◎放射線照射食品 ほうしゃせんしょうしゃしょくひん
日本での放射線照射食品として、馬鈴薯が知られ、これ以外の食品への照射は禁止されています。食品に放射線を照射したかどうかは、その現物の検査方法がないといいます。日本は1974年から北海道の士幌町農協でジャ ガイモの芽止め、ソラニンの有毒物質の生成阻止に放射線が照射され市場に出荷されています。
放射線照射食品は、遺伝子に影響を与えるわけですから、過剰摂取は人体に何らかの影響が考えられるのではないでしょうか。品種改良の延長として遺伝子組み換え食品(GMO)などと同様に、食べたからといってただちに健康に害があるものではありませんが、長期にわたり摂食することで、 どのような影響が出てくるか分からないものです。
放射線照射、変異原性薬品などの突然変異誘発剤でバイオテクノロジーのひとつとして有利な品種を獲得させた作物は、遺伝子組み換え食品とはみなされていません。放射線照射などは、食材を個別にピンポイントで遺伝子を変更するのに対し、遺伝子組み換え食品は、種子に変異をもたらし子孫にまでランダムに変化させた品質を獲得できるものです。遺伝子組み換え食品などとともに意図としない品質の生成などの危険性や安全性に対する不安は高いように思われます。多くの医薬品がすでに経口、注射で遺伝子組み換えの技法で製造されています。しかし食品は、常時の摂取する食物です。
アメリカ製の大豆たんぱく質の粉末に、日本では禁止されている放射線(ガンマ線)が殺菌目的に照射された疑いがあるとしてキ○コ○○ンが輸入し関連食品会社などが2007年6月から自主回収している問題が報道され回収されたのは販売量の2%(126kg)程度にとどまっていることがわかりました。2002年ごろからといい主に健康食品などに使われています。消費者団体の集会が開かれ、消費者保護の観点からこの粉末を使ったすべての企業と製品名を公表するよう厚生労働省にもとめていますが、検知方法がなく混入していてもわからないことから一部しか公表されていません。
放射線照射は、殺菌、殺虫、発芽抑制のために行い保存性を高めることができます。問題とされるのは、放射線照射によって生成される物質(放射線照射生成物)が有害なのではないかという疑いがもたれる点です。放射された食品中に放射線が残っていて食品中の成分、栄養、味覚、性質に変化し毒性を示したり、人体にも影響を与える場合も考えられます。
実際にラットによる実験で生殖機能の卵巣に変化が見られたり、死亡率が増加したという結果が得られています。1998年ドイツ・カールスルーエ連邦栄養研究センターで、照射によりできる化学物質の一つの2-ドデシルシクロブタノンをラットに与えて細胞内の遺伝子(DNA)を傷つけるという報告をしています。その後、この生成物質は発がん物質と一緒に体内に入ると強い発ガン増強作用のあることが分かっています。
また照射食品は、食品添加物や残留農薬の問題とは異なり、過去に照射が行なわれた食品かどうかという検知法が確立されてないということです。発癌性のあるアフラトキシンは、放射線照射食品の中で増加傾向があるといわれます。
1997年にWHO(世界保健機構)では、放射食品に対して10kGy(キログレイ:放射線の吸収量の単位)以下で健全性に問題は無いとの見解を示しています。
実用照射が行なわれているのは海外では、アメリカ、ベルギー、フランス、ハンガリー、オランダ、ウクライナ、デンマーク、フィンランド、イスラエル、ノルウェー、クロアチア、アルゼンチン、バングラディッシュ、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、中国、イスラエル、フィリピン、タイなど30カ国です。照射食品としては、穀類、タマネギ、ジャガイモ、ニンニク、冷凍魚介類、肉類、香辛料、果物などがあります。香辛料、乾燥野菜への利用の多くがアメリカ、中国、韓国、カナダなど20カ国以上です。
アメリカはハンバーガーショップでのO157食中毒による肉への不安が広がったことがあり、1997年12月に牛肉および肉製品への放射線照射を許可、鶏肉(1990年)、豚肉(1996年)、食肉全般に2000年より認められています。他に香辛料、果実、野菜類などとなっています。
