えりこのまったり日記

グダグダな日記や、詩的な短文、一次創作の書き物など。

二人の距離・3年後の二人

2017-12-15 23:45:34 | 書き物
あれから、3年が過ぎた。


あの夜。
先輩…大沢さんからの返信を読んで、体から力が抜けてしまった。
本当は分かってた。
受け入れてくれないだろうって。
でも、もしいいよって言ってくれていたら。

彼に彼女がいた時から好きだったの。
分かりきってる片思いなのに、諦めきれなくて。
結婚すると聞いて、もう想っていてはいけないんだと、悲しかった。
でも、その後異動が原因で別れたと聞いてしまった。
ものすごく自分勝手だけど、希望の光が見えたと思ったの。
もしかしたら、受け入れて貰えるかもしれないって。
だから最後に会いにいった。
だけど、始まる前にドアは閉じてしまった。
もう、開かないんだ。

同期に誘われて合コンして。
彼に似てない人と付き合った。
好きになったつもりだった。
「俺のことほんとに好きなの」って、冷たい目で言われてサヨナラした…
そう、彼に似てない人は彼じゃない。
似てる人だって彼じゃない。
ただ、似てる人なだけ。
私は、何をやっているんだろう。
こんな重い女、彼じゃなくても嫌がられるに決まってる。
慰めてくれようとして飲みに誘ってくれた同期にも、もう、オトコなんていらないと、管を巻いて呆れさせちゃった。

大沢さんが行ってしまって、2年が過ぎた頃。
もう、彼を忘れようとするのに疲れて来ちゃった。
無理に誰か探したり、忘れたりしなくてもいいかなって、ようやく思えるようになった。
そう思えたら、あんまり思い出さなくなって。
仕事頑張ろうと決めて、とにかく仕事に打ち込んできた。
契約を取れることも、お客様とお話することも、地味な事務の仕事も。
やりがいがあって楽しかった。

そんな日常が普通になって、もう彼のことを忘れられるかなってぼんやりと思ってた。
…なのに。
戻ってくるって、噂話を聞いた。
ただの噂話じゃないの、どうなのって人事の友達に聞いたら、本当らしい。
どうしよう。
どんな顔をしたらいいんだろう。
それよりも、彼と顔を合わせたらまた好きの気持ちが、燻ってしまう。
気持ちの整理がつかないまま、彼が戻ってくる当日になった。
もうすぐ、あのドアを開けて彼が入って来る。




















あれから、3年が過ぎた。


慣れない土地での営業の仕事は、精神的にキツかった。
仕事で無理やり饒舌になっているからだろうか、終わると無口になってしまう。
環境が変わったのに気持ちが追い付かなくて、余裕がなかった。

あんな返事をしたくせに、後輩の彼女のことはよく思い出していた。
新人の頃研修で外回りをしていて、四六時中一緒にいた。
よく、彼女の目がすがるように追いかけて来るのには、気づいていた。
一生懸命で芯が強い彼女の目を受け止めたら、きっと俺は彼女に気持ちが向いてしまう。
いつ頃からかそれは分かってたけれど、気づかないふりをしていた。
結婚を約束した、同期の美香がいたからだ。

異動の話が決まった時、結婚して一緒に行こう、と美香に伝えた。
結婚するつもりなんだから、当たり前だと。
でも、美香は悲しげな顔で言ったのだ。
「連れて行きたいのは、私じゃないでしょう」
「え…」
美香からそんなことを言われるなんて。
いきなりだったから、狼狽えてしまった。
「俺はお前に結婚しようって言っただろ」
「前にね。でも今は違う。私、知ってるよ。あなたは、後輩の彼女の気持ちに応えたいはず」
「後輩の…」
「分かってるでしょ。私は別の人を想ってるあなたと、知らない土地に行く気はないよ。」
「なんで、今そんなことを?いきなりなんだな」
「いきなりじゃない。あなたは彼女の研修を担当してから、気持ちが変わったんだから」

