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トランスジェンダーになりたい少女たち──SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇

アビゲイル・シュライアー(岩波明監訳),2024,トランスジェンダーになりたい少女たち──SNS・学校・医療が煽る流行の悲劇,産経新聞出版.(8.4.24)

「KADOKAWA『あの子もトランスジェンダーになった』」
あの“焚書”ついに発刊
世界10か国翻訳
日本語版緊急発売
「今年最高の1冊」タイムズ紙(ロンドン)
「今年最高の1冊」エコノミスト誌
ニューヨーク・タイムズ紙ベストセラー

ヘイトではありません。ジェンダー思想と性自認による現実です。KADOKAWA『あの子もトランスジェンダーになった』あの“焚書”ついに発刊。

 本書は、当初、KADOKAWAから出版される予定であったのが、「トランスジェンダー当事者へのヘイト本」だという非難が殺到し、急遽、版元が「産経新聞出版」に変更された、曰く付きの一冊だ。

KADOKAWAが出版停止にした『トランスジェンダー本』を産経新聞出版が刊行

 欧米では、2010年代以降、突如、「性別違和」を訴え、トランス男性として生きていくことを表明する思春期の女の子が急増した。
 実際に、彼女たちの多くが、自らの希望どおりに、思春期ブロッカー、性ホルモン(テストステロン)を投与され、「男の身体」を獲得している。

 シュライアーは、思春期特有の悩みをかかえた女の子たちが、YouTubeのインフルエンサーであるトランス男性や、SNS、友人等に感化され、自らのジェンダーのトランスをはかっている、という。
 セラピスト、カウンセラー、精神科医、学校の教師等が、それを後押ししている実態についても、詳述している。

 思春期は誰にとっても試練のときだが、とりわけ女子にとってはそうだろう。生理痛と膨満感とニキビが同時に襲ってきて、自分の身体なのに自分ではどうにもならないと思いしらされる。なぜ、激しい痛みや突然の経血といった困惑と警戒心をもたらすためとしか思えない花火を打ちあげるのだろうか。それがもっともこたえるのは、思春期に突入したばかりの少女たちだ。
 かつてこれらの変化にさらされる少女は、さほど年齢が低くなかった。アメリカの女性が初潮を迎える平均年齢は、サイエンティフィック・アメリカン誌によると、百年まえは十四歳だったが、いまは十二歳とのことだ。胸がふくらみはじめる平均年齢も現在は九歳か十歳だ。
 もし思春期が個人的なことだとすれば、これらはすべて悪いことばかりではないだろうか。胸がふくらみだしたからと社交の場にデビューすれば、すぐさま男性──未成年であれ成年であれ──の関心を惹く。身体の変化によって少女たちは、父親と同年代の男性たちからの居心地の悪い視線というスポットライトの下に押しだされる。胸がふくらみだしても、本人は性欲を感じないかもしれない(感じないことは多い)。性的な誘惑に対して心の準備ができていないのは確かだ。しかし、年齢が低いあいだは男性から注目をあびることがなくても、いずれあびるようになる。
 今日、トランスジェンダー・ブームが例によってブームに終わらず定着したのも、思春期の少女たちのあいだで、だ。少女たちは内側から拳で攻撃してくる身体に違和感をおぼえている。思春期にストレスを感じるのはいまも昔も変わらない。変わったのは、ストレスに対処する力がなくなったこと、そして常に選択肢が存在することだ。
 それにいまは〝手っ取り早く解決しようとする〟時代特有の演出がある。その根底にあるのは、どんな不快感であれ、それに耐える必要はないという考えだ。注意欠如障害のためのリタリン、鎮痛剤のオピオイド、抗不安薬のザナックス、抗うつ薬のレクサプロ、思春期の少女用のテストステロン。
(pp.47-48)