中国は、馬鈴薯、玉葱、ニンニク、リンゴ、スピリッツ(蒸留酒:焼酎類)、香辛料に認められているようです。
放射線照射食品は、食品に放射線をあてることで、放射線(コバルト60など)の作用によって食品や食品についている虫、菌などの遺伝子(DNA)の一部を壊し、傷つけたり、細胞死をおこさせるなどしたものです。
遺伝子操作によって食品についている虫や寄生虫を殺す(殺虫)、病原菌や腐敗菌を殺す(殺菌)、ジャガイモやタマネギが発芽できないようにする(芽止め)などの目的があります。
放射線をあてますが、あてた食品が放射能(誘導放射能)をもたないように、コバルト60、セシウム137からのガンマ線、 10MeV以下の電子線、5MeV以下のX線のみが使われることになっています。
日本では1970年代頃より研究が開始され、過去30年間、士幌町農協以外では、ジャガイモの発芽防止に放射線照射を行おうと考えたところはないようです。表示については、「義務」表示であり、実際に箱には「ガンマ線照射済、芽止め、じゃがいも、日付」のスタンプが押されています。しかし、箱から出されて小分けされてからは表示義務がないため、照射食品であることは分からなくなっています。
じゃが芋 じゃがいも(馬鈴薯)
ナス科(いも類)、原産地は南米。じゃが芋は、寒冷、冷害に強い作物であり日本で主に栽培されるようになったのは明治時代に入ってからで北海道の生産量が最も多い。一年生で収穫まで2、3ヶ月と短く地下茎で肥大した塊茎を食料とする。男爵、メークイン(粘質で主に調理用とし用いられる)、農林1号、紅丸(べにまる)がある。新じゃがといわれるものは、5、6月を旬とし皮が薄く粘質で煮物にして煮崩れしない。10、11月(男爵、寒冷に強い・コロッケ)に収穫されたものは、でん粉質に富んで粉吹き芋、じゃがいもでん粉を作るのに向く。
味が淡白で貯蔵性がよく北欧、ドイツ、ソ連では、黒パンとともに主食的に食べられ又和洋中のさまざまの料理に利用され、特に肉、油との相性がよいが、味噌汁の実、付け合せ、ソテー、コロッケ、から揚げ、煮込み、グラタン、サラダ、スナック菓子にと応用範囲が広い。02年4月にポテトチップス(でん粉質の高温加熱[スウェーデン食品庁])より高濃度(1200倍ともいう)にアクリルアミド(遺伝子、神経に障害を起こし発癌物質として知られる)が検出され話題となった。
休眠期間を過ぎると発芽部分の有毒なソラニン(苦味がある)は、芽、皮を取り除くのがよい。切り口の褐変は光、空気に触れて起こりやすくポリフェノールが酵素(ポリフェノラーゼ)、チロシンがチロシナーゼ(酸化酵素)によって酸化されメラニン(着色物質)を生じたことにより起こる。チロシナーゼは水溶性なので切ったものは水につけたり、保存は冷暗所(5~0℃)に置くようにする。 カリウム(410mg/100g中)、ビタミンB1(0.09mg/100g中)、ビタミンC(35mg/100g中)、グルタチオン(シスチン、グリシンよりなるトリペプチド:解毒、抗酸化作用、肝機能強化)13.6mgを含む。
*ソラニン
希硫酸によって赤くなり、加水分解でソラジンと糖(グルコース、ガラクトース、ラムノース)に分解されるグリコアルカロイドで苦味がある。ソラニジンが、ステロイド(抗炎、免疫抑制作用がある)系のアルカロイドで腹痛、メマイなどを起こし、神経障害、瞳孔拡大、赤血球破壊作用を呈する。
シャガイモの新芽、緑色部分に多く幼芽の半分ぐらいであるが皮にも含まれ毒性を有する。生芋で20~40mg/100gで中毒を起こすといわれる。
植物の有機酸塩とし存在することからアルカリで分解し溶剤抽出、蒸留により分離される。水に不溶、アルコールに溶け、加熱して分解されない。ソラニンは、日の当たるところで保管すると発芽し皮が緑がかって増加する。芽、皮を取り除いたほうがよい。他にトマト、ほうずき、ヒヨドリジョウゴ(多年草)、なす、ピーマンなどナス科の植物にじゃが芋ほどではないが含む。
