがともに向上する好循環をつくっていくべきであろう。
 振興すべきは、サービス産業だけではない。農林漁業の再生、再生エネルギーと蓄電池による地域エネルギー自給システムの構築、老朽化したインフラを更新するための公共事業の推進等、やるべきことはやまほどある。
 新古典派とケインズ主義の難点を的確に指摘し、経済再生の処方箋を示す小野さんの経済学は、いま読んでもいろあせていない。


小野善康,2012,成熟社会の経済学──長期不況をどう克服するか,岩波書店.(6.26.2022)

需要が慢性的に不足して生産力が余り、それが失業を生み続ける現在の日本経済。これまでの経済政策はどこが問題なのか。新しい危機にはいかに対応すべきなのか。新古典派経済学の欺瞞をあばき、ケインズ経済学の限界を打破する、画期的な新しい経済学のススメ。閉塞状況を乗り越え、楽しく安全で豊かな国へと変貌するための処方箋。

目次
第1章 発展途上社会から成熟社会へ
お金をめぐる社会の変遷
成熟社会に足りないもの
混乱する経済政策
第2章 財政政策の常識を覆す
乗数効果という幻想
雇用創出と税負担
財政支出の使い道
第3章 金融政策の意義と限界
第4章 成熟社会の危機にどう対応するか
高齢化社会と少子化問題
災害対応
環境・エネルギー政策と市場の創出
第5章 国際化する経済
内需と為替レート
企業の海外移転と産業保護


小野善康,2003,節約したって不況は終わらない──日本経済に答えはある,ロッキング・オン.(6.26.2022)

ランキングに参加中。クリックして応援お願いします!

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「本」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事