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本と音楽とねこと

狂気という隣人

岩波明,2007,『狂気という隣人―精神科医の現場報告』,新潮社(初出2004,文庫,¥460)07.3.23・・・
具体的なケースを交えて淡々と紹介される、日本のお寒い精神医療・福祉・司法の現状にあらためて驚かされる。凶悪犯罪を引き起こした精神障害者が、マスコミでさして大きく報道されなかった事件の犯人の場合、たとえ再犯の危険が高くても野放しにされている現状がある一方で、たとえば、世論の憤激をかった池田小児童殺傷事件の犯人、宅間守の場合、ろくに精神鑑定が行われないままいとも簡単に死刑判決が下り即座に執行されてしまう、こうしたご都合主義がまかりとおる触法精神障害者処遇のあり方に、あらためて憤りを感じた。

精神分裂病の発症率は人口の1パーセント。しかもその数字は貧富の差、国などの地域差はなく、全世界で変わらないと言われます。どのような生活を営もうが、誰もが発症する可能性を持っているということです。また、少なくともその30倍の人々は「スキゾフレニック(精神分裂病的)」と呼ぶことの出来る、いわば予備軍と指摘する声もあります。
 それだけ身近な病であるのに、私たちはその実際を知りません。長いこと、多くの差別や偏見により閉ざされた世界であったのも事実です。精神病院もまた同様です。「こわいところ」「汚いところ」、そういったイメージで語られることも少なくありません。一方で巷では、精神障害者の犯罪が紙面を賑わせます。ところが、これもまた刑法39条により、その詳細は明らかにされません。確実に被害者は存在するのに起訴されることもなく、事件はなかったことにされてしまいます。つまり、あらゆる場面で私たちは何も知らされないし、知ることもなかったのです。
 殺人に手を染めた触法精神障害者は、どのような生活を送り、その後、どう生きていくのか。警察から拒否され、たらい回しにされた患者は、どう処置されるのか。治癒し社会復帰した者たちは、何故、再び病院へと戻ることになるのか……。本書は精神医療の現場について専門家が綴ったものです。
著者の岩波さんは、東京都立松沢病院を始め、長年、精神病院に勤めてきた現役の医師です。生身で付き合った当事者だからこそ見ることが出来た、本当の世界がそこに描かれます。医師だからこその、冷静な人間観察の記録となっています。その凄絶な現実をお読み下さい。
(出版社・著者からの内容紹介)

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