照射食品は、アメリカの陸軍で第二次世界大戦中に研究が始められ、1963年にFDA(米国食品医薬品庁)がアメリカ陸軍向けのベーコン、小麦(カビの抑制)、その後ジャガイモ(発芽防止)に照射が認められました。しかし、その後、実験の結果に問題があるとして1968年に使用が一時禁止されています。
その後アメリカでは、1972年に宇宙飛行士向け食品に照射が認められ、1985年には一般向けに1986年に香辛料、果物、野菜(昆虫・微生物の除去、シェルフライフ:賞味期限の長期化など)、豚肉(旋毛虫の不活性化)など、 92年に鶏肉、2000年に食肉全般の牛肉、家禽類、鶏卵に認められました。これは食中毒の原因とされる病原性大腸菌O157、サルモネラ菌対策でした。
なお、NASAはその後、宇宙飛行士が照射食品の特有の臭い(照射臭)によって食欲を落とすという理由から、ほとんどの食品について食品照射を取り止めています。実際に市場に出回っている照射食品の種類はさほど多くなく最も多いスパイス類でも全体量の約15%程度でアメリカの消費者は照射食品に対して否定的な意識が強い(アメリカ農務省見解)と、国民に受け入れられていない旨を報告しています。
EU共通で1999年スパイス・ハーブ類を統一許可品目にしています。フランスでは、照射食品は全て輸出に回して、国内での販売を認めていません。
オーストラリアとニュージーランドは2001年に香辛料・ハーブ類、2002年に熱帯果実(スターフルーツ、チェリモア、ライチ、リュウガン、マンゴ、マンゴスチン、パパイア、ランプータンなど)が殺菌の目的のみにおいて許可されています。
これまでに、日本国内で1978年9月ベビーフード用の原料の粉末野菜に放射線照射されていた事件や、ホッキ貝やサケに違法照射したことが発覚しています。2004年2月中国で加工したカナダ産ホッキ貝が放射線照射され日本に輸入されて一部流通していた事件などがあり輸入健康食品や海産物などで放射線照射による食品衛生法違反があります。他の加工方法ではみられない臭い「照射臭」があり、食味低下がみられなんらかの変化が起きているのです。労働者の被曝の問題も考えられます。
2006年の内閣府の原子力委員会照射食品推進の動きで「放射線照射の意義は高まっており、2003年時点で、53ヵ国、対象食品で230品目が許可され、このうち32ヵ国40品目が実用化されている。世界の照射食品量は現在、年間約30万トン(スパイス9万トン)に及び、 食品の安全に貢献、実績を蓄積してきている。」という認識があります。安全性についても、現在のところ有害と認められる研究はなく、臭いなどの問題は安全性とは別の問題だとしています。推進側は、発がん性についての実験と実際の照射食品の安全性には適用できないとしているようです。
しかし、放射線照射食品には「照射臭」があり、なんらかの変化が起きていることは明かです。さらに脂質が分解されることで2-アルキルシクロブタノン類が生成され、この物質は発ガンを誘発するという実験結果があり、安全、安心とはいえません。
さらに2011年3月12日からの原発事故により東日本の土壌は放射性物質に汚染され、除染作業、放射線量の監視を何十年と続けなければならない状態に陥ってしまいました。照射食品、医療における放射線による検査などとともに危険性がプラスされる結果になりました。
遺伝子組み換え食品と同様に、安全性についての疑問が解消されず、またその必要性について疑問が持たれています。政府や特定の企業などの管理に置かれていることなどの問題があります。
照射により、ビタミン類の葉酸など栄養素が破壊されることはないのでしょうか。照射量により、一定程度の微生物等が死滅するでしょうが、生き残る菌もあるのでは、さらに放射線に強い菌ができることも考えられます。必要以上の強い放射線が照射された食品はどのような状態となるのでしょうか。確立された検知法のない放射線照射食品は、実際に照射した人だけが知るのみです。馬鈴薯のソラニンによる放射線照射以前の中毒事件の多発の状況などを調査する必要があります。消費者は、行政のみを頼りとせず健康維持のための監視の目を緩めてはいけないのです。