結局、美香とは別れてこの土地に来た。
…アイツの言うことはもっともだ。
あのときもう、気持ちは後輩の彼女に向いていた。
でも。
だからと言って、すぐに受け入れるなんて出来ない。
二人の距離が離れて、もう俺を忘れてしまうかもしれない。
それはそれで、しょうがない。
そう思っていた。
そこへ、彼女からのメール…
自分の気持ちは分かってるのに、拒絶した。
こんな優柔不断な男は、彼女には似合わない。

仕事に慣れ、土地にも慣れて来てもうすぐ3年。
慣れてくるにつれこの土地が好きになってきた。
遠い先にあるだろう、転勤も無ければいいなあと思っていた。
その、矢先。
まさかの出戻り。
前にいた課の管理職が退職して、押せ押せで主任の席が空いた。
そこへ入れと言うのだ。
…何のために異動させたんだ。
イラついたけれど、どうしようもない。

気になるのは、彼女のこと。
あんなこと言っておいて、また会うはめになるなんて。
どんな顔をすればいいのか。
あまり近寄らない方がいいのか、何もなかった振りで以前の様に接すればいいのか。
ぐるぐると考えているうちに、再びの異動日が来てしまった。
あのドアを開けたら、彼女がいる部屋。










二人の距離・遠く離れた空

2017-12-08 07:01:31 | 書き物


いきなり決まった転勤だった。
バタバタと荷物を整理して、最後の日。
木曜の朝、がらんとした机に座る俺の元へ、後輩の女の子が挨拶に来てくれた。

「もう、1人でも大丈夫だね。後輩も出来たし」
そう声を掛けたけれど、彼女は黙ったままだ。
うっすらと涙を溜めて、見上げている。
新人の頃からよく知っている彼女の、久しぶりに見た少女の顔だった。
彼女の気持ちは、その目を見れば読み取ることは出来た。
けれど、遠い距離を乗り越える強い気持ちを、持てる自信か無かったんだ。
言葉をどう続けたらいいか分からなくて、外へ目をやるとどんよりとした空が見えた。

彼女から遠く離れた今、窓から見えるのは、
木々も、山並みも、真っ白に染まった景色だけ。
この空も、あの空に繋がってるのだろうか。ここにいない彼女を、想いながら見上げる空。
きみは、何を想っているんだろう。

先輩の異動が決まって、最後の日まであっという間だった。
すごく迷ったけれど、勇気を出して挨拶に行ったの。
「もう、会えないんですか」
ようやく言えたけれど、それだけで涙が出てしまった。
涙を堪えている私を、優しく見る眼鏡の奥の目が、忘れられなくて。
何を聞いても、どんなことでも、教えてくれた人。
いつも頼っていた大好きな先輩だった。
私の気持ちを、受け止めて欲しかったの。
例え、遠く離れるとしても。
受け止めてさえくれたら、どんな距離だって、乗り越えられるって思ったのに。
言葉が続かなくて外を見ると、ビルも、車の影も、冬の冷気に覆われてる。

今、窓から見えるのは、ひらひらと白い花が舞ってる景色。
寒い寒い季節の始まり、あなたのいない街で私はどうすればいいのかわからない。
遠く離れたあなたを、ずっと想ってるの。
あなたは、誰を想っているのかと。
このまま、離れてしまうのは嫌。
どうすれば、いいの。





異動後の初日の夜。
慌ただしく外回りをして、あっという間に1日は過ぎた。
その後、支社のみんなが地元のお馴染みの居酒屋で、歓迎会を開いてくれた。
去年入社した、と言う女の子もいた。
よろしくお願いしますと、挨拶に来てくれた姿を見て、彼女を思い出していた。
後輩のあの子を。
…どうしているかな。
明るい笑顔の子なのに、今思い出せるのは、涙ぐんでいる顔。
あのとき。
ぽってりと浮かんでいる涙を、拭ってやりたいと思いとっさに右手が動いていた。
自分の手が前に出ようとするのに驚いて、すぐに出しかかった手を引っ込めたけれど。

遅くにお開きになり、外へ出る。
固まった雪道をギシギシと音をさせながら、1人歩く。
すると、街頭に照らされた雪道に影が出来た。
さっきまで大勢でいたのに、もう、今は1人きり。
知らない街に来たのだと、思い知らされた。
引っ越したばかりの部屋に戻ると、部屋は冷えきっていた。
夜になって更に気温が下がったのだろう。
すぐ暖房をつけないと、いられないほど寒い。
この寒さにも、だんだんと慣れて行くのか…
部屋が暖まってから風呂に入り、ようやく落ち着いて座った。
そこで、スマホのメールに気づいた。

差出人には、松丘美幸とある。
後輩の子からだった。
「…どうして」
彼女は、俺の仕事用のアドレスしか知らないはずなのに。
メールを開いた。

「突然のメール、すみません…どうしても先輩にメールをしたくて。先輩の同期の沼田さんに、我が儘を言ってしまいました」
沼田から聞き出したのか。
あの、俯いている彼女からは想像出来なかった、強い意思を感じた。
「もし先輩が嫌でなければ、これからもメールしてもいいですか。時間のある時に読んで貰えれば、それでいいんです。どうしても、どうしても先輩とまだ繋がっていたい。」

…どうしたらいい?
彼女の泣き顔が、頭にチラついた。
さっき歩いたときの、街灯で出来た影に飲み込まれそうで、怖じ気づいている。
出来ることなら、俺だって彼女と繋がっていたい。
でも。
空は繋がっていても、遠く離れた距離は縮めようがないんだ。
中途半端なことはしないほうがいいと、決めたじゃないか。

メールありがとう。
こっちはすっかり雪景色です。
そちらでは、もう晴れているのかな。
もう、こんなに遠くなってしまったんだから、松丘さんも俺のことは気にしないで下さい。
空は繋がってるけれど、二人ともそれぞれの空があると思うから。
寒い日が続くけれど、元気で。





マフラーの行き先

2017-12-07 23:45:09 | 書き物
幼なじみの健は、手芸部の部長。
筋金入りの編み物男子だ。
教室でも部室でも、いつも飄々と編み棒を動かしてる。
ごついのに長い指がテンポ良く編んでいくのを、同じ教室でも席が遠いのについ見てしまう。
天パ気味でふわふわな髪。
メガネを時々くいっと上げる癖。
俯いた横顔がキレイで、気づかれないように見とれてる…私の好きな人。




子供の頃からいつも遊んでた。
ずっと一緒に通学していて、同じ高校に進んだらまた、当たり前のように迎えに来てくれた。
ぶっきらぼうでも、いつも穏やかに笑ってる。
私のことを何でも知ってる、幼なじみ。
私も、健のことを何でも知ってる。
…はずだった。
今年の春までは。



高2になったばかりの春。
隣のクラスの子に告白されたことを、クラスの友達経由で知った。
ええ?アイツを好きな子がいるんだ~って、笑い飛ばそうとした。
…笑うつもりが、出てきたのは『へえ…そうなの』という、間の抜けたただの相槌。
興奮したクラスメイトが、『断ったんだって!』と、続ける。
『好きな人がいるから』と、断ったそうだ。
私が幼なじみと知ってるその友達が、「好きな人って誰?」って、聞いて来た。
初めて聞いた、そんなこと。
健に好きな人がいるなんて。
幼稚園の頃から遊んでた男の子が、誰かを好きになってる。
私の知らない誰かを。
なんだか、一人置いて行かれたような気がした。

誰なんだろう…健の好きな女の子。
考え出したら、胸がザワザワした。
そのうち、その子に告白するの?
その子がokしたら、付き合うの?
そしたら、私じゃなくてその子と一緒に学校に行くの?
そんな疑問符ばかり思い浮かべてたら、寂しくてたまらなくなった。
ずっと、一緒だったのは私なのに。

え…
なんでこんなことばっかり考えてるんだろう。
私、もしかして落ち込んでる?
わたし、、
私、健のことが好き、なんだ…
今まで考えなかった言葉が、すっと出てきた。



好きな人がいるくせに、健はそれからも朝、私を迎えに来た。
1回だけ、勇気を出して聞いてみた。
からかってるふりをして。
「告白されたんだって?なんで付き合わないの?勿体ない」
「誰に聞いたの?」
「同じクラスの子。」
「そっか。すぐ、広まっちゃうんだな」
「告白された話してるのに、なんでそんなテンション低いの?」
「いや、べつにそんなつもりないけど…」
「好きな人いるから断ったってとこまで、広まってるよ」
「それも?参ったな」
「告白して、付き合えばいいじゃない」
「簡単に言うなよ。タイミングってものがあるし、そんな感じじゃないんだよ、今は」
「…ふ~ん」
告白の話をしたのは、それっきり。
それからはまた、今までと同じ。
朝、並んで歩いて学校へ向かう毎日。
でも、ずっと気になってた。
今はそんな感じじゃない…じゃあ、タイミングがいいときに告白するんだ。
何も気づかないふりをしてたけど、隙を見て横顔を盗み見ながら、モヤモヤしていた。


11月の末、私の誕生日の前日。
ちょっと前に買った、薄いマフラーを巻いて出て思いのほか寒くて後悔していた。
そこへ、健が普段言わないようなことを言って来た。
「おまえのマフラー、ずいぶん寒そうだな」
健が普段、言わないようなことを言って来た。
「ああ、これ?ちょっと薄手なだけだよ
。気に入ってるし、そう寒くもないよ。」
「そっか。」
気に入って買ったはいいものの、真冬には厳しい薄手のおしゃれマフラー。
買ったのを後悔してたけど、認めるのが癪だったから強がって答えた。
それよりも。
そのあと、教室で気になることがあったのだ。
休み時間になると、健はよく毛糸を出して編み物をする。
取り掛かってる物があると、少しでも早く仕上げたいらしい。
昨日までは濃いグリーンの毛糸で、大作らしいセーターを編んでた。
なのに、今日紙袋から取り出したのはスモーキーなピンク。
見たところ、マフラーを編むつもりみたい。
スモーキーピンク…私が好きな色。
いつだったか、健が見てた毛糸のカタログで、見たピンク。
カタログのページを見て、「あ、この色好き」と、指したことがあった。
「こういう色、好きだった?渋い色だな。前、赤が好きって言ってなかったっけ?」
「それは、子供の頃の話。今は、ピンクなの。ピンクだけどくすんだところが好き」
そんなやりとりをした。


健は色んな色のものを編んでるけれど、ピンクは初めて見た。
健の隣の席の子が、
「ねえ、そのピンク、自分で使うの?」
と、聞いてるのが聞こえた。
健は言葉少なく「いや…」と返しているだけ。
「じゃあ誰用?あ、好きな人にあげるんでしよ!」
すっかり広まってしまった、「好きな人」のワードを持ち出されてる。
参ったな、と黙るかと思った時。
「そうだよ。」
はっきりと、答えたのが聞こえた。
聞こえて、しまった。
「へえ~やだ、もう付き合ってるんだ」
告白するのか!と、突っ込むつもりがあてが外れたらしい。
そのあとの返事に興味がないのか、別の方向へ、顔を向けてしまった。
そこへ健がぽそっと
「いや、違うけど」と呟いた。
モヤモヤしてたこと、的中したんだ。
健は、あれが編み上がったら告白して、あれをあげるんだ。
それが、健の言ってたタイミングなんだ。


翌日、今日は私の誕生日。
健は、朝会ったときには何も言わなかった。
さすがに幼なじみでも、もう誕生日を覚えてる年でもないか。
教室では、例のピンクの毛糸はほぼマフラーとして、完成してた。
形もキレイだし、モコモコとしていて暖かそう。
さすが、手芸部の部長、仕上がりが早い。
昼休みに、器用にフリンジを付けているのが見えた。
ほんとに、誰にあげるんだろう…
まさか、私?誕生日だし、と一瞬虫のいいことが浮かんだ。
いやいや、健が私を好きなはずない。
そもそも、ちっともそんな素振りを見せてないし…
毎朝迎えにくるほどマメなのに、私にはぶっきらぼうな口しかきかない。
私は、しょせん幼なじみなんだ。
もういいや、健のこと考えてもし
ようがない。
授業が終わって、私は部活に向かった。


部活が終わったら、外は冷え込んでいた。
もうすぐ12月だもの、当たり前か。
マフラーは巻いてるけど、やっぱり今日みたいな日には向かないなあ。
首がスースーする…
しようがない、もっと厚手のを買おうか。
また、健に突っ込まれるけど。
校門を出て右を向くと、暗い門に誰かが寄り掛かっている。
目を凝らして見ると健だった。
「どうしたの、こんなとこで」
「もう暗いし、部活終わった頃かと思って」
「待ってて、くれたの?」
「うん、まあね」
いつもみたいに、並んで歩きだそうとしたら、
「首、寒くない?」と、聞いて来た。
「うん…やっぱりちょっと薄手だったかな。真冬には厳しいみたい。ちゃんとしたの、買った方がいいのかも。」
「…買う必要、ないよ」
「え?」
何言ってるの、と言おうと健の方を向いたら、アイツが手にしてるのは例のスモーキーピンクのマフラーだった。
黙ったまま私に向き直り、びっくり目になってる私の首に、ふわっとピンクのマフラーが巻かれた。
「おまえのに、編んだんだ。」
と、俯いたまま低い声で言った。
「え…と、誕生日のプレゼント?」
「まあ、そうかな。おまえが好きだって言った色にしたんだけど」
「…そうじゃなくて。これって…
「ん?何?」
「…好きな人に、あげるって…」
そう口にした途端に、健がものすごく照れた。
「…そうだよ」
言ってる内に、耳たぶが真っ赤だ。
「え、でも、じゃあ、これ…」
しどろもどろになった私を見て、ますます照れる健。
「…だから、今あげてんの。分かんないヤツだな~」
ぼーっとしてる私に、健が焦れた声を出した。
「いいか、1回しか言わないから。」
「うん」
もう、健が分からせようとしてることは察したけれど、ちゃんと言葉で聞きたくて、待った。
動悸が、ひびく。
「おまえのことが、好きなの」
言い切って、顔を真っ赤にさせてる健。
私は私で、嬉しくて嬉しくて、やっぱり顔が真っ赤になってた。
何か気の効いたことを言わなきゃと思ったのに、
「嬉しい…あったかい」、しか出て来ない。
でも、健がいつもの穏やかな目をして見てくれたから、もうこれでいいんだと思った。


「ほら、帰ろう」
バッグを左手に持ち変えて、手を繋いでくる。
健と手を繋ぐなんて、幼稚園以来だ。
ゴツゴツしているけれど、大きい手のひらと長い指にすっかり包まれて、ホッと安心する。
私の知らない誰かに渡ってしまうと思ってた、ピンクのマフラーと健の気持ち。
私に来てくれるなんて思ってもいなかったから、嬉しくて頬が緩む。
「ねえ、私の気持ちは聞かなくていいの?」
「え?」
「そのう…私が健をどう思っているかってこと」
健は、くるっと私の方を見て少し呆れた顔をした。
「いまさら何言ってるんだよ。嬉しいって言っただろ」
「そっか、まあそうだよね」
「それとも、はっきり言ってくれるの?」
「え…それは…」
自分から言い出したくせに、好きと口に出すと思うとものすごく恥ずかしくなった。
「…いいよ。それに、おまえは自覚ないみたいだけど」
「自覚?なんの?」
「おまえの気持ち、ずっと顔に出てたよ」
「えぇ~そうだった?」
「そうだよ。子供の頃から思ったことみんな、顔に出てた。…分かりやすいな~って思ってたんだよ。だから…」
「え?だから?」
聞き返したら、健の顔がまたぽっと赤く染まった。
「いや、もう言わない」


健に言われて、力が抜けた。
なんだ、そうだったんだ。
じゃあ、私の気持ちなんて健にはお見通しだったのかな。
マフラーの行く先で、さんざん悩んだのにな。
口をきゅっと結んで、私と歩く健。
横顔を近い距離でじっと見てしまう。
もう、盗み見じゃなくてじっと見てもいいんだ。
健がチラッと私を見て
「もう…おまえ、見すぎ」
そう言う健は、耳たぶが真っ赤になってる。
すぐ耳たぶが赤くなるのは、子供の頃から変わってない。
恥ずかしがりのままだ。
そこが可愛いと口に出したら、困ってしまうだろうから、まだ言わないでおこう。