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本と音楽とねこと

結婚

末井昭,2017,結婚,平凡社.(8.5.24)

一番身近な存在だからこそ悩む関係を末井さんが自身の体験をもとに真正面から語ります。高橋源一郎さん、植本一子さんとの対談付き。

恋愛、不倫、金銭、性欲、エゴ、離婚、再婚…『自殺』で読者にやさしく寄り添った末井昭が、「結婚」をめぐる男と女の生き方を、誤魔化すことも、正当化することもなく、そのまま描き出す。「ウェブ平凡」人気連載、ついに書籍化!

 自殺は、強烈な内容の作品だったが、本作も、おとなしめの内容ながら、ゆるゆるバルネラビリティ全開の脱力系虚無ワールドを堪能できる。

 末井さんが心服する千石イエスさんは、「女は男を愛せない」と言う。

 そうなのかもしれないな、と思う。

 男が埒もない性幻想を女に向けることはできても、逆はほとんどありえないだろう。

 しょせん、一方的な片思いなのだから、男は女に尽くし続けるほかない。

 性格も考え方も違う二人ですが、聖書という共通認識が生まれたことはよかったと思います。いつもいつも聖書を手引きにしているわけではありませんが、困ったことがあると、聖書的にはどうなのだろうと考えるようにしています。千石さんは「聖書をしあわせになるための法則ととらえたらいい」と言っていましたが、聖書に書かれていることをそのまま受け取ってしまうと、宗教観念に陥ってしまう恐れもあります。気軽に、生活のハウツー書として使えばいいのです。
 男が女を愛するということを突き詰めていくと、男は女の奴隷になることだと千石さんは言います。自意識を捨て、相手のことだけを考える生き方は、奴隷になることだと言えなくもありません。しかし、奴隷といっても自由を奪われ搾取されることではありません。自意識の束縛から解放されて逆に自由になることです。
 千石さんは二〇〇一年の十二月に亡くなりましたが、それまでは美子ちゃんとなるべく集会に参加するようにしていました。集会のとき、千石さんがちょっと小さい声で、「男はカマキリのようにメスに食べられてしまうのが理想なんです」と言ったことがありました。そのときは「えっ?」と思いましたが、女を愛するということはそういうことなんだろうなと、いまは思っています。おそらくメスに食べられる歓びなんて、誰も考えたことがないと思いますが。
(pp.180-181)

「自意識の束縛から解放されて逆に自由になる」・・・良い言葉だな。

 少し前に書店の雑誌コーナーを見ていたら、「破たん夫婦VS安泰夫婦」という特集をしている雑誌があって、そのタイトルが強烈だったので思わず買ってしまいました。見ると四十~六十代の既婚男女にアンケート調査をしてそれを分析しただけの内容でしたが、びつくりしたのは「離婚したいと思ったことがあるか?」という質問に、男性三一パーセント、女性五四パーセントが「ある」と答えていることです。離婚予備軍がかなりの数いるということです。
 それは、結婚に過大な期待をしている人が多いということでもあると思います。結婚すると安泰だ、結婚すると楽になる、結婚するとしあわせになれる、そんな自分勝手なことを思って結婚したのだけど、そうはならなかったということです。
 しかし、それはあたり前のことです。別々に暮らしていた二人が一緒に暮らすようになっただけのことで、双方が向き合って変わっていかなければ、結婚前と何も変わりません。最初のころはまだ恋愛モードで楽しいかもしれませんが、一、二年もすればただの日常生活に戻ってしまいます。
 結婚の意味は「変わる」ことにあるのではないかと思います。自分が変わる。相手が変わる。そして前より楽しくなる。それが結婚の本当の意味であり、結婚の醍醐味でもあるのではないでしょうか。
 人はどんなに勉強しても、どんなにキャリアを積んでも、一人では絶対学べないことがあります。それは自分がどういう人間なのかということです。「いや、そんなことはない。自分のことは自分が一番よく知っている」とおっしゃる方もいるかもしれません。確かに、自分の一日の行動も、その日考えたことも、好き嫌いも、一番知っているのは自分です。しかし、自分の本質的なところや、自分の本当の性格などは、自分を映す鏡がないとわか
りません。その鏡となるものが、何も包み隠さないで付き合える相手なのです。それは親子でも、友達でもなく、パートナーという存在です。
(pp.198-199)

 「若い」というのはイタいことだ。
 末井さんほどではないけれども、わたしも、若いときは、ずいぶんとハチャメチャなことをやっていた。

 若いときは、相手にウソをつかないでいることはなかなかに難しい。

 末井さんにしろ、高橋源一郎さんにしろ、結婚や家族にロマンティックな感傷をもちすぎているように思うが、もはや若くはなくなったとき、「何も包み隠さないで付き合える相手」はとても大切な存在になる。

目次
妻のもとから家出するまで
結婚の欺瞞
おぞましい性欲
新しい不安定な生活
嘘と自己嫌悪
自分しか愛せない
奥さんのところに帰ったら?
対談 恋愛と結婚と家族 植本一子さん
結婚と経済
カメレオンマン
不妊治療
結婚と恋愛
表現者同士の夫婦
自意識の束縛からの解放
女は男を愛せない
結婚の意味


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