 ほとんどの若い女性は性別移行のことなどまったく考えずに大学へ行く。クラスメートの特権的なアイデンティティに対するインターセクショナル的な怒りから身を守る盾としてどれほど効果があっても、多くの女子学生にとって、性別移行という考え全体がまだ少し極端に思えるのだ。いま十八歳で、高校時代にはボーイフレンドがいた。自分自身についてすべてはわからないかもしれないけれど、女性であることはわかっている。
 でも、そんなときにメンタルヘルスの危機が訪れる。神経性無食欲症やリストカットなど以前の習慣──高校時代に苦しんでいた癖がまた出てきたのかもしれない。あるいはいくつもの試験をまえにして不安が抑えられなくなったのかもしれない。ルームメートとけんかして友人を失ったのかもしれない。ほかのみんながストレスを抱えた変わり者に見えたのかもしれない。いつも母親にメールを送っているけれど、ぜんぜん頼りにならないし、こんな調子でこれからの四年間をどうやって切りぬけていけばいいのかまったくわからない。
 ここでストーリーがおかしな方向に変わる。あなたは母親が初めて連れていってくれた中学生のときから、何年もセラピーに通ってきた。したがって抗不安薬は本物の友人であることも、自分の問題についてメンタルヘルス専門家と話しあうことが前進のための最善策だともわかっている。
 今日の女子学生が──控えめに言っても──精神的に弱いことに気づき、大学はいつでも支援できるように大勢のメンタルヘルスのカウンセラーを雇った(コロンビア大学は五十六人)。〝摂食障害〟〝トラウマ支援〟、そして〝性と性自認の問題〟などが専門だ。じつをいえば、たとえば抑うつについて話したくて大学のカウンセラーと面会したら、そのカウンセラーの別の専門が〝LGBTQ〟だったという可能性もある。なるほど、悲しい気分なのね。原因は何かしら?ネタバレ注意。あなたはトランスジェンダーなのかもしれない。
(pp.228-229)

 安易にジェンダーのトランスを容認する風潮に警鐘を鳴らした公衆衛生の研究者、リサ・リットマンは、トランスを望む子をもつ親、256人を対象として調査を行った。

 実際、かつてない数字だ。アメリカや西欧諸国では、性別違和を訴える思春期の若者が急激に増えていた。一般に言われる〝トランスジェンダー〟と関連する医学的症状だ。二〇一六年から二〇一七年にかけてアメリカでは、女性に生まれついた人で性別適合手術を受けた人の数が四倍に跳ねあがった。生物学的女性が性別適合手術全体の七〇パーセントを占めるようになったのだ。二〇一八年、イギリスではジェンダー医療を望む十代の少女の数が、過去十年のあいだに四四〇〇パーセント増加したとの報告があった。カナダ、スウェーデン、フィンランド、イギリスでは、臨床医やセラピストから、おもに就学前の男児から十代の少女までで、性別違和を訴える子供の数が急激かつ劇的に増えているとの報告があがりはじめた。
 リットマン博士は自身が目にしたSNSの投稿に関心を惹かれた。これまではほぼ男子にしか見られなかった精神疾患が十代の女子のあいだで広がっているのはなぜか?性別違和をいだいている女子の割合が友人グループのなかで飛びぬけて高いのはなぜか?
 何か見逃しているのではないか。彼女はそう思い、性別違和に関する科学論文を読みあさった。この症状の本質や一般的な治療について理解する必要があった。
 リットマン博士は調査の準備にとりかかり、幼少期には性別違和の兆候がなかったものの十代になってトランスジェンダーを訴えるようになった娘をもつ親たちからのデータを集めた。幼少期に兆候が見られなかったという点は注目に値した。すでにわかっているように、かつて性別違和は幼少期の早い時期にその兆候が現れるのが一般的だった。それはとくに、少ないながらも性別違和を示す生物学的女性にあてはまることだった。リットマン博士は自分が見ている状況が従来の精神的疾患の新たな変種なのか、まったく別ものなのかが知りたかった。彼女は親からの詳細な報告例を二百五十六件集め、それらを分析した。結果は驚くべきものだった。
 ふたつの傾向が際だっていた。ひとつは、思春期になってからトランスジェンダーを自認した十代の女子のうち、明らかに過半数(六三・五パーセント)が、長い期間にわたってSNSに熱中したあと、〝突然〟自分はトランスジェンダーだと言いだしているということ。もうひとつは、女子の友人グループ内において、トランスジェンダーを訴える子の割合が予想される割合の七十倍以上になっていることだ。これはどうしてなのか?
(pp.57-58)

・トランスジェンダーを自認する思春期の子供の八〇パーセント以上が生物学的には女性で、その平均年齢は十六・四歳だ。
・自分はトランスジェンダーだと告白したとき、ほとんどの子供が親もとで暮らしていた。
・大多数が幼少期には性別違和の兆候をまったく示していなかった(幼少期に性別違和を示したと判断する最低六つの基準を満たしてもいない)。
・親によると、子供のほぼ三分の一が思春期になってトランスジェンダーだと言いだすまで、性別違和をまったく感じさせなかった。
・大多数数が性別違和を示すまでに、一回あるいは複数回、精神科を受診した経験があり、ほぼ半数が自傷行為をしていた。
・四一パーセントがトランスジェンダーだと自認するより以前に、自分は非異性愛者だと発言している。
・半数近く(四七・四パーセント)が公的に、学力の高い生徒だとの評価を受けている。
・七〇パーセント近くが自分のいる友人グループのなかに、トランスジェンダーだとカミングアウトしている子供が最低ひとりはいる。なかには、同じグループの大多数がカミングアウトしているケースも複数あった。
・六三・五パーセントが、SNSの利用やインターネットを見て過ごす時間が増えたあと、トランスジェンダーだと告白している。
・自分の子供が友人のあいだでどのような位置づけなのか知っている親のうち六〇パーセント以上が、子供はカミングアウトしたことで急に人気が集まるようになったと述べている。
・調査対象になった親の九〇パーセント以上が白人だった。
・親の七〇パーセント以上が大学か大学院を卒業している。
・親の八五パーセント以上が、同性愛者どうしが結婚する権利を支持している。
・親の八八パーセント以上がトランスジェンダーの権利を支持している。
・親の六四パーセント近くが自分の子供から〝トランス嫌悪〟とか〝石頭〟と言われている。その理由として以下のようなことが挙げられる。子供のトランスジェンダーだという自己認識に異をとなえるから。性別違和がこれからもつづくかどうか、しばらく様子を見るよう子供に言うから。子供に対して誤った人称代名詞を用いるから。ホルモン補充療法や性別適合手術はおそらく助けにならないと言うから。子供を誕生時につけた名前で呼ぶから。性別移行の治療を受けるまえに、ほかの根本的なメンタルヘルスの問題を解決すべきだと言うから。・自分の子供の精神状態が、トランスジェンダーを自認したあとで好転したと考えている親は一三パーセントに満たなかった。四七パーセント以上が悪化したと述べている。
(pp.73-75)

 リットマンは、その後、トランス推進者たちのキャンセル運動により、失職する。

 人は、耐えがたい精神的苦痛がある場合、それを表出できる「症状」を希求する。
 症状は伝播する。
 摂食障がいしかり、依存症しかり、自殺しかり、そして、性別違和しかり、である。

 精神的につらくなると、わたしたちは他者が真剣に受け止めてくれる方法で説明したくなるとマルキアーノは言う。「誰も聞いたことがないような目新しい方法で(つらさを)表わしたら、きっと軽くあしらわれてしまう。でも、すでに語られていることにうまくはまれば、無意識はそれに飛びつきます。説明に役立って、心配されて注意を引けるから」
 これは精神医学史家エドワード・ショーターが展開し、ジャーナリストのイーサン・ウォッターズが広めた考えだ。患者は〝症状プール〟に引きよせられる──すでに認知されている診断につながる、文化的に受け入れられる苦痛の表わし方のリストだ。「患者は時代に即した診断に該当する症状をつくりあげます」それを発見したのがショーターだとウォッターズは言う。「患者は無意識のうちに心の苦しさを認められ正当化されることを求めるので、潜在意識はその目的を達する症状に引きつけられるのです」社会的な感染はこうして広がる。
 たとえば、香港では西欧人が〝無食欲症〟と呼ぶもの──自分は太っているという思いに囚われた少女たちがみずからを飢えさせるという症状──が流行ったことはなかった。一九九四年に香港のテレビ局が悲劇的な死を遂げた少女の話を神経性無食欲症というなじみのない西欧の病気の例として説明し、広く伝えるまでは。その後まもなく、同じ症状を訴える少女たちが大発生した。一九九四年までは、香港の誰ひとり自分を飢えさせることなど考えなかったのに。無食欲症が〝文化に認められた心の苦しみの表現となって初めて、無食欲症が広がりはじめた〟のだ。
 同様に、インターネットやヴァニティ・フェア誌や〈アイ・アム・ジャズ〉のような人気テレビ番組の影響で性別違和も〝症状プール〟入りした。性別違和はそれまで聞いたことのないものから、母親のハイヒールをはいてパカパカ歩いている少年を見て真っ先か二番めに頭に浮かぶものに押しあげられた。「二十一世紀初頭の症状プールには、子供たちは誤った身体で生まれた結果として非常に苦しむ場合があるという認識がふくまれた」とマルキアーノは記している。そして、大きく伝えられた数件の事例経由で性別違和が症状プールに入ると──驚いたことに──親もセラピストも医師もこれまでよりはるかに多くの症状を目にしはじめたのだ。
 マルキアーノは突然ティーンエイジャーの子供がトランスジェンダーだと自認するという苦境に直面した親たちの唯一の理解者である。彼女は二〇一六年にカウンセリングを開始した。思春期の子供たちには直接会わないことで、転向療法への批判を避けている。娘の自己診断をすぐに肯定するよう迫ってこなかったセラピストはマルキアーノだけだったと多くの親が語っている。
(pp.201-202)

 女子スポーツがトランス女性により蹂躙されているかのような物言いは、現実を誇張しすぎているように思えるが、トランス当事者をジェンダーにより区分されたスポーツに無理やり組み入れるのには、わたしも反対だ。
 可能であれば、「トランス当事者競技枠」をつくるべきであろう。
 それは、例えば、「オリンピック」に入るのか、「パラリンピック」に入るのか、議論になるところだろうが。

 それにしても、トランスジェンダー擁護派のキャンセルカルチャーは激烈だ。

 すでにアメリカじゅうの高校で最高水準にある女子選手が女性を自認する生物学上は男子の選手に圧倒されている。女性の陸上競技選手も、水泳選手も、ウエイトリフティングの選手もトランスジェンダーを自認する生物学上は男子の選手に追いやられた。その多くは男子チームでは月並みの選手だったのに。不公平さに異議を唱えても簡単にかたづけられるか、偏見だと非難されるかのどちらかだ。
 こうした件はすべて、少女たちがあらゆる文化で支持を失ったことにおそらく気づいているのだと物語っている。女性専用だった場所は男女共用になり、スポーツの記録は盗まれ、不公平だと抗議をすれば偏見だとどなられる。二〇一九年二月、テニスの偉大な選手であり誇り高いレズビアンであるマルチナ・ナブラチロワはトランスジェンダーの選手に女子スポーツで競技させるのは生物学上の女子に不公平だとサンデー・タイムズ紙に書いた。するとトランス嫌悪だとレッテルを貼られ、スポンサーだったアスリート・アライから放りだされた。「トランスジェンダーのコミュニティは攻撃されています。わたしたちはトランスジェンダーを攻撃しつづけるどんな人々とも断固として戦いますたとえ相手がどんな人物で、どんな栄誉を称えられていても」
 おそらく世界でもっとも有名な同性愛者の女子アスリートであるナブラチロワが少女たちのために立ちあがったことで反LGBTの偏狭な人物だというレッテルを貼られたのなら、無名の女子選手はどうやって反対できるだろうか?真剣に受けとってもらえる見込みはどのくらいあるのだろうか?長いあいだ、スポーツは女性や少女にほかの人々より優れ、奨学金やプロになるチャンスを得る機会や、自分ができることに対して正当な誇りを抱く機会を与えてきた。それが突然、勝負が決まってしまった。反論があっても、誰も本気で聞いてくれないのだ。
(pp.222-223)

 思春期から青年期にかけての女性が、生きづらさの原因帰属を性別違和に求めるよう誘導するのは、とても危険なことだ。
 シュライアーは、ホルモン治療、乳房切除等により身体を変化させたあとに、トランスの過ちに気付き、ディトランスすることになった女性たちの苦悩を数多く取り上げている。

 イギリス、タヴィストック・クリニックを舞台にした一連の騒動──まだ性自認が揺れ動いている子どもや青少年に、安易な性別移行のためのホルモン療法を実施し、多くの犠牲者が出た──に明らかなように、思春期から青年期の、とくに女性たちに、安易にトランス医療を施すべきではない。

LGBT法案のもう一つの焦点―学校から医療に送られる子どもたち

 もちろん、幼少期から性別違和をかかえ込み、トランスすることで救われた人たちも数多く存在する。

 しかし、本書でつまびらかに記されているように、トランス医療を受けた後に、それを後悔し、身体の機能不全に苦しむ人たちも同様に数多くいる。

 トランスヘイトは御免こうむりたいが、揺れ動く若者の悩みにつけ込むかのような、「ジェンダー肯定」至上主義とキャンセルカルチャーの動きに対しては、はっきりとノーを突きつけるべきだろう。

 以下の批判は、シュライアーが強く主張した、ジェンダー肯定医療がもたらした弊害については、なんの反論もなしえていない。

KADOKAWA出版予定だった本の6つの問題。専門家は『あの子もトランスジェンダーになった』は誤情報に溢れていると指摘

目次
1 少女たち
2 謎
3 インフルエンサー
4 学校
5 ママとパパ
6 精神科医
7 反対派
8 格上げされたもの、格下げされたもの
9 身体の改造
10 後悔
11 あと戻